この意味に於て
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1 Ryou 2013-12-11 23:16:06 [URL]

この意味に於て、この曲は神慮を測り、且つ慰むる狂言綺語の一類であつたと云つても、決してその偉大さは妨げられない。かの穢を祓ひ縁喜を祝ふたぐひの言葉とその系統に於て異るところがあらうとは見られないからである。そのやうなあやのある言葉を邦語でカムヨゴト(神壽詞)と云ふ。神曲のコメデイアにそつくり當はまる言葉である。
 ダンテのカムヨゴトには、その至誠にかまけて神憑りがしてゐるところがある。そしてその言葉がほとほと神託の域に達してゐる。ダンテは明日の夢、理想の幻影のために私心をふくめる言葉を申さなかつた神人である。

 カムヨゴトなるかな――わたくしはかう獨語して、そして筆を擲つた。筆が卓の上で微かな音をたてる。わたくしの氣分も少しく輕くなつてくるやうである。
(昭和十三年十二月 書物展望社刊)

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