少年非行
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1 manolo 2013-01-23 00:41:03 [PC]
出典『よくわかる刑事政策』(2011)藤本哲也著、ミネルヴァ書房
1-1. 【少年非行とは@】
少年非行とは、@14歳以上20歳未満の少年による犯罪行為、A14歳未満の少年による触法行為、及びB虞犯〔ぐはん〕という3種類の行為または行状を総称する概念である。すなわち、少年非行という概念は、成人への人格形成期にあって可朔性に富む少年に対して、犯罪行為だけでなく、虞犯についても、少年の健全な育成と矯正・保護のために、国家が司法的に介入する必要があるとするアメリカ少年司法の「国親思想〔くにおやしそう〕(parens patriae:国が親として、親らしい配慮を持って臨むことを少年裁判所に要請する理念)に基づく概念である。(p.146)
1-2. 【少年非行とはA】
少年法3条1項に定められている、犯罪行為、触法行為、虞犯行為の3類型の行為または行状を総称する概念である。それゆえ、非行少年には、犯罪少年、触法少年、虞犯少年の区別がある。
少年法第3条@「次に掲げる少年は、これを家庭裁判所の審判に付する。
1.罪を犯した少年
2.14歳に満たないで刑罰法令に触れる行為をした少年
3.次に掲げる事由があって、その性格又は環境に照らして、将来、罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をする虞のある少年
イ 保護者の正当な監督に服しない性癖のあること。
ロ 正当の理由がなく家庭に寄り附かないこと。
ハ 犯罪性のある人若しくは不道徳な人と交際し、又はいかがわしい場所に出入りすること。
ニ 自己又は他人の特性を害する行為をする性癖のあること。」(p.146)
1-3. 1990年代にはいってからは、刑法犯少年の絶対数は減少傾向にあるものの、強盗、放火、強姦、恐喝、脅迫等の凶悪な非行が増加傾向にあることと、覚せい剤乱用少年の増加傾向が続いていること、女子少年の性的被害が増加していることと、触法少年による凶悪な事件が増加していること等、少年非行の現状は必ずしも楽観できないものがある。(p.147)
2 manolo 2013-01-23 01:00:06 [PC]
1-4. 【少年非行の原因】
少年非行の原因については、古くから種々のものが掲げられており、必ずしもどれが真の原因であるかを明確にすることはできない。少年自身に関係のある要因としては、@精神的自立心の欠如、A挫折感との未対決、B内面的幼児性等が挙げられており、家庭に関係ある要因としては、@核家族化に伴う家庭の伝統的機能の変化、A家庭教育の不在、B親の自主性の欠如等があげられている。学校に関する要因としては、@受験戦争によって歪められた教育の在り方、A教師と児童・生徒の信頼関係の不足、B児童・生徒相互の人間関係の希薄化等が、そして、社会的要因としては、@価値観の多様化、A物質主義と感覚主義、Bマスメディアの影響等があげられている。(p.147)
1-5. 【少年非行対策】
法務省は、少年非行対策は、少年司法または刑事政策の問題であるだけでなく、国家的、社会的な問題であり、全国民的な対策が必要不可欠であるとして、3段階の対応について言及している。すなわち第1次的対応とは、家庭、学校、雇用、社会保障、レクリエーション、マスメディア等の各分野における少年非行防止のための良好な社会的・経済的・文化的環境の整備であり、第2次的対応とは、非行化の恐れのある少年に対する警察及び少年福祉機関の補導・援助による少年非行の防止である。そして、第3次的対応とは、刑事法の適切・妥当な執行による検挙、適正・有効な少年司法の運用と施設内処遇及び社会内処遇等による非行少年の社会化と再犯防止である。21世紀の少年非行対策のためには、「家庭」という第1の生活空間、「学校」という第2の生活空間、地域社会という第3の生活空間のほかに、「情報空間」という第4の生活空間と「居場所的空間」という第5の生活空間の重要性を認識することが大切である。(p.147)
*情報空間
パソコンや携帯電話の普及により、メディアやインターネットからの暴力や露骨な性的描写などの情報が子供たちに深刻な影響を与えているといわれるが、子供たちが接触する第4の生活空間として、こうした「情報空間」の大切さが最近とみに指摘されている。情報を正確に受け止め読み解く力、いわゆる「メディア・リテラシー」教育の重要性が指摘されている。(p.147)
3 manolo 2013-01-23 05:32:06 [PC]
*居場所空間
青少年の生活領域の外に自然発生的に生まれたもので、特定の場所を持たず、それだけに、外部にいる大人からみえにくく、捉えどころのない生活空間である。渋谷のセンター街や名古屋のテレビ塔の下が、居場所空間の典型例である。(p.147)
1-6. 【平成少年法(2000年改正少年法)】
今回の改正の対象となった1948年少年法(以下、昭和少年法という)は、第二次世界大戦後、ルイス(B.G.Lews)の提案に基づいて作成されたものである。この昭和少年法は、当時アメリカで全盛期にあった国親思想に基づき、保護優先主義の強い影響を受けて制定された。もちろん、この昭和少年法は、1922年少年法(以下、大正少年法という)を全面改正したものであり、少年年齢を18歳から20歳に引き上げたことと、検察官の先議権を廃止して全件送致主義を採用したところに特色がある。
1-7. ところが、1993年に発生した「山形マット死事件」において、少年審判における事実認定が問題となり、社会の耳目を集める少年事件が相次ぐ中で、裁判官の側からも少年法の事実認定手続の問題点を指摘する事件が出されるようになった。さらに、2000年5月以降、「西鉄バスジャック事件」をはじめとする一連の17歳の少年による凶悪な少年事件が生起するに及び、7月には、与党3党による「与党政策責任者会議少年問題に関するプロジェクトチーム」が結成され、「少年法等の一部を改正する法律案」が立案されるに至ったのである。そして、この法案は2000年9月、議員提案により第150回国会に提出され、11月28日に成立し、12月6日に公布された。これが筆者が平成少年法と呼ぶ改正少年法であり、2001年4月1日に施行されている。(p.148)
*全件送致主義
少年事件のすべてを家庭裁判所に送致し、家庭裁判所が少年を保護処分にすべきかどうか、福祉処分にすべきかどうか、あるいはまた刑事処分が相当かどうかを判断し決定する主義をいう。(p.148)
4 manolo 2013-01-23 05:53:45 [PC]
*山形マット事件
1993年1月、山形県のある中学校の体育館内用具置き場で、1年生のX(当時13歳)がロール状に立ててあった体操用のマットの空洞部分に頭を下にして死亡しているのが発見された。警察は事件に関与したとして当時14歳だったA、B、Cを逮捕し、当時13歳以下で刑事責任年齢に達していなかったD、E、F、Gも逮捕した。山形家庭裁判所は、A〜Cに非行に及んだ事実が認められないとして処分を科さない決定をする一方で、D〜Fについては非行事実を認め、少年院送致などの保護処分を言い渡した。高等裁判所は、少年たちの自白を信用できるものと評価し、Dらの申し立てを退けた。同時に、審判の対象になっていないA〜Cも非行にかかわっていた余地があることを判示した。最高裁判所はDらの不服申し立てを認めず、保護処分の取り消しの申し立ても却下した。こうした事実を受けて、Xの遺族は1995年12月に、A〜G7人に対して損害賠償を求める民事訴訟を起こしている。(pp.148〜149)
*西鉄バスジャック事件
17歳の少年が、2000年5月3日、佐賀発、福岡行の西鉄高速バスを乗っ取り、乗員・乗客の22人のうち3人の女性を刺し、1人を死亡させ、2人に重傷を負わせた事件である。広島地検は簡易鑑定後に少年を「刑事処分相当」との意見を付して広島家裁に送致し、同家裁は佐賀家裁に移送した。佐賀家裁は第4回の審判で「5年以上は解離性の治療が必要」として、医療少年院送致を決定した。少年は精神病院への入院歴があり、行為障害と診断されていた。家裁の精神鑑定では、「自分が自分でなくなる感覚の解離性障害や行為障害もみられ、精神分裂病を発病するおそれもある」と判断されいている。(p.149)
5 manolo 2013-01-23 06:07:15 [PC]
1-8. 平成少年法の要点は、その内容から見て大きく3つに分けることができる。第1は「少年事件の処分等の在り方の見直し」である。昭和少年法においては、犯行時14歳であれば、刑法上は刑事責任があるのにもかかわらず、いかに凶悪で重大な犯罪をしようとも、少年法の規定により、刑事処分には付されないことになっていた。しかし、1997年に起こった「神戸市児童連続殺人事件」を契機として、14歳の少年であっても、罪を犯せば処刑されることがあることを明示することによって、その責任を自覚させることが必要であるとの認識から、刑事処分年齢を14歳まで引き下げ、14歳以上の少年に係る死刑、懲役、又は禁固にあたる罪の事件については、検察官送致決定ができることになったのである。また、本法では、故意の犯罪行為によって人を死亡させるような重大な罪を犯した場合には、少年であっても、刑事処分の対象とあるという原則を明示することが、少年の規範意識を育て、健全な成長を図る上で重要であると考えられた。そのため、家庭裁判所では、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件であって、その罪を犯すとき16歳以上の少年に係るものについては、検察官に送致する決定をしなければならないと定め、この種の事件については、検察官送致決定を行うことが原則とされたのである。また、本法では、刑罰緩和規定の見直しが行われた。この点に関して注目すべきことは、無期刑緩和を裁量化したことでる。また、死刑を無期刑に緩和した場合においては、仮出獄可能期間の特則を適用しないこととした。審判の方式に関しても、「非行のある少年に対して自己の非行について内省を促すものとしなければならない」としたのである。(p.149)
*神戸児童連続殺傷事件
中学3年の少年(当時14歳)が、1997年2月から5月にかけて、神戸市須磨区において、小学生男児1人と女児4人を襲い、2人を殺害、2人に怪我をさせた事件である。少年は同年6月に逮捕、神戸家裁は5回の審判を経て、4か月後「性衝動と攻撃性の結合が重要な要点で、熟練した神経科医のもとでの更生が必要」として、医療少年院への送致を決定した。(p.149)
6 manolo 2013-01-23 06:23:16 [PC]
1-9. 第2の要点は、「少年審判の事実認定の適正化」であるが、注目すべきことは、裁定合議制度が導入されたことである。この裁定合議制度は、裁判官が少年と1対1で向き合い、保護教育的な観点から審理を進めるという少年審判本来の姿からすると、問題がないわけではない。裁定合議制度を採用する場合には、少年にとって利益となるのかどうかを勘案しながら検討をすすめるべきであろうと思われる。また、本法においては、検察関与制度の導入が図られた。家庭裁判所は、犯罪少年に係る事件で、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪や、死刑または無期もしくは短期2年以上の懲役もしくは禁錮にあたる罪につき、その非行事実を認定するために、審判の手続きに検察官が関与する必要があると認めたときは、決定をもって、審判に検察官を出席させることができるとしたのである。(p.149)
*裁定合議制度
合議制とは、複数の裁判官の合議体で事件を審理する制度であり、法定合議と裁定合議がある。今回の法改正では、少年事件にも複雑で困難な事件がみられるようになったことから、3人の裁判官による裁定合議制度が導入された。(p.149)
1-10. 第3の要点は、被害者への配慮の充実である。@被害者等に対する審判結果等の通知、A被害者の申出による意見の聴取、B被害者等による記録の閲覧及び謄写等の被害者支援が実現されたのである。(p.149)
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