「万倍もでしょうよ!」
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1 Ryou 2013-09-30 11:11:39 [URL]

「万倍もでしょうよ!」と、ゲオルクは父を嘲けるためにいった。しかし、まだ口のなかにあるうちにその言葉はひどく真剣な響きをおびた。
「何年も前から、お前がこの疑問をたずさえてやってくるのを、わしはじっと待ち構えていたのだ! わしが何かほかのことに心をわずらわしていたとでも思うのか? わしが新聞を読んでいるとでも思っているのか? それ、見てみろ!」そういって、ゲオルクに新聞を投げてよこした。父はその新聞をどうやってかベッドのなかにまでもち運んでいたのだった。古新聞で、ゲオルクが全然知らない社名のものだった。
「お前は、一人前になるまでになんて長いあいだぐずぐずしていたんだろう! お母さんは死ぬことになって、よろこびの日を味わうことができなかった。お前の友だちはロシアで身を滅ぼし、三年も前にすっかり零落し果ててしまった。そしてこのわしは――わしがどういう有様かは、お前にも見えるはずだ。そのために目があるはずだ!」
「お父さんはぼくのすきを狙っていたんですね!」と、ゲオルクは叫んだ。
 同情をこめたように父はつぶやいた。
「それをお前はおそらくもっと前に言いたかったんだろう。でも今ではもうどうにも遅いよ」

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