3 manolo 2015-01-16 08:16:10 [PC]
1-4. 本質主義の代表格がシルズ(Shills, E.)やギアツ(Geertz, C.)です。たとえば、ギアツは民族を血のつながりの拡大としてとらえ、言語、宗教、領土などが人々をつなげる基本的要素だと考えます。そして新興のネイション(国民/国家)が統合を欠き絶えず紛争を抱えているのは、ネイションという人為的に作られた枠組みが、原初的絆をもつ複数の民族を併存させないからだと主張します。日本の「大和民族」のように、多くの場合、ネイションはある特定の民族を中心に形成されるので、ネイション全体がその民族の性格を帯びてしまいます。その結果、同じ国内の多民族はなかなか同化できないというわけです。(p.97)
1-5. 一方、グレイザー(Glazer, N.)とモイニハン(Moynihan, P.)コーエン(Cohen, R.)などに代表される構築主義者(道具主義者)は、民族を、ネイションという枠組みの中で人々が孤独を感じずに生きるためだけでなく、それに基づいて様々な権利を主張し資源を獲得するための「手段」として捉える視点を打ち出しました。民族を緩やかなつながりを持ったなんらかの「会」、その一員であることを「会員権」になぞらえ、人々が利害をめぐって複数の「会」の間で入会と脱会を繰り返している様子を想像すると分かりやすいでしょう。(p.97)
1-6. 【戦略的本質主義】 現在、人類学者の多くは構築主義的な立場をとっていますが、世界各地の少数民族や先住民が関わる権利闘争の現場では、「民族の土地」、「真正な文化」、「〇〇の血」といった本質主義的な表現が人々のアイデンティティをつなぎとめる政治的な力を発揮することもあります。その否定は、マイノリティの代弁者を自負してきた人類学者の存在意義を大きく揺るがしかねません。そこで、社会的な弱者が正当な権利を獲得するために用いる本質主義的な表現や運動に限って、それを「戦略的本質主義」と呼んで認める傾向もあります。(p.97)
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