おとり捜査
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1 manolo 2015-01-16 07:45:00 [画像] [PC]
出典:『よくわかる刑事訴訟法』、推橋隆幸編著、ミネルヴァ書房、4/20/2009、「III-7 おとり捜査」、大野正博、pp.42-43
1-1. 【1. おとり捜査の意義と類型】
*おとり捜査とは、「捜査機関又はその依頼を受けた捜査協力者が、その身分や意図を相手方に秘して犯罪を実行するように働き掛け、相手方がこれに応じて犯罪の実行に出たところで現行犯逮捕等により検挙するものである」(最決平成16年7月12日)。おとり捜査そのものに関する明文規定は存在しないが、**麻薬及び向精神薬取締法58条、あへん法45条、銃砲刀剣類所持等取締法27条の3は、捜査官が何人からも薬物ないし銃器等の法禁物を譲り受けることができると規定している。おとり捜査については、犯意の有無を基準として、@機会提供型とA犯意誘発型に区別することができる。@とは、あらかじめ犯意を有している被誘惑者に誘惑者が働きかけをして犯罪の機会を提供するものであり、Aとは、誘惑者が被誘惑者に働きかけて初めて犯意を抱き、犯罪を実行さえる場合をいう。(p.42)
*おとり捜査
わが国におけるおとり捜査の導入は、第二次世界大戦後、占領軍の要請に基づき、麻薬事犯の取締りの徹底をなす際に、占領軍関係より示唆されたものであるとされる。(p.42)
**しかし、一般にこれらの規定は、おとり捜査の創設規定ではないと解されている。(p.42)
2 manolo 2015-01-16 07:47:02 [PC]
1-2. 【おとり捜査は任意処分か】
おとり捜査につき、*最決昭和28年3月5日は、「他人の誘惑により犯意を生じ又はこれを強化された者が犯罪を実行した場合、わが刑事法上その誘惑者が場合によっては……教唆犯又は従犯として責を負うことのあることは格別、その他人である誘惑者が一私人でなく、捜査機関であるとの一事を以てその犯罪実行者の犯罪構成要件該当性又は責任性若しくは違法性を阻却し又は公訴提起の手続き規定に違反し若しくは公訴権を消滅せしめるものとすることのできないこと多言を要しない」と判示し、下級審において、機会提供型は違法ではないが、犯意誘発型は違法であるとの判断が示された(**東京高判昭和57年10月15日)。このような状況下において、大阪大麻所持おとり捜査事件決定は、「少なくとも、直接の被害者がいない薬物犯罪等の捜査において、通常の捜査方法のみでは当該犯罪の摘発が困難である場合に、機会があれば犯罪を行う意思があると疑われる者を対象におとり捜査を行うことは、刑訴法197条1項に基づく任意捜査として許容されるものと解すべきである」とした。最高裁は、岐阜呼気検査事件決定に照らし、このような位置づけをなしたのである。なお、任意捜査とし許容する際には、検挙する犯罪の罪質や重大性、他の捜査方法による摘発の困難性、おとり捜査を用いることの必要性、相手方に対する働きかけの方法や程度など手段の相当性等の要件が要求されることになろう。また、最高裁は、おとり捜査の許容性につき、刑訴法197条1項に根拠を求めたことにより***将来発生が見込まれる犯罪捜査を認めたとの解釈も成り立つ。(pp.42-43)
*最決昭和28年3月5日
刑集7巻3号482頁。また、最判昭和29年11月5日刑集8巻11号1715頁も、これを引用しつつ、「いわゆる囮捜査は、これによって犯意を誘発された者の犯罪構成要件妥当性、責任性若しくは違法性を阻却するものではない」とした。(p.42)
**東京高判昭和57年10月15日
判時1095号155頁。同様の判断を示すものとして、東京高判昭和60年10月18日刑月17巻10号927頁、東京高判昭和62年12月16日判タ667号269頁等。(p.42)
3 manolo 2015-01-16 07:49:27 [PC]
***将来発生が見込まれる犯罪捜査
伝統的な行政警察活動と司法警察活動を区別する考え方によれば、前者は犯罪発生前の予防・鎮圧を、また後者は発生後の犯罪を対象とするため、このような判断には矛盾が生じることになる。しかし、両者の区別を目的の違いに求め、犯罪の訴追・処罰に向けられた活動である限り、将来の犯罪についても、任意処分をなすことが可能であるとの考え方によれば、問題はなかろう。なお、同様のことが、ビデオカメラによる監視においても問題とされた。(p.43)
1-3. 【3. おとり捜査における違法性の実質】
おとり捜査は、国家が誘惑者となって被誘惑者に犯罪を行わせるものであることから、場合によっては違法となりうる場合がある。なぜなら、本来、犯罪を抑制する立場にある国家が、自ら犯罪を誘発する側面、及び国家機関が一種のトリックを用いて、事情を知らない第三者を罠にかける側面から、手続きの公正違反に当たると解されるからである。最決平成8年10月18日における反対意見が、「人を犯罪に誘い込んだおとり捜査は、正義の実現を指向する司法の廉潔性に反するものとして、特別の理由がない限り許されない」と述べたのはこのような考え方が前提としてあったからであろう。その他、刑事実体法によって保護される法益を侵害する点や公権力から干渉を受けないという対象者の人格的自立権を侵害する点が強調されることもある。(p.43)
4 manolo 2015-01-16 07:49:59 [PC]
1-4. 【4. 違法なおとり捜査の効果】
違法なおとり捜査に対し、従来は*無罪説も存在したが、実体法的に犯罪が成立しないとはいえない。そこで、訴訟法上は如何なる効果を付与すべきであるかが問題となる。この点に関し、違法なおとり捜査に基づく証拠については、違法収集証拠の排除法則を適用し、処理すべきであるとの見解が存在する。しかし、おとり捜査の違法性の問題は、もはや個々の証拠の許容性の問題の範疇を超えるものであり、妥当ではない。そこで、違法なおとり捜査に基づき起訴がなされた場合には、刑事裁判によって手続きを打ち切るべきであるとするのが通説の立場である。この場合、手続きを打ち切るための理由として、**免訴説と公訴棄却説が対立する、まず、前者は違法なおとり捜査は実体的訴訟条件が欠ける、あるいは国家の処罰適格が欠けることを理由に挙げ、免訴をもって手続きを打ち切るべきであるとする見解である。なお、***一事不再理の効力を失う免訴を主張する見解も存在する。これらの見解に対しては、理論上はともかく、直接の根拠規定を見出すことができないとの批判がなされている。これに対し、後者はおとり捜査の違法が手続きの不公正を理由としていることから、デュー・プロセス違反として、****公訴棄却により手続きを打ち切るべきであるとの見解である。この見解に対しては、刑訴法338条4号が起訴手続きの違反に関する規定であって、捜査段階の違法は本号とは無関係であると批判される。その他、犯意誘発型のおとり捜査については公訴棄却にするとともに、常軌を逸した機会提供型のおとり捜査については、違法収集証拠の排除法則を適用すべきであるとの見解も存在する。公訴棄却説が、多数説である。(p.43)
*無罪説
横浜地判昭和26年7月17日高刑集4巻14号2083頁は、憲法前文、及び憲法13条を根拠に、被告人を無罪とした。(p.43)
**免訴
確定判決の存在、刑の廃止、大赦、公訴時効の完成の各場合に言渡される判決(刑訴法337条)。(p.43)
***一事不再理(ne bis in idem)
ある事件につき、被告人を一度訴追した場合には、同一事件についての再度の公訴提起は許されないとする原則(憲法39条、刑訴法337条1号)。(p.43)
****公訴棄却
訴訟条件を欠くために、事件の実体についての審理に立ち入ることなく訴訟を打ち切る形式裁判(338条・339条)。(p.43)
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