疫病
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1 冴子 2024-06-09 19:10:27 [PC]

ついつい手がおまたに行ってしまう。
はしたない事だとは思うけれど、いまだに慣れない。
ぴったりと足を閉じる事が出来ないほどにたくさん当てられた、『おむつ』のふくらみに。
まだ肌に張り付くほどではないけれど、朝からのおもらしでだいぶ濡れて来ている。
まさか20歳を過ぎておむつを当てられる事になるなんて!。

スカートと漏れ防止スパッツの上からでも分かる大きな丸いホック。
勝手におむつを外せないようにするためのロンパースに付けられた鍵付きのホック。
これのおかげで収容施設の外に出れるだけマシなのだと自分に言い聞かせるけれど、こじ開けておむつを外してしまいたくなる。
何で、あたしがおむつなんてっ!?。

その理由は・・・1か月前にさかのぼる。

「あれっ!?」
お昼休みのチャイムが鳴って、席を立った途端に、あたしは、おもらしをしてしまった。
ただ、運良く(?)、生理に備えてナプキンを当てていたのと、30分ほど前に別の課に行ったついでにトイレに行っていたおかげで、ショーツが濡れただけで済んだのだけど。
もし、この時に、「変だ。」と思って病院で診察を受けていれば、自分で外せないおむつを強制的に当てられるような事はなかったのに!。
でも、あたしは、「たまたまうっかりもらしてしまっただけ」だと思って、そのまま放置してしまったのだった。

「その伝染病」の事は、知っていた。
ニュースでもよく見ていたから。
でも、自分がそれに感染しているなんて思いたくなかった。
『おもらしが直らなくなる伝染病』なんかに!。
感染が分かれば、強制的に隔離され、おむつを当てられて生活しなければならない伝染病なんかに!。

2 冴子 2024-06-09 19:11:52 [PC]

そうして、あたしは放置してしまい、ゆるゆると症状は進んで行ったのだった。
最初は「油断するともらす」程度だったのが、「気を付けていても、もらす事がある」になり、頻繁にトイレに行く事で何とか対処していたものの、
やがて「我慢する事が難しい」となってしまい、上司に「トイレに行き過ぎる」と、とがめられたのもあり、恥ずかしさをこらえて紙おむつをはくようにしたものの、とうとう「常時もらしてしまう」になってしまった!。

そうして、会社でおむつを替えているのがバレ、上司の命令で病院に行かされ、感染が分かり、そのまま隔離入院させられたのだった。

進行程度は「ステージ3」。
この時まだあたしは、この病気に「ステージ(段階)」があるなんて知らなかった。
そして、「ステージ」によって、扱われ方も大きく変わると言う事も。

ステージ1:尿道や膀胱付近の神経への感染で、軽度の失禁。
特効薬の注射で感染をなくせ、リハビリによって失禁から回復出来る場合もある。

ステージ2:尿道付近から脊髄につながる神経への感染で、中から重度の失禁。
感染した神経を焼却する手術によって、感染をなくせる場合がある。
神経が失われるため、失禁からの回復は不可能。

ステージ3:排尿にかかわるすべての神経と脊髄への感染で、重度の失禁。
脊髄を焼くわけにはいかないため、感染をなくすことは不可能。

そして、感染者は、他の人に移さないために、収容施設の管理下に入る事が義務付けられていた。
それでも、当初は、管理施設から1歩も外に出られなかったものの、排泄物に直接触れなければ感染しない事が分かり、また病原体に汚染された物の消毒は容易だった事から、「自分では外せないおむつ」を当てられる事を条件に、外出が認められるようになったのだった。

3 冴子 2024-06-09 19:12:25 [PC]

感染者を示す蛍光色の良く目立つスカートとスパッツ。
かつて仲の良かった同僚たちも、ひそひそと噂しながら遠巻きにしていて、仕事以外では近づく事もしてくれない。
道を歩けば、あたしの周りには空間が出来、満員電車に乗ろうとすれば、すっごくイヤな顔をされる。

おむつを当てられているだけでも恥ずかしいのに!。

おむつ替えは、原則として朝と夜の2回だけ。
施設にいれば、昼も替えてもらえるけれど。
一応「働ける能力がある者」の場合は生活費は自分持ちで、毎月収容施設に払わないといけないから。

収容施設にリモートワークの設備が整うまでは、毎日恥ずかしさと人の目に耐えて、通勤するあたしだった。


ちゃんちゃん!

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