積極的差別是正措置(アファーマティブ・アクション)
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1 manolo 2014-01-28 01:37:03 [画像] [PC]

出典:『よくわかる法哲学・法思想』、深田三徳・濱真一郎編著、ミネルヴァ書房、5/20/2007(「第3部 I-3 「積極的差別是正措置」)、小久見祥恵、pp.166-167

1-1. 【1. 積極的差別是正措置とは何か】
 過去の差別や抑圧を禁止し、世界の国々で法の下の平等が保障される現在もなお、差別解消への取り組みは緊急の課題であり続けている。差別解消への取り組みの一つとして、*アファーマティブ・アクション(affirmative action)ないしポジティブ・アクション(positive action)といった積極的差別是正措置が挙げられる。アメリカ合[衆]国では1960年代以降、人種や性別等を理由に過去に差別を受けてきた集団の成員(人種的・民族的マイノリティや女性)を、雇用や高等教育機関(大学や大学院)への入学等の場面で優先的に扱うアファーマティブ・アクションが実施されてきた。ヨーロッパでもまた「ポジティブ・アクション」と呼ばれる広い意味でのアファーマティブ・アクションとして、とりわけ女性の優遇措置が実施されてきた。そしてわが国では、男女雇用期間均等法、男女共同参画社会基本法の下で、ポジティブ・アクションの実践が検討されている。(p.166)

2 manolo 2014-01-28 01:39:34 [PC]

*アファーマティブ・アクションないしポジティブ・アクション
積極的差別是正措置は、おもにアメリカ、カナダ、オーストラリア、フィリピンではアファーマティブ・アクションと呼ばれるが、両者の間に本質的な違いはない。わが国では、男女共同参画社会基本法の中で「積極的改善措置(ポジティブ・アクション)」という語が用いられている。(p.166)

1-2.
 アファーマティブ・アクションないしポジティブ・アクションといった積極的差別是正措置は、差別による経済的格差や教育格差の解消といった利点を有するものの、様々な批判もつきまとう。各国でこれらの措置の合憲性が裁判上争われてきたことが示すとおり、これら積極的差別是正措置をめぐる問題は、財の配分に関わる正義の観念や、平等の理念についての重要な論点を含んでいる。(p.166)

1-3.
 積極的差別是正措置は、その目的、根拠となる法律、実施主体及び方法の異なる様々な措置を含む。アメリカ合[衆]国における教育機関入学時の優遇措置をみれば、入学試験の合格点のラインで優遇措置の対象となるグループの受験生と、対象とはならないグループの受験生が並んだ場合、前者を優先する、という措置は比較的緩やかな措置である。厳格な措置としては、優遇措置の対象となるグループに属する受験生に対して総合的な点数を加点する措置(プラス方式)や、定員の一定割合を黒人などの人種的マイノリティや歴史的に差別されてきた集団に割り当てる措置(割り当て方式、クォータ方式)がある。各々の措置の目的もまた、学生集団の多様性を確保する目的と、過去の差別による不利益を排除する目的とに区別することが可能である。(pp.166-167)

1-4.
 女性に対するポジティブ・アクションも同様に多様な措置を含む。職業訓練及び支援などは穏やかな措置であるのに対し、国・地方議会の議席の一定の割合を女性に割り当てる*クォータ制は厳格な措置としてあげられる。しかし、フランス、イタリア、スイスでは、**裁判所がクォータ制に対して憲法違反の判断を下しており、またアメリカ合[衆]国連邦最高裁も方法や目的の違いによって、措置の合憲性に関する異なる判断を下してきた。(p.166)

*クォータ制
議員の議席の一定割合を女性に割り当てる措置の他に、名簿式比例代表制選挙における女性の候補者の割合を定める措置などが含まれる。

3 manolo 2014-01-28 01:43:05 [PC]

**アファーマティブ・アクションの合憲性をめぐりアメリカ合[衆]国最高裁は1978年のバッキ判決(Regents of Uni[v]ersity of California v. Bakke, 438 U.S. 265, 1978)において初めてアファーマティブ・アクションについて判断を示した。バッキ事件ではメディカル・スクールの入学定員100名のうち、16名分をマイノリティに割り当てるプログラムの合憲性が争われ、裁判官の間で意見が分かれた。結果として違憲の判断が下されたが、「割り当て制は許されないが、学生集団の多様性を達成するために人種を考慮することは正当化される」としたパウエル裁判官の見解は、その後、広く実施されるアファーマティブ・アクションの正当化の根拠となった。最高裁は、企業の雇用におけるアファーマティブ・アクションに関する判断を含め、バッキ判決以降アファーマティブ・アクションについて14の判決を下してきた。近年では、グラッター判決(Grutter v Bollinger, 539 U.S. 306. 123 S. Ct. 2325, 2003)で、ロースクールの入学者選抜方法が合憲と判断され、グラッツ判決(Gratz v. Bolinger, 539 U.S. 244, 123 S. Ct. 2411, 2003)では学生の入学者選抜方式はともにプラス方式を採用していたが、後者では機械的に点数をプラスしたこと、並びに個人としての考慮ではなく、ある集団への所属が考慮されたことが違憲判決に結びついた。(pp.166-167)

1-5. 【3. 積極的差別是正措置の課題】
 積極的差別是正措置一般に関しては、逆差別である、という批判が向けられたことがある。とりわけ2で挙げた厳格な措置の場合、優遇されない側に過度の不利益を与える点で差別的取扱いにあたる、という批判がしばしば向けられる。法の下の平等の保障は、人種や性別などの特質によって不利に扱われないことを保障しているため、優遇措置は平等に反するおそれがある。しかしそもそも平等は各人を一律に同じに扱うことを(equal treatment)ではく、「対等者として扱うこと(treatment as equal)」を意味していると理解されるため、異なる取り扱いが必ずしも平等を侵害するわけではない。むしろ積極的差別是正措置は「対等者として扱うこと」にあたる「平等」を保障する措置にあたる。(p.167)

4 manolo 2014-01-28 01:43:33 [PC]

1-6.
 しかし、積極的差別是正措置が平等を保障する措置として正当化されるとしてもなお、その手段が目的に合致しない場合もある。例えば黒人や女性が、人種や性別に基づく過去の差別を理由に、現在優遇されるとする。黒人や女性の集団を、白人の男性の集団と比較すれば、社会的・経済的地位が低いかもしれない。しかし、中には恵まれた地位にある黒人や女性がおり、それとは反対に社会的・経済的地位の低い白人男性もいる。この白人男性にとってみれば、区別ゆえの不利な取り扱いを受けることになる。(p.167)

1-7.
 また、積極的差別是正措置に対するもう一つの強力な批判として、優遇される側にスティグマ(=劣等の烙印)を押し付ける危険性を孕む、という批判がみられる。優遇するためとはいえ、黒人や女性を「劣っている」人々としてとして扱うために過去に用いた基準を、現在も維持し続ける点が危惧される。積極的差別是正措置の実施に際しては、これらの批判を踏まえ、前項でみたような措置の方法や期間についての慎重な検討が要請される。(p.167)

5 manolo 2014-02-03 23:30:44 [PC]

出典: BBC News, “Texas affirmative action case heard by US Supreme Court”, October 10, 2012, http://www.bbc.co.uk/news/world-us-canada-19899036?print=true

2-1. [The US Supreme Court has challenged the consideration of a student's race in public university admissions policies.]
 The court heard an appeal brought by a white student denied a place at the University of Texas in 2008. A ruling for Abigail Fisher could affect so-called affirmative action programmes elsewhere, analysts say. The Supreme Court upheld the use of race in admissions in a 2003 ruling, but the court has become more conservative in the past nine years. Justice Sandra Day O'Connor, who wrote the decision on the 2003 University of Michigan case, has since retired. Her successor, Samuel Alito, opposes the use of racial preferences in admissions.

2-2. ['Race above all'?]
 Justice Alito and Chief Justice John Roberts asked probing questions about details of the University of Texas admissions policy and when race could become a deciding factor between otherwise similar applicants. The chief justice also asked the university's lawyers how judges would be able to tell when the college achieved a "critical mass" of diversity on campus. He added later in the session: "I'm hearing a lot about what it's not. I would like to know what it is." Justice Anthony Kennedy, often seen as a deciding vote between the court's liberal and conservative justices, has also never voted in favour of racial preference, the Associated Press reports. "What you're saying is what counts is race above all," Justice Kennedy said on Wednesday. Liberal justices, including Ruth Bader Ginsburg, Sonia Sotomayor, and Stephen Breyer asked questions that some say suggested support of affirmative action. Correspondents say that even if the court does not uphold the Texas admissions policy, striking down broader consideration of race in university admissions appeared unlikely.

6 manolo 2014-02-03 23:31:32 [PC]

2-3. ['Respect equality']
 The University of Texas updated its admissions policy after the 2003 Supreme Court ruling to consider race without using quotas. Students in Texas high schools are automatically admitted to the university if they are in the top 8% of their class in terms of academic achievement. The threshold was previously 10% and Ms Fisher's grades did not put her in that category. Race and other factors can be considered as factors in admissions to any remaining spots - approximately 25% of the annual student intake. Ms Fisher, along with another woman who has since dropped out of the case, filed a complaint arguing that the university's race-conscious policy violated their civil and constitutional rights. She was never admitted to the University of Texas and has since graduated from Louisiana State University. "If any state action should respect racial equality, it is university admission," Ms Fisher's lawyers said in their written submission to the court.

2-4.
 A federal appeals court has already backed the University of Texas admissions programme, saying it was allowed under the Supreme Court's Michigan decision. Justice Elena Kagan, previously involved in the case as US solicitor general, has recused herself from the proceedings. That leaves eight justices to decide the case, and a 4-4 tie would uphold the decision of the lower appeals court. Private universities, including elite institutions such as Harvard and Columbia, have filed briefs to the court arguing that their national recruitment policies make it impossible for them to assure diversity without legal backing for racial preference, Reuters reports.


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