秋田のある鉱山町
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1 Ryou 2013-09-10 00:15:01 [URL]

 翌朝彼は本線から私線の軽便鉄道に乗替えて、秋田のある鉱山町で商売をしている弟の惣治を訪ねた。そして四五日逗留していた。この弟夫婦の処に、昨年の秋から、彼の総領の七つになるのが引取られているのであった。
 惣治はこれまでとてもさんざん兄のためには傷められてきているのだが、さすがに三十面をしたみすぼらしい兄の姿を見ては、卒気ない態度も取れなかった。彼は兄に、自分の二階へ妻子たちを集めてはどうかと言ってみた。食っているくらいのことはたいしたことでもなし、またそれくらいのことは、兄のいかにも自信のあるらしい創作を書いても儲かりそうなものだと思ったのだ。
「もっとも今も話したようなわけで、破産騒ぎまでしたあげくだから、取引店の方から帳簿まで監督されてる始末なんで、場合が場合だから、二階へ兄さんたちを置いてるとなると小面倒なことを言うかもしれませんが、しかしそれとてもたいしたことではないんです。兄さんたちさえ気にかけなければ、貸間に置いてあるんで経済は別だと言えばそれまでの話なんだから……

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