ステークホルダー
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1 manolo 2014-07-24 19:51:17 [画像] [PC]

出典:『よくわかる企業論』、佐久間信夫編著、6/15/2006、ミネルヴァ書房、「第2部 V-1. ステークホルダーの定義と理論研究」、pp.34-35

1-1. 【1. ステークホルダーの定義】
 一般に、企業活動にとって影響を受ける個人や集団は*ステークホルダー(Stakeholder)ないし利害関係者と呼ばれている。ステークホルダーには様々な定義があるが、ここではフリーマン(Freeman, R. E.)の定義を取り上げることにしよう。(p.34)

*ステークホルダー
Stakeholderという英語はstockholder(株式を所有する人=株主)という言葉を意識して造られた用語である。Stakeholder という用語が経営学の文献に最初に登場するのは、スタンフォード研究所が1963年に配布した資料の中であったといわれている。(p.34)

2 manolo 2014-07-24 19:53:35 [PC]

1-2.
 フリーマンはステークホルダーを「その支持がなければ組織が存在を停止してしまうような集団」と定義した。そしてそのような集団として*株主、従業員、納入業者、金融機関、社会などをあげた。その後彼は、ステークホルダーの概念を企業がその存続を依存している集団だけでなく、社会運動団体のような、企業にとって敵対的な集団にも拡大した。具体的には公衆や地域社会、自然保護団体、消費者団体などもステークホルダーに含められることになった。(p.34)

*株主
株主はステークホルダーの中でも特別な存在である。法律上、企業は株主のものであり、企業は株主の利益のために経営されなければならない。かつては、企業が社会貢献のために寄付をすることは株主の利益を損なう(配当などが減る)ため違法であるとして裁判が起こされたこともある。こうした考えは株主主権論と呼ばれ、現在でもこの考えを主張する研究者が存在する。しかし実際には、企業は多くのステークホルダーの利益を考慮しなければ存続することができなくなっているのが現実であり、すでにほとんどの企業において株主以外のステークホルダーの利益も重視する経営が実践されている。(p.34)

1-3. 【2. ステークホルダー・アプローチ】
 1970年以降のアメリカ経営学はこのステークホルダーの存在を前提に展開されることが多くなったが、こうした傾向はステークホルダー・アプローチと呼ばれている。経営学においてステークホルダー・アプローチがとられるようになったのは、ステークホルダーが企業経営に対して非常に重要な影響を与えるようになってきたからにほかならない。そして、その傾向は今日ますます強くなってきている。(p.34)

1-4.
 ステークホルダー・アプローチは経営戦略論、企業の社会的責任、企業と社会論、企業統治論、企業倫理論などの分野で重要な地位を占めている。アンゾフ(Ansoff, H. I.)は著書『新企業戦略』(The New Corporate Strategy, 1965)の中で、企業の目的が、労働者、株主、納入業者、債権者などの要求の中から導き出されるということを指摘している。(p.34)

3 manolo 2014-07-24 19:54:40 [PC]

1-5.
 企業の社会的責任論においては、株主、顧客・消費者、納入業者、地域住民などは企業の構成員ととらえられている。かつて企業は財やサービスの生産・販売によって利潤を獲得する手段と考えられてきたのに対し、企業と社会論では、企業はステークホルダーがその生活と繁栄を依存するような社会制度へと変わったとして、企業概念の変化を強調する。(pp.34-35)

1-6.
 また、アメリカの機関投資家は企業統治活動の一環として人種差別、環境問題、工場閉鎖などによる社会的課題事項に関する株主提案を活発に行ってきたが、企業統治論におけるステークホルダー・アプローチはこうした現実を踏まえたものとして展開されている。(p.35)

1-7. 【3. ステークホルダーの分類】
 ステークホルダーの分類には様々なものがある。まずステークホルダーを第1次ステークホルダー(primary stakeholder)と第2次ステークホルダー(secondary stakeholder)とに分類する方法がある。*第1次ステークホルダーは企業と相互依存関係にあり、企業活動に影響を与える集団のことで、従業員・株主・債権者・納入業者・顧客・小売業者などがこれにあたる。第2次ステークホルダーは、企業活動によって直接的・間接的に影響を受ける集団のことで、具体的には行政機関・外国政府・社会活動団体・報道機関・経済団体・一般公衆・地域社会などである。(p.35)

*第1次ステークホルダーと第2次ステークホルダー
ポストとローレンスとウェーバーによる分類で水村典弘(『現代企業とステークホルダー』文眞堂、2004年、72−78頁)によって整理が行われている。(p.35)

1-8.
 ステークホルダーは*社会的ステークホルダー(social stakeholder)と非社会的ステークホルダー(non social stakeholder)に分類することができる。社会的ステークホルダーは企業に対して直接的な意思疎通が可能なステークホルダーのことであり、非社会的ステークホルダーは企業に対して直接的な意思疎通が困難なステークホルダーのことである。(p.35)

*社会的ステークホルダーと非社会的ステークホルダー
ウイラーとシッランパーがザ・ボディショップの経営理念を紹介しながら著した『ステークホルダー・コーポレーション』において用いられている分類法で、水村(同上書)によって紹介されている。(p.35)

4 manolo 2014-07-24 19:55:44 [PC]

1-9.
 社会的ステークホルダーはさらに第1次社会的ステークホルダーと第2次社会的ステークホルダーに分類される。第1次社会的ステークホルダーは、企業とその存続に直接的な関係を持つステークホルダーであり、具体的には地域社会・納入業者・顧客・投資家・従業員・経営管理者などである。第2次社会的ステークホルダーは企業とその存続に代表参加的な関係を持つステークホルダーであり、具体的には行政機関・市民社会・圧力団体・労働組合・報道機関・有識者・業界団体・競合企業などである。(p.35)

1-10.
 非社会的ステークホルダーも「企業とその存続に直接的な利害関係を有し、意思疎通が困難な個人または動作主体」である第1次非社会的ステークホルダーと、「企業とその存続に代表参加的な利害関係を有し、意思疎通が困難な個人または動作主体」である第2次非社会的ステークホルダーに分類することができる。前者の例には自然環境、未来世代、人類以外の生物などを挙げることができる。後者の例には環境圧力団体、動物愛護団体などを挙げることができる。(p.35)

5 manolo 2014-07-24 19:57:14 [PC]

出典:『よくわかる企業論』、佐久間信夫編著、6/15/2006、ミネルヴァ書房、「第2部 V-2. 企業とステークホルダーの具体的か関係」、pp.36-37

2-1. 【1. 従業員や消費者などとの関係】
 企業とステークホルダーの関係は、元来、互恵的な関係でなければ、それを長期にわたって維持することは困難であろう。たとえば、企業と株主の関係は、企業が株主に対して高い配当を安定的に支払い、株価を高く維持することが望まれる。これに対し、株主は企業の株式を積極的に購入・保有することが企業にとって望ましい。さらに企業には、株主総会における議決権の行使など、株主に対して株主としての権利を保障することも求められる。(p.36)

2-2.
 また、企業は従業員や労働組合に対し、雇用の安定と高賃金を保証し、これに対して従業員・労働組合は積極的に経営に参加することが双方にとって望ましい。企業は従業員に対し、職場での安全や健康に配慮することも求められる。(p.36)

2-3.
 企業は消費者に対して安全で品質の高い商品を提供し、消費者は企業の商品を積極的に購買することが両者にとって望ましい関係である。近年、食品の安全性に対する消費者の要求はしだいに厳しさを増しており、企業は食品の生産・加工・販売の経路を遡って調べることができる*トレーサビリティ制度の整備などが迫られている。(p.36)

*トレーサビリティ(traceability)
食品などの安全性を確保するため、製品の生産、加工、流通の履歴を管理すること。問題のある製品が出回った場合、生産、加工、流通の各段階に保管されている収穫日や生産者の情報を遡って調べることができ、製品回収や原因究明に役立てることができる。BSE(牛海綿状脳症)の発生を機に牛の生育情報などの記録を義務づけた牛肉トレーサビリティ法が2003年12月に施行されたが、他の食品、さらには機械や部品などに対してもトレーサビリティの考えが広げられていっている。(p.36)

6 manolo 2014-07-24 19:58:05 [PC]

2-4. 【2. 他の企業や政府などとの関係】
 日本の大企業は下請け、孫請けなど多数の関係会社をもち、これらの関係会社はコスト削減や納期の厳守などで大企業(親会社)に協力すると同時に、親会社は関係会社に対し資金提供や技術指導などで保護育成を図ることが、親会社の協争力強化にとっても望ましい。(p.36)

2-5.
 企業は他の企業と取引を行っているが、お互いに取引契約を守ることが両者にとって望ましい関係である。また競争企業との間には公正な競争を行うことが望まれる。具体的には、*談合やカルテルなど独占禁止法に違反するような行為をしないことである。また産業スパイなどによって競争企業の技術や知的財産を不正に取得すべきではない。(p.36)

2-6.
 道路や橋、空港などの交通網や電話などの通信網はインフラストラクウチャー(社会的生産基盤)と呼ばれ、企業活動にとって必要不可欠の設備であるが、個々の企業がこうしたインフラストラクチャーを整備することは不可能である。企業は国や地方自治体に正しく納税する一方で、国や地方自治体はこうしたインフラストラクチャーを整備することによって企業活動が円滑に進められるようになる。(pp.36-37)

*談合
官庁が公共工事などを民間企業に発注する際、民間企業が事前に話し合いによって受注企業を決めてしまうこと。国や地方自治体などが工事を発注する場合には、その工事にかかる費用を見積もり、予定価格(上限)と最低制限価格(下限)を決め入札を行い、この上限と下限の間で最も低い価格を提示した業者と契約を結ぶ競争入札方式をとっている。本来は、官庁は最も低い価格を提示した業者と契約を結ぶことになっているが、業者側は上限価格の情報ももっており、どの企業が落札するかという順番も話し合いによってあらかじめ、特定の業者が上限価格に近い価格で工事を受注することになる。談合により業者間の競争がなくなるため、工事費が高くなり税金が無駄に使われることになる。談合は独占禁止法によって禁止されているが、日本全国にみられ、日本は談合列島などと呼ばれ批判されてきたが、一向に改善されていない。(pp.36-37)

7 manolo 2014-07-24 19:58:45 [PC]

2-7. 【3. 地域社会や一般公衆との関係】
 企業が活発に活動し、従業員の雇用を増やし高い賃金を支払えば、その地域の雇用の改善と所得の増大を通して地域の活性化に貢献することになる。企業が公害を発生させたり、不祥事を起こしたりすれば、地域住民がその企業をマイナスイメージでみるようになり、住民だけでなく地方自治体も一体となって企業への抗議行動にも発展する可能性がある。企業は経済活動だけでなく、フィランソロピー活動などによって地域社会がその企業に対して好意的なイメージをもってもらうように努めるのが普通である。(地域)社会が企業に対して持つ好意的イメージのことを*グッドウィルと呼んでいる。(p.37)

*グッドウィル(good-will)
アメリカ企業は平均して利益の約2%を社会貢献活動に充てているが、それは一般公衆のグッドウィルの獲得が長期的な企業の発展に不可欠だからである。(p.37)

2-8.
 企業不祥事などが続発すると企業に対する社会(一般社会)の目が厳しいものとなり、企業を規制する法律が強化されたりするのが一般的である。また同様の理由から個々の企業も自社に対して良いイメージをもってもらおうと努めるのが普通である。例えば、陪審員制の裁判制度をとるアメリカでは、民間人である陪審員が特定企業に対して悪いイメージをもっている場合、その企業の関わる裁判で企業が不利な判決を受けることが十分考えられる。企業は美術館や教育機関への寄付、ボランティア活動などの社会貢献活動によって常に一般公衆の*グッドウィルの獲得に努めることになる。(p.37)

【企業とステークホルダーの具体的な関係】
企業(安定的高配当) ⇔ 株主(出資)
企業(高賃金・雇用の安定) ⇔ 労働組合、従業員(企業活動への積極的参加)
企業(利子) ⇔ 金融機関(融資)
企業(低価格・安全な商品) ⇔ 顧客、消費者(積極的購買)
企業(保護育成) ⇔ 関係会社(一体的役割)
企業(取引契約の履行) ⇔ 取引企業(取引契約の履行)
企業(公正な競争) ⇔ 競争企業(公正な競争)
企業(納税) ⇔ 国・地方自治体(社会的生産基盤)
企業(地域経済の活性化) ⇔ 地域社会(グッド・ウィル)
企業(社会的貢献) ⇔ 一般公衆(グッド・ウィル)
(p.37)


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