Tokon Debatabank II

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謝罪と和解 (コメント数:6)

1 manolo 2015-08-12 22:57:49 [PC]


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出典:『ニューズウィ-ク日本版』、「謝罪は解決策にならない」、ジェニファー・リンド(米ダートマス大学准教授)、8/11&18/2015、pp.25-27

日本
中韓との対立は歴史問題ではなく戦略的な外交問題
必要なのは過去を認め現在の世界で道徳を示すことだ

1-1.
 今から70年前、アジアは戦争の災禍を経験した。以来、アジアは多くの点で目を見張る変革を遂げる。社会は再建され、何億人もの人々が貧困から抜け出し、自由と民主主義が拡大した。それでもほかの点において、アジアは今も過去にとらわれているようだ。20世紀前半の日本の侵略と残虐行為とが、日本外交の重荷としてのしかかっている。なかでも顕著なのが、中国や韓国との関係だ。(p.25)

1-2.
 大多数の識者は、安倍晋三首相が70年前の日本の行為をおわびすることこそが解決策だと考えている。その謝罪を、まさに8月15日の終戦記念日に表明するよう求める声は、日増しに高まる一方だ。だが、謝罪は日本の歴史問題の解決策にはならない。東アジアの対立は(そして和解は)もっと大きな戦略的な力に左右されており、日本のさらなる謝罪などでは決着しないからだ。(p.25)

2 manolo 2015-08-12 23:09:16 [PC]

1-3.
 日本が近隣諸国と和解し損ねているのは、きちっと過去を償っていないからだとの意見が多い。「和解のためには、日本の首相が謝罪の言葉を口にしなければならない」と、香港の英字紙サウスチャイナ・モーニングポストは最近も社説で主張した。この「常識」は、戦後ドイツの在り方を基に定着したらしい。西ドイツと後の統一ドイツは何度も心からの謝罪を重ねて、教育政策や記念施設建設などで戦争の現実をありのままに伝えようと取り組んできた。この姿勢がヨーロッパの関係修復を進め、対照的に日本の不十分な反省の姿勢はアジアの平和を妨げている」と、識者らは主張している。(p.25)

1-4.
 東アジアの和解に関するこの常識は広く浸透している。だが、同時に大きな誤りである。まずこうした考え方は、ドイツの歴史に関する誤解の上に成り立っている。西ドイツは確かに第二次大戦中の残虐行為を償ったものの、同国の指導者が謝罪を始めたのは60年代に左派政権が誕生してからだ。その頃には謝罪と無関係に西ヨーロッパの和解が進行していた。(p.25)

1-5.
 ソ連の脅威を前に和解の必要性に迫られて、フランスと西ドイツは50年代に手を携えるようになった。既にこの時、西ドイツはイスラエルに賠償金を支払いナチスの犯罪に責任を取っていた。それはもちろん重要な節目だったが、当時のコンラート・アデナウアー首相の保守政権下ではまだ、ドイツの一般国民が味わった苦しみのほうが強調されていた。国民は無実で、ナチスの犯罪について何も知らなかったという主張だ。ドイツが謝罪を表明するようになったのは、もっと後のことだ。ドイツの謝罪が西ヨーロッパの劇的な和解をもたらしたわけでもなければ、和解に必ずしも謝罪が必要だったわけでもない。(p.25)

1-6.
 謝罪なしに大きな和解が成立する場合もある。例えば戦後の日本とアメリカは、互いに謝罪もないまま劇的に関係を修復した。ヨーロッパと同様に日米も、ソ連の脅威を前にして戦略的に連携が不可欠と判断したのだ。(p.25)

3 manolo 2015-08-12 23:26:21 [PC]

1-7.
 謝罪不足が和解を妨げているとの「常識」で次に問題になるのが、謝罪を支持する人々がそれに伴う代償とリスクを無視していることだ。確かにおわびには数々の美点がある。反省の姿勢は相手への敬意を示す手段になるし、途方もない苦しみを味わった被害者たちを癒すのに役立つかもしれない。例えば先月、三菱マテリアル(旧・三菱鉱業)が日本の大手企業としては初めて第二次大戦中の米兵戦争捕虜の強制労働を公式謝罪した。元捕虜のジェームズ・マーフィー(94)は謝罪を受け、「今日は輝かしい日だ。70年の間、これを待ち望んでいた」と語った。(pp.25-26)

1-8.【国内の意見対立が外国を刺激】
 さらに謝罪は、国と国とがより豊富な歴史記録を共有するのにも役立つ。それは今後の政策協議に活用され、かつての被害国との外交関係を促進する。(p.26)

1-9.
 では、謝罪に伴う副作用はとは何か。リベラル派はしばしば謝罪を好むが、この姿勢は保守派の考え方や政治目標とはイデオロギー的に相いれない。保守派は概して、自国について肯定的な側面を強調した歴史認識を好むものだ。そのため謝罪表明は、常に国内で激しい議論を巻き起こす。正しい歴史認識をめぐる論争が起き、しばしば過去の歴史を正当化したり、時には過去の行為を否定したりする動きも現れる。そんな泥仕合を外から見る人々は、議論の内容に激怒し、いったい何が目的なのかと疑念を抱く。何より皮肉なのは、かつての敵国との関係を改善するための謝罪が、実際は彼らを刺激してしまう可能性があるということだ。(p.26)

1-10.
 こうした力学は東アジアでよく見られる。90年代、リベラルや穏健保守の政治家らが相次いで日本の戦時中の行為について謝罪を表明した。これは保守派の怒りに火を付けた。彼らの多くが、なぜ日本だけがアジアにおける帝国主義支配の謝罪を求められなければならないのか、と声を上げている。韓国と中国の国民はこれに反発し、さらなる謝罪を要求する――日本のいら立ちと「謝罪疲れ」感は増すばかりだ。日本外交における実際の問題は、各国との友好レベルの深刻な格差と、過去をどの程度重視するかという考え方の相違によるものが大きいだろう。いうなれば、日本が抱えているのは「歴史問題」ではない。歴史は日本の外交のある部分で問題を引き起こしているかもしれないが、他の部分ではまったく問題になっていない。(p.26)

4 manolo 2015-08-12 23:45:08 [PC]

1-11.
 日米は対立を乗り越え和解を実現した。その過程で両国は第二次大戦の歴史観を調和させていく。その過程で両国は第二次大戦の歴史観を調和させていく。双方の不正行為は認めるものの謝罪要求などはせず、過去よりも未来に目を向けてきた。4月の安倍の訪米が盛大な歓迎を受けたことや、日米関係全般が緊密なことからも、両国でこの歴史観が支持されていることが見て取れる。オーストラリアやインド、フィリピン、シンガポールといった、戦時中の敵国や植民地の多くからは、アメリカと同様、「歴史問題」など聞こえてこない。これらの国々は戦後、友好的で生産的な関係を日本と築いてきた。中国の台頭によって周辺国の懸念が増すほどに、日本との協力関係は強化されている。(p.26)

1-12.
 だから日本には「歴史問題」はなく、あるのは中国や韓国との緊張関係だ。歴史がこうした緊張を生んでいるわけでもない。それより、戦略的な力が和解を成功または失敗に終わらせるかを決め、歴史はそれに応じて記憶される。日米関係や仏独関係では、結束する必要性によって過去を水に流すことにした。しかし、日中や日韓関係においては、戦略的な条件はその正反対の動きを促している。(p.26)

1-13.
 中国と日本は地域の大国同士、ライバル関係にある。中国は日本の尖閣諸島(中国名・釣魚島)の領有権を主張し、両国は対立している。より大局的な見方をすれば、経済力と軍事力を付けた中国は、東アジアにおけるアメリカ主導の秩序に挑んでいる。その秩序の中で、日本はアメリカにとって最大の同盟国だ。安全保障問題で対立する関係になれば、当該国の指導者たちが互いに親密さよりも距離感を強調するようになることは、歴史が証明している。両国間の類似性よりも違いを、そうして好意的な感情よりも敵対感情を前面に押し出すストーリーが語られ始められる。(p.26)

5 manolo 2015-08-12 23:51:42 [PC]

1-14. 【日本と離れ中国に近づいた韓国】
 中国の場合は一党独裁制であるため、敵意を強調する言説をつくり出しやすい。国民の反日感情をあおるのは、中国共産党が長く得意としてきたところだ。反日プロパガンダ教育では、日本と欧米諸国によって「100年間の恥辱」を味わったと、「愛国教育キャンペーン」を展開。今年は9月3日を対日戦勝記念日として祝日に指定した。北京の抗日戦争記念館など、日本軍の非道さを記憶しておくための施設も複数ある。中国政府の態度は、過去を水に流そうとするベクトルとは正反対へ向かっている。その結果、日中の歴史問題は今後もっと大きくなり、物議を醸すようになるだろう。(p.26-27)

1-15.
 韓国と日本は、戦略的なライバル関係にはない。実際、民主主義国家でアメリカの同盟国という共通点がある両国の関係が冷え込んでいることに当惑している向きも多い。長い年月をかけて、韓国と日本が歴史問題で前進した時期も過去にはあった。98年には両国の首脳が日韓共同宣言を発表。日本は過去の植民地支配について謝罪し、韓国側は未来志向の関係を築いていくことで合意した。しかし、中国の台頭や、それを受けた韓国政府の対応によって、日韓が目指した未来志向のパトナーシップ構想は頓挫した。韓国にとって中国の存在が経済的にも地政学的にも重要になってくるにつれ、韓国政府は中国をパートナーと見なすようになってきた。(p.27)

1-16.
 中国は、日本と韓国とアメリカの3国同盟に包囲されるのではないかと恐れているが、韓国政府は自分たちにそんな意図はないと、中国政府を安心させることに努めている。「韓国には自国の成長を牽引してくれる国への攻撃に加わる余裕などない」と、英リーズ大学の韓国研究者エイダン・フォスター・カーターは指摘する。とりわけ朴槿恵(パク・クネ)大統領が就任してからは、韓国政府は日本による植民地支配の過去を利用して、日本との距離を取る一方で中国に近づこうとしている。(p.27)

6 manolo 2015-08-12 23:56:34 [PC]

1-17.
 日本と韓国または中国との緊張が和らぐ可能性は低い。日本と中国のライバル関係は過去の話でなく現在進行形だ。中国が深刻な経済危機に陥ったり政変が起きたりしない限り、競争関係は続くだろう。韓国については、日本と付かず離れずの距離を保つ可能性が高い。中国の脅威が高まりすぎて、もはや日和見主義ではいられないと実感したときに初めて、日本の側に付くだろう。韓国が日本やアメリカ側にもっと近づくべきだと決断すれば、日韓関係も劇的に変わるはずだ。そうした和解の過程では、日本と韓国双方が妥協の意思を見せた新しい歴史観も生まれるだろう。(p.27)

1-18. 【国際社会でのイメージアップ】
 日本の過去の記憶は、中国や韓国との緊張関係の原因でも解決策でもない。日本政府によるさらなる謝罪は、国内での反発を今以上に強める。そして、その反発に失望した中国や韓国は、さらなる謝罪を求めるだろう。日本政府が謝罪してから20年、中国と韓国との関係は悪化しただけだ。それでも、日本が関係改善のため、そして世界でのイメージアップのためにできることはある。過去を振り返れば、大きな論争に発展するのは、日本の政治家が戦時中の日本軍の行為について否定した時だ。そのような否認は、犠牲となった国々との関係を悪化させるだけでなく、国際社会での日本のイメージにも泥を塗る。(p.27)

1-19.
 日本の政治家や知識人は、その歴史をどう見るかについて議論を重ねていくべきだが、戦時中に日本軍が近隣諸国にもたらした被害は認識しておくべきだ。今は亡きアメリカの元上院議員ダニエル・パトリック・モイニハンはかつてこう言った。「自分の意見を言う権利は誰にもあるが、自分で事実を作り上げる権利はない」(p.27)

1-20.
 日本は戦時中の残虐行為を認め、いま世界で起きている人権侵害も厳しく非難することにより、中韓との緊張関係を緩和できるだろう。謝罪することが目的ではなく、誠意を見せることが重要なのだ。つまり、日本政府はこれ以上の謝罪は必要ないが、過去の侵略と植民地支配を一貫して認め続けなければならない。そうすれば、地域の、世界のリーダー的存在となるべき道徳観を示すことができる。何より、そのような方針は日本の価値観に合致している。(p.27)
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