さあ、さういふこと
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1 Ryou 2014-03-27 09:53:43 [URL]
「さあ、さういふこと、あたくしなんかにおたづねになるのは、どうかと思ひますわ。ご自分に罪はないとお信じになれれば、それでよろしいんぢやございません」
と、彼女は、さつきまで、どことなく重みもあり、鋭さもあるその言葉つきと風貌とに押され気味であつたのに、いつか、それにかゝわりなく、かへつて年下のものに対するやうな馴れ馴れしさで物を言つてゐることが自分にもわかりました。
すると、加部錬之介も、それに釣りこまれてか、かすかに苦笑をうかべながら、
「どうも自分の問題となると、主観をはなれてなんでいふことは容易ぢやありません。あなたに福代の代弁をさせるつもりぢやなかつたんですが、ついさういふ形になつてしまつて、失礼しました。何か福代の持物で紀念になるものでもと思ふんですが、それはいづれ落ちついてから、――といふことにします」
こゝでやつと、話が途切れ、保枝は、しかしまだなにか、最後のひと言を云ひ残したやうな気持で別を告げました。
この足で多摩墓地へとも思ひましたが、もう、日が暮れようとしてゐます。寝てゐる夫の顔が眼に浮びます。気が狂ひだしさうです。
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