材大なれば用を為し難し

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それきり小僧とは (コメント数:1)

1 Ryou 2013-09-10 00:14:26 [URL]

 それきり小僧とは別の客車だったので顔を合わさなかった。が彼は思いもかけず自分の前途に一道の光明を望みえたような軽い気持になって、汽車の進むにしたがって、田圃や山々にまだ雪の厚く残っているほの白い窓外を眺めていた。「光の中を歩め」の中の人々の心持や生活が、類いもなく懐しく慕わしいものに思われた。自分にもあんな気持にもなれるし、あんな生活も送れないことはないという気がされたのだ。偶然な小僧の事件は、彼のそうした気持に油を濺いだ。
「そうだ! 田舎へ帰ると、ああした事件やああした憫れな人々もたくさんいるだろう。そうした処にも自分の歩むべき新しい道がある。そして自分の無能と不心得から、無惨にも離散になっている妻子供をまとめて、謙遜な気持で継母の畠仕事の手伝いをして働こう。そして最も素朴な真実な芸術を作ろう……」などと、それからそれと楽しい空想に追われて、数日来の激しい疲労にもかかわらず、彼は睡むることができなかった。
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