無表情、集団生活嫌い…激変した「少年院」収容少年たち
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1 名前の無い頑固親父 2015-05-17 01:39:12

 お年寄りをターゲットに多額の現金をだまし取る「振り込め詐欺」に手を染める若者が後を絶たないが、若者の変質に合わせ、少年院の指導現場も変化している。収容者に暴走族が多かった昔は面倒見の良いリーダーを育て他の少年を統率する“ピラミッド型”の秩序構造だった。しかし、最近は知能犯の増加もあり集団生活になじめない少年同士が話し合いをしたり、法務教官が膝をつき合わせる“フラット型”に移行している。振り込め詐欺を始めとする「特殊詐欺」による収容者の率が高い多摩少年院(東京都八王子市)を訪ねた。
2 名前の無い頑固親父 2015-05-17 01:39:59

■無表情で気持ちを表現できない子供たち

 「昔は暴走族や粗暴行為者が多く、やんちゃな子がたくさんいた。喜怒哀楽がはっきりしていて、打てば響く子たちばかりだったが、最近は振り込め詐欺や性非行など特殊な非行で入ってくる子が増え、元気がなくなってきた。うれしくても悲しくても無表情で気持ちを適切に表現できない。なぜ悩んでいるのか、何を考えているのかを引き出すだけでも大変になってきています」

 関東近県の1都10県から主に10代後半の少年たちが収容される多摩少年院に20年勤務する生活指導主任(46)は、更生の現場の変化をこう説明する。特に、振り込め詐欺などで収容された“現代っ子”たちの急増は、教官を戸惑わせがちだという。

 「成績は悪くないし、与えられた役割はスムーズにこなす。個別面接でも表向きは良いことを言うのに、教官とのユースフルノート(交換日記)に『死にたい』という言葉を書いてきたりする」と頭を抱える生活指導主任。

 「暴走族出身の子供をリーダー的な存在に育てれば、他の少年たちをピラミッド型でまとめてくれたものですが、今はそういうアプローチでは逆に反発されてしまう」という。

 東京郊外の小高い丘の上に建つ多摩少年院。平屋建ての寮5棟に約150人が生活をともにしているが、大正12年につくられた日本初の少年院が時代の波に洗われている。

3 名前の無い頑固親父 2015-05-17 01:40:30

■『1人でいたい』と単独室を希望

 「ラクしてもうかる」と振り込め詐欺への加担をバイト感覚で引き受けたものの、あっという間に警察に逮捕され、少年院送致となる若者が後を絶たない。昨年、全国の少年院に収容された男子少年のうち詐欺は5・9%で3年前に比べ、3倍以上増えている。

 多摩少年院に昨年中に収容された男子少年たちを犯罪種別にみると、窃盗に次いで2番目に多いのが詐欺(21・5%)だ。平成24年(5・4%)、25年(17・0%)と急増している。多摩少年院には比較的非行の傾向が低い少年が集められているため、振り込め詐欺などに手を染めた非行者が多く集まっているのだ。

 暴走族を始めとする粗暴非行で収容された少年たちはある意味で集団生活に慣れているが、振り込め詐欺で収容された子供たちは色合いが違うようだ。「『一人でいたい』と希望して、半年くらい単独室に入っていた子もいます。実習や体育では集団行動しますが、ご飯を食べたり寝たりするのは1人。そっちの方が落ち着くんだそうです」(生活指導主任)という。

 少年院の生活は、集団生活が基本だ。毎日午前7時に起床してから午後9時15分の就寝まで、他の少年たちと過ごす。寮では約10畳の集団室に4〜6人が同居。三食とも寮の仲間と取り、寮に1つしかないテレビをホールで見る。トラブル時の指導などを除けば、教科教育や職業訓練も原則的に集団で行われる。このため、個別対応が長期間にわたると、少年院運営にとっても負担となる。

4 名前の無い頑固親父 2015-05-17 01:40:52

■受け子、出し子…罪の意識が低い振り込め詐欺

 一方、振り込め詐欺で現金の受け取り役「受け子」や現金自動預払機(ATM)で現金を引き出す役「出し子」といった“端役”を演じた少年たちは加害者意識が低く、更生に持っていくまでに時間がかかることもある。

 「自分が詐欺に加担しているとは思わなかった」と話すのは、詐欺未遂容疑で逮捕され、多摩少年院に収容された10代後半の少年。街中で「お小遣い欲しくない?」と声をかけられ、受け子を命じられた。携帯電話で指示され、都内の路上でお年寄りの女性から紙袋を受け取ったところで警察官に囲まれた。

 「書類を受け取る仕事だといわれていたので『だまされた』と思い、誰も信じられなくなった。被害者のことも逆恨みしていました」。短髪に白い運動シャツ。今は快活に話す少年だが、収容後しばらくは同じ寮の誰とも話さず、教育・訓練もまじめに取り組むことができなかったという。

 多摩少年院で社会復帰支援を担当している専門官(35)は「最初は『誰も傷つけていない』と言って反省しない子も多い。お年寄りや弱い人たちからお金を取っているというところまで思いがいたらないんです」と振り込め詐欺の端役をさせられた少年たちの気持ちを代弁する。

 このような状況下ではまず、自分の家族関係に置き換えて考えさせたり、何年かかっても返済できない大金であることを被害弁済の視点から認識させるようにしているという。さらに、「ラクしてお金が入るのはおかしい」「働くのはお金のためだけではない」と労働の意義を教え、再び非行に走らないよう指導している。

 少年はその後、「迷惑がかかったのは自分ではなく、被害者や母親だった」と気付いた。多摩少年院では、サッカー大会や演劇祭などの行事が行われているが、運動会で寮の仲間が優勝を目指して一致団結したことで、集団生活への違和感も消えた。ワープロや溶接の資格を取得し、出院後の就職先も決まった。「いまはここに来てよかったと思っています」

5 名前の無い頑固親父 2015-05-17 01:41:15

■30秒で済んだ指導が3〜5日かかるように…

 収容者の多様化が進む少年院の指導現場だが、人間関係がドライな時代が少年たちの“リーダー不在”の原因ともなっているようだ。生活指導主任は「最近は、リーダーの資質、人間的な魅力のある子がいない気もします。他人のことが考えられないというか…。やったことは悪いが、仲間は大切にしたい、守りたいという子がいたものです。強力なリーダーが生まれづらい時代です」と打ち明ける。

 そこで多摩少年院では、「処遇の個別化」と「集団生活を通じた社会化」を処遇の原則としている。

 少年それぞれの特性に合わせて何を求めているのかを見つけ、教官が個別に指導したり、トラブル時に少年同士で話し合いの場を設けるのが「処遇の個別化」。集団生活の中で「運動会で優勝する」といったような1つの目標を据え、団結する中で社会性を身につけさせるのが「集団生活を通じた社会化」だ。

 指導が綿密になった分だけ、時間もかかるようになった。「昔は30秒で済んだ話が、3〜5日かかるようになりましたが、少年たちにとっても気づきが多く、より有効だと思います」と話す生活指導主任は仕事のやりがいを感じている。

 「一皮剥けば、子供たちの素の姿は変わっていない。そこにたどり着くための時間がかかるようになったということでしょうか」


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