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イスラム国(ISIS) (コメント数:20)

1 manolo 2014-10-18 21:38:04 [PC]


284 x 177
出典:『エコノミスト』、9/30/2014、「イスラム国を知っておく スンニ派不満分子を取り込み 石油と恐怖で支配地域拡大」、池田明史、pp.46-48

1-1.
 オバマ大統領は9月10日、国民向けのテレビ演説を行い、イラク・シリア北部国境地帯に勢力を拡大する「イスラム国」に対して、本格的な軍事圧力の強化に踏み切る決意を表明した。実際に15日からはこれまでの北部に加えて首都バグダッド南西に展開するイスラム国勢力にも空爆を拡大した。これに呼応する形で、欧米・中東を中心とした約30ヵ国・機関の外相らが15日パリに参集し、脅威を国際社会全体で共有しつつ、その撃滅に向けて連携することを申し合わせている。(p.46)

2 manolo 2014-10-18 21:39:35 [PC]

1-2.
 国際社会の憤激は、8月末以降ほぼ隔週で米英の人質が次々に斬首される様子を、ネット上でイスラム国が「実況」公開するに及んで頂点に達し、ナチス以上の脅威とする見方さえある。そもそもイスラム国とは、アルカイダの唱えるカリフ(スンニ派イスラム最高指導者)復興の主張に共鳴し、2003年のイラク戦争によってサダム・フセイン体制打倒後のイラクに進駐したアメリカ軍に対する攘夷主義的な武装抵抗運動から出発している。(p.46)

1-3. 【イラクの3分の1を支配】
 「イラク・イスラム国」建設を掲げた彼らは、国外のアルカイダ系武装勢力を呼び入れ、また国内ではサダム・フセイン体制下で享受していた既得権を剥奪させて不満を募らせていたスンニ派諸部族と結んで、06年ごろは、暫定政権を脅かすほどの勢力を誇示した。しかし、国外からの活動分子のふるまいに対する反発や、イラク暫定政府がスンニ派の懐柔・取り込みといった融和政策に転じたために行き場をなくし、中部ファルージャや北部ティクリットといった拠点からの撤退を余儀なくされて、北西部のシリアとの国境近辺に押し込められていたのである。(pp.46-47)

1-4.
 その彼らがここ数年で勢いを盛り返し、いまやイラク中部から北西部にかけて全領土の3分の1に及ぶ地域を影響下に置き、さらにシリア領内にも進出して北東部を中心に支配地を広げている。要因は大きく二つ挙げられるだろう。(p.47)

1-5.
 第一は、暫定政権を引き継いで新生イラクの最初の正式政権となったヌーリ・マリキ内閣が、あからさまなシーア派優遇路線に終始してスンニ派の疎外意識を格段に強化してしまったことである。スンニ派のアラブ系住民は既得権を失ったのみならず、構造的な不利益を強いられるに至った。とりわけ、警察や国軍といった暴力装置から「サダム・フセイン時代の残滓(ざんし)」として放逐された幹部や将校たちの怨念は強く、彼らの多くをイスラム国の側に奔(はし)らせる結果を招いた。(p.47)

3 manolo 2014-10-18 21:41:46 [PC]

1-6.
 第二の要因は、シリア内線である。11年の内戦勃発時にはバシャール・アサド政権と自由シリア軍など反アサド勢力と対立という単純な構図であったが、その後反政府側の分断・分裂によって複雑怪奇な状況が生まれた。イスラム国は、そこに付け込む格好で13年以降北部シリアに勢力を伸ばし、トルコの国境一帯の支配をクルド人勢力や他の反政府勢力と争いながら時歩を固めていった。イスラム教スンニ派の極端な解釈に立って、異教徒・外国人の排撃を呼号して武力闘争を展開している点では、現今のイスラム国も、母体となったアルカイダや西アフリカのボコ・ハラム、ソマリアのアル・シャバブ、あるいは等しくシリア内線を戦うヌスラ戦線など、他のスンニ派過激勢力も同じである。(p.47)

1-6.
 イランの革命防衛隊やレバノンのヒズボラなど、シーア派系の活動が目立つために「スンニ派は穏健」とのイメージがあるのだとすれば、それは誤解である。エジプトのムスリム同胞団やパレスチナのハマスはスンニ派閥の武力抵抗を展開中であるし、何よりもスンニ派最大の金主であるサウジアラビアは、「国体」そのものがワッハーブ派と呼ばれる原理主義イデオロギーに根差している。残虐性の有無、急進・穏健の差は宗派イデオロギーの相違に由来するものではない。(p.47)

1-7. 【日量4万バレルを密売】
 6月末に自らカリフを名乗ってイスラム国の樹立を宣言したアブ・バクル・アル・バグダディはその支配を東地中海(レバント地方)一帯に拡大して全世界のスンニ派ムスリム人口を指導し、異教徒・異宗派に聖戦を挑むとの構想を明らかにした。そうした大風呂敷を広げる一方で、イラクではモスルまで進撃し、シリアでは東部デリゾールまでを制圧し、いずれも相当規模の油田と製油施設を支配下に置いた。他の諸運動が「点と線を結ぶ」遊撃的な戦闘に終始するばかりであるのに、イスラム国は明らかに「面の制圧」を目指した軍事作戦を展開している。(p.47)

4 manolo 2014-10-18 21:47:20 [PC]

1-8.
 イスラム再興を掲げて戦闘イデオロギーを純化させ、統治よりも戦闘(つまりテロ攻撃)を重視している他の過激派と異なり、イスラム国はその呼号するイデオロギーの激しさとは裏腹に、「カリフの下の統治」を優先させているかに見える。支配地域においては、ムスリム男性を徴兵し、イスラム国に従う異教徒・異宗派からは人頭税(ジズヤ)を取り立て、反抗する勢力を組織的に殲滅(せんめつ)するという形で、彼らなりの実効支配を展開している。(p.47)

1-9.
 それを可能にしているのは、日量で3万~4万バレル程度と推計される石油密売収入と、イラク、シリア両国政府がイスラム国の存在を否認しているがゆえに、イスラム国の版図に含まれる自治体に対してなお公務員・教員などの給与を支払っているという逆説による。ことさらに残虐さを見せ付けるのは、イデオロギー上の自己主張による以上に、イラクのサダム・フセイン体制やシリアのアサド政権が残した「恐怖による支配」の成功事例に倣(なら)うという側面が強いと思われる。(p.47)

1-10.
 カリフとなった自分の下にイスラム世界を統合するというバグダディの野望は、アルカイダの指導者ウサマ・ビンラディンの構想を引き継いでいる。アルカイダは9・11などの劇的なテロ事件を引き起すことで世界中に反欧米の戦闘イデオロギーをばらまくことに、一定の成功を収めた。彼らの成功はアフガニスタンの現地に根を下ろしたイスラム勢力タリバンと結び、その庇護下に活動したことによる。欧米主体の「有志連合」によるアフガニスタンへの攻撃で、よそ者であるアルカイダは事実上アフガニスタンからたたき出されたが、地場社会に伝統的基盤を築いていたタリバンは生き残った。(pp.47-48)

1-11.
 同様のことが、イスラム国についても言えるのではないか。バグダディという名が示すとおり、カリフ本人の出自はバグダッド近隣であり、イスラム国が土着的社会基盤を持つ「本領」はイラクのスンニ派居住圏である。その意味では、その拡大はほぼ限界線に到達している。(p.48)

5 manolo 2014-10-18 21:47:56 [PC]

1-12.
 イラク北方や中南部以南は、ペシュメルガ(クルド民兵)やバドル軍団・マハディ軍といったシーア派民兵の本拠地であり、そもそも連携すべきスンニ派友邦勢力に乏しい。スンニ派地域での作戦には戦意が見られなかったこれらの民兵諸派も、彼らの本拠地の侵犯に対しては政府軍と並んで死守の構えを示している。シリアにおいても、イスラム国の統治を進んで受け入れているのは、北東部のイラクと国境沿いに点在するスンニ地域に限られている。(p.48)

1-13.
 アレッポやデリゾールの方面へのイスラム国の進出を可能にしているのは、アサド政権に対抗するべき反政府諸勢力が相互に敵対し、誰が誰と戦っているのかさえ不明な状況が出来しているからである。(p.48)

1-14
 寸断されたシリア北部から中北部の間隙を埋める形で進撃したイスラム国の主力は、外国人義勇兵の部隊と見られる。イラク人将兵主体のイラクにおけるイスラム国軍事力とは対照的に、シリアではチェチェン人その他の外国人司令官が混成部隊を率いる例が珍しくない。アフガニスタンとの類推で考えれば、パキスタンとの国境に接する険しい山岳地帯にはタリバンと同質なパシュトゥン系部族が勢力を張っており、パキスタン中央政府と対峙している。その意味ではイスラム国もイラクを本拠としてシリアとの国境を超えてやや膨らんだタリバンのような存在に映る。(p.48)

1-15. 【3000人の外国人兵士】
 1万2000人に上るといわれるイスラム国外国人兵士の出自は、多くがヨルダンやチュニジアなどスンニ派アラブ圏だが、欧米からもムスリム系移民の若年層が「カリフの下の解放闘争」の戦列に加わりつつある。ある推計によれば、その総数は3000人を超えるとされ、国籍はフランス700人、イギリス400人、ドイツ250人、アメリカとカナダがそれぞれ100人などとなっている。これとは別に北欧出身者が目立つとの報告もある。イスラム国が積極的に展開するフェイスブックやツイッターなどSNSを通じた英語による募兵キャンペーンの成果であろうが、これに応じる若者たちの動機は文字通り「神の召命」と捉えるものから現実社会への復讐や逃亡、あるいは単純な冒険意欲まで、実にさまざまである。(p.48)

6 manolo 2014-10-19 17:38:29 [PC]

1-16.
 かつて「国際階級闘争」を呼号して国内外でテロやハイジャックを繰り広げたイタリアの「赤い旅団」やバーダーマインホフ(ドイツ赤軍)、あるいは日本赤軍などの現象のイスラム版を想起すれば、なぜ「怒れる」あるいは「孤独な」若者たちがイスラム国に吸引されるのかわかりやすいかもしれない。(p.48)

1-17.
 欧米各国の政府は、英米人人質の「処刑」などの残虐行為が、自国出身のこうした義勇兵の手による犯罪だとの事実を突きつけられて戦慄を隠せない。その彼らが再び自国に帰還あるいは潜入して、ロンドンやパリ、あるいはワシントンで大規模テロを日子起こす可能性は捨てきれないからである。(p.48)

1-18.
 いずれにせよ現在、イスラム国はイラク・シリアのみならず、国際社会全体にとって「いま、そこにある脅威」としてその動向に深刻な懸念が向けられている。最大の問題は、しかし、国際社会の側にイスラム国を生んだ中東アラブ・イスラム世界に対する中長期的な戦略が欠けているところにあろう。オバマ演説では、イスラム国支配地域(とりわけシリア)への空爆の拡大とイラク政府軍や自由シリア軍など現地連携勢力への武器兵站供給・訓練といった間接支援、さらには友邦諸国との情報共有といった具体的な施策を示した。(p.48)

1-19.
 「敵の敵は味方」という論理によって、つい最近まで反目していた諸勢力がイスラム国を共通の撲滅対象として暗黙裏の蓮連携を見せ始めているのも事実である。しかしそれはどこまでも、対症療法的な作戦方針であり戦術的な達成目標にすぎない。(p.48)

1-20.
 「アラブの春」でいったん膨らんだ期待がその後の内乱や混乱で急速にしぼみ、閉そく感が蔓延する中東各地の状況をどのように収拾するのか。「自由で寛容なイスラム世界の実現を目指す」といいながら、「いかにして」との疑問に答えぬままである。この点について戦略的な展望を示せない限り、イスラム国が国際社会の喉元に突きつけているやいばを外すことはできないであろう。(p.48)

7 manolo 2015-01-24 08:43:25 [PC]

出典:『朝日新聞』1/22/2015、(「「イスラム国」3つの疑問」)p.2

 日本人2人を人質に取り、2億ドル(約236億円)もの身代金を日本政府に要求した過激派組織「イスラム国」。シリアとイラクで勢力を広げ、「異端」とみなす少数派の異教徒を殺害するなど残虐さが際立つ。いったいどんな組織なのか。

2-1. 【Q1 どんな組織なのか】
戦闘員1.5万人、国境無効化狙う

 「イスラム国」は反欧米を掲げる組織だ。昨年6月、イラクで2番目に大きな都市モスルをいきなり占領し、1カ月ほどで周辺の都市を次々と陥落させた。そのときは、「イラク・シリア・イスラム国」(ISIS = Islamic State of Iraq and Syria)と名乗っていた。6月29日にはイスラム教の預言者ムハンマドの「代理人」を意味する「カリフ」を頂点とする「国家」をつくったと一方的に宣言。最高指導者アブバクル・バグダディ容疑者をカリフに選んだ。内戦が続く隣国シリアでも勢力を広げ、いまはイラクとシリア両国土の約3分の1を支配したとされる。

2-2.
 狙いの一つは、1992年のオスマン帝国の崩壊でなくなったカリフ制を再興し、聖典コーランやムハンマドの教えを厳格に守ること。ムハンマドが生きた7世紀に回帰したかのような社会の実現だ。サウジアラビアやイランもイスラムの教えを厳守する国だが、「イスラム国」は少数派ヤジディ教徒の女性を奴隷にしたり、同教徒の男性を殺したりするなど極端なことをする点で大きく異なる。

2-3.
 もう一つの狙いは、中東に引かれた国境線をなくすことだ。いまの国境線は第1次世界大戦中の1916年英仏ロシアがオスマン帝国の領土を切り分けるために秘密裏に結んだ「サイクス・ピコ協定」に基づいている。「イスラム帝国」はイラク・シリア国境をまたぐ地域を支配することで、この協定を無効にするとした。将来的には中東の枠を越え、中部以北のアフリカ大陸、中央アジア、イベリア半島にも版図を広げようとしているようだ。

2-4.
 バグダディ容疑者については謎が多い。71年生まれのイラク人で、大学でイスラム方角を学んだといわれる。もともとはイラクのアルカイダ系組織にも加わっていた。昨年7月、バグダディ容疑者とされる男の演説映像がインターネットに流れたが、その後の消息は不明だ。米軍の空爆でけがをしたとの報道もあったが、真偽は分からない。

8 manolo 2015-01-24 08:45:07 [PC]

2-5.
 「イスラム国」に加わる戦闘員の多くは、中東や北アフリカ、欧州などから集まっている。米政府は80ヵ国以上から1万5千人が加わっているとみる。彼らには「給料」が支払われ、住宅も提供されているようだ。資金源の一つが外国人ジャーナリストらを拘束して手に入れる身代金だ。昨年11月、国連安全保障理事会に提出された報告書は、「イスラム国」がこの1年間で得た身代金を総額3500万~4500万ドル(約41億~53億円)と推計。原油密売や支援者からの寄付などとならび、大きな収入源である実態を指摘した。

2-6. 【Q2 支配地域での人々の暮らしは】
宗教警察が監視、「県庁」も

 支配地域では国家のような統治機構を築いているとされる。なかでも広報部門に力を入れる。全世界に「イスラム国」を宣伝する意図がうかがわれる。20日に公開された、日本人人質の身代金を要求する映像はメディア部門が制作した。これまで「イスラム国」に殺害された英米人5人の映像もメディア部門が作ったとされ、高画質でニュース映像や効果音を巧みに用いている。昨年7月以降は英語のオンライン機関紙を発行するなど、多言語での発信に力を入れ、世界での戦闘員勧誘に利用している。

2-7.
 米CNNなどによると、重要事項を協議する「諮問評議会」や内閣に相当する組織を設置。支配する都市には「県庁」にあたる行政機関や県知事を置き、徴税や治安、司法、軍事などを担っている。「ヒスパ」と呼ばれる宗教警察もあり、市内を巡回して市民を監視しているという。水道や電気などインフラ管理を担う技術者は、もともと公務員だった人たちが引き続き「イスラム国」に雇用されている。学校もあるが、アラビア語とイスラム教以外はほとんど教えられていないという。

2-8.
 「公金に手をつけるものはイスラム法廷で裁かれる。個人の財産を盗むものは手を切断される。」昨年6月、イラクのモスクを占領した「イスラム国」はこんな「憲章」を発表した。彼らなりに宗教を厳密に解釈しているようで、飲酒だけでなく喫煙も禁じられた。「イスラム国」が首都とするシリア北部ラッカでは、喫煙が見つかって人差し指と中指を折られた人もいたという。女性については「貞淑でなければならず、髪を覆い、長衣を着て、外出が必要な時以外は家にとどまるべきだ」として、社会進出を抑える方針が示された。

9 manolo 2015-01-24 08:47:28 [PC]

2-9. 【Q3 他の過激派との関係は】
アルカイダ系は拒否反応

 今月、フランスで起きた連続テロ事件では、スーパーマーケットに立てこもったアムディ・クリバリ容疑者が地元テレビに対し、「イスラム国」に所属していると話した。一方、仏週刊新聞「シャルリー・エブド」を襲撃したシェリフ・クアシ容疑者は、イエメンに拠点を置く「アラビア半島のアルカイダ」(AQAP)から資金提供を受けたと明かした。

2-10.
 「イスラム国」とAQAPは国際テロ組織アルカイダの流れをくむ点で一致するが、実は絶縁状態だ。「イスラム国」は2006年にイラク国内の過激派組織が合流。名称を変えながら活動を続けてきた。11年に始まったシリア内戦にも介入。当初はアルカイダ系組織と手を携えてアサド政権と戦った。しかし、残虐行為を繰り返す「イスラム国」にアルカイダ指導部が反発。バグダディ容疑者がカリフを名乗り、世界のイスラムに対して自らに「忠誠」を誓うよう求めたことで関係悪化が決定的となった。「イスラム国」がアルカイダに先んじてカリフ擁立を宣言した背景には、資金集めや戦闘員の勧誘をアルカイダより有利に進める意図があったとみられる。

2-11.
 「イスラム国」には、ナイジェリアの「ボコ・ハラム」など忠誠や連帯を表明する組織がある一方、AQAPなどアルカイダ系組織は拒絶反応を示す。「イスラム国」は「国家」を自称するが、イスラム諸国を含めた国際社会はテロ組織とみなす。中東でもサウジアラビアやカタールなど、米軍とともに「イスラム国」への空爆に加わる国がある。

2-12.
中東・アフリカなどの主なイスラム過激派

-パキスタン・タリバーン運動(TTP)
14年、パキスタンの学校で児童ら約150人を殺害。12年にはマララ・ユスフザイさん(14年、ノーベル平和賞受賞)を襲撃

-シャバブ
14年、ケニアでバスの乗客28人を殺害し、犯行声明

-アラビア半島のアルカイダ(AQAP)
今月、仏週刊新聞襲撃事件で犯行声明。09年には米旅客機爆破未遂事件で犯行声明

-ボコ・ハラム
今月、少女を使った「自爆テロ」を繰り返す。14年には200人以上の女子生徒を誘拐。

-イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ組織(AQIM)
分派した武装勢力が13年、アルジェリアの天然ガス生産施設を襲い、日本のプラント建設大手日揮の社員ら約40人が死亡。

10 manolo 2015-02-15 23:52:05 [PC]

出典:『ニューズウィ-ク日本版』、1/13/2015、「ISIS、テロと狂気の集金システム」、pp.40-46

中東
金融制裁や禁輸措置をものともしない
史上最も資金力豊富なテロ組織
取材から見えてきた強靭な資金調達の実態

3-1.
 大掛かりな戦争を行い、莫大な人口を統治するには、カネが掛かる。短期間で勢力を拡大させたイスラム教スンニ派テロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)も、巨額の資金を得ているはずだ。「今ISISの支配地域で暮らしている人は800万人。これだけの人を支えるには、途方もない規模の資金が必要だ。」と、イラク・エネルギー研究所(バグダッド)の所長で、ブルッキングズ・ドーハセンターの客員研究員も務めるルアイ・アル・ハティーブは言う。「しかもISISは何万人もの戦闘員を擁して、何カ月も戦争を続けている。新しい戦闘員も増え続けている……それなのに、資金が底を突く気配がない」(p.40)

3-2.
 金融制裁と禁輸措置で外の世界から切り離され、世界有数の豊かな国々による空爆を日々受けているなかで、ISISはどうやって資金を調達しているのか。イラク、クルド人勢力、ヨーロッパ、シリア、アメリカの政府機関や情報機関の関係者に対する本誌の取材から見えてきたのは、ISISの大規模で、強靭で、効率的な資金調達システムだ。米政府でISIS対策の中心になっているデービッド・コーエン財務次官(テロ・金融犯罪担当)は先頃の講演でこう語った。「(ISISは)前例のないペースで資金を集めてきた。収入源の構成も、ほかの多くのテロ組織とは異なる」。コーエンによれば、ISISは「国境を越えて金を動かす」よりも「地元の犯罪活動とテロ活動により大方の資金を得ている」。(p.40)

3-3.
 ISISは中東各地の仲介業者を通じて現金を移動させたり、古くからの密輸ルートを使って現金や物資を運んだりしている。そのため、金融機関に情報を提供させて資金を断ち、テロ組織を追い詰めるというこれまでの米政府の手法が通用しにくい。中東地域には、何世代も続いてきた密輸ルートが多数存在する。昔から、国境警備員たちはいくらかの金と引き換えに、現金や原油、その他の物資が検問所を通過するのをお目こぼししてきた。フセイン政権時代にイラクの原油をクウェート、イラン、トルコに密輸していた業者の多くは今、同じルートを使ってISIS支配地域の原油を外の世界に運び出している。(pp.40-42)

11 manolo 2015-02-15 23:54:23 [PC]

3-4.
 ISISの集金マシンは本質的に、支配地域に暮らす人々の恐怖(と金銭欲)によって動いている。コーエンの言葉を借りれば、ISISはアメリカがこれまでに立ち向かった中で「最も資金力豊富なテロ組織だ」。その最大の資金源は、接収した石油資源。そのほかにも、私的な寄付、支配地域からの徴税、銀行預金や、私有財産の没収、誘拐の身代金、歴史的遺物の略奪と売却からも安定的に収入を得ている。以下では、主な資金源をそれぞれ見ていこう。(p.42)

3-5. 【湾岸諸国からの寄付】
 ISISにはこの2年間、ペルシャ湾岸の豊かな産油国であるサウジアラビア、カタール、クウェートから莫大な金が流れ込んできた。ペルシア湾岸諸国には、王族や実業家、資産家など、ISISに多額の寄付をしている人が大勢いる。最近までこの3カ国は、シリアのアサド政権と戦うISISなどのイスラム教武装勢力に公然と資金を送り込んでいた。(p.42)

3-6.
 サウジアラビア政府は13年、米政府や国際社会の厳しい批判を受けて、アルカイダ、アルヌスラ戦線、ISISなど武装勢力に対する資金的支援を法律で禁じた。昨年8月には、サウジアラビアで最高位のイスラム教指導者であるアブドルアジズ・シェイフ師がISISを「最大の敵」と非難。サウジアラビア軍は米軍主導のISIS空爆に参加している。しかし、カタールとクウェートは追随していない。湾岸諸国の民間人からISISに資金が流れ続けていると、ワシントン中近東政策研究所のロリ・プロトキン・ボガート研究員(湾岸諸国政治)は言う。「テロ組織の資金源を断つ上でいまだに際立った問題なのがカタールとクウェートの2カ国だ。」(p.42)

3-7.
 背景には、2つの大きな問題がある。第1に、カタールとクウェートの金融システムは監視が緩く、送金がなされた場合に自動的に警告サインが発せられる仕組みになっていない。第2に、カタールとクウェートの政府は、有力者によるISISへの寄付を制限することに腰が引けている。何しろクウェートには、ISISと直接結び付きのある武装勢力に資金提供を行っている国会議員の一族もいるくらいだ。「ISISへの資金提供を取り締まることは、これらの国の指導者にとって政治的に難しい問題」なのだと、ボガートは説明する。(pp.42-43)

12 manolo 2015-02-15 23:57:44 [PC]

3-8. 【「人道援助」の看板】
 寄付金は、政府に登録されていない慈善団体を経由して、「人道援助資金」という名目で授受されるケースも多い。金の受け渡し場所は「ワッツアップ」や「キキ」などのスマートフォン向けのメッセージアプリを使って連絡し合う。ワッツアップは、GPS(衛星利用測位システム)によりテロリスト同士が現地情報を伝達し合うことを容易にする。キキの場合は、電話番号を登録せずにアカウントを取得できるというメリットがある。ISISの工作員がサービスを利用していることを知っているのか、テロリストの通信について監視し、米政府に通知する方針を取っているのか、という点について、ワッツアップは本誌の取材に答えていない。一方、キキは本誌に宛てた電子メールで、「ユーザー間の通信内容を監視したり記録したりはしていない」と回答している。(p.43)

3-9.
 ISISのプロパガンダ情報を拡散し、工作員の連絡先を支持者に知らせるためのSNSアカウントは何百もある。そうした経路を通じて連絡がつけば、寄付金が流れ込むまでに時間はかからない。人道援助資金を装うことで、ISISへの資金流入が容易になっていることは間違いない。サウジアラビア当局はこの点を踏まえて、承認手続きを経ていないシリア向けの寄付を全面的に禁じている。(p.43)

3-10.
 昨年5月にブルッキングズ研究所は、シリア向けの援助資金のルートを縮小する必要性を指摘した。同研究所のエリザベス・ディキンソンによれば、クウェートでは孤児と避難民とジハード(聖戦)への支援を訴えて資金集めが行われており、戦争の資金なのか、人道援助なのか、見分けにくくなっている。クウェートでイスラム過激派の資金集めの中心を担うのは、スンニ派の有力者で、SNSとテレビの戦略にたけたアジミ一族だ。なかでもシャフィ・アル・アジミは慈善の目的で集めカネを、ISISとの関連があるアルヌスラ戦線の関係者に渡したことを公に認めている。(p.43)

13 manolo 2015-02-16 00:00:46 [PC]

3-11.
 13年12月のディキンソンのリポートによると、クウェートの有力な銀行家として知られるアジール・アル・ナシュミが、アジミ一族(いちぞく)の右腕となっている。13年8月に(シリアの)ラタキアで市民数百人が虐殺された襲撃を手助けした」資金集めにも、ナシュミを含む少なくとも4人のシリア人宗教関係者が関与しているとみられる。クウェートは、「ひも付きではない」シリア向け援助の最大の寄付者だ。すなわち、特定の大義や目的に使うという約束がないまま、カネを拠出している。(pp.43-44)

3-12.
 国連人道問題調整事務所(OCHA)が管理する資金追跡サービス(FTS)によると、11年にシリアの内戦が始まってから昨年10月22日までの間に、約2億ドルが正式な記録なしでシリアに寄付されている。国際的な定評のない人道支援グループへの寄付が、きちんとした援助活動に届く保証はない。寄付にはあらゆる形があるが、ISISは基本的に現金か武器で受け渡しをすると、英シンクタンク、クイリアム基金のロンドン支局長ハラス・ラフィクは説明する。「大抵はトルコの国境からシリアに持ち込まれる。イラクやサウジアラビアとの国境は警備がはるかに厳重だ」(p.44)

3-13.
 トルコとシリアの国境は、ISISの資金が流入する要所と見なされている。米国土安全保障省は本誌の取材に対し、ISISはハイテクを駆使しているが、グローバルな金融システムとの関わりを避けて、ビットコインなどの仮想通貨を使ってはいないようだと語っている。国土安全保障省の関係者によるとISISのネットワークは犯罪組織を中心としているため、主に現金でやり取りをせざるを得ない。もっとも、物理的に難しい話ではない。100万ドルや200万ドルの現金をアタッシュケースに入れて持ち歩くことは、中東のビジネスマンにとってよくあることだ。(p.44)

14 manolo 2015-02-16 00:02:33 [PC]

3-14. 【住民や遺跡を略奪】
 ISISの行動を見れば、彼らの使命がイスラムの大義より富の構築にあることは明らかだ。昨年6月にイラク北部のモスルを制圧した際は、銀行の12の支店を占拠すると、ラマダン(断食月)で休みだった従業員の家に直行。イラク中央銀行を開けさせたと、ニネベ州のアテル・アル・ヌジャイフィ前知事は語る。ティクリートの銀行の金庫室に保管されていた現金も合わせて、推計で15億ドルを奪ったという証言もある。米財務省によると銀行の略奪はISISの常套手段だ。ISISが占領する町で、銀行からカネを引き出す際は、最大10%の「税金」を取られる。(p.44)

3-15.
 シリア北部の都市ラッカでは美術学校の建物が税関事務所となり、あらゆる物資の出入りをISISが監視していると、現地を逃れてきた住民は語る。「ISISは、ほぼあらゆる物資を運ぶ人に税金をかけている」と、イスラエルの情報機関員はいう。「密輸などの違法行為はイスラム教義に反するが、贅沢な資金源にもなっている」 制圧した地域の住民からも直接、略奪する。「モスルでは女性からネックレスを奪い取り、イヤリングを引き抜いた。家畜や家具、車も奪った」と、ロンドンのシンクタンク、インテグリティのイラク担当アナリスト、サジャド・ジヤドは語る。(p.44)

3-16.
 ISISは純粋な信仰に駆り立てられるというより、存続可能な国家を設立するための資金集めに精を出す。この点は、アルカイダなどほかのイスラム系テロ組織との違いでもある。しかも、近隣と戦争を続けながら、800万人が暮らす「国家」を維持するにはカネが掛かると、コーエン財務次官は言う。「すべての収支を把握するために、(最高財務責任者のような)役職を頂点とする管理組織が複雑に入り組んでいる」(p.44)

3-17.
 歴史の重みも彼らの標的となる。イラクでは重要な遺跡1万2000カ所のうち3分の1以上がISISの支配下にある。遺跡は次々に掘り起こされ、紀元前9000年~紀元後1000年の遺物が収集家や業者に売られていると、ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校のイラク人考古学者アブドゥラミル・アル・ハムダニは言う。「金目のものは売りとばし、残りは破壊する」(p.44)

15 manolo 2015-02-16 00:04:08 [PC]

3-18.
 遺跡の密売は、今やISISの第2の資金源になっているとみられる。「トルコやイラン、シリアを経由して密輸される。マッチ箱ぐらい小さな銘板もあるから、運ぶのは簡単だ」と、ロンドンを拠点に遺物の保全活動を行うイラク・ヘリテージのエイメン・ジャワド事務局長は言う。ひどいことに一部は欧米のオークション会社に流れていると、ジャワドは嘆く。(pp.44-45)

3-19.
 何しろメソポタミア文明の遺物1つに十数万ドルの値が付くこともある。昨年4月には、紀元前600年前後の新バビロニア時代のものとされるくさび形文字が刻まれた焼成粘土の円筒が60万5000ドルで落札された。この競売を取り仕切ったエドワード・リプレイダッガンは、オークション会社は、「近年の中東の紛争で(遺物が)盗掘されている」ことを考慮して、歴史的な美術品が「染みひとつない」かどうか、より慎重に確認すべきだと考える。くだんの円筒も、1953年までさかのぼって取引を裏付ける売り主と買い主の手紙が確認できなければ売らなかったし、出所が不確かな場合、誠実な収集家は買うべきでないと強調する。(p.45)

3-20. 【人の命も金づるに】
 最も高く売れるのは歴史ある遺物かもしれないが、ISISはえり好みなどしない。小麦や大麦、米、家畜と、手当たり次第に盗んでは売りとばす――そして、人間も。ISISも戦闘員はアルビルを目指してイラク北部を進撃しながら穀物貯蔵サイロや貯蔵穀物を接収し、農地を管理下に置いた。現在ニネベ州で9つ、他の地域で7つものサイロを管理下に置いている。国連によれば、ISISが保有する小麦はイラクの年間生産の40%に相当する。(p.45)

3-21.
 ISISにとっては、人の命も金づるだ。人質の身代金はISISの収入の約20%を占めるとインテグリティのジャドは言う。国連の試算では、ISISは過去1年ほどで3500万~4500万ドルの身代金を手にしている。金が払われれば人質は、解放、支払われなければ殺す。人質から家族に電話をさせて拷問されていると伝えさせ、金額をつり上げようとする場合もある。(p.45)

16 manolo 2015-02-16 00:13:07 [PC]

3-22.
 ISISに拉致された、アメリカ人ジャーナリストのジェームズ・フォーリーとスティーブン・ソトロフの家族は、身代金支払いは違法だと米当局から警告された。2人は殺された。「彼らはカネのために殺された」とISISの人質解放に尽力しているイギリスのセキュリティーコンサルタントは匿名を条件に語った。「ソトロフは宗教上の理由で殺されたのではない、フォーリーもイギリス人支援活動家アラン・ヘニングも政治上の理由で殺されたのではない。ISISの要求どおりのカネが払われなかったから殺されたんだ」(イギリスの法律でも身代金支払いは禁じられている)。 一方、昨年3月にはスペイン人ジャーナリスト2人、4月にはフランス人ジャーナリスト4人が解放された。フランスは4人の解放のために1400万ドル以上を支払ったとみられ、スペインも身代金を支払ったとされている。(p.45)

3-23. 【石油収入が原動力】
 略奪も身代金も恐喝もISISの着実な資金源だが、「石油密売の収入とは比べものにならない」とヌジャフイフィは言う。実際、制圧したエネルギー資産こそがISISの強みであり強力な軍事機構の原動力だと考えられている。つまり裏を返せば、最大の弱点でもあるわけだ。イラク・エネルギー研究所の最新データによれば、ISISの石油帝国はイギリスとほぼ同じ広さで油井の数はイラク市内だけで約300。最大規模の油田はハムリンとアジルだ(油田数はそれぞれ最低でも41と76)。残りの油井の産出能力は合計で日量8万バレル、イラク全土の日量300万バレルに比べればごくわずかだ。一方、シリアでは全体の生産能力(イラク・エネルギー研究所によれば内戦が激化する前は日量38万5000バレル)の約60%を手中にしている。(p.45)

3-24.
 ISISは稼働中のパイプラインは利用できないらしく、油田を長期間維持する専門知識もない。シリア国内で掌握している油田は生産ピークを過ぎており、イラクの油田以上に高度な採掘技術が必要だ。(pp.45-46)

17 manolo 2015-02-16 00:14:47 [PC]

3-25.
 エネルギー資産は戦車や装甲車の燃料としても使われ、ISISの戦闘活動を支えている。従って石油帝国はISISのアキレス腱でもある。「ISISは少なくとも4万人の戦闘員と何百という戦車および装甲車を抱えている。さらに勢力地域の住民に行き渡るだけの燃料も生産しなければならない」と、イラク・エネルギー研究所のハティーブは言う。「精製油が日量7万~8万バレルは必要だ」 ISISが生産できるのはイラクとシリアの合計生産能力の20%前後なので、周辺の産油国から援助を受けている可能性があるとハティーブは指摘する。(p.46)

3-26.
 ISISの石油の質は良くないが、それでも調査会社IHSによれば年間約8億ドルの収入が見込める。特に石油不足の地域ではそれ以上の収入になっているかもしれないと、元駐クロアチア大使でクルド自治政府の顧問を務めたピーター・ガルブレイスは言う。「ISISの石油のほとんどは地産池消で、外部から供給がない地域に割高な価格で売ることができる。最高1バレル=200ドルだ。(p.46)

3-27.
 「中世か黙示録を思わせる状況だ。食料と燃料を手に入れるのはカネと銃を手にした人間だけになりそうだ」と、ワシントン中近東政策研究所のイラク専門家マイケル・ナイツは言う。今はうまくやっていても、いずれ油田の維持や油田の維持や石油の採取・精製で難題に直面するだろう。首都バグダッドから北へ200キロ余りのバイジにあり、ISISが掌握を狙う巨大製油所は、イラク軍と米特殊部隊の守りが固い。その他の小規模油田では独自の製油施設と粗末な移動式製油施設に頼らざるを得ず、質の悪い燃料を日量300~1000バレル生産するのがやっとだ。(p.46)

3-28.
 移動式製油施設は組み立ても解体も簡単なので、正確な数はつかめない。米中央軍は空爆で石油関連施設や輸送手段を破壊するとしているが、空爆開始以来、破壊したのは十数カ所の移動式製油施設のみだ。「生産能力が日量500バレルの移動式製油施設を破壊したところで話にならない」と、イラクのエネルギー専門家が言う。空爆の効果について米中央軍に問い合わせると、米財務省からこんな回答が来た。「空爆は確実にISISの資金調達に打撃を与えているが、現時点では公表するような推定値はない」(p.46)

18 manolo 2015-02-16 00:15:53 [PC]

3-29.
 アメリカが敗北させるまでもなく、ISISの収入は激減するかもしれないとナイツは言う。「ISISは非常に多様な資産を保有しているが、勢力地域の景気は下降している。住民を搾取し続けることには限界がある。言ってみれば、持続可能な経済モデルがない」 大勢の住民を支配し続ければ、いずれは統治能力と戦闘力に大きく響くとハティーブは考えている。「ISIS支配下にある800万人が今の生活に満足しているとは思えない。恐怖心から従っている可能性が高い」(p.46)

3-30.
 ブルッキングズ研究所の分析によれば、「(正規軍と非正規軍との戦いである)非対称戦争では、反体制派が12カ月生き延びれば勝算は大幅に増えるが、3年を境に勢力は衰え、政治的合意が現実味を帯びてくる」。一方、ガルブレイスは悲観的だ。最大の懸念はISISを破るだけの強力な地上部隊がいないことだという。例外は米軍だが、バラク・オバマ米大統領は地上部隊は派遣しないと明言している。「ISISが中東の一大勢力になるとは思えないが敗北するとも思えない」とガルブレイスは言う。「封じ込めは可能だろうが、ISISより強い勢力となると思い付かない」(p.46)

19 manolo 2015-02-16 00:24:21 [PC]

出典:『ニューズウィ-ク日本版』、1/13/2015、「私は「イスラム国」のメンバーだった」、pp.42-43

体験談
反アサドの義勇兵になるつもりが
テロ組織に送り込まれた若者の悲劇

4-1.
 イラク人のシェルコ・オメル(仮名)はかつて、イスラム教スンニ派テロ組織ISISの構成員だった。シリア政府軍と戦うつもりで国を出た若者がなぜその意に反して宗教間抗争に巻き込まれたのか――。以下はオメル自身が語った体験談だ。(p.42)

4-2.
 私は恵まれた家庭に育った。イラクのクルド人自治区で手広く事業を行っている父からは家業を手伝うよう言われていたが、私はシリアに行って市民の殺戮を止めたいと考えた。ISISに加わる気は毛頭なかった。両親は敬虔なイスラム教徒で、私も毎週金曜日の礼拝には出席していた。政治組織とは無縁だったが、友人の中にはイスラム主義クルド人組織「クルド・イスラム・グループ(KIG)」のメンバーもいた。トルコ経由でシリア入りするつてを紹介してくれたのもKIGだ。(p.42)

4-3.
 メディアはシリア内戦をアサド政権への蜂起として伝え、宗派間抗争としての側面は報じなかった。私たちは政府軍と戦う自由シリア軍(FSA)に憧れた。だがいま思えば、FSAはイスラム過激派の巣窟だった。(p.42)

4-4.
 私と友人2人がトルコに向かったのは13年10月のことだ。当時、トルコからシリアに入国した人のほとんどは、国境近くのISISの基地にたどり着いた。私たちもそうだった。同じように入国した人の中には、アラーのために戦って死ねば天国へ行けると信じるイスラム戦士もいた。アルカイダ系のアルヌスラ戦線のような過激派に参加したいと言う人もいた。国に帰るべきか悩んだが、ISISは私たちに非常に親切で、必要なものはすべて与えてくれた。後に私はシリア北部のラッカで彼らの蛮行を目にすることになるが、この時にはそんなことは思いもよらなかった。恐怖心もあった。キャンプには自縛テロの訓練をする部隊に加え、動物を使って首を切る訓練を行う部隊もいた。ISISは斬首について、強姦の罪を犯した政府軍司令官らに対するイスラム的処刑だと主張していた。(pp.42-43)

20 manolo 2015-02-16 00:25:34 [PC]

4-5. 【友人2名は命を落とした】
 だがISISはラッカで、政府軍の司令官かどうかなど関係なく、気に入らない者すべての首をはねた。公開処刑された中には、一般市民が含まれていた。ISISの戦闘員が「イスラム教カリフ」のためにならないとか、神に対する犯罪で有罪とか見なした人々だ。ラッカでISISの恐ろしい犯罪を目の当たりにし、私は大きなショックを受けた。何度も自殺も考えた。逃げ出したいと思ったが、逃げ道はなかった。(p.43)

4-6.
 ようやく脱出のチャンスが訪れたのは、シリアのクルド人地域に派兵されたときだ。クルド人武装組織の攻撃を受け、私はすぐさま降伏した。通信技術者として働かされていたのが幸いし、私は数か月にわたって拘束されたのちに釈放された。戦闘員になった友人2人は命を落とした。ISISの上官たちは流暢なトルコ語を話し、アラビア語を話すことはほとんどなかった。事実、ラッカの司令官たちは、外国人戦闘員のうちトルコ人が最も優秀だと述べていた。(p.43)

4-7.
 最後に友人の1人と電話で話したとき、彼はISISが罪のない人々を殺すのを幾度となく見たと語っていた。逃亡兵が公開処刑されたのを見て、怖くて逃げだせないということも。今は父の事業を手伝っているが、普通の暮らしに戻るのは難しい。シリアであの組織に参加してしまったことに対し、常に罪と恥の意識を感じている。(p.43)
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