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このようにかつて朝日は住民投票や国民投票という直接民主主義的な手法をさんざん持ち上げた。 その背景には、当時はまだ、「民意」 はコントロール可能だという認識があってのことだと思われる。 自分たちのリードで 「民意」 はどうにでもつくられるというエリート意識が見え隠れする。 それとともに、直接民主主義こそが民主主義の本来の形態、最善の形態であり、代議制などの間接民主主義は直接民主主義を実現することが技術的に困難であるがゆえにその代替措置として、あるいは次善の策として採用されているに過ぎないという認識がある。 『AERA』(1996年8月19日−26日号) の 「新潟・巻町原発住民投票 住民軽視の国策に反乱」 と題する特集で朝日新聞調査研究室主任研究員の田島義介氏は 「民主主義の原点は古代ギリシャから代議制ではなく、直接民主主義にある」 と述べている。 確かにかつて社会科の教科書には次のような記述が一般的だった。「古代ギリシアの都市国家 (ポリス) では、すべての市民が、市の中心にある広場に集まって、重要な政策を論じ、これを決定した。 このように、市民全体が直接、政治に参加するやり方を、直接民主政治という。(中略) けれども、近代の国家は、領土も広く、人口も多いので、全部の国民が 一堂に集まって、政策の討議や決定に参加することは、事実上、不可能である。 そこで、直接民主政治にかわって、国民が自分たちの意思と利益を代表する人びとを定期的に選挙し、選ばれた代議員が議会に集まって法規を定め、政治を運用する方法が考えだされた。 これを間接民主政治といい、このしくみを代議政治または議会政治とよんでいる」(高校教科書 『改訂版 新政治経済』 自由書房) しかし、このような民主主義理解は間違っている。 近代国家が直接民主主義を採用していないのは、技術的に不可能だからではない。 むしろ今日ではインターネットや SNSの普及で技術的には可能になっている。 それよりも、産業化、情報化、国際化、福祉国家化等によって政治の役割は膨張の 一途を辿っており、日常生活においても専門化した技術や知見が要求される高度技術社会においては政治運営にも専門的能力が必要とされる。 とても素人談義では埒があかないほど複雑化しており、古代ギリシアほどには社会が単純ではない。 地方行政も同様で、住民が直接民主主義の方式で参与し、個々具体的な行政案件について 一貫性をもって賢明な判断をすることは、ほとんど不可能になっている。 今日では国家や地域の利益を守るためにはそれに相応しいテクノクラート (専門家) を代表者に選任して 一定期間、委ねるという間接民主主義の方式に依らざるを得ない。 近代国家が間接民主主義を採用している理由として公益性の追求も挙げられる。 アメリカ合衆国憲法の起草者の 一人、J・マディソンは 『ザ・フェデラリスト』(1788年) の中で間接民主主義 (マディソンは 「共和政」 と呼ぶ) を採用している理由を次のように述べている。「(共和政においては) 世論が、選ばれた一団の市民たちの手を経ることによって洗練され、かつその視野が広げられるのである。 その一団の市民たちは、その賢明さのゆえに、自国の真の利益を最もよく認識し、また、その愛国心と正義心とのゆえに、一時的なあるいは偏狭な思惑によって自国の真の利益を犠牲にするようなことが、きわめて少ないとみられる。 このような制度の下では、人民の代表によって表明された公衆の声のほうが、民意表明を目的として集合した人民自身によって表明される場合よりも、よりいっそう公共の善に合致することになろう」 (第一〇編、斎藤眞・中野勝郎訳、岩波文庫) 直接民主主義では人民の 「一時的なあるいは偏狭な思惑」 に左右され、公益を図ることは難しいが、「選ばれた一団の市民たち」(= 代表) の手を経ること、すなわち間接民主主義を採用することで 「よりいっそう公共の善に合致する」−。 英国の国民投票の結果を踏まえると、マディソンの言っていることの意味がよくわかる。
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