平等
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1 manolo 2013-08-07 20:10:36 [画像] [PC]

出典『よくわかる憲法』(2006)工藤達郎編、ミネルヴァ書房

1-1. 「平等」の意義
 日本国憲法14条は、「すべての国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的、又は社会的関係において、差別されない。」と規定しているが、この条文の持つ意味は、ことのほか重い。(p.44)

1-2. 『平等』の理念は、人権の歴史において、『自由』の理念とともに、常に最高の目的とされてきた。しかしながら、この二大憲法理念ともいえる『自由』と『平等』は相反する側面も有している。すべて個人を法的に均等に取り扱いその自由な活動を保障するという形式的平等(機会の平等)は、資本主義が進むにつれ、持てる者はさらに富み、持たざる者はさらに貧困に陥り、結果として、各個人に不平等をもたらした。法の上での自由・平等は、事実面での不自由・不平等を生じさせてきたのである。(p.44)

1-3. 従ってここで、人々を自由な競争状態におくだけではなく、競争の結果得られた利益(成果)にもある程度の均衡を実現させることこそが真の平等だという視点が出てくる。このような平等を実質的平等(結果の平等)という。(p.44)

1-4. 平等実現の方法
 現実の社会生活の中で『平等』を実現する手段の一つが法律である。例えば、就職や昇進における女性差別に対しては男女雇用機会均等法があるし、障害者差別に対しては障害者基本法等がある。しかし法律があれば万全というわけではない。法律の内容自体が差別を助長するものでは困るから、当然、*法内容の平等も意味されている。そして、せっかく平等を実現するための法律が議会で制定されても、その法律を使う側がこれを恣意的に用いたのならば意味がない。よって憲法が求める「法の下の平等には、**法適用の平等も含まれる。(p.44)

*法内容の平等
法を定立する立法権に対し、内容において平等な法律を作るように拘束する原則。(p.44)

**法適用の原則
法を執行し適用する行政権・司法権が国民を差別してはならないという原則。(p.44)

2 manolo 2013-08-07 20:38:13 [画像] [PC]

1-5. 以上を前提として、平等の実現が図られるわけであるが、差別の訴えは後を絶たない。日本社会で実際に生じている差別問題としてよく耳目に触れるものとして男女差別や外国人差別などがあるが、それ以外に*アイヌ差別等の人種差別や部落差別も存在する。また、家族という制度から生じる差別にも注意が必要である。憲法に平等条項があるのに、このような差別が存在することの理由はいくつか考えられる。@法律も存在してしない現実の差別。A平等保護以外の目的による法制度の結果として生じる差別。B実質的な平等保護目的のための法律によって生じる差別、等である。@は憲法14条違反としての裁判救済、または当該差別撤廃のための法律制定等で解決がはかられる。Aについては、ある法律を制定する際には**相対的平等の観点より合理的な「区別」を根拠として、特定範囲のものだけにその法律が適用されることになる。その「区別」が実は「差別」であることにより生じる。Bに対しては、近年、積極的差別是正措置に対して、***逆差別が生じるという問題が指摘されている。(p.44-45)

*アイヌ差別
北海道のアイヌ民族に対する日本人同化政策により、アイヌそしての誇りや文化が剥奪された問題がある。ダム建設による土地収用採決が争われた二風谷ダム判決(札幌地判平成9年3月27日判時1598号33頁)により、アイヌ民族を「先住民族」であること、その文化が不当に無視されていることが認められた。

**相対的平等
各人の性別、能力、年齢、財産、職業、又は人と人との特別な関係など事実的・実質的差異を前提に、法の与える特権の面でも法の課する義務の面でも、同一の事情と条件の下では均等に取り扱うこと。労働条件上女子を優遇し、各人の資力に応じて税額に差異を設けることなどは一般的に違憲とはいえない。(p.44)

***逆差別
積極的差別是正措置によって、いままで利益を享受していたとされる集団に属するものが、その能力に見合うだけの結果を受けられない現象が生じてしまうこと。例えば、女性の管理者が少数であることが男女平等に反するとして管理職の一定数を女性に割り当てる措置によって、本来、その対立候補の女性とを比較したならばその地位を得ていた管理職候補の男性が受けている状態を逆差別という。(p.45)

3 manolo 2013-08-07 21:21:45 [PC]

1-6. 平等違反の審査方法
 現実に生じている差別を救済し、あるいは差別の存否を判定することには憲法14条を根拠に裁判所が一定の役割を果たす。しかし、先述したように、そもそも法律を制定する作業自体が「区別」を前提に行われるものであるから、問題は、かかる「区別」が合理的か不合理(=差別)かということになる。その判断方法は、@立法目的、A立法目的達成のための手段(規制手段)を、それぞれ、またその相互関係について、その合理性を支える社会的・経済的・文化的な事実背景があるかどうかをみていくことになる。(p.45)

1-7. この判断方法を原則に、学説上いくつかのアプローチが唱えられている。ひと口に「平等」といっても、様々な場面での平等が考えられるからである。(p.45)

1-8. 精神的自由と経済的自由とのそれぞれの制約に対する違憲審査方法に濃淡を設ける「二重の基準の理論」に従えば、精神的自由を制約することに付随する差別に対しては、立法目的が必要不可欠で、立法目的達成が是非とも必要な最小限度のものかどうか(=「厳格審査」)が検討される。経済的自由に関連してくる平等問題には、より緩やかな判断でよい。具体的には、経済的消極目的規制に対しては、立法目的が重要なもので、目的と手段の間に実質的関連性が求められる(=「厳格な合理性の基準」ないし「中間審査」)とし、経済的積極目的規制には、立法裁量が広範に認められるので、立法目的が正当であり、目的と手段の間に合理的関連性があれば足りる(=「合理性の基準」)。(p.45)

1-9. また、14条1項後段の列挙事由「人種、信条、性別、社会的身分又は門地」が歴史的に特に差別を受けていたことから、これらに該当する差別に対し、区別を設けることに合理性があるとの立証責任が公権力側にあるとされる。また*列挙事由のうちでも、その性質に従い、審査方法は厳格審査(人種、信条)と中間審査(性別、社会的身分、門地)に区別される。(p.45)

*列挙事由
これらの列挙事由に対してのみ「法の下の平等」が適用されるとする制限列挙説と、これらの自由は単なる例示にすぎず、これに該当しない差別であっても、しれが不合理なものであるかぎり平等違反になるとする例示列挙説が存在したが、後者の例示列挙説が判例・学説ともに認められている。(p.45)

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