シンデレラタイム
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1 2011-05-18 22:24:11 [PC]

神代によって得られる能力は千差万別である。同じような能力を持つことがあったとしても、効果範囲、持続時間、果ては発現する神代の色が違うだけ、ということもある。
とにもかくにも、神代がもたらす能力は十人十色である。一人に唯一つの神代、という法則と同じく、同一の能力は発言しない。
だがこの法則には例外が存在する。
神代の歴史は古い。はっきりとした文献は中世の頃のものが残っている。それより以前の記録は散逸し、断片的にしか情報を得ることができない。しかし、その記録の中に時折現れるのが、絶対能力者の記述だ。
遠い昔から伝わる神代とまったく同じ能力を発現した能力者はただ一代でその能力を終わらせることなく、以降の時代でも変わらない力を発揮してきた。その数は決して多くはないが、たびたび現れては世を騒がせてきた。
「"灰かぶり"が出たの? それは、なんというか、厄介なことになりそうね…」
眉根を寄せてそう言ったのは十一。いつものんびりと間延びした性格の撫子やもにかと違い、普段から真剣なまなざしで能力者の話題を切り出すことの多い彼女にしては、珍しい態度だった。
逆に明らかな不機嫌の色を浮かべているのはもにかである。紙パックのオレンジジュースをずずーっと飲み、口をへの字に曲げて言う。
「私、ああいう人たち好きになれません」
「そう? 魔法使いの能力者として、仲間意識みたいなのはないの?」
仲間と言われ、現代に生きる魔法少女はますます不機嫌になる。
「魔法使いじゃなくて魔法少女です。あの人たち、好きに魔法を使いすぎだと思うんですよー。魔法って、なんていうのかな、秘密の営みだとわたし思うんです」
「そんなものかしらね…。ま、わたし達の立場を考えれば正しい意見ね」
「あと、ああいう人たちの使う力には夢がないんですよー。せっかくの魔法なのに、夢を動力にしちゃってて…。もっと夢がないと魔法は魔法じゃないんですー」
「いや、その辺の匙加減はちょっと…」
魔法少女は夢が大事なんです、と訴えかけるもにかを押しやり、十一は資料を手に取る。
今回のターゲットについて書かれた数枚の紙切れに目を通し、再び困った顔つきとなった。
「放っておいてもいいような気もするんだけど…」
ターゲットの名は、都築弓弦。
"灰かぶり"の神代を発現させた能力者。その能力は−−−。

2 2011-05-18 22:25:11 [PC]

同刻。深夜を過ぎた頃合に、心弥は目を覚ました。
どうにも庭のほうから妙な音が響いてくるのが原因だ。
こつこつと、硬いものを壁に打ち付けるような音に混じり、ひたひたと素足で道を歩くような音が響く。
本当にそんな音なら聞こえるはずもない小さな音のはずだが、眠りから覚醒しきっていない頭の中にはっきりと聞こえてくる。
撫子が帰ってきたのかとも考えたが、あの撫子が外を素足で歩くようなことはありえない。
敵襲にしては襲ってくる気配がない。ただ硬質的な音と、妙に耳に張り付く足音だけだ。
寝ぼけた頭で数十秒。庭を確かめることに決め、寝床から這い出た。
襖を開け、月明かりに照らされた庭を一望する。
古風な庭に変わった点は見受けられない。ただ、さっきまで鳴っていた音は消え、しんと静寂が夜の街に下りていた。
気のせいか、と一人ごち、壁の向こうの電柱を一瞥してから布団に戻ろうとして、思考が止まった。
「な………んじゃこりゃああああ!!」
眠気も何もあったものではない。すべてが一瞬で吹き飛び、心弥は庭へ飛び出した。
普段見慣れた屋敷の外壁が、ごつごつとした石造りから滑らかな硝子へと変わっていた。触ってみるとひんやりと冷たく、滑らかな手触り。透過度は高く、月に照らされて向こうの電柱がくっきりと浮かび上がっていた。
「敵…敵か!」
周囲を注意深く見回し、空を見やる。そうして、心弥は仰天した。
空から、透明な靴が降ってくる。
夜の街に絶叫が響き渡った。

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