国際人口移動(難民、移民等)
[スレッド一覧] [返信投稿] [▼下に]
1 manolo 2013-01-19 00:18:30 [PC]

出典:「よくわかる国際社会学」(2009)、樽本英樹、ミネルヴァ書房

1-1. 【難民(refugees)の定義】
人種、宗教、国籍もしくは特定の社会集団の構成員でることまたは政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために、国籍国の外にいるものであって、その国籍国の保護を受けることができない者またはそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まない者(UNHR)。(p.42)

1-2.
この定義は4つの条件からない。すなわち
・迫害を受けるという十分に理由のある恐怖を持つこと(迫害の恐怖の有無)
・その理由が人権、宗教、国籍、特定の社会集団への所属、政治的意見の5つのうちいずれかであること(迫害の理由)
・国籍国の外にいること
・国籍国の保護を受けることができないか、または受けることを望まない者(国籍国の保護の喪失)

以上の4つの条件を満たしているものが難民と定義されたのである。(p.42)

1-3. 【難民条約と国民難民高等弁務官事務所】
難民条約〔「難民条約(1951年)と「難民の地位に関する議定書(1967年)」〕は、単に国家間の取り決めだけであるだけでなく、国連難民高等弁務官事務所(the United Nations High Commissioner for Refugees, UNHCR)という世界中の難民問題を担当する機関で扱いを執行されることになっている。UNHCRは難民を保護するという極めて限定的な目的しか持たず、執行力も弱い機関であるけれども、国家間協調を確実なものとし国家的な庇護システムを創り上げるためには、その設置は望ましい一歩であると考えられた。(p.43)

2 manolo 2013-01-19 06:34:57 [PC]

1-4. 【国家と主権とノン・ルフールマン原則】
国家は、難民の在留期間、就労許可、拘留の厳格さ、領土内で分散させるか集中させるか、さらには滞在費を現金支給にするかそれとも政府発行の券(バウチャー)で支給するかといった幅広い問題を扱わなければならず、その決定権限を持っている。しかし難民条約は、国際的な執行機関を持っているという点で国家主権の原則に抵触する。さらに大きな問題はノン・ルフールマン原則を採用したことである。ノン・フルールマン原則(the principle of non-refoulement)とは、出身国において難民らが拷問や死に至る危険性がある場合には、受入国が難民を出身国へ送り返すことを禁ずる原則である。難民に受入国への入国の権利があるとまで言っていないものの、ある状況において国家はその意思にかかわらず、難民の入国を許可する義務を負うと定めているのである。その結果、国家主権の中核、すなわち国家が外国人の出入国の是非を決める権限を持つという点に鋭く対立する結果となった。(p.43)

1-5.
ところが1980年代末以前は、ノン・ルフールマン原則と国家主権の間の矛盾は、それほどはっきりしていなかった。例えばアメリカ合衆国の難民の定義は明確で、共産主義国や共産主義が支配的な地域、また中東から逃れてきた人々であった。実際戦後1980年代半ばまでにアメリカ合衆国にへ難民にとして入国した永住移民200万人のうち、最も多かった2つの集団はキューバとベトナムからの難民だった。また、ヨーロッパ諸国は東ヨーロッパ諸国からの難民申請をほとんど受理していた。(中略)このように国家主権と対立しうるにもかかわらず国家が難民を円滑に受け入れたのは、戦後復興のための労働力不足という事情はあったものの、主には共産主義社会に対する自由主義社会の優位を宣伝するためであった。戦後の冷戦下で、自由主義陣営と社会主義陣営の間の和解しがたいイデオロギー的対立が国家が難民を受け入れる際の矛盾を見えにくくしていたのである(p.43)

3 manolo 2013-01-19 06:52:45 [PC]

1-6.
ところが、1989年のベルリン壁の崩壊後、難民をめぐる状況は一変した。東側陣営からの難民は「本物」であり、西側陣営は受け入れなければならない、またはその逆であったというイデオロギー的な 基準は消滅した。各国は共産主義に対抗する必要はなくなり、他方では国内の失業率も高いことが多く、難民を受け入れても国際的、国内的な政治的名声を得ることができなくなった。難民認定は、ほとんどの先進諸国において、移民が合法的に入国するための唯一の道となったのである。経済的動機や犯罪目的でやってくる偽装難民や「庇護あさり」の問題はますます広がり、さらにコソボ、旧ユーゴスラビア、アフリカ諸国における内戦や地域紛争が広まったため、難民の種類と流れは多様化した。「ジェット機時代の庇護希望(jet-age asylum seeking)と呼ばれるようになり難民の多様化と増加の中、国家は、非自発的で「本物」の難民申請者と自発的な経済移民や非合法移民を識別しなければならないという重荷を背負った。(p.44)

*庇護あさり(asylum shopping):複数の国で難民申請するなどして、庇護を乱用すること。

4 manolo 2016-02-25 22:11:58 [PC]

2. 出典:『よくわかる国際法(第2版)』、大森正仁編著、ミネルヴァ出版、「VIII- 5. 難民」、pp.136-137、尹仁河

2-1. 【1. 難民(Refugees)とは】
 国連難民高等弁務官事務所の発表(2013年6月)によると、2012年時点で世界では4520万以上が移動を強いられ、760万人の新たな難民や国内避難民が発生した。一日あたり平均2万3000人が行内外で避難を余儀なくされているという。難民条約は、1951年1月1日以前の主にヨーロッパにおける難民を対象とするものであったが、議定書ではこの地理的・時間的制約を取り除いた。2013年現在、計145か国が条約の、計146か国が議定書の条約国である。(p.136)

2-2.
 難民を保護するための国際法としては、1951年難民の地位に関する条約(難民条約)及び1967年難民の地位に関する議定書がある。難民条約は難民を「人種、宗教、国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために国籍国の外にいるもの」(1条)と定義し、締約国の義務として「難民を…生命又は自由が脅威にさらされるおそれのある領域の国境へ追放し又は生還してはならない」(33条)と規定している。こうした追放・送還の禁止はノン・ルフールマンの原則と呼ばれ、国際慣習法化したとされている。(p.136)

2-3. 【2. 国内避難民(IDPs)】
 国内避難民とは、紛争などによって常居所を追われたものの国内にとどまって避難生活を送る人々を指し、その数は近年増加している。UNHCRは、難民と同様に援助を必要とする国内難民に対する支援も行っている。UNHCRの支援対象者の総計は、庇護希望者及び帰還民を加えて、3580万人(2012年末)にのぼり、統計上過去2番目に多い数である。

世界の難民及び国内避難民の数
地域 難民 国内難民
アフリカ 3,016,248 7,043,910
アジア 4,789,492 6,351,679
ヨーロッパ 1,524,005 331,270
ラテンアメリカ・カリブ諸国 89,693 3,943,509
北アメリカ 425,786  ―
オセアニア   36,414   −
計 9,881,538 17,670,368

出所:UNHCR 『Global Trends 2012』p.41をもとに著者作成。
http://www.unhcr.org/51bac0f9.html).)(p.136)

5 manolo 2016-02-25 22:18:45 [PC]

2-4. 【3. *日本における難民認定手続】
 難民条約は、難民認定手続について各締約国の立法裁量に委ねている。日本は1981年に難民条約に加盟するにあたり、従来の出入国管理法令を改正し、新たに難民認定制度を導入して、「出入国管理及び難民認定法」と改称した。難民の認定は法務省入国管理局が所管しており、難民申請者が難民該当性の立証責任(**「迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖」の高度の蓋然性の証明)を負う。かつては、申請期限(入国後60日ルール)があった上に、難民認定手続きと退去手続が並行して進められたため、申請者の地位が不安定であった。2005年施行の改正法では、申請期限が廃止され、難民申請者には仮滞在許可制度を設け、仮滞在許可を受けた申請者については退去強制手段を停止して難民認定手続きを行うこととした。2012年には2545人の真性があり、18人が認定された(内13人は難民不認定とされた者の中から異議申し立ての結果認定されている。)難民不認定とされた者の内、人道的配慮から在留を認められた者の内では8割以上がミャンマー8(ビルマ)人である。(p.137)

*日本では1975年からのインドシナ難民の大量流出を契機に、難民問題に関する議論が急速に高まった。同年5月にベトナムからボートピープルが初めて到着し、以来インドシナ難民の受け入れを及び定住受け入れを特別に認めてきた(2005年末までのインドシナ難民定住受け入れ数は1万1319人)。(p.137)

**『UNHCR 難民ハンドブック』は、申請者の説明が信憑性を有すると思われるときは、反対の十分な理由がない限り、申請者に利益が与えられるべきであるとするが、日本ではこれを採用していない。(p.137)

6 manolo 2016-02-25 22:19:43 [PC]

2-5.
 難民申請の増大に伴い、難民不認定・退去強制処分の取り消しを求める訴訟も増加している。こうした訴訟では、拷問が行われるおそれのある国への送還禁止を定める拷問禁止条約3条が援用されることがある。*また、児童がかかわる場合には、児童の「最善の利益」の考慮を定めた児童の権利に関する条約3条が援用されることがある。(p.137)

*裁判では、退去強制の結果として児童が父母から分離されても、児童の権利第3条に反しないと判断されている。これは日本が同条約9条1項(父母からの分離を禁止する規定)に「出入国管理法に基づく退去強制の結果として父母から分離される場合に適用されるものではない」との解釈宣言を付していることに関係する。(p.137)

2-6.
 2008年12月の閣議了解において第三国定住による難民の受け入れを実施することが決定され、2010年度より5年間年30人の予定でタイの難民キャンプに滞在するミャンマー難民を受け入れている。(p.137)

7 manolo 2016-02-25 22:24:31 [PC]

3. 出典:『ニューズウィ−ク日本版』「「難民」か「移民」か その違いはどこに?」、9/15/2015、p.27

メディア
定義も線引きも曖昧な部分が多いが
正確に伝えるための努力は必要だ

3-1.
 いま世界各地にあふれるおびただしい数の避難民について、メディアはよく「移民」と「難民」という呼称を区別せず使っている。だが両者の間には、政治的・法的に違いがある。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によれば、難民は「自国での紛争または迫害を逃れ、安全を求め他国に移る人々だ。一方、移民は「迫害や死といった直接の脅威でなく、主により良い生活や仕事、教育を求めて、あるいは家族との再会、その他の理由によって移住を選択」する人々を指す。移民と違って難民は、1951年に採択された難民条約の下で一定の法的保護を受ける権利が認められている。

3-2.
 カタールの衛星テレビ局アルジャジーラは最近、地中海を渡ってヨーロッパを目指す人々を今後「移民」とは呼ばないという編集方針を発表した。その理由について、「移民という言葉の意味が本来の定義から変化して、対象となる人から人間性を奪い距離を置く、軽蔑的な意味合いを持つようになった」からだとしている。だがそうは考えていない向きもある。米ニューヨーク・タイムズ紙もCNNも「移民」という言葉を使っているが、そこに深い意味はない。一般的に使われる「移民」という言葉は、単により包括的な呼称にすぎない。

3-3.
 それに対し、「難民」という言葉には政治的な力がある。ヨーロッパで移民規制を訴える人々が「難民認定希望者(まだ認定されていない状態)」という言葉を好んで使う一つの理由は、それが彼らの移住動機に疑問の余地を残す呼称だからだ。「難民」が中傷と受け止められる場合もある。ハリケーン・カトリーナの襲来で被災し、05年8月にニュー・オーリンズから別の地域に移った人びと(主に黒人)に対して頻繁に使われた「難民」という呼称は、人種差別だとの声が上がった。