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難民 (コメント数:7)

1 manolo 2015-09-20 14:12:42 [PC]


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出典:『ニューズウィ-ク日本版』「世界が放置した国境なき危機」、9/15/2015、pp.24-27

難民
戦乱の祖国を脱出した人々が命を落とす
ヨーロッパとアジアを悩ます難民問題の行末

1-1.
 アイラン・クルディが内戦下のシリアで生まれたのは3年前。激化する戦闘から逃れるため、家族は数十万の同胞と共に亡命を決意した。昨年、テロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)とクルド人武装組織が1カ月にわたる攻防戦を繰り広げた国境の町コバニ(アインアルアラブ」から、アイランを含むクルド系の一家4人はトルコへ入国。カナダに亡命を申請したが、拒否された。4人は先週、全長約4.5メートルの小さな船2隻に乗せられ、同乗者と共にギリシャを目指した。だが、船は高波を受けて転覆。父親はアイランを救おうとしたが、ギリギリのところで手をつかめなかった。この転覆の死者は12人。アイランと母親、5歳の兄も犠牲者の中に含まれていた。(p.24)

2 manolo 2015-09-20 14:14:29 [PC]

1-2.
 地中海では、ここ数カ月間に数千人が水死した。今や世界で最も危険な国境だ。犠牲者の大半は身元不明で、関係者が把握できていない死者もいる。だが、アイランは違った。赤いシャツに青い短パンで砂に顔を伏せた遺体の痛ましい写真は、瞬く間に世界中での反響を呼び。長期に及ぶ戦争がもたらす犠牲の大きさと恐ろしさを象徴する一枚となった。(p.25)

1-3.
 悲劇の規模は数字を見ても明らかだ。国際移住機関(IOM)によると、14年に地中海で命を落とした人数は3200人以上。今年末には3万人に急増する恐れがある。EU(欧州連合)が昨年に受け入れた亡命申請は60万件以上。「ベルリンの壁」崩壊以降、最大の件数であり、現在もまだ急増中だ。シリア、イラク、エリトリア、エジプト、リビア、ソマリア、南スーダン。戦闘やテロ、政治的混乱から逃れようとする人々は、危険を冒してヨーロッパを目指す。事態は第二次大戦後のヨーロッパで最大の難民危機となった。(p.25)

1-4.
 危機が発生しているのは欧州だけではない。東南アジアでもここ数カ月だけで数千人が迫害や貧困から逃れるためにタイやマレーシア、インドネシアの海岸に上陸した。その多くはミャンマー(ビルマ)で迫害を受けたイスラム教徒の少数民族ロヒンギャの人々だ。タイのNGOアラカン・プロジェクトは、過去3年間に少なくとも10万人のロヒンギャ族がミャンマーから脱出したとみている。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の推定では、東南アジアの難民は50万人以上。その多くは密航業者が「荷物」として運んでいる。今年5月には、約4000人が粗末な運搬船でバングラディシュ、タイ、インドネシア、マレーシアの海岸にたどり着いた。数百人は途中で溺死したとみられている。先週も、70人ほどのインドネシア難民を乗せた船がマレーシア沖のマラッカ海峡沖で転覆した。あと1カ月ほどで雨期が終わるため、海に出る難民は今後、さらに増える見込みだ。(p.25)

3 manolo 2015-09-20 14:15:39 [PC]

1-5.
 だが、ヨーロッパと東南アジアの難民危機に決定的な違いがある。ヨーロッパは北アフリカから中東に連なる「不安と混乱の弧」の真上に位置している。この地域からの難民が求めているのは、よりよい生活よりも生命の保障だ。シリアでは、アサド政権が使用する化学兵器やISISの残虐行為。リビアは無法地帯と化し、イエメンは内戦状態が続く。彼らはいわゆる「経済難民」ではない。2,3年前には、大半の人々が故郷を捨てて危険な旅に出ようとは思わなかったはずだ。ヨーロッパの海岸に漂着したシリアやイラク、リビアの人々の水死体は「アラブの春」の失敗がもたらした悲惨な副産物だ。革命や政治的変革の失敗が招いた結果としては、おそらく考えられ得る最悪の事例だろう。アラブの春の余波は、政治的自由ではなく、死体の山を生み出した。(p. 25)

1-6.
 ヨーロッパの難民危機は、大混雑する鉄道駅や大量の難民申請以上に深刻な脅威をEUに突き付けている。EUそのものの将来に関わる根本的な問題だ。28か国で構成されるEUは、長きにわたり2つの柱によって支えられてきた。1つは、単一通貨ユーロ。もう一つは、域内における人間とモノの移動の自由だ。しかし、既にユーロの地位はギリシャ債務危機によって大きく揺さぶられ、ヨーロッパになだれ込もうとする難民の波は、「開かれた国境」というEUの共通理念を破壊しかねない。(pp.25-26)

1-7.
 イタリア、ギリシャ、チェコ、ブルガリア、イギリスなどでは、ハンガリーのオルバン・ビクトル首相に代表される極端な政治的保守派の意見に同調する言動が見受けられる。オルバンはかねてから「ヨーロッパの要塞化」を強く主張してきた。ヨーロッパの門前で深刻化する人道危機の解決よりも、ヨーロッパの国境管理の保全を重視する見方だ。すでにハンガリー、ブルガリア、ギリシャは陸路で入国しようとする難民を阻止するため、国境地帯に壁やフェンスを建設している。ハンガリー政府は、国境を越えてきた難民に催涙弾を発射したり、難民たちが鉄道でドイツや北欧に向かうことを阻止したりしている。オルバンは醜悪な排外主義と紙一重の表現を使い、いま難民の大量流入を阻まなければ、ヨーロッパに押し寄せる難民がさらに増えると主張する。(p.26)

4 manolo 2015-09-20 14:16:33 [PC]

1-8.
 幸い、このような主張ばかりだけではない。ドイツのアンゲラ・メルケル首相は、難民に背を向ける人たちを厳しく批判し、負担を分かち合うようヨーロッパ諸国に訴えている。「難民問題で責任を果たせないようなヨーロッパは、私たちが望むヨーロッパではない」とメルケルは発言した。口だけではなく、行動も伴っている。ドイツは先月、最初に到着したEU加盟国がどこであろうと、自国でシリア難民を受け入れる方針を表明している。ハンガリーのブタペストの駅で何千人ものシリア難民がドイツ行の列車に乗り込もうとしたのは、このためだ。(p.26)

1-9.
 この方針の下、ドイツが受け入れることとなる難民は莫大な数に上る。ドイツ政府によれば、今年ドイツに難民認定を希望する人は80万人に達する見込みだという。これは、昨年の4倍近い数字だ。それでもドイツだけの力では危機を解決することはできない。メルケルはほかのヨーロッパの首脳たちに対して、新たな割当制度をつくり、EU諸国で分担して12万人の難民を受け入れるよう提案している。具体的には、豊かな大国ほど多くの難民を受け入れることになる。ヨーロッパ諸国の指導者に対して、難民たちにもう少し門戸を広げるよう求める政治的なプレッシャーも強まっている。(p.26)

1-10.
 イギリスのデービッド・キャメロン首相はつい最近まで、難民の受け入れをどんどん増やしていくことは不可能だと発言していた(イギリスの審査を通過したシリア難民は現時点で216人だけだ)。しかし、アイランの遺体写真をめぐる世論の反応を受けて態度を一変させた。先週末、さらに「数千人」のシリア難民を受け入れる意向を表明。シリア、トルコ、ヨルダン、レバノンの難民キャンプに対する人道援助として1億ポンド以上を拠出することも発表した。(p.26)

5 manolo 2015-09-20 14:17:46 [PC]

1-11.
【中東だけでない難民危機】
 もっとも、負担を担うべきなのはヨーロッパ諸国だけでない。ペルシャ湾岸諸国、特にサウジアラビアは、自国内での難民支援と定住にもっと資源を割くべきだ。シリアや周辺諸国での紛争に火に油を注いでいる一因は、中東の石油資源なのだから。アメリカももっと貢献ができるはずだし、すべきである。イラクへの軍事的介入により、この地域を悩ますいくつかの問題のきっかけをつくった責任もさることながら、この4年余りで1500人しかシリア難民を受け入れていないのはアメリカほど豊かな国にしては少な過ぎる。(p.26)

1-12.
 UNHCRや世界食糧計画(WFP)などの国際機関への支援もまったく足りていない。UNHCRは昔よりずっと機敏に、難民キャンプを設置する以外の対応も積極的に行うようになった。しかし、難民の急増に態勢が追い付いていないのが現状だ。年間70億ドルという予算もあまりに少ない。WFPの資金不足も深刻だ、WFPは先週、食糧費支援を行うシリア難民の数を3分の1削減せざるを得なくなったと発表した。これにより、ヨルダンに滞在している約20万人のシリア難民がほぼ直ちに食糧費支援を打ち切られることになる。(pp.26-27)

1-13.
 今後、難民危機はさらに深刻化することが予想される。現在、レバノン、ヨルダン、トルコ、イラクに滞在しているシリア難民は400万人。紛争で住む場所を追われたシリア人の数は、国内避難民を合わせ、1100万人以上に達する。その上、戦いが終わる見通しはまだまったく立っていない。しかも世界を見渡せば、これから難民が増加しそうなのが、中東・北アフリカだけではない。専門家によれば、アフリカのカメルーン、チャド、中央アフリカ共和国、マリ、ナイジェリア、スーダン、南スーダンからの難民も増加する可能性が高いという。(p.27)

1-14.
 ロヒンギャ難民も忘れてはならない。東南アジアの海路経由の難民としては、ベトナム戦争以来最多の難民が生じている。ロヒンギャの人々は、長期にわたり激しい迫害と虐待を受けながら、ほとんど黙殺されてきた。ミャンマー政府が大々的な人権蹂躙を認めているにもかかわらず、ロヒンギャ族の苦境を話題にする人はほとんどいない。悲しいことだが、痛ましい写真が世界の人々の目に触れるまで、ロヒンギャ族の危機が注目を集めることはないのかもしれない。(p.27)

6 manolo 2015-09-20 14:21:57 [PC]

出典:『ニューズウィ-ク日本版』「「難民」か「移民」か その違いはどこに?」、9/15/2015、p.27

メディア
定義も線引きも曖昧な部分が多いが
正確に伝えるための努力は必要だ

2-1.
 いま世界各地にあふれるおびただしい数の避難民について、メディアはよく「移民」と「難民」という呼称を区別せず使っている。だが両者の間には、政治的・法的に違いがある。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によれば、難民は「自国での紛争または迫害を逃れ、安全を求め他国に移る人々だ。一方、移民は「迫害や死といった直接の脅威でなく、主により良い生活や仕事、教育を求めて、あるいは家族との再会、その他の理由によって移住を選択」する人々を指す。移民と違って難民は、1951年に採択された難民条約の下で一定の法的保護を受ける権利が認められている。

2-2.
 カタールの衛星テレビ局アルジャジーラは最近、地中海を渡ってヨーロッパを目指す人々を今後「移民」とは呼ばないという編集方針を発表した。その理由について、「移民という言葉の意味が本来の定義から変化して、対象となる人から人間性を奪い距離を置く、軽蔑的な意味合いを持つようになった」からだとしている。だがそうは考えていない向きもある。米ニューヨーク・タイムズ紙もCNNも「移民」という言葉を使っているが、そこに深い意味はない。一般的に使われる「移民」という言葉は、単により包括的な呼称にすぎない。

2-3.
 それに対し、「難民」という言葉には政治的な力がある。ヨーロッパで移民規制を訴える人々が「難民認定希望者(まだ認定されていない状態)」という言葉を好んで使う一つの理由は、それが彼らの移住動機に疑問の余地を残す呼称だからだ。「難民」が中傷と受け止められる場合もある。ハリケーン・カトリーナの襲来で被災し、05年8月にニュー・オーリンズから別の地域に移った人びと(主に黒人)に対して頻繁に使われた「難民」という呼称は、人種差部だとの声が上がった。

7 manolo 2015-09-20 14:22:48 [PC]

2-4.
 どこまでを「難民」と呼ぶべきかは、もっともな疑問だ。英タイムズ紙の記者ソミニ・セングプタは、砂漠化や海面上昇のような温暖化の影響で移住を余儀なくされた人々を難民と称するべきかどうかについて、今も議論が続いていると指摘している。なかなか完璧な定義はなく、境界線が曖昧なことも多い。そして包括的な呼称として「移民」を使うことにより、この重要な問題についての報道が不明瞭になりがちなのも確かだ。紛争や経済格差の拡大、生態系の変化などによって、前例のない数の人々が他国に安住の地を求めるようになっているなか、私たちはより正確に報じるよう努めなければならない。
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