その晩だいぶ酒の浸みたところで
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1 Ryou 2013-09-10 00:15:25 [URL]
その晩だいぶ酒の浸みたところで、惣治は兄に向ってこう言った。気まぐれな兄の性質が考えられるだけに、どうせ老父の家へ帰ったって居つけるものではないと思ったのだ。
「しかし酒だけは、先も永いことだから、兄さんと一緒に飲んでいるというわけにも行きますまいね。そりゃ兄さんが一人で二階で飲んでる分にはちっともかまいませんが、私もお相伴をして、毎日飲んでるとなっては、帳場の手前にしてもよくありませんからね」
これが惣治の最も怖れたことであった。
「……そりゃそうとも、僕も今度はまったく禁酒のつもりで帰ってきたのだ」と耕吉は答えた。「じつはね、僕も酒さえ禁めると、田舎へ帰ったらまだ活きて行く余地もあろうかと思ってね……」
耕吉はついこうつけ加えたが、さすがに顔の赤くなるのを感じた。そのうち弟は兄のかなり廃物めいた床の間の信玄袋に眼をつけて、
「兄さんの荷物はそれだけなんですか?」と、何気ない気で訊ねた その晩だいぶ酒の浸みたところで、惣治は兄に向ってこう言った。気まぐれな兄の性質が考えられるだけに、どうせ老父の家へ帰ったって居つけるものではないと思ったのだ。
「しかし酒だけは、先も永いことだから、兄さんと一緒に飲んでいるというわけにも行きますまいね。そりゃ兄さんが一人で二階で飲んでる分にはちっともかまいませんが、私もお相伴をして、毎日飲んでるとなっては、帳場の手前にしてもよくありませんからね」
これが惣治の最も怖れたことであった。
「……そりゃそうとも、僕も今度はまったく禁酒のつもりで帰ってきたのだ」と耕吉は答えた。「じつはね、僕も酒さえ禁めると、田舎へ帰ったらまだ活きて行く余地もあろうかと思ってね……」
耕吉はついこうつけ加えたが、さすがに顔の赤くなるのを感じた。そのうち弟は兄のかなり廃物めいた床の間の信玄袋に眼をつけて、
「兄さんの荷物はそれだけなんですか?」と、何気ない気で訊ねた
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