日中関係
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1 manolo 2015-01-30 07:31:33 [画像] [PC]

出典: 『週刊東洋経済』12/27/2014-1/3/2015、「22. 日中関係.」、田岡俊次、pp.86-89

「軍事衝突」しないし、できない

1-1.
 2006年、安倍晋三首相は就任してわずか12日後の10月8日に北京を訪れ、胡錦濤・中国国家主席と会談。「戦略的互恵関係」で一致した。その8年後、14年11月10日に安倍氏は北京で習近平・国家主席と会談。再び「戦略的互恵関係」で合意した。長く森の中をさ迷い、気づくと元の場所に戻っていたような感がある。首脳2人による25分間の会談が行われる3日前の7日、「日中関係の改善に向けた話し合いについて」と題した合意文書が発表された。これは外交交渉では異例だった。 安倍氏は「条件なしの日中首脳会談」を主張していたが、4項目の合意をあいまいながら条件をつけた形で、会談でどちらかが「それは違う」などと言い出せば大変だから、事前に発表して確定しておいたほうが無難であったろう。(p.86)

2 manolo 2015-01-30 07:33:08 [PC]

1-2.
 焦点の尖閣諸島について、「双方は、尖閣諸島等東シナ海の海域において近年緊張状態が生じていることについて異なる見解を有していると認識し、対話と協議を通じて、情勢の悪化を防ぐとともに、危機管理メカニズムを構築し、不測の事態の発生を回避することで意見の一致を見た」とする。「双方が異なる見解を有している」ことは事実だから両国のタカ派もこれを批判しにくい。外交では互いのメンツを立てないとまとまらないし、この領有権論議はうやむやにするしか和解の道がないから、巧妙な玉虫色の外交的表現だ。(p.86)

1-3.
 習氏は13年6月にオバマ米大統領と米カリフォルニアのパームスプリングスで首脳会談を行った際、尖閣問題の「棚上げ」「現状維持」方針でオバマ氏と合意したもようで、その後中国側は「棚上げでよい」と言い始めた。米国側も「現状不変更」を唱えた。中国の姿勢は、領有権の主張は変えないが日本の実効支配の継続は黙認し、日本側も施設の建造など現状変更はすべきでない――というもので、所有者が日本の私人から国に替わった点を除いて元に戻るのだから妥当な落としどころと思われた。(p.86)

1-4.
 だが、日本の外務省は民主党タカ派の前原誠司氏が外相だった時期に「領土問題は存在しない」と明言した手前、「日本の領土を棚上げにすることは認められない」と言うしかなく、論理的にはスジは通っても交渉がしにくい自縄自縛に陥っていた。今回の合意文書には「棚上げ」とか「現状維持」の文言はないが、「黙認」である以上それは当然だ。だが「情勢の悪化を防ぐ」とは記載された。仮に中国人が島に上陸したり、日本人が建造物を建てたりすれば、情勢の悪化は不可避だから、それはしないことになる。(p.86)

1-5.
 双方が何もしなければおのずと「棚上げ」になっていくから、その実現は容易だが、巡視船などのにらみ合いは「異なる見解」の表明であり、また「現状」の一部でもあるから当面は続きそうだ。海上での衝突事故や、それがきっかけで不測の事態になることを防ぐためのホットラインの開設や、監視活動のルール作りなどが進むだろうから戦略的合計関係が進展すればにらみ合いも下火になるだろう。(pp.86-87)

3 manolo 2015-01-30 07:35:11 [PC]

1-6. 【「封じ込め」でなく「抱き込み」狙う米国】
 日中のこの合意文書が発表されると、APEC(アジア太平洋経済協力会議)の閣僚会合に出席するために北京に滞在していたケリー米国務長官は「米国は心からこれを歓迎する」と岸田文雄外相に語り、日中が関係改善をさらに進めるよう求めた。これは当然で、米国は日中双方に対し和解を求めてきたからだ。(p.87)

1-7.
 日本では冷戦時代の世界観から抜け出せない人が少なくないが、1970年代か末から冷戦終了まで約10年間、米国と中国はソ連を共通の脅威として事実上の同盟状態にあった。米国は中国の国産戦闘機F8IIの開発に協力し、対潜水艦魚雷Mk46を供与したほか、UH60ヘリコプターを民間機S70として輸出、兵器製造技術や製造設備を提供するなど、中国軍を「チャイナカード」として育成していた。中国は米国と協議のうえで、ソ連寄りになっていたベトナムに1979年に侵攻したこともあったほどで、イデオロギー的な観念論では国際情勢は読めない。(p.87)

1-8.
 米国にとって中国は、@米国債約1兆3000億ドルを保有し、最大の海外保有者として米財政を支えている、A3兆9000億ドルもの外貨準備の大半をウォール街で運用し米金融・証券界最大の海外顧客、B旅客機約150機(日本の旅客機は約700機)を毎年輸入し、米国の軍需産業の主体である航空機業界の第1の海外顧客、C奇跡的回復を遂げたGM(ゼネラル・モーターズ)の自動車売上の約3割、300万台を中国で販売、Dネット人口6億人、国慶節(9月下旬からの連休)の国内旅行者が4.8億人にもなる巨大な消費市場――である。(p.87)

1-9.
 米国はイラク、アフガン戦争で直接戦費約1兆ドル超を費やしたうえ、重傷者3万人以上への生涯の障害給付や戦費調達のために発行した国債の利払いなどで、今後2兆ドル程度の出費が必要と試算され、すでに財政は破綻に瀕している。貿易赤字は少し減ったとはいえ13年に4715億ドルだったから、オバマ政権が「財政再建・輸出倍増」を目標とし、そのために重要な中国に対して「コンテインメント」(封じ込め)を策さず「エンゲージメント」(抱き込み)を考える、と表明するのは当然だ。一方、中国にとっても米国は最大の輸出市場(輸出の16.7%。日本へは6.8%)で最大の融資・投資先でもあるから、両国が争えば双方が壊滅的な打撃を受ける状態だ。(p.87)

4 manolo 2015-01-30 07:36:56 [PC]

1-10.
 米軍も「中国抱き込み」の方針に沿い、14年夏の「リムパック」(環太平洋合同演習)に中国海軍を招いた。中国は4隻が参加したが、これは本来、米国の同盟国海軍の演習だった。また米海軍士官を養成するアナポリス海軍兵学校中国人を入校させて教育し、米国の統合参謀本部と中国の総参謀部との人的交流も行っている。(p.87)

1-11. 【「中国包囲網」は日本人の集団的妄想】
 日本では「米中対立」という先入観で見るためか、オーストラリア北岸のダーウィンに米海兵隊が駐在することも「中国への牽制」だとの解釈が出たが、中国沿岸から5000キロメートル、大西洋の幅ほどにも離れた場所に軽装備の海兵1個大隊(1100人)を置いても牽制の効果はない。インド洋で活動する米艦隊はオーストラリア西岸のパースを拠点としており、米海兵隊は海外での戦乱、災害などの際の在留米国人の救出が任務の一つであるため、インド洋に海兵隊駐屯地がないのは不便だからオーストラリアにも駐屯することになったのだ。日本の報道には「中国包囲網」の語がよく出るが、米国は「封じ込めは考えない」とし、オーストラリアも包囲網に反対、韓国も中国に取り入ろうとしており、「中国包囲網」は日本的妄想に過ぎない。(p.87)

1-12.
 米国は、台湾と中国の対立に巻き込まれては迷惑だから、台湾・民進党の陳水扁総統(00〜08年在任)が、憲法改正など独立への動きを示すたびに厳しく非難、干渉してあきらめさせた。2代目ブッシュ大統領(当時)はシンガポールのリー・シェンロン首相と会談した際、陳氏の名を言わず「ザット・バスタード」(あの野郎)と呼び続けリー氏を驚かせた。一方、現在の馬英九総統はハーバード大で博士号を取り、ニューヨークで弁護士をしていた知米派だから、急激な親中政策を進めた。10年の「経済協力枠組み協定」(自由貿易協定)など19もの協力協定を結び、中台間の航空定期便は週655便に達する。台湾では反発もあるが、米国からは支持、称賛を受けている。親米派イコール親中派となる情勢だ。米国の中国重視は、大統領がいずれの党であれ国益に基づくから、変わりえないだろう。(pp.87-88)

5 manolo 2015-01-30 07:38:42 [PC]

1-13.
 米国は安倍政権の右傾を警戒し、13年2月の安倍氏の訪米前には「集団的自衛権は議題にしない」と通知し、首脳会談では安倍氏が少し言及してもオバマ氏は反応しなかった、とされる。会談後の記者会見もなく写真撮影だけで「同盟強化で中国に対抗」などと口走られては迷惑、との姿勢が見えた。その後の韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領や中国の習主席の訪米と比べ明らかの冷遇だったし、13年12月に安倍氏が靖国神社に参拝すると米国務省は「失望した」との声明を出した。これらは陳氏に対する共和党ブッシュ政権の態度と似通っていた。13年10月の日米外務・防衛大臣の会議では日本の要請で「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)の改定が決まったが、その共同発表では日本側の草稿に多く出た「中国」の語を米国側がほぼすべて削除し、指針改定が中国を対象とするとの疑念を晴らそうとした。(p.88)

1-14. 【記者会見のオバマ発言 日本の新聞はほぼ無視】
 14年4月の安倍・オバマ会談では、オバマ氏が尖閣諸島は日米安全保障条約5条(共同防衛)の適用対象であることを認めたことが大きく報じられたが、これは尖閣諸島の赤尾嶼(せきびしょ)、黄尾嶼(こうびしょ)(大正島(たいしょうとう)、久場島(くばじま)と改称)が安全保障条約に基づく日米地位協定で米海軍の射爆撃場として提供されているから当然だ。(p.88)

1-15.
 だが、ガイドラインには「自衛隊は日本に対する着上侵攻を阻止し排除するための作戦にプライマリー・リスポンシビリティ(一義的責任)を有する」との条項がある。防空や周辺海域の防衛に関しても同様だ。しかしこれでは日本は何のために米国に基地を貸し、維持費を負担しているのか、との疑問が出るから邦訳では「主体的に実施する」とごまかしている。この条項はガイドライン改定でも残ることに決まった。「尖閣が安保条約の適用範囲」といっても米国に参戦の義務は必ずしも生じないし、米軍は尖閣有事の日米共同作戦計画の策定にも応じないのだ。(p.88)

6 manolo 2015-01-30 07:40:02 [PC]

1-16.
 この安倍・オバマ会談後の記者会見でオバマ氏は安倍氏に中国との関係改善を求めたことを次のように述べた。「私は安倍首相にこの問題を平和的に解決する重要性を力説した。状況をエスカレートさせず、言辞を低く保ち(口を慎め、の意)、挑発的行動を取らず、いかにして日中が協力できるかの道を定めること。私はこちらのほうを大きな要点としたい。われわれは中国と強い関係を持つ。彼らはこの地域だけでなく世界にとって決定的に重要な国なのだ。」「私は直接安倍首相に言った。この問題でエスカレーションを起こすのは根本的な誤りで、むしろ日中は対話と信頼醸成を目指すべきだ。われわれはそれを勧めるよう外交上できることは何でもするつもりだ」。翌日の朝日新聞には記者会見の内容はほとんど載らず、「尖閣には安保条約適用」との見出しが並んだが、実はこれは米国長官らが以前から言っていたことで大したニュースではなく、「米大統領、対中関係改善を要求」が見出しとなるべきだった。(p.88)

1-17.
 もし尖閣付近で不測の事態が起き武力紛争になれば、米国は苦しい立場になる。外国領の無人島の件で経済上決定的に重要な中国と戦争することはバカげている。だが、もし米軍が傍観し、巻き添えを食わないよう戦艦、航空機をグアムなどへ避難させれば安保条約は終了し、米海軍は横須賀、佐世保を使えなくなり、西太平洋の制海権が大きく損なわれるだけでなく、ほかの国に対する威信も失墜する。何としてでも日中首脳会談を実現させ、事態の悪化を止める必要があった。(p.88)

1-18. 【中国空軍が数で優勢 操縦士の錬度は同等か】
 日本にとっても危ないところだった。13年12月に決まった中期防衛力整備計画では陸上自衛隊は「水陸機動団」(海兵隊、約3000人)を編成し、水陸両用装甲車AAV7を52両、「オスプレイ」を17機調達、海上自衛隊は大型の「多機能艦」(強襲揚陸艦)の建造を検討するなど、奪回作戦の準備を進めていた。『防衛白書』では「万一島嶼(とうしょ)を占領された場合には、航空機や艦艇による対地射撃により敵を制圧した後、陸自部隊を着上陸させるなど島嶼を奪回するための作戦を行う」と明言していた。(pp.88-89)

7 manolo 2015-01-30 07:41:09 [PC]

1-19.
 だが、離島の攻防戦では航空優勢(制空権)がカギで、こちらに制空権があれば誰も海を渡って攻めてこられず、もし相手がすきを見て上陸しても航空攻撃で補給と後続を断てば相手は自滅する。逆に相手が制空権を握れば、水上艦船は東シナ海で行動できず、逆上陸はほぼ不可能だ。ところが中国にとり東シナ海は最近まで最重要正面だった「台湾正面」で、そこを担当する中国・南京軍区には、台湾空軍の戦闘機約420機に対抗するため、空軍の戦闘機8個連帯(推定約280機)、東海艦隊の海軍航空隊の戦闘機(同約50機)が配備されている。うち日本のF15に匹敵する中国のJ11、J10など「第4世代戦闘機」が約200機以上と考えられる。中国全体では、空軍、海軍合わせ「第4世代戦闘機」は約700機、日本は約280機だ。これに対し航空自衛隊は那覇空港の一部に、F15戦闘機20機余りだけで、近く四十数機にする計画だ。九州の築城(福岡県)、新田原(宮崎県)の基地からF15やF2を1000キロメートル余り離れた尖閣上空に出すことは可能だが、それでも数的には相手が2倍、3倍だ。(p.89)

1-20.
 中国軍パイロットの錬度はかつては低かったが、以前は戦闘機が4500機もあったのが1500機に減り、予算上の余裕も出たのか1人当たりの年間飛行訓練は日本の150時間と同等か、それ以上とみられる。大型レーダーを搭載した空中早期警戒機の能力や電波妨害などでは日本は技術的に優位だが、それで数的劣勢をどこまで補えるか定かでない。(p.89)

1-21. 【軍備競争なら財政破綻 「互恵関係」が大原則】
 仮に、島と周辺の戦闘で日本が一時的に勝てたとしても、その後どうするかが難問だ。戦争になれば相手が沖縄、九州の航空基地や上陸部隊が出る佐世保港、那覇港などを航空攻撃や巡航ミサイルでたたくのはむしろ定石だ。陸上自衛隊は「島嶼以外に拡大するとは想定していない」と説明するが、これは勝手な想定だ。どこの国でも軍人は「最悪の事態に備えて」と言いつつ、実はその予算獲得に好都合な「最良の事態」を想定することが多い。(p.89)

8 manolo 2015-01-30 07:42:06 [PC]

1-22.
 国連や米国などの仲裁で停戦になっても、その後は軍備競争になる公算が大きい。今での中国のGDPは約2倍、国防費は日本の約3倍だが、10年後には中国のGDPは日本の4倍近くになり、国防費は今の対GDP比1.3%のままでも日本の6倍になりそうだ。中国と軍備競争に入れば、日本の財政が破綻するか、大増税で経済の衰退を招くかだ。日本が独力で中国と戦わざるを得ない場合、日米同盟は解消になる公算が大きい。中国は国連安保理の常任理事国で拒否権を持つし、核不拡散条約で公認された核保有国だ。(p.89)

1-23.
 中国は韓国、オーストラリアとも自由貿易協定を近く結ぶなど影響力を強めているから、日本は孤立し、結局は中国に屈せざるをえなくなる形勢かと案じていていたが、今回は日中衝突を防ぎたい米国のおかげで、少なくとも事態の悪化だけは食い止められたようだ。「戦略的互恵関係」の再確認が経済面で国益に資することは誰にもわかるが、安全保障面で軍備競争のスパイラルに入ることを防げた点で、日中首脳会談の成果はより大きいかもしれない。安全保障の要諦は敵をできる限り減らすことにあり、今回の合意はその扉を開いたことになるかもしれない。(p.89)


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