性の商品化
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1 manolo 2013-09-11 23:30:53 [画像] [PC]

出典:『よくわかるジェンダー・スタディーズ ―人文社会科学から自然科学まで−』、木村涼子他編著、ミネルヴァ書房、3/30/2013、「III-11. 性の商品化とセックスワーク」、pp.206-207

1-1. 1. 「性の商品化」概念の登場と展開
 性の商品化とは、「性」を介するサービス、表現や表現媒体、これらを誘発する道具や環境などを、金品をはじめとする代償と交換に市場で売り買いできる商品にすることです、売買春がもっともわかりやすい例でしょう。「性の商品化」というときの「性」の意味はさまざまで、人間の性的欲望と実存を結びつけるセクシュアリティ、ジェンダー格差に基づいた性別、性行為、人の人格や尊厳と同義の性などがここに含まれます。(p.206)

1-2.
 近年の日本では、1990年代のフェミニズムによる問題提起以来「性の商品化」が社会的な議論の的になってきました。「性の商品化」は、実はほとんどの場合「ジェンダー格差に基づいて」「女性」を商品化する「女性の商品化」であり、「人格や尊厳と同義の性」を商品化することは、すなわち女性の尊厳を商品としておとしめる性差別の具体化だ、という問題提起でした。(p.206)

2 manolo 2013-09-11 23:33:57 [PC]

1-3.
 フェミニズムの主張は、男性中心主義批判、家父長制批判、ヘテロセクシズム批判、マルクス主義、ポスト植民地主義などをふまえ、「性の商品化」を複合差別の結果ととらえる方向へも展開しました。それはまず、生産手段をもたない労働者にとって自らの労働力を売って生活の糧を得ることは必要不可欠だ、と指摘します。そして、ジェンダー格差によって生産手段を持つ機会や雇用機会が男性よりも少ない女性、ヘテロセクシズムによって男性の性的欲望を満たすことを期待されている女性、とくに年長者によって反抗の機会を奪われがちな若い女性、人種主義によって社会的排除を受けやすい少数民族の女性などは生き延びるために、自らの「性」を労働力の一部として商品化する機会が増えるというのです。(p.206)

1-4. 2. 「セックスワーク」概念の登場と展開
 ここで、「性の商品化」を「性労働(セックスワーク)」の側面からとらえる考え方が出てきます。この言葉が日本で定着したのは、1993年に『セックスワーク − 性産業に携わる女性たちの声』が邦訳されたことがきっかけでしょう。以来、性労働をする人びとの立場に立って、「性の商品化」にかかわる仕事を「生き延びるための労働」として社会に認めさせ、セックスワーカーの労働者のとしての権利を獲得しようという議論も行われてきました。現役セックスワーカーの意見も公表され、この議論に大きな影響を与えました。そこには、複合差別から生じる搾取や暴力やスティグマを克服する力と手段を、その現状を生きる当事者こそが得るべき、発揮するべきだ、という理念と希望が込められています。(pp.206〜207)

1-5.
 つまりセックスワークの議論は、非常に立場性の強い当事者中心主義の議論です。そしてこの点において、男性中心主義の社会を女性というマイノリティの観点でとらえなおし、さまざまなジェンダー・イシューについて「当事者のわたしの経験は違う」「わたしの経験を聞け」「わたしの経験を(政策などに)反映させろ」と抗議してきたフェミニズムと親和性が高いのです。ですから、「性の商品化」に反対する議論とセックスワークを認める議論とは、対立するところもありますが、どちらが勝つか負けるかして、すんなり決着がつくような単純な二項対立の議論ではありません。(p.207)

3 manolo 2013-09-11 23:35:59 [PC]

1-6. 3. セックスワークの多様性と今後
 「性の商品化」には売春だけでなくさまざまな業態があります。セックスワークは、男性に性交を提供するだけでなくさまざまな仕事を含みます。セックスワークをするひとびとも一枚岩ではありません。ある人は、他の仕事にないような搾取や暴力にさらされているわけでもなく、たとえば相手のニーズに応える仕事に向いている、働く場所や時間に融通が利くなど、自分の資質やライフスタイルに合っているという理由から、好んでこの仕事をしています。けれども、賃金不払いや客や経営者からの暴力を日常的に受けたり、性感染症予防がままならなかったりする状況におかれている人、それでもこの仕事を辞められない人もいます、また、好きでしていてもスティグマはついてまわります。セックスワーカーは、女性ばかりではありませんし、日本人ばかりではありません。トランスジェンダーや男性客相手の男性セックスワーカーは、女性とは違った暴力やスティグマにさらされていますし、外国人セックスワーカーは、日本人セックスワーカーよりも搾取や暴力に遭いやすい環境にあります。(p.207)

1-7.
 「性の商品化」について議論する際には、「性」がいま、誰にとって何を意味しているか、「商品化」の実態は何かを問い直し続けることが必要でしょう。「性の商品化」にはまた、客、性風俗店経営者、管理者、関連業者など労働者以外の当事者が多く関わっています。暴力や搾取を防ぐためには、こういったひとびとに働きかけることも必要です。しかし、性労働者が非正規労働で占められているうえ、性産業には合法な部分と不法な部分が混在しています、さらにスティグマのために当事者のカムアウトが難しいことが加わって、セックスワーカーの権利を守ろうといっても、実務的な介入をすることが難しいのが日本の現状です。そこで、セックスワーカー自身が社会的に排除されない環境で業界を良くしていくことが可能になるような、法律、医療、政策、教育など関係分野に従事する専門家の協力も求められています。(p.207)

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