大きな政府 vs 小さな政府
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1 manolo 2014-01-29 10:08:56 [画像] [PC]

出典:『よくわかる行政学』、村上弘&佐藤満編著、ミネルヴァ書房、(第1部 I-3 「自由主義と小さな政府」)、pp.6-7

1-1. 【1. 近代市民革命】
 近代市民革命とは、17〜18世紀にヨーロッパで絶対王政を倒した革命で、その革命の主体となったのは、市民つまり商工業者(資本家、ブルジョア)だった。イギリスのピューリタン(清教徒)革命(1642〜49年)、名誉革命(1688年)、そしてフランス革命(1789年)が典型である。また、*アメリカの独立(1776年)も、イギリスによる植民地支配に抵抗した一種の市民革命という側面を持つ。(イギリスから言語や文化を強制されたわけではないが、)経済的な統制や課税と政治的な発言権の欠如への不満が大きかった。(p.6)

*アメリカ側がイギリスとの戦争に勝った一因はフランスの支援だが、支援の経費でフランスの財政危機は深まり、革命の一因になった。(p.6)

12 manolo 2014-02-03 08:54:18 [PC]

出典:『よくわかる行政学』、村上弘&佐藤満編著、ミネルヴァ書房、(第1部 I-7 「新自由主義と小さな政府論」)pp.14-17

4-1. 【1. 経済的自由主義の復活―政府の失敗】
 大きな政府は、資本主義の社会と経済を改善し安定させたが、1980年代になると弊害も目立つようになる。その背景には、政府活動の膨張への批判や経済停滞、財政赤字などの新たな状況があった。イギリスでは、固有企業や手厚い福祉国家が労働意欲の低下や経済停滞(「英国病」)をもたらしているとして、保守党のサッチャー首相が、小さな政府を目指す民営化、福祉サービスの抑制、労働組合の抑制に取り組んだ。アメリカのレーガン大統領(共和党)も、政府歳出の削減と減税によって経済活性化をはかった。日本でも、経済の低成長で政府財政が悪化した80年代、自民党政権が「行革(行政改革)をスローガンに、政府歳出の抑制、*赤字の国有鉄道等の民営化、政府規制の緩和などを進め、その後も各種の行政改革が継続されている。(p.14)

*1987年、国鉄の民営化により複数のJR株式会社が誕生した。JRは、経営努力とサービス改善の面で成果をあげたが、他方で、赤字ローカル線を切り離して地元の運営に委ねた。また、乗客106人の死者を出した尼崎の脱線事故(2005年)の背景には、職員への厳しい教育と処分、競争による余裕のない列車ダイヤの設定、過度の効率化があった(JR西日本ウェブサイト「福知山線列車事故の反省と今後の取り組みについて」)と言われる。(p.14)

4-2.
 こうした政治方針を、「新自由主義(neo-liberalism)と呼ぶことがある。19世紀の*経済的な自由主義を、一定、復権させようとするためである(批判的な立場からは、この動きは「福祉国家の危機」とも呼ばれる)。新自由主義の根拠づけは、「政府の失敗(government failure)の理論である。政府活動が「市場の失敗」とは別の種類の失敗や欠点を伴う。欠点とは、@財源が保障され市場の競争を欠くことから生じる非効率や、A「レントシーキング」(rent seeking)つまり政治的圧力による資源配分の歪み(例:必要が薄れた政策の継続、政策の過剰供給)などだ。こうした視点からは、政府規模の縮小や市場原理の重視が提唱される。つまり、財政支出で需要増をはかるケインズ主義を批判し、むしろ規制緩和や減税によって企業等の供給側を活性化させ、結果として雇用・税収増につなげるような政策が説かれるのである。(p.14)

13 manolo 2014-02-03 08:56:22 [PC]

*これに対して、今日の「リベラリズム」(liberalism)は、人間の自由や成長を重視する立場で、多様な思想や文化への寛容、すべての人に成長の可能性(=自由)を保障するための平等な福祉・教育等を提唱する。リベラリズムへの批判としては、寛容による社会の混乱、政府支出の膨張などが指摘される。(p.14)

4-3.【2. 大きな政府か小さな政府か】
 前の2節とこの説で述べた「大きな政府」論と「小さな政府」論について、まとめてみよう。おもな論点は、政府と企業の活動はどちらが公平、正確、積極的、あるいは*効率的か、また市民にとって政治的な統制と消費者としての選択のどちらが利用しやすいかという比較、および政府の大小が経済や人々の生活にどう影響するかという検討などである。簡単な議論ではないが、両者の主張の説得力を考えてみてほしい。これは、今日の先進国政治において、中道左派(社会民主主義・リベラル)政党と中道右派(保守)政党との間の重要な争点軸である。(pp.14-15)

*政府よりも民間企業が効率的とされるが、これはムダを省いている面と、人員削減や非正規雇用などで人件費を抑えている面がある。また、政策の質について比べると、例えば、民間の出版が傑作から有害無益なものまで幅広いのに対して、政府出版物には両極端が少ないように思える。(p.15)

4-4.
 注意すべき点をあげると、第1に、経済的な強者と弱者では利害が異なる。自由競争システムは「弱肉強食」を放置し、政府による再配分を縮小するので、強者は利益を増やすが弱者は厳しい状況に追い込まれる。したがって、小さな政府は、特に企業や富裕層から好まれる。企業経営者は、小さな政府が減税や競争を通じて経済活力を高め社会全体を豊かにすると主張するが、同時にそれから得られる自らの利益にも関心があるのではないか。(p.15)

14 manolo 2014-02-03 08:58:59 [PC]

4-5.
 第2に、「極小の政府」や「極大の政府」(ファシズムや社会主義はその典型)は弊害が多いだろう。二者択一でなく中間的な選択肢――適正規模の政府、政府と市場のバランス――がありうる。もちろん、経費を押さえつつ公共サービス等を維持改善できる工夫が見つかれば、それに越したことはないが、「貧すれば鈍する」で限界があるだろう。現代政治では、収斂現象が見られる。自民党(保守)は、資本主義原理に立ちつつも福祉、農業保護、公共事業などの政策を拡大し、幅広い国民の支持を得ようとしてきた。ただし、自民党は近年、小さな政府への傾斜を強め2005年の衆院選郵政民営化の公約に掲げて大勝したが、2007年の参院選は逆に、小さな伊政府による経済的な「格差」拡大を批判した民主党が勝った。世論は振り子のように揺れる。イギリスでは、保守党のサッチャー政権下で当初失業者が上がったが、その後、経済が再生した。1997年に政権に就いた労働党は、医師や教育に対する予算を拡大しつつ、党の伝統的な国有化路線を捨て市場原理をも重視する*「第三の道」に移行してきた。(p.15)

*ただし、軽減税率が設けられることが多い。例えば、イギリスの付加価値税(VAT)は17.5%だが、5%という軽減税率があり、さらに食料品などの生活必需品は非課税である(2008)年現在、ジェトロのウェブサイト等を参照)。(p.15)

4-6.
 第3に、日本の特別な事情、つまり、西欧やカナダとの比較における政府支出の小ささと、税収入の低さをどう考えるか。消費税20%近い西欧諸国では、国民に対して小さな政府を目指すとは言いにくい面があろう。逆に日本では小さな政府(質素な政府サービス)を掲げる以上、消費税引き上げへの抵抗感は消えない。(p.15)

15 manolo 2014-02-03 09:02:19 [PC]

4-7.
 日本が上の条件のもとで取りうる財政の選択肢は、4種類くらいある。

@政府サービスを拡大して西ヨーロッパに近づけ、それを根拠に増税をする。どの政策のために支出を増やすか、税金のムダ使いにならないか、どの税目で増税すべきかが議論になるだろう。
A小さな政府規模を維持し、一定の増税によって、国際発行を減らす。しかし、国民へのサービス改善なしに増税することが、財政赤字の深刻さをアピールするだけで可能だろうか。(ただし、経済成長と一定のインフレを継続させ、税の自然増収を図る方法はありうる。)
B小さな政府の規模を維持し、増税もせず、国債発行または税の自然増収でまかなう。従来の路線で政治的抵抗も少ないが、政府債務の膨張による弊害が懸念される。
C政府規模をさらに縮減し、増税なしに国債発行を減らす、公共サービスはおそらく低下し、国民の不満や社会問題を引き起こすおおそれがある。(pp.15-16)

4-8.【政府の活動と企業の活動の比較】 〔政治的・法的コントロール〕
[政府]
・行政組織内の統制、各種の法律による統制が整備され、正確で公平な活動を図っている。
・長、議会、市民による政治的統制ができる。情報公開請求もできる。
・ただし、違法、不適切な活動の規制が中心で、積極性を促すとは限らない。
・選挙・請願等の政治的コントロールは、迅速・有効に働かないことがある。
[民間企業]
・法律や政府の規制を受ける。
・しかし、企業内部には介入しにくいこともあり、数多くの企業を相手に監督の限界があるので、違法・不適切な活動も起こりうる。(p.16)

16 manolo 2014-02-03 09:03:32 [PC]

4-9.〔市場によるコントロール〕
[政府]
・一般の行政は市場原理や競争から遮断され、費用対効果を軽視し、非効率になりやすい。
・ただし、公企業、独立行政法人等は一定のコントロールを受ける。
[民間企業]
・日常的にコントロールを受け、市場での競争、評価、売り上げ、収益、株価などが指標となる。それは効率と改善、積極性に向けての努力を促す。
・ただし、一部には悪質企業も利益をあげて存立しうる。
・全体としては計画的調整はなされず。過剰な生産・投資や投機が起こりうる。(p.16)

4-10.〔資源の投入〕
[政府]
・政治的判断で公共性の高い分野に税収等の資源を投入でき、サービスを安価、公平に提供できる。
・他方、政治的に注目されなければ需要が増えても政策は伸びない。
・政治的圧力による資源配分の歪みが起こることがある。
・累進課税等で所得再配分ができる。
[民間企業]
・売上が伸びれば資源を投入するので、需要増に対応しやすい。逆に支払い能力のない人へのサービスは軽視される。
・価格は競争により下がるが、利潤確保のために限界もある。ただし、政府の補助を受ければ価格をより下げられる。(p.16)

4-11.〔手続き〕
[政府]
・官僚制と法規・規則による手続きで非効率となりがちである。
・ただし、地方分権により、また公企業、独立行政法人などでは改善しうる。
・市民は権利としてサービスを受け、サービス提供者を一定選択できる。
・しかし、すべての市民向けのサービスなので、多様性には限りがある。
[民間企業]
・企業ごとに意思決定するので、手続きはかなり効率的になる。
・市民は企業(サービス供給者)を自由に選択できる。受益と負担の関係も明確。しかし、支払い能力がなければサービスを受けられない。(p.16)

17 manolo 2014-02-03 09:05:20 [PC]

4-12. 【大きな政府か小さな政府か】 〔理念・スローガン〕
[大きな政府]
・福祉国家
・格差是正、セーフティーネット
・国や自治の公共サービス
・中道左派、社会民主主義
[小さな政府(スリムな政府)]
・市場(競争)原理、「官から民へ」
・活力ある社会、自助、自立
・官僚制の縮小、公務員の削減
・新自由主義(p.17)

4-13. 〔論拠(社会状況)〕
[大きな政府]
・価格是正、所得再配分が必要(格差は競争原理から必ず生ずるので、公平を回復し弱者の人権を守ることは政府の責任である)
・福祉は人権を保障し、社会を安定させる。教育は機会の平等を保障する。
・経済的な格差が拡大し、新旧の社会問題も数多く存在する。
・日本は企業優位の社会になっている。
[小さな政府(スリムな政府)]
・一定の格差は当然かつ公正(格差は個人の努力と怠慢の結果なので、それを認めることこそ公正)。
・能力に応じた教育をすべきだ。
・経験的な豊かさが達成され、以前より政府に頼る必要は薄れている。
・企業こそが日本の活力を作る。
(p.17)

4-14. 〔経済〕
[大きな政府]
・公共事業や必要な雇用(教育、介護サービスなど)などへの政府支出によって需要を創出できる。
・減税は政府財政を悪化させ、また、貯蓄や投機に回るかもしれない。
・政府の規制によって安全性や公正を確保し、また場合によっては新製品やサービスへの需要を創出できる(景観、環境規制など)。
・教育は経済の人的基盤を作る。
[小さな政府(スリムな政府)]
・規制緩和による競争で、商品開発と価格低下が生じ、需要を創出できる。
・減税は、人々の消費や企業の投資につながる。
・民間企業にとって事業を拡大でき、ビジネスチャンスを生む。
・過度の福祉は自立心や勤勉への動機づけになり経済活力を生む
・一定の格差は勤労への動機づけになり経済活力を生む。(p.17)

18 manolo 2014-02-03 09:06:24 [PC]

4-15.〔財政〕
[大きな政府]
・必要な財源は、不要な経費の削減や累進課税等でまかなうべきだ。消費税引き上げもありうる。
・日本の公務員は国際的にみて少ない。議員減は民主主義にとってマイナス。
・日本はすでに歳出において小さな政府だ。
[小さな政府(スリムな政府)]
・累進課税や企業課税は、経済を衰退させる。現状でも国籍を減らすため消費税引き上げが課題になっている。
・公務員や議員が多すぎ、税金のムダ使いがみられる。
・巨大な政府債務を減らすため、さらに小さな政府を目指すべきだ。(p.17)

4-16.〔政府と企業〕
[大きな政府]
・政府と政治システムを一定信頼し、「市場の失敗」を問題にする。
[小さな政府(スリムな政府)]
・企業と市場原理を一定信頼し、「政府の失敗」を問題にする。(p.17)


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