宇治少佐の居間
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1 Ryou 2014-04-10 20:32:36 [URL]
宇治少佐の居間――夕刻
従卒太田(騎兵一等卒)が軍用鞄の整理をしてゐる。
鈴子夫人が現れる。
夫人 さ、此の毛糸のチヨツキをどこかへ入れといて頂戴。――あとから送つてもいゝけれど、どさくさ紛れに失くなされでもするとつまらないから……。それに、もう、あつちは、九月になると寒いつて云ふぢやないの。――何もかも、あんたのお世話になるのね。ほんとに、よろしく頼むわ。大変だらうけれど……。病気だけは気をつけてあげて頂戴ね。すぐおなかをこはすのよ。
従卒 さうすると、入れるものは、これだけでありますか。
夫人 さうね……。もう大概それくらゐのもんね。お護りはあすこへ入れたと……。
従卒 ウイスキイは二本でよろしうありますか。
夫人 沢山でせう。御自身でも一つ、図嚢へ入れてらつしやるのよ。
従卒 太田も一つ持つて行きます。それから馬丁もゐますから……。
夫人 そんなに……? 寒い晩にお酒なんかあがるのはいけないんださうだけれどね。よく凍死するんですつて、それで……。
従卒 は?
夫人 凍えて死ぬのよ。お酒に酔つてなんかゐると……。
従卒 どうしてでありますか。
夫人 どうしてだか知らないけれど……。婦人会の講話で、さう云ふお話をうかゞつたことがあるわ。あんたは飲まないのね。
従卒 はあ駄目であります。
夫人 駄目の方がいゝわ。
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