頼信紙
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・ そいつは、アクセルを踏んだ。 信号のない横断歩道。右から渡り始めた私を見て、タイミングを読んだのだ。 ──いま加速すれば、歩行者の前方(鼻先)を突破できる。 だから、そいつは、アクセルを踏んだ。 私は、右リアのドアを蹴った。 そいつは、車を降りて「訴えてやる」と息巻いた。 じゃ、一緒に派出所へ行きますか。 ▼ 派出所にて。 そいつが警官になんと申し立てるか、聞いてみた。 「徐行したのに、蹴られた」 そいつは、嘘を言った。 他に目撃者がいないことを幸いに、警官に偽証するという恐ろしいことをやってのけた。 「あなたは横断歩行者を見て、徐行で横断歩道を通行したのですね」 この警官の念押しには重大な意味があった。 「はい、徐行しました」 即答。もう引き返せない。 「横断歩道に人がいたら、一時停止の義務があるんですよ。徐行じゃだめなんですよ」 「……徐行したんです」 「徐行じゃだめなんですよ! 免許持ってるなら知ってるはずですよ」 「…………」 「器物損壊で被害届けを出すなら、あなたの歩行者妨害・安全運転義務違反もしっかり調べますよ。どうしますか?」 どうするもこうするも、ブレーキではなくアクセルを踏んだ時点で、 言い訳は一切できない状況を自ら招いていたのだ。 ──────────
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