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【質問番号18】 某司会者がいきなり握手をしながら渡してきたんです。 【手を繋ぐ】 https://late-late.jp/mondai/show/131 「厳しめの意見が欲しいので、是非牛削りさんにお願いしたい」とのことです。 【鑑定士:牛削りさん】 ご指名いただきありがとうございます。 期待に沿えるよう、全力で辛口批評をさせていただきますね。 ※オリオンさん ⇒ 辛口批評注意 ※問題未読の方 ⇒ ネタバレ注意 【叙述トリックについて】 【叙述トリック抜きの構成について】 【致命的な別解について】 【共感できるかどうかについて】 以上の観点で分析し、最後に改善案を示したいと思います。 【叙述トリックについて】 「手を握る」という表現に登場する「手」が、実は切り落とされた身体の一部であった、という叙述トリックですね。 普通「手を握る」といえば、その手はその持ち主の胴体につながっている状況以外を想像しません。 ところが「手を握る」という表現には、その手がどういう状態であるかという含意がないので、切り落とされていないことを前提とするのは読み手の勝手な誤解、というわけです。 これは非常に強引でありながら、誰も文句を言うことのできない強力なトリックですね。 タイトルで、「手を繋ぐ」という、切り落とされた手では成立しえない表現を使って思考を縛ってしまっているのも効果的だと思います。 ただラテシン界隈では、「身体の一部を表すワードが出てきたら、その身体部位は胴体から分離しているものと思え」という定石があるため、他のコミュニティで出題するよりは解かれやすかったかもしれません。 実際僕も初見で、「ああこの手は地面に落ちてるやつだな」と疑ってかかってしまいました。 まあこれはこのいかれたコミュニティならではの特殊事情なので、気にする必要はありません。 トリックはとても良いと思います。 <参考> 「パラノイアパーム」http://sui-hei.net/mondai/show/7174 などにもあるように、このような惨事はラテシン界隈では珍しい話ではありませんね。 【叙述トリック抜きの構成について】 この問題は、叙述トリック抜きの構成にも優れていると思います。 どういうことか説明します。 僕が叙述トリックについて前々から主張していることのひとつに、「叙述トリックを抜いたとしても問題として成立する構成であるべきである」というのがあります。 これはつまりこういうことです。 叙述トリックというのは、書き手はしれっと書いているのです。書いてあることの中に嘘はなく、書き手はただ真実をそのまま述べただけなのです。少なくとも表向きは。誤解したのは読者の勝手。 今回の場合、「え、切り落とされているって言ってなかったっけ? ごめんごめん。でも勝手に誤解したそっちも悪いでしょ」的な態度を、オリオンさんは取らなければなりません。それが出題者としての理想の態度です。 逆にそういう態度を取ることができないような、あからさまに騙そうとしている表現は、叙述トリックとして成熟していないと言っていいと思います。あくまで叙述トリックは、”しれっと”なんです。この感じ、伝わるでしょうか? さてこの感じを理解していただいたなら、以下のことも了解いただけるはずです。 つまり、叙述トリックだけしか使われていない問題は、出題動機が(表向きには)欠如している、ということです。 ウミガメのスープを自分で作って出題する際には、巧拙の差はあれ、必ず、「あ、いいこと思いついた/面白い体験した」というような動機があるはずです。 ウミガメのスープはその動機となった思い付きや体験に基づいて作られるわけです。 ところで叙述トリックを使う場合、前述したように、出題者は「そんなトリック使ってませんよ。私はただ事実をありのままに書いただけです」という態度を取らねばなりません。 本当は、叙述トリックを使いたいという気持ちそれ自体が出題動機になっているはずですが、出題者としての表向きの態度を貫く限り、叙述トリックを使うことは出題動機にはなりえません。 つまり叙述トリックのみの問題は、表向きには、「ただ事実を述べただけ」の文章でしかなく、「何故ただの事実を出題したのかよくわからない」構成となってしまうわけです。 今回のオリオンさんの問題の場合、「手を握る」の叙述トリックを取り払ってしまっても、問題として成立します。 【問】血まみれの山小屋の床に落ちていた恋人カメタの切り落とされた手に、カメミが触れてみたのは何故だろう? 【答】逃げ出したカメタがまだ近くにいるかどうか、体温の残り具合で確かめるため。 ほらね。 こういうことができない場合、その問題は再考の余地ありと思ってください。 当問題は、当然ながら問題なくクリアです。 <参考> 「僕は誰?」http://sui-hei.net/mondai/show/20695 は、叙述トリックを抜いたら問う事柄がなくなってしまったので、苦し紛れに和文英訳問題のていにした問題です。 この問題の場合、表向きの出題動機は、「みんなが英語をちゃんと知っているかテストしてみよう」程度です。弱いですね。 【致命的な別解について】 実はこの問題、致命的な別解があるということに気付いていましたか? カメミがカメタの手を握ったのは、その手の体温の下がり方から、惨劇からの経過時間を推測するためです。 上記が見抜ければ、カメタの手が本体から切り落とされているというのは特定する必要のない些事となってしまいます。 叙述トリックに引っかかったままでも、正解に至れてしまうのです。 叙述トリックに引っかかったまま正解に至るというのは、つまり、下記のような状況を想定してスナイプした場合ですね。 ○カメミの目の前にカメタの他殺体(欠損無し)がある。カメミは犯人がまだ近くにいるかどうか推理するため、死んでいるカメタの手を握って体温を調べる。 もしその他の状況が特定されない内にこの内容で質問されたら、不正解だと退ける理由がないですね。 【共感できるかどうかについて】 この問題は、トリックはよくできているのですが納得感に欠ける部分があると思います。 解説を読めば、カメタは一般人のようです。つまり一般人である読者が自分をそのまま重ねてしまっていいわけです。 ところが、カメタは狂気の恋人から逃げるために自らの手首を切り落とすなんてことをしてしまっています。 この行為にはとうてい共感できません。僕はどんな窮地に追い込まれても、自ら身体の一部を切り落とすなんて真似はできません。自殺の方がまだ理解できます。 多くの人は僕の見解の方に共感してくれるのではないでしょうか? ではどうしたら共感できるようになるのか。カメタの属性を変えてしまえばいいのです。 一般人ではなく、例えばスパイとか。 映画などでスパイは、使命感が人並み外れて強く、過酷な訓練を受けており、使命を全うするためにはどんな常識外れの自己犠牲も厭わない人物として描かれます。 カメタがスパイであり、このままでは自国に多大な損害を与えてしまう、という状況であれば、脱出するために自らの手首を切り落とすという行動にも納得できます。 ただその場合、問題文で「手を握る」という表現と親和性の高かった「恋人」という関係性が使いづらくなるというデメリットがあります。 オリオンさんは作問過程で、もしかしたらこのあたりまで悩みに悩んで、最終的に納得感よりチャームの方を選んだのかもしれません。難しいところです。 ここまでをまとめると、 <叙述トリック良し> <しかし叙述トリックの良さが発揮されない危険性あり> <登場人物の行為に共感できない> となりますね。 これらを踏まえて改善案を示すと、下記のような形になります。 ────────────────────────────────────────── <問題> カメタの手を握ってその温かさを感じたカメミは、彼が数分前に窓ガラスに触ったことを言い当てた。 彼女はいったいどのような推理をしたのだろう? <答え> 敵国のスパイであるカメタを捕まえたという部下の報告を受けたカメミ。 さっそく問題の山小屋へ行ってみると、辺りは血まみれでカメタの姿はなく、見張りの部下は殴り倒されていた。窓ガラスは無残に割られている。 血だまりの中に落ちていたのはカメタの左手。手錠の拘束を解くために、自らの手首を切り落としたのだろう。 カメミはその手を拾い上げた。握ってみると柔らかく、体温はまだ残っている。切り落とされてから10分以内というところだろう。 カメタが窓を割って逃げてから10分と経っていないはずである。カメミはそう判断し、部下に捜索を指示した。 ────────────────────────────────────────── お、なんかいいかも。 「窓ガラスに触ると体温に変化があるのか?」と思わせておいて、実はその手は窓ガラスと関係がなく、窓ガラスに触れたのは逆の手だった、というのが面白いです。 ともあれ少しの難点はあるものの、よく考えられた問題だと思いました。 これからも妥協せず良い問題を作っていってください。
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