劇団カミシロ
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1 2012-05-20 02:06:33 [PC]

魔法少女 まじ☆かる・もにか!
主演:箒木もにか
女医役:撫子
紳士仮面役:五十嵐秀夫
被害者全般:刈耶十一
犯人全般:守嶋心弥
魔女役:都築弓弦
辻占い役:入江飴
監督・演出・脚本・その他:夢月いばら
あらすじ
魔法少女となった女の子が大暴れ!

「っていうのを考えたんだけど、どうかな!?」
目を輝かせて冊子を皆に押し付けてくる夢月。熱心、というよりも鬼気迫る形相に気圧され、刈耶は渋々、

心弥は心底嫌そうに、入江は僅かに眉根を寄せ、箒木は困ったような顔つきで、それぞれ異なった反応を見

せつつ冊子を受け取った。
その中でも冊子を受け取らなかった都築は、柳眉をきりきりと釣り上げて夢月をにらみつけた。
「どうって、どうもこうもありゃしない! なしよ、なし! ありえないわ、こんな内容!」
企画書と書かれた冊子の表紙を力いっぱい叩き、都築は怒る。
「だいたい! なんで私が魔女役なのよ! こういう陰険な役はかりにゃんに任せりゃいいでしょ!」
頭ごなしに怒鳴りつけられ、夢月も立ち上がって反論する。
「トイにゃんは魔女って柄じゃないじゃん。どっちかってと、格闘家のほうがしっくりくるけどさ、今回のシナリ

オじゃ登場しないのよね、そういう役。入江は無口で無愛想だからまともな役は無理として、残りはアンタだ

けなの」
「むぐぐ…」
言葉に詰まる都築の傍に座る刈耶は、「にゃん付けで呼ばないで」と小声で突っ込んだが、当人たちにはま

ったく届いていないようである。普段、何事にも強気で当たる刈耶も、組織の曲者の筆頭であるこの二人を

相手取るつもりはないようだ。無理に会話へ参加しようとせず、暇つぶしに冊子の余白を使ってパラパラマン

ガを書き始めた。
もにかはそもそもまともに会議へ参加するつもりがないらしく、冊子の内容を何度か確認した後はボーっとし

ている。

2 2012-05-20 02:07:55 [PC]

守嶋も一応冊子の内容を確認したが、どうにも脚本がやりたい放題書き綴ったという感触がある。出演者に撫子の名が出ているが、撫子は今回の交流会に出席できないということを夢月は忘れているのではないかと思える。
守嶋たちのような若者が交流会に出ることになったのは、以前の事件の後処理のため、しばし海外に出ることになったからである。
「大丈夫ですよ。そう難しいことをする必要はありません。適度に笑っていればよいのです。どういう人物がいるのか。それを把握するための交流会なのですから」
と、いつものように優しく微笑んでから、撫子は北欧の事件の後処理へと旅立っていった。
その様子を会議の出席者全員が確認しているはずだが、まったく失念しているらしい。全十三話の「まじ☆かる・もにか!」のシナリオを一通り眺め終えて、守嶋はそっと冊子を机に置いた。
冊子から目を離して顔を上げると、正面に座っている入江と目があった。普段は何の感情も伺わせない鋼色の瞳が、今は妙に潤んでいて熱っぽい。どことなく頬も紅潮している。
そんな様子を見て取り、守嶋は立ち上がった。
会議室の冷蔵庫からアイスまんじゅうを取り出して入江に渡すと、にっこり笑って入江はアイスを食べ始めた。
入江に知り合ってからしばらくして、彼女はこういう態度を見せるようになった。どうやら腹が減っているようなので、ちょっとしたお菓子などを与えるようにしている。
そのたびにに極上の笑顔を返してくれるので、この胃痛がしてくるような組織に身を置く心弥にとっては数少ない心の癒しとなっているのであった。
元のとおりに着席すると、ちょうど都築と夢月の議論が一段落したところであった。
「よーし。そこまでいうならあなた、よほどいい企画を持ってきたんでしょーね?」
「当たり前よ! これならどんな劇場でも大うけよ!」
いうなり都築は人数分の企画書を広げた。タイトルは『爆裂!爆発!木っ端微塵!』。
既に嫌な予感がひしひしと伝わってくるような企画書だが、都築の勢いに押されて全員が恐る恐る開いてみる。
やたらと薄っぺらいその企画書には、もはやため息をつく気力さえ奪うだけの力があった。

3 2012-05-20 02:08:24 [PC]

予算:とにかく低予算!
出演:わたし、そのほか多数(エキストラを用意してね)
あらすじ:とにかく爆発! 舞台のあちこちで起こる爆発(火薬か神代を使って!)を右から左に駆け抜けるソウルフルアクション---

「はい。ボツー」
「ああー!」
都築の悲痛な叫びが響く中、企画書と書かれた駄文の羅列は哀れ、茨の苗床となってしまった。
「何もそこまでしなくてもいいでしょ! もう読めないじゃないそれ!」
「リサイクルして、何度もこの文字が目に飛び込んでくるのを我慢しろとでもいう気? 真っ平ごめんよ」
神代発現の証であるエメラルドグリーンの髪を揺らして、無常にも言い放つ夢月。不気味に蠢く茨はやがて小さくなり、後に残ったのは紙の切れ端だけだ。その残った紙切れもごみ箱に放り投げてから、夢月はびっと都築を指差した。
「大体、寸劇の舞台で本物の火薬を使うなんてむちゃくちゃでしょうが! その上神代を使ってもいいですって? じょーだんじゃない!」
「交流会には一般人は来ないからいいじゃないの」
「火薬や神代で爆破された舞台は誰が処理すんのよ」
冷静に指摘され、言葉に詰まる都築。援護を求めて他の面子を振り返るが、心弥も十一も、もにかでさえ企画書をリサイクルボックスへ叩き落してしまっていた。
入江はというと、足元に置かれた黒い鞄が不気味に震えている。問答無用で鞄の肥やしになってしまったらしい。
しばしの間、悔しさに唇を震わせていた都築であったが、深く瞠目した後、自ら書き上げた企画書をテーブルの隅へと追いやった。
「しょうがないわ。メインテーマの爆発がないんじゃあどうしよもないものね」
「そこだけが問題じゃないけど、まあいいわ。…他に企画書持ってきた人いる?」
夢月は言いながら全員を見回す。その問いかけに心弥と十一、そしてもにかは沈黙にて答える。二人はつい先日北欧から戻ってきたばかりであり、この交流会の話も一息つく間もなく聞かされたのである。企画書など持ってきたはずもない。

4 2012-05-20 02:09:05 [PC]

自然と全員の目が入江に向けられる。注目を浴びた入江は鞄を開き、やたらと分厚い紙束を取り出した。
最初に目を通した夢月の企画書を遥かに上回る分量である。
ページをめくってみるとあらすじや配役は一切書かれておらず、いきなり台本から入っているようだ。

---第一幕
心弥「ああ、可愛らしいお嬢さん。キミの鋼のような髪…。柔らかそうな唇…。どれをとっても魅力的だ」
入江:目を伏せて恥ずかしそうに身をよじる。
心弥「大丈夫。怖がることなんてないさ。安心して、気持ちを落ち着かせて、ボクに身を任せてくれればいい。生まれたままの姿のキミをね…」
二人:ベッドに倒れこむ。(暗転)

5 2012-05-20 02:09:38 [PC]

「…」
なんとも言えない沈黙が会議室に落ちる。
都築は顔を真っ赤にして口をパクパクさせ、夢月は明らかにコメントに困っている。もにかはほんの少し、十一はあからさまに眉根を寄せ、台本の登場人物にされた心弥は衝撃のあまり開いた口が塞がらないようだ。
一分、三分と時が過ぎ、重苦しい空気の中、意を決したように夢月が口を開く。
「…これを、舞台でやれと、言うの?」
無言のままこくこくと頷く入江。いつもは無表情の顔が、ほんのり紅潮している。どうやら恥ずかしがっているらしい。
再び降りた静寂に耐えかね、数ページ分をめくってみる。なるほど、めくってもめくってもこれはとてもまずい。いろんな意味で。
誰がどう見てもこんな内容を寸劇で…いや、どこの舞台であろうとやるはずもないし、やってもいけないない。
「…なんか言ってやりなさいよ。主人公」
不機嫌な顔つきのまま十一が言う。主人公格で扱われている当の心弥は、衝撃から立ち直れない状態からも、何とか入江に問いかけた。
「えーと…。これを俺と、その、お前の二人でやるのか?」
頷く入江の顔は真っ赤だ。照れているらしいが、そんな心の機微を読み取るほど今の心弥に心の余裕はなかった。冷や汗を流しながら、ゆっくりと諭すようにして入江に話す。
「こういうのはちょっと、年齢的にも早いと思うんだが。俺はまだ、なんつーか、その、そういう本を読める年じゃないし、お前もまだ大人じゃないだろ?」
およそ十代に差し掛かったばかりにしか見えない年頃の少女は心弥の言葉の意味を理解しかねたらしく、自身を指差して不思議そうに呟く。
「………大人」
「いや、確かにそうかもしれないけどな…」
入江と出会った経緯を考えると、この少女が見た目どおりの娘でないことはすぐにわかる。しかし交流会にやってくるのはそうしたいきさつを知らない人々ばかりなのだ。
この台本どおりに寸劇をやったとしたら、どんな不名誉な謗りを受けるかわかったものではない。

6 2012-05-20 02:09:58 [PC]

「とにかく、これをやるのは無理だ。それでなくてもこの台本の量をこなすのは体力が持たないだろ」
もっともらしい適当な理由をつけて説得すると、入江は口をへの字に曲げながらも台本を回収してくれた。納得はしていないかも知れないが、とりあえず諦めてくれたらしい。
元通り、分厚い企画書…もとい官能小説を鞄に仕舞い込み、入江は無表情に戻った。が、不意にその口元が少しだけ笑みの形を取り、赤い唇から小さな声が漏れた。
「………続きは、プライベート」
「続きも何も始まってすらいねえ……」
背筋が薄ら寒くなるのを感じながら、逃げるように入江から視線を離す。
乱暴者、異界電波系、軽薄、高飛車となかなかに濃い能力者と出会ってきたが、さすがにこれはちょっと怖い。
撫子や北欧のターニアがいかに人格者であったかを思い知らされる。神代の力はどうにも青少年の健全な発育に重大な影響をもたらすように思えてならない。そうでないなら神代は得る代償に人格にヒビでも入れていくのだろう。
「…さて。入江の案がだめとなれば」
「どうしたもんでしょーね」
都築と夢月が腕を組んで唸る。今のところ寸劇に使えそうな台本は全てチェックし終え、そのいずれもが没案として処理されている。新たに台本を皆で作ろうにも時間の余裕がない。かといって誰かに任せるのであれば、おそらく夢月と都築がまた揉めに揉めるであろう。
「交流会をバックレるってのは…まずいでしょうねー」
「五十嵐のジジイが黙ってないと思うわよ。この間も体面に関わることだから下手を打つなって息巻いてたし」
眉間に皺を寄せる夢月に対して、どこまでも呆れ果てた様子で息を吐く。前々からこの二人は五十嵐のことを良く思っていない。彼の方針は非常に保守的なので、行動が大きく制限されることが多々あるからである。
守嶋や刈耶、箒木は五十嵐とそこそこ長い付き合いなのでそこまでストレスは感じていない。慣れもあるが、無理難題にいちいち疲れを感じていてはとてもやっていけないのだ。もっとも、箒木はその無理難題すらそつなくこなしてしまうため、心労とはまるで無縁―――

7 2012-05-20 02:10:31 [PC]

「こらぁ!ぼーっとすんなカミー!」
「ひぃ!」
脱線しかかった思考が大声で呼び戻される。確かに今は五十嵐のことを考えている場合ではない。
とはいえ、こうして知恵を絞ったところでいい案がすぐに浮かぶわけでもない。
一同、頭を抱えているところに、のんびりした声が掛かった。
「あ。いいアイディアを見つけましたよー」
珍しく思案顔であった箒木である。今は難しい顔もすっかり解消して、いつもどおりののほほんとした平和な顔つきである。
「ほんと!? もにたん!」
「どんなアイディア!?」
夢月と都築が眼をぎらつかせて箒木を見る中、現代の魔法少女はその案の出所を指差した。
「これなんか面白そうですよー」
没案になった企画書。その隅に書き込まれた落書きにも似た絵。刈耶が暇つぶしに書いたパラパラマンガである。
そのネタを目にした夢月と都築は顔を見合わせ、にやりと口元を吊り上げた。
「「や、やるしかねえ…!」」
「…本気で?」
そう呟く刈耶の引きつった顔つきが、後に襲う彼女の運命を表していた。
全てが終わった時、銀の神代使い刈耶十一は語る。
キャラが壊れるかと思った、と。


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