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声が聞こえる 2018-08-26 15:36:05
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「この景色は俺だけのものにしておこうと思ってた。俺の心の中だけに、俺の為だけに、この太陽が昇ればいいと思ってたんだ」
千絵美は俺の方を見て、小さく頷いた。そしてまた、光で満ちた世界を仰ぐ。
「でもさ、千絵美には知って欲しいんだ。知って欲しいって思えたんだ」
その丘は、その街は。
明るい小鳥が歌を歌ってた。
泥に塗れた猫も歌ってた。
可憐なタンポポも歌ってた。
風も、木も、地面も、空も。
皆一緒に歌ってた。
「……だからさ」
「……?」
「俺は歌を歌うんだ」
千絵美の頬を涙が撫でるのが見えた。
「……私も歌うよ。由と一緒に」
「これからも?」
「……いつまでも!」
街を見渡す丘の上で笑い合う。
そうだ。
生まれて来て、初めて流すこの涙。
この日の為にとっておいたのだとしたら、頷ける。
俺はこいつと生きて行くんだ。
太陽はすっかり登って、眩しい光で満ちた街はいつもの街に戻っていた。
「そろそろ帰るか」
「うん………あ!その前にさ!」
そう言って千絵美は何かを思い出した様に、持っていた手提げ鞄から何かを取り出した。
それは少し大きめのバスケット。
「サンドイッチ食べる?」
今日もまた、聞き慣れた声がする。
おわり