井出康子は、このせつない訴えを
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1 Ryou 2014-05-17 13:13:39 [URL]
井出康子は、このせつない訴えを、わがことのように胸にうけて、つい涙ぐみ、それで声だけははげますように言つた――
「しつかりなさいよ。いまが大事なところよ。あたし、できるだけお力になるわ。そんなら、どんなわけがあるにしても、あなた、この家にいたくないの?」
と、それにかぶせるように、大きくうなずいてみせて、
「えゝ、いたくないんです……。奥さま、お願いですから、どこかへ今すぐに連れて行つて……」
江原が同意するも同意せぬもなかつた。
井出康子は、ふろしき包みひとつ抱えた北原ミユキをともなつて、このアトリエを辞したのであるが、しばらく歩いてうしろをふりかえると、アトリエの入口に、江原が見送つたまゝのかたちで立ち、そこへあがる石段の下に、尾関昇がいつの間にか姿をあらわしていた。
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