トランスジェンダー
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1 manolo 2013-09-09 17:35:20 [画像] [PC]

出典:『よくわかるジェンダー・スタディーズ ―人文社会科学から自然科学まで−』、木村涼子他編著、ミネルヴァ書房、3/30/2013、「II-3A-8.性同一性障害」、pp.162-163

1-1. 1. 国内の動向
 国内において、性同一性障害(GID)という疾患概念が社会的に認知されるようになったのは、1990年代半ばのことです。性別適合手術(いわゆる、性転換手術)を希望する患者の主治医らが、埼玉医科大学倫理委員会にその実施可能許可を申請したことがきっかけでした。当時国内では、精巣摘出手術をした医師が優生保護法(現。母体保護法)違反の罪に問われた1960年代の「プレイボーイ事件」以降、こうした手術の実施がタブー視されていたのですが、同委員会が「性同一性障害と呼ばれる疾患が存在し、性別違和に悩むひとがいる限り、その悩みを軽減するために医学が手助けをすることは正当なことである」と答申したことにとり、国内での「GID医療」の整備が始まりました。1997年には日本神経学会が「診断と治療に関するガイドライン(初版)」を策定し、その翌年に(公に認知されたものとしては)国内初となる性適合手術が実施されました。(p162)

2 manolo 2013-09-09 17:40:05 [PC]

1-2.
 また2003年には、「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」が成立しました。これにより、「生物学的には性別が明らかであるにもかかわらず、心理的にはそれとは別の性別であるとの持続的な確信をもち、かつ、自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意思を有する者であって、そのことについてその診断を的確に行うために必要な知識及び経験を有する二人以上の医師の一般的に認められている医学的見地に基づき行う診断が一致しているのもの」で、5つの要件((1)20歳以上であること、(2)現に婚姻していないこと、(3)現に未成年の子がいないこと、(4)生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること、(5)その身体について他の性別に係る身体の性器に関わる部分に近似する外観を備えていること)を満たしている場合に、家庭裁判所の審判を経て、戸籍上の性別を変更することが可能になりました。2010年末までに、性別変更が認められた数は2200件を超えています。ちなみに、2007年末に「日本精神神経学学会・性同一性症障害に関する委員会が」が実施した調査によれば、全国の主要専門医療機関の受診者数は7000人を超えており(複数の医療機関を受診している同一人物も含む)、国内外ですでに手術を受けた人や未受診者、あるいは性別違和があっても治療(精神療法、ホルモン療法、手術療法)を望まないひとびとの存在を勘案すると、国内に存在する当事者は数万人超と推計されます。

1-3. 2. 性別違和と生きづらさ
 性別違和を自覚し始める時期としては「物心がついた頃」も多いとされ、岡山大学ジェンダー・クリニックの調査(N=661)では、「小学校入学以前」(52.3%)が最も多く、全体の90.2%が「中学校まで」で占められています。ただし、小児期の性別違和や異性役割行動は同性愛志向と強く関連していれるといわれています。諸外国における追跡調査の結果では、性別違和を訴えていた人の大半が成長に伴って「性別移行(性転換)願望」の消滅あるいは減退を経験し、同性愛者は両性愛者として生活するようになっていたそうです。(p.163)

3 manolo 2013-09-09 17:41:59 [PC]

1-4.
 当事者の直面する「生きづらさ」を顕著に表しているのが、自殺関連の高い経験率行動です。性的違和を主訴とする患者1138名を調査した精神科医らの報告によれば、自殺念慮62.0%,、自殺企図は全体の7割、自殺未遂は約2割、全体の4分の1に不登校経験が見られるということです(小学校5.6%、中学校37.3%、高校31.1%)。当事者の苦悩は、社会的スティグマや偏見・差別といったその他の性的マイノリティの経験と重なる部分も多いわけですが、性別違和を抱える児童・生徒にとってはとくに、二次性徴による身体的特徴の変化、おしゃれや恋愛が気になる思春期に複雑化する人間関係に加え、「ジャンダーの再生装置」ともいわれる学校環境(制服や男女別トイレ/更衣室、あるいは「隠れたカリキュラム」の存在など)が引き起こす問題は様々に存在します。(p.163)

1-5. 3.性同一障害と性別違和
 現在、性同一性障害は、国際的診断基準として知られるWHOの国際疾病分類=ICD-10(WHO、1992)や米国精神医学会が刊行する「診断と統計マニュアル」=DSM-IV-TR(APA、2000)に記載された精神疾患名です。しかし、かつての同性愛をめぐる議論と同様に、社会の多数者とは異なる性のありようを病理化することへの批判は常に存在してきました。近く発表される改訂版(DSM-V及びICD-11)についても、性同一性障害という名称の変更や概念の再定義が検討されています。こうした議論の動向に影響量を持つ国際的専門職機関WPATH〔World Professional Association of Transgender Health〕では、ケアの関するガイドライン最新版=SOC-7(2011年)の中で、「性別違和症(Gender Dysphoria)は精神疾患に位置づけられうるかもしれないが、生涯にわたる病態とは異なる」と言明し、従来のトランス・セクシュアルや、当事者運動から生まれたトランス・ジェンダーといった呼称に加えて、「ジャンダーに不服従なひとびと(Gender Non-conforming People)」という新語を導入し、治療ではなくケアの対象となる当事者像・ニーズの多様性を強調しています。(p.163)

4 manolo 2013-09-10 17:59:31 [PC]

1-4.(修正版)
 当事者の直面する「生きづらさ」を顕著に表しているのが、自殺関連の高い経験率行動です。性的違和を主訴とする患者1138名を調査した精神科医らの報告によれば、自殺念慮62.0%,、自殺企図10.8%、自傷行為16.1%といった経験は、思春期にそのピークを迎えています。岡山大学の患者を対象とした同様の調査においても、自殺念慮は全体の7割、自殺未遂は約2割、全体の4分の1に不登校経験が見られるということです(小学校5.6%、中学校37.3%、高校31.1%)。当事者の苦悩は、社会的スティグマや偏見・差別といったその他の性的マイノリティの経験と重なる部分も多いわけですが、性別違和を抱える児童・生徒にとってはとくに、二次性徴による身体的特徴の変化、おしゃれや恋愛が気になる思春期に複雑化する人間関係に加え、「ジャンダーの再生装置」ともいわれる学校環境(制服や男女別トイレ/更衣室、あるいは「隠れたカリキュラム」の存在など)が引き起こす問題はさまざまに存在します。(p.163)

1-5. 3.性同一性障害と性別違和(修正版)
 現在、性同一性障害は、国際的診断基準として知られるWHOの国際疾病分類=ICD-10(WHO、1992)や米国精神医学会が刊行する「診断と統計マニュアル」=DSM-IV-TR(APA、2000)に記載された精神疾患名です。しかし、かつての同性愛をめぐる議論と同様に、社会の多数者とは異なる性のありようを病理化することへの批判は常に存在してきました。近く発表される改訂版(DSM-V及びICD-11)についても、性同一性障害という名称の変更や概念の再定義が検討されています。こうした議論の動向に影響量を持つ国際的専門職機関WPATH〔World Professional Association of Transgender Health〕では、ケアに関するガイドライン最新版=SOC-7(2011年)の中で、「性別違和症(Gender Dysphoria)は精神疾患に位置づけられうるかもしれないが、生涯にわたる病態とは異なる」と言明し、従来のトランス・セクシュアルや、当事者運動から生まれたトランス・ジェンダーといった呼称に加えて、「ジャンダーに不服従なひとびと(Gender Non-conforming People)」という新語を導入し、治療ではなくケアの対象となる当事者像・ニーズの多様性を強調しています。(p.163)

5 manolo 2013-09-12 19:14:06 [PC]

出典:『人権入門 第2版 −憲法/人権/マイノリティ−』、横藤田誠&中坂恵美子、法律文化社、(第11講「女と男」3.性同一障害と性的指向」)pp.134-137

2-1. 【性同一性障害】
 世の中は男と女しかいないというのは、正しくない。人間の場合、23組目の染色体が、XXならば女、XYならば男、と一般に認識されるのだが、クラインフェルター症候群の場合は、XXYやXXXYといった染色体を持ち、睾丸を有するが発育が悪く無精子で、乳房が大きくな。また、ターナー症候群の場合は、X染色体が1本しかないために、外見は女性であるが卵巣はない。これらの人は、半陰陽者、あるいはインターセックスと呼ばれている中の1つのグループである。男か女か、どちらかでないといけないという思い込みや世間一般の考えによって、彼らはどちらかの性を選びそれにあわせた外科的な手術を行うことがある。しかし、その結果として、身体的な性が自分の脳が自覚する性認識とは異なってしまう場合も出てくる。性同一性障害である。では、半陰陽者が外科的手術に進まない場合はというと、男か、女か、どちらかとして生きることしか受け入れられない社会の中で、常に精神的に不安定なまま暮らしていくことになる。(p.134)

2-2.
 半陰陽からの手術経験者でなくても、自分の身体的な性と脳による性自認が異なる性同一性障害を持つ人はいる。半陰陽者でなければ、受精の瞬間に遺伝レベルで男か女かは決まるが、身体的な機能が形成されるのはもう少し後だ。すなわち、7週まので胚は、男も女も母親の血液を通して起こる込まれる女性ホルモンであるエストロゲンだけにさらされていて、男の場合は8週を過ぎてからようやくY染色体の働きで、睾丸が形成され精巣から男性ホルモンを分泌し始める。第11週目までにこの働きがみられないと、卵巣ができ、子宮や膣の形成といった女性への分化が始まる。そして、この時期に男性ホルモンを浴びた脳は男性の脳へと、そうでなかった場合は女性の脳へと分化していくが、なんらかのホルモンの変調があると、身体的な性と脳の性自認が異なりる結果を作り出すことがあるのだ。(p.135)

6 manolo 2013-09-12 19:34:58 [PC]

2-3.
 性同一障害という言葉が普及してきた現在でも、性転換者は興味本位の目で見られることが多い。自分の意思ではどうにもならない身体と脳の意識のずれによって起きる障害に対しては、人の寄っては生きていることが困難なほどに苦しむこともあり、そういった場合、外科的手術も必要で、それは幸福追求権の自己決定の1つとして、憲法においても保障されえるべきものだ。逆に、手術を強要して中間的な状態を許さないというのも人権侵害であり、先に見た半陰陽者などは、半陰陽者としての存在が認知されてもっと生きやすい社会が保障されなくてはならない。(p.135)

2-4.
 性同一性障害者にたいする日本で初めてのおおやけの手術が行われたのは、1998年である。64年の*「ブルーボーイ事件」以来、性転換手術は日本では公に語られることもなかったが、手術の6年前、埼玉医科大学に、ある患者から女性から男性への性転換に関しての相談があり、手術実施の検討が始まった。慎重な検討の後に、大学内の倫理委員の審議と答申をへて、日本精神神経学会の投信と提言が出されたが、厚生省(当時)はその答申(診断のガイドラインと治療のガイドラインを含んでいる)に対して、医学会で適切と認めたものとして母体保護法(旧優生保護法)に抵触しないという意見を表明したのである。(p.135)

*ブルーボール事件
東京地裁判決1969.2.15。3人の男性に睾丸全摘出手術を施した医師が、優生保護法28条違反及び麻薬取締法で、懲役2年、罰金40万円、執行猶予3年の刑を言い渡された。優生保護法28条は、「何人も、この法律の規定による場合の他、故なく、生殖を不能にすることを目的として手術又はレントゲン照射をおこなってはならない」と規定していた。(pp.135-136)

2-5
 しかし、身体的に性が変更できても、法律上は元の性のままで社会生活を送ることは大変つらく、職場に戸籍謄本を出したくないために職を得られないとか、保険証の提示を恐れるために医師にもかからないといった生活を送っている人も少なくなかった。半陰陽者を除いては、戸籍上の性別の変更に関して司法の壁も厚かったが、ついに2003年、「性同一性障害者の取り扱いのと呉に関する法律」が制定された。(p.136)

7 manolo 2014-06-15 06:47:52 [PC]

出典:『朝日新聞』、6/15/2014、「性同一性障害、小中高に600人」、p.38

文科省全国調査
学校が配慮6割

3-1.
 心の性と、体の性が一致しない性同一性障害と見られる児童・生徒は全国の小中高校で少なくとも606人にのぼり、そのうち学校が特別の配慮をしているのは約6割377人。そんな調査結果を文部科学省が13日付で発表した。

3-2.
 性同一性障害への対応の充実を目指し、現状を把握するため初めて調べた。昨年4~12月に国公私立の小中高校と特別支援学校に在籍した約1370万人を対象に実施。学校が把握する事例に限られ、本人が望まない場合は回答を求めなかったため、文科省は「性同一性障害とみられる子供の一部と考えている」としている。

3-3.
 606人の内訳は、小学校93人、中学校110人、高校403人。戸籍上の性別では、女性366人、男性が237人、無回答が3人。医療機関を受診したのは257人で、そのうち性同一性障害と診断された子供は165人いた。

3-4.
 学校が特別な配慮をしている377人の戸籍上の性別は、女性が243人、男性が133人、無回答1人。学校の配慮として多かったのは服装に関するものだ。制服がある学校の場合、戸籍上の女性の99人が、男子用の制服の着用や体操着での登校を認められるなどとしていた。逆に戸籍上は男性の場合、同様の配慮を受けているのは17人だった。

3-5.
 このほか、職員トイレや多目的トイレの使用を認める▽保健室や多目的トイレを更衣室として利用▽宿泊研修の際に1人部屋にしたり、入浴時間をずらしたりする▽性別がはっきり分かる戸籍上の名前ではなく、通称で呼ぶ、などの対応がみられらた。

8 manolo 2014-06-15 07:05:27 [PC]

3-6.
 「日本性同一性障害とともに生きる人々の会」の山本蘭代表(56)は「顕在化していない子供たちにどう目を向けるか。学校は話を聞く用意がある、という雰囲気づくりをする必要がある」と話す。同会には「学校や制服やトイレについて相談してもなにもしてくれない」といった相談も寄せられるという。

3-7.
 文科省は今後、専門家の意見も踏まえて学校の対応方法などの参考資料を作成し、今年度中に配ることにしている。

3-8.【服装・トイレ 本人が望む性で −現場模索 手引書改定も−】

 すべての子どもたちが安心して学校生活を送れるよう、現場は模索を続ける。埼玉県南部の市の教育委員会は2010年、性同一性障害に関する相談が寄せられるようになったことを受け、教職員用の対応マニュアルを改訂した。服装や男女別のグループ活動などについて本人や保護者の確認を得たうえで配慮し、ほかの子に対しても一人一人の個性への理解を促すことなどを盛り込んだ。

3-9.
 市教委はこれまで小、中学生計3人から性同一性障害に関する相談が寄せられたという。担当者は「市では本人の負担にならないよう、服装やトイレなどを本人が望む性で受け入れている。子どもや保護者からの苦情もなく、特に問題は起きていない」と話す。

3-10.
 今回の文科省調査によると、性同一性障害として診断されたある女子中学生の場合、入学式当日に本人から同級生に公表し、その後、全校集会やPTA総会の場でほかの生徒や保護者にも伝えた。その結果、男子として問題なく学校生活を送っているという。

3-11. 【性同一性障害の子どもへの配慮】
服装 161件
髪型 45
学用品 18
更衣室 133
トイレ 156
通称の使用 74
体育・保健体育 73
水泳 78
授業(体育・保体以外) 29
運動部 13
宿泊研修 105
児童への説明 64
保護者への説明 21
その他 64

文部科学省調べ。複数回答

9 manolo 2014-06-29 23:28:12 [PC]

出典:『日本版ニューズウィーク』、4/29 & 5/6/2014、「トランスジェンダーがインド「第三の性に」」、p.21

4-1.
 体と心の性が一致しないトランスジェンダー(TG)の人々を、男でも女でもない「第3の性」として公式に認める――。インドの最高裁がそんな画期的な判断を下した。最高裁は政府に対し、社会的少数者のための差別是正措置をTGにも適応するよう指示。教育や雇用の場で第3の性として対応することや、彼らのニーズや医療問題を調査する専門部署を設置することも求めた。

4-2.
 著名なTG活動家ラクシュミ・ナラヤン・トリパティが代表の人権団体は12年に、歴史的に差別されてきたTGに平等な権利を認めるよう提訴していた。「彼らの権利を実現するには正しい「性」を与えることが不可欠だ。今まではTGは男か女かと扱われてきた。これは間違っているだけでなく、人権を侵害している。」と、判決は述べた。「国の進歩は人権が左右する。最高裁の判断は非常に喜ばしい」とトリパティは言う。

4-3.
 インド最高裁は昨年12月に、「同性間の性行為を禁じた法律」は合憲との判決を出し、強い非難を浴びた。今回のTG判決は保守的な一方で、急速に変化するインド社会を象徴しているようだ。


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