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イスラム国(ISIS)20 manolo 2015-02-16 00:25:34 manolo
オバマ政権外交政策8 manolo 2015-02-06 01:26:54 manolo
日中関係8 manolo 2015-01-30 07:42:06 manolo
シャルリ・エブド社襲撃事件11 manolo 2015-01-22 01:56:13 manolo
分離独立運動(欧州)4 manolo 2015-01-21 08:15:38 manolo
サイバー戦争10 manolo 2015-01-17 01:25:43 manolo
タリバン2 manolo 2015-01-16 07:56:11 manolo
アジアインフラ投資銀行2 manolo 2015-01-14 23:29:50 manolo
香港占拠運動14 manolo 2015-01-14 23:07:11 manolo
無人地上車両(UGV)5 manolo 2014-10-20 22:15:24 manolo
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1 manolo 2014-10-18 21:38:04 [PC]


284 x 177
出典:『エコノミスト』、9/30/2014、「イスラム国を知っておく スンニ派不満分子を取り込み 石油と恐怖で支配地域拡大」、池田明史、pp.46-48

1-1.
 オバマ大統領は9月10日、国民向けのテレビ演説を行い、イラク・シリア北部国境地帯に勢力を拡大する「イスラム国」に対して、本格的な軍事圧力の強化に踏み切る決意を表明した。実際に15日からはこれまでの北部に加えて首都バグダッド南西に展開するイスラム国勢力にも空爆を拡大した。これに呼応する形で、欧米・中東を中心とした約30ヵ国・機関の外相らが15日パリに参集し、脅威を国際社会全体で共有しつつ、その撃滅に向けて連携することを申し合わせている。(p.46)

11 manolo 2015-02-15 23:54:23 [PC]

3-4.
 ISISの集金マシンは本質的に、支配地域に暮らす人々の恐怖(と金銭欲)によって動いている。コーエンの言葉を借りれば、ISISはアメリカがこれまでに立ち向かった中で「最も資金力豊富なテロ組織だ」。その最大の資金源は、接収した石油資源。そのほかにも、私的な寄付、支配地域からの徴税、銀行預金や、私有財産の没収、誘拐の身代金、歴史的遺物の略奪と売却からも安定的に収入を得ている。以下では、主な資金源をそれぞれ見ていこう。(p.42)

3-5. 【湾岸諸国からの寄付】
 ISISにはこの2年間、ペルシャ湾岸の豊かな産油国であるサウジアラビア、カタール、クウェートから莫大な金が流れ込んできた。ペルシア湾岸諸国には、王族や実業家、資産家など、ISISに多額の寄付をしている人が大勢いる。最近までこの3カ国は、シリアのアサド政権と戦うISISなどのイスラム教武装勢力に公然と資金を送り込んでいた。(p.42)

3-6.
 サウジアラビア政府は13年、米政府や国際社会の厳しい批判を受けて、アルカイダ、アルヌスラ戦線、ISISなど武装勢力に対する資金的支援を法律で禁じた。昨年8月には、サウジアラビアで最高位のイスラム教指導者であるアブドルアジズ・シェイフ師がISISを「最大の敵」と非難。サウジアラビア軍は米軍主導のISIS空爆に参加している。しかし、カタールとクウェートは追随していない。湾岸諸国の民間人からISISに資金が流れ続けていると、ワシントン中近東政策研究所のロリ・プロトキン・ボガート研究員(湾岸諸国政治)は言う。「テロ組織の資金源を断つ上でいまだに際立った問題なのがカタールとクウェートの2カ国だ。」(p.42)

3-7.
 背景には、2つの大きな問題がある。第1に、カタールとクウェートの金融システムは監視が緩く、送金がなされた場合に自動的に警告サインが発せられる仕組みになっていない。第2に、カタールとクウェートの政府は、有力者によるISISへの寄付を制限することに腰が引けている。何しろクウェートには、ISISと直接結び付きのある武装勢力に資金提供を行っている国会議員の一族もいるくらいだ。「ISISへの資金提供を取り締まることは、これらの国の指導者にとって政治的に難しい問題」なのだと、ボガートは説明する。(pp.42-43)

12 manolo 2015-02-15 23:57:44 [PC]

3-8. 【「人道援助」の看板】
 寄付金は、政府に登録されていない慈善団体を経由して、「人道援助資金」という名目で授受されるケースも多い。金の受け渡し場所は「ワッツアップ」や「キキ」などのスマートフォン向けのメッセージアプリを使って連絡し合う。ワッツアップは、GPS(衛星利用測位システム)によりテロリスト同士が現地情報を伝達し合うことを容易にする。キキの場合は、電話番号を登録せずにアカウントを取得できるというメリットがある。ISISの工作員がサービスを利用していることを知っているのか、テロリストの通信について監視し、米政府に通知する方針を取っているのか、という点について、ワッツアップは本誌の取材に答えていない。一方、キキは本誌に宛てた電子メールで、「ユーザー間の通信内容を監視したり記録したりはしていない」と回答している。(p.43)

3-9.
 ISISのプロパガンダ情報を拡散し、工作員の連絡先を支持者に知らせるためのSNSアカウントは何百もある。そうした経路を通じて連絡がつけば、寄付金が流れ込むまでに時間はかからない。人道援助資金を装うことで、ISISへの資金流入が容易になっていることは間違いない。サウジアラビア当局はこの点を踏まえて、承認手続きを経ていないシリア向けの寄付を全面的に禁じている。(p.43)

3-10.
 昨年5月にブルッキングズ研究所は、シリア向けの援助資金のルートを縮小する必要性を指摘した。同研究所のエリザベス・ディキンソンによれば、クウェートでは孤児と避難民とジハード(聖戦)への支援を訴えて資金集めが行われており、戦争の資金なのか、人道援助なのか、見分けにくくなっている。クウェートでイスラム過激派の資金集めの中心を担うのは、スンニ派の有力者で、SNSとテレビの戦略にたけたアジミ一族だ。なかでもシャフィ・アル・アジミは慈善の目的で集めカネを、ISISとの関連があるアルヌスラ戦線の関係者に渡したことを公に認めている。(p.43)

13 manolo 2015-02-16 00:00:46 [PC]

3-11.
 13年12月のディキンソンのリポートによると、クウェートの有力な銀行家として知られるアジール・アル・ナシュミが、アジミ一族(いちぞく)の右腕となっている。13年8月に(シリアの)ラタキアで市民数百人が虐殺された襲撃を手助けした」資金集めにも、ナシュミを含む少なくとも4人のシリア人宗教関係者が関与しているとみられる。クウェートは、「ひも付きではない」シリア向け援助の最大の寄付者だ。すなわち、特定の大義や目的に使うという約束がないまま、カネを拠出している。(pp.43-44)

3-12.
 国連人道問題調整事務所(OCHA)が管理する資金追跡サービス(FTS)によると、11年にシリアの内戦が始まってから昨年10月22日までの間に、約2億ドルが正式な記録なしでシリアに寄付されている。国際的な定評のない人道支援グループへの寄付が、きちんとした援助活動に届く保証はない。寄付にはあらゆる形があるが、ISISは基本的に現金か武器で受け渡しをすると、英シンクタンク、クイリアム基金のロンドン支局長ハラス・ラフィクは説明する。「大抵はトルコの国境からシリアに持ち込まれる。イラクやサウジアラビアとの国境は警備がはるかに厳重だ」(p.44)

3-13.
 トルコとシリアの国境は、ISISの資金が流入する要所と見なされている。米国土安全保障省は本誌の取材に対し、ISISはハイテクを駆使しているが、グローバルな金融システムとの関わりを避けて、ビットコインなどの仮想通貨を使ってはいないようだと語っている。国土安全保障省の関係者によるとISISのネットワークは犯罪組織を中心としているため、主に現金でやり取りをせざるを得ない。もっとも、物理的に難しい話ではない。100万ドルや200万ドルの現金をアタッシュケースに入れて持ち歩くことは、中東のビジネスマンにとってよくあることだ。(p.44)

14 manolo 2015-02-16 00:02:33 [PC]

3-14. 【住民や遺跡を略奪】
 ISISの行動を見れば、彼らの使命がイスラムの大義より富の構築にあることは明らかだ。昨年6月にイラク北部のモスルを制圧した際は、銀行の12の支店を占拠すると、ラマダン(断食月)で休みだった従業員の家に直行。イラク中央銀行を開けさせたと、ニネベ州のアテル・アル・ヌジャイフィ前知事は語る。ティクリートの銀行の金庫室に保管されていた現金も合わせて、推計で15億ドルを奪ったという証言もある。米財務省によると銀行の略奪はISISの常套手段だ。ISISが占領する町で、銀行からカネを引き出す際は、最大10%の「税金」を取られる。(p.44)

3-15.
 シリア北部の都市ラッカでは美術学校の建物が税関事務所となり、あらゆる物資の出入りをISISが監視していると、現地を逃れてきた住民は語る。「ISISは、ほぼあらゆる物資を運ぶ人に税金をかけている」と、イスラエルの情報機関員はいう。「密輸などの違法行為はイスラム教義に反するが、贅沢な資金源にもなっている」 制圧した地域の住民からも直接、略奪する。「モスルでは女性からネックレスを奪い取り、イヤリングを引き抜いた。家畜や家具、車も奪った」と、ロンドンのシンクタンク、インテグリティのイラク担当アナリスト、サジャド・ジヤドは語る。(p.44)

3-16.
 ISISは純粋な信仰に駆り立てられるというより、存続可能な国家を設立するための資金集めに精を出す。この点は、アルカイダなどほかのイスラム系テロ組織との違いでもある。しかも、近隣と戦争を続けながら、800万人が暮らす「国家」を維持するにはカネが掛かると、コーエン財務次官は言う。「すべての収支を把握するために、(最高財務責任者のような)役職を頂点とする管理組織が複雑に入り組んでいる」(p.44)

3-17.
 歴史の重みも彼らの標的となる。イラクでは重要な遺跡1万2000カ所のうち3分の1以上がISISの支配下にある。遺跡は次々に掘り起こされ、紀元前9000年~紀元後1000年の遺物が収集家や業者に売られていると、ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校のイラク人考古学者アブドゥラミル・アル・ハムダニは言う。「金目のものは売りとばし、残りは破壊する」(p.44)

15 manolo 2015-02-16 00:04:08 [PC]

3-18.
 遺跡の密売は、今やISISの第2の資金源になっているとみられる。「トルコやイラン、シリアを経由して密輸される。マッチ箱ぐらい小さな銘板もあるから、運ぶのは簡単だ」と、ロンドンを拠点に遺物の保全活動を行うイラク・ヘリテージのエイメン・ジャワド事務局長は言う。ひどいことに一部は欧米のオークション会社に流れていると、ジャワドは嘆く。(pp.44-45)

3-19.
 何しろメソポタミア文明の遺物1つに十数万ドルの値が付くこともある。昨年4月には、紀元前600年前後の新バビロニア時代のものとされるくさび形文字が刻まれた焼成粘土の円筒が60万5000ドルで落札された。この競売を取り仕切ったエドワード・リプレイダッガンは、オークション会社は、「近年の中東の紛争で(遺物が)盗掘されている」ことを考慮して、歴史的な美術品が「染みひとつない」かどうか、より慎重に確認すべきだと考える。くだんの円筒も、1953年までさかのぼって取引を裏付ける売り主と買い主の手紙が確認できなければ売らなかったし、出所が不確かな場合、誠実な収集家は買うべきでないと強調する。(p.45)

3-20. 【人の命も金づるに】
 最も高く売れるのは歴史ある遺物かもしれないが、ISISはえり好みなどしない。小麦や大麦、米、家畜と、手当たり次第に盗んでは売りとばす――そして、人間も。ISISも戦闘員はアルビルを目指してイラク北部を進撃しながら穀物貯蔵サイロや貯蔵穀物を接収し、農地を管理下に置いた。現在ニネベ州で9つ、他の地域で7つものサイロを管理下に置いている。国連によれば、ISISが保有する小麦はイラクの年間生産の40%に相当する。(p.45)

3-21.
 ISISにとっては、人の命も金づるだ。人質の身代金はISISの収入の約20%を占めるとインテグリティのジャドは言う。国連の試算では、ISISは過去1年ほどで3500万~4500万ドルの身代金を手にしている。金が払われれば人質は、解放、支払われなければ殺す。人質から家族に電話をさせて拷問されていると伝えさせ、金額をつり上げようとする場合もある。(p.45)

16 manolo 2015-02-16 00:13:07 [PC]

3-22.
 ISISに拉致された、アメリカ人ジャーナリストのジェームズ・フォーリーとスティーブン・ソトロフの家族は、身代金支払いは違法だと米当局から警告された。2人は殺された。「彼らはカネのために殺された」とISISの人質解放に尽力しているイギリスのセキュリティーコンサルタントは匿名を条件に語った。「ソトロフは宗教上の理由で殺されたのではない、フォーリーもイギリス人支援活動家アラン・ヘニングも政治上の理由で殺されたのではない。ISISの要求どおりのカネが払われなかったから殺されたんだ」(イギリスの法律でも身代金支払いは禁じられている)。 一方、昨年3月にはスペイン人ジャーナリスト2人、4月にはフランス人ジャーナリスト4人が解放された。フランスは4人の解放のために1400万ドル以上を支払ったとみられ、スペインも身代金を支払ったとされている。(p.45)

3-23. 【石油収入が原動力】
 略奪も身代金も恐喝もISISの着実な資金源だが、「石油密売の収入とは比べものにならない」とヌジャフイフィは言う。実際、制圧したエネルギー資産こそがISISの強みであり強力な軍事機構の原動力だと考えられている。つまり裏を返せば、最大の弱点でもあるわけだ。イラク・エネルギー研究所の最新データによれば、ISISの石油帝国はイギリスとほぼ同じ広さで油井の数はイラク市内だけで約300。最大規模の油田はハムリンとアジルだ(油田数はそれぞれ最低でも41と76)。残りの油井の産出能力は合計で日量8万バレル、イラク全土の日量300万バレルに比べればごくわずかだ。一方、シリアでは全体の生産能力(イラク・エネルギー研究所によれば内戦が激化する前は日量38万5000バレル)の約60%を手中にしている。(p.45)

3-24.
 ISISは稼働中のパイプラインは利用できないらしく、油田を長期間維持する専門知識もない。シリア国内で掌握している油田は生産ピークを過ぎており、イラクの油田以上に高度な採掘技術が必要だ。(pp.45-46)

17 manolo 2015-02-16 00:14:47 [PC]

3-25.
 エネルギー資産は戦車や装甲車の燃料としても使われ、ISISの戦闘活動を支えている。従って石油帝国はISISのアキレス腱でもある。「ISISは少なくとも4万人の戦闘員と何百という戦車および装甲車を抱えている。さらに勢力地域の住民に行き渡るだけの燃料も生産しなければならない」と、イラク・エネルギー研究所のハティーブは言う。「精製油が日量7万~8万バレルは必要だ」 ISISが生産できるのはイラクとシリアの合計生産能力の20%前後なので、周辺の産油国から援助を受けている可能性があるとハティーブは指摘する。(p.46)

3-26.
 ISISの石油の質は良くないが、それでも調査会社IHSによれば年間約8億ドルの収入が見込める。特に石油不足の地域ではそれ以上の収入になっているかもしれないと、元駐クロアチア大使でクルド自治政府の顧問を務めたピーター・ガルブレイスは言う。「ISISの石油のほとんどは地産池消で、外部から供給がない地域に割高な価格で売ることができる。最高1バレル=200ドルだ。(p.46)

3-27.
 「中世か黙示録を思わせる状況だ。食料と燃料を手に入れるのはカネと銃を手にした人間だけになりそうだ」と、ワシントン中近東政策研究所のイラク専門家マイケル・ナイツは言う。今はうまくやっていても、いずれ油田の維持や油田の維持や石油の採取・精製で難題に直面するだろう。首都バグダッドから北へ200キロ余りのバイジにあり、ISISが掌握を狙う巨大製油所は、イラク軍と米特殊部隊の守りが固い。その他の小規模油田では独自の製油施設と粗末な移動式製油施設に頼らざるを得ず、質の悪い燃料を日量300~1000バレル生産するのがやっとだ。(p.46)

3-28.
 移動式製油施設は組み立ても解体も簡単なので、正確な数はつかめない。米中央軍は空爆で石油関連施設や輸送手段を破壊するとしているが、空爆開始以来、破壊したのは十数カ所の移動式製油施設のみだ。「生産能力が日量500バレルの移動式製油施設を破壊したところで話にならない」と、イラクのエネルギー専門家が言う。空爆の効果について米中央軍に問い合わせると、米財務省からこんな回答が来た。「空爆は確実にISISの資金調達に打撃を与えているが、現時点では公表するような推定値はない」(p.46)

18 manolo 2015-02-16 00:15:53 [PC]

3-29.
 アメリカが敗北させるまでもなく、ISISの収入は激減するかもしれないとナイツは言う。「ISISは非常に多様な資産を保有しているが、勢力地域の景気は下降している。住民を搾取し続けることには限界がある。言ってみれば、持続可能な経済モデルがない」 大勢の住民を支配し続ければ、いずれは統治能力と戦闘力に大きく響くとハティーブは考えている。「ISIS支配下にある800万人が今の生活に満足しているとは思えない。恐怖心から従っている可能性が高い」(p.46)

3-30.
 ブルッキングズ研究所の分析によれば、「(正規軍と非正規軍との戦いである)非対称戦争では、反体制派が12カ月生き延びれば勝算は大幅に増えるが、3年を境に勢力は衰え、政治的合意が現実味を帯びてくる」。一方、ガルブレイスは悲観的だ。最大の懸念はISISを破るだけの強力な地上部隊がいないことだという。例外は米軍だが、バラク・オバマ米大統領は地上部隊は派遣しないと明言している。「ISISが中東の一大勢力になるとは思えないが敗北するとも思えない」とガルブレイスは言う。「封じ込めは可能だろうが、ISISより強い勢力となると思い付かない」(p.46)

19 manolo 2015-02-16 00:24:21 [PC]

出典:『ニューズウィ-ク日本版』、1/13/2015、「私は「イスラム国」のメンバーだった」、pp.42-43

体験談
反アサドの義勇兵になるつもりが
テロ組織に送り込まれた若者の悲劇

4-1.
 イラク人のシェルコ・オメル(仮名)はかつて、イスラム教スンニ派テロ組織ISISの構成員だった。シリア政府軍と戦うつもりで国を出た若者がなぜその意に反して宗教間抗争に巻き込まれたのか――。以下はオメル自身が語った体験談だ。(p.42)

4-2.
 私は恵まれた家庭に育った。イラクのクルド人自治区で手広く事業を行っている父からは家業を手伝うよう言われていたが、私はシリアに行って市民の殺戮を止めたいと考えた。ISISに加わる気は毛頭なかった。両親は敬虔なイスラム教徒で、私も毎週金曜日の礼拝には出席していた。政治組織とは無縁だったが、友人の中にはイスラム主義クルド人組織「クルド・イスラム・グループ(KIG)」のメンバーもいた。トルコ経由でシリア入りするつてを紹介してくれたのもKIGだ。(p.42)

4-3.
 メディアはシリア内戦をアサド政権への蜂起として伝え、宗派間抗争としての側面は報じなかった。私たちは政府軍と戦う自由シリア軍(FSA)に憧れた。だがいま思えば、FSAはイスラム過激派の巣窟だった。(p.42)

4-4.
 私と友人2人がトルコに向かったのは13年10月のことだ。当時、トルコからシリアに入国した人のほとんどは、国境近くのISISの基地にたどり着いた。私たちもそうだった。同じように入国した人の中には、アラーのために戦って死ねば天国へ行けると信じるイスラム戦士もいた。アルカイダ系のアルヌスラ戦線のような過激派に参加したいと言う人もいた。国に帰るべきか悩んだが、ISISは私たちに非常に親切で、必要なものはすべて与えてくれた。後に私はシリア北部のラッカで彼らの蛮行を目にすることになるが、この時にはそんなことは思いもよらなかった。恐怖心もあった。キャンプには自縛テロの訓練をする部隊に加え、動物を使って首を切る訓練を行う部隊もいた。ISISは斬首について、強姦の罪を犯した政府軍司令官らに対するイスラム的処刑だと主張していた。(pp.42-43)

20 manolo 2015-02-16 00:25:34 [PC]

4-5. 【友人2名は命を落とした】
 だがISISはラッカで、政府軍の司令官かどうかなど関係なく、気に入らない者すべての首をはねた。公開処刑された中には、一般市民が含まれていた。ISISの戦闘員が「イスラム教カリフ」のためにならないとか、神に対する犯罪で有罪とか見なした人々だ。ラッカでISISの恐ろしい犯罪を目の当たりにし、私は大きなショックを受けた。何度も自殺も考えた。逃げ出したいと思ったが、逃げ道はなかった。(p.43)

4-6.
 ようやく脱出のチャンスが訪れたのは、シリアのクルド人地域に派兵されたときだ。クルド人武装組織の攻撃を受け、私はすぐさま降伏した。通信技術者として働かされていたのが幸いし、私は数か月にわたって拘束されたのちに釈放された。戦闘員になった友人2人は命を落とした。ISISの上官たちは流暢なトルコ語を話し、アラビア語を話すことはほとんどなかった。事実、ラッカの司令官たちは、外国人戦闘員のうちトルコ人が最も優秀だと述べていた。(p.43)

4-7.
 最後に友人の1人と電話で話したとき、彼はISISが罪のない人々を殺すのを幾度となく見たと語っていた。逃亡兵が公開処刑されたのを見て、怖くて逃げだせないということも。今は父の事業を手伝っているが、普通の暮らしに戻るのは難しい。シリアであの組織に参加してしまったことに対し、常に罪と恥の意識を感じている。(p.43)
 
1 manolo 2013-12-25 01:44:26 [PC]


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出典:『WEDGE』January 2014、(「防空識別圏招いた米オバマ政権「及び腰」のアジア回帰」、マイケル・オースリン) pp.12-14

1-1.【内政問題で窮地に立つオバマ】
 オバマ政権の2期目は国内問題により悪夢と化した。「オバマケア」として知られる医療保険制度改革の失敗が全米でニュースの見出しを独占し、ワシントンのエネルギーをすべて使い果たしてしまった。加えて、依然弱い景気回復と、連邦政府の債務上限引き上げをめぐる政治闘争により、米国の政治は記憶している限り最も党派色が強いものになり、著しい機能障害を起こしている。

1-2.
 このため米国民は自国の政治指導者たちに大きな不満を抱いている。バラク・オバマ大統領の仕事ぶりを評価する人は40%を上回るかどうかという水準で、国民の過半数が大統領を信頼できないと考えている。米国連邦議会は大統領以上に不評を買っており、最近の世論調査では、議会に対し好意的な意見を持つ人はわずか9%にとどまった。(p.12)

2 manolo 2013-12-25 01:49:18 [PC]

1-3.
 このような政治の機能不全は米国の外交政策にも悪影響を及ぼす。オバマ政権はイスラム過激派の拡大を食い止められず、むしろ中東での米国の影響力を台無しにしたのとの懸念が高まっている。シリアの独裁者バシャル・アサド大統領が自国民に対して化学兵器を使用したことについては、オバマ大統領は弱腰で支離滅裂な対応を試みたと批判された。(p.12)

1-4.
 また、オバマ政権はイランの核開発計画をめぐる交渉に関し、明確な戦略を持っていることを共和党、民主党双方の反対派に対して納得させられずにいる。一方、ロシアは、シリア危機において仲介役を買って出て、米国の大半の外交政策に反対する姿勢を明確にし、かつないほど強く、自身に満ちている。そのうえ、オバマ政権と連邦議会は今後10年間で国防費を最大1兆ドル削減する方針を示しており、同盟国と友好国の双方に対して米国政府が軍事的責務を果たせるのかその能力が問われている。(p.12)

1-5.
 しかし、アジアほど、オバマ政権がその政策を遂行できていないことが明白な地域はない。オバマ政権はここ何年も、外交政策の最重要イニシアティブは、いわゆる「アジアへのピボット(アジア回帰)」だと主張」してきた。大統領と当時のヒラリー・クリントン国務長官は、イラクとアフガニスタンでの戦争が終わった後に米国が焦点を移す地域はアジアだと断言してきた。だが、鳴り物入りでこの政策が発表されてから数年しか経たない今、世界各地で続く問題と米国内の諸問題の犠牲となり、ピボットは終わってしまったように見える。(pp.12-13)

1-6. 【内実が伴わない米国のアジア回帰】
 ピボットに対する最大の批判は、最初から修辞的な政策だったということだ。事実、アジアにおける米国の政策が実際に大きく変わったと思えることは一度としてなかった。オバマ政権にとって、ピボットは単なる軍事的な強化を意味するのではなく、「政府全体」とアプローチ、つまり経済と外交のイニシアティブだったということであった。ピボットの1つ目の要素は経済であるが、もっぱら環太平洋経済連携協定(TPP)の自由貿易交渉を軸とする。TPPの目的の1つは、経済において国有企業が担える役割を制限することであり、自由市場経済だけが加盟できる協定と見なされている。これはアジアでリベラルな価値観を広める助けになると考えられている。(p.13)

3 manolo 2013-12-25 01:54:36 [PC]

1-7.
 2つ目の要素は外交だ、オバマ政権は発足直後に、ジョージ・W・ブッシュ政権の「無視」の時代の終わりと、アジア回帰を強調した。クリントン国務長官は数回アジアを歴訪し、他の政府高官もたびたび同地域を訪問した。中でも特に目を引いたのは、オバマ大統領が米国大統領として初めて、2011年、12年の東アジア首脳会議に出席したことだ。しかし、多くの観測筋とブッシュ政権の元高官が指摘するように、実は米国は一度もアジアを離れたことがない。対テロ戦争における日米間の緊密な協力と、ブッシュ前大統領の下で特に米国とインドが築いた新たな関係を考えると、米国が不在だったとは言えない。逆に対日関係においては、オバマ大統領が就任して日本の民主党が09年に政権を取った後、日米関係は悪化した。(p.13)

1-8.
 3つ目の要素は、最も重要な米国の軍事的プレゼンスだ。オバマ政権はアジアにおける米国の軍事態勢について、若干の変更しか発表していない。これにより、多くの批判派はそもそもピボットが修辞的なものにすぎないと主張してきたのだ。米国の軍事態勢の変更について見てみると、

① 米海兵隊員の2500人規模のダーウィンへのローテーション配備
② ローテーション配備の形による米海軍新型沿岸海域戦闘艦最大4隻のシンガポールへの停泊、

そして最大の目標として、

③ 米海軍の艦艇の6割をアジア太平洋地域に配置
というものであった。(p.13)

1-9.
 ワシントンの多くの関係者は、ピボットを推進しているのが主に当時のクリントン国務長官とカート・キャンベル国務次官補だということを知っていた。両氏はどちらも、ピボット政策を精力的に推進することで賞賛されたカリスマ的指導者だ。しかし、ピボットの裏にある現実は、謳われた約束に及ぶものではなかった。最大の問題の1つは、なぜピボットが必要なのかオバマ政権が説明できていないことだ。政権は一貫して、アジアにおける米軍の軍事的プレゼンスをある程度拡大すると言いつつ、ピボットの狙いが中国の劇的な軍備近代化や東シナ海、南シナ海における領有権紛争での強硬姿勢に対抗することにあると明言するのを拒んできた。その結果、米国の同盟国と友好国は、オバマ政権に対し確信が持てずにいた。(p.13)

4 manolo 2013-12-25 01:57:00 [PC]

1-10.
 これと密接に関係する事実がある。オバマ政権が尖閣諸島をめぐる争いや南シナ海での領有権紛争に関与しないという姿勢を明確にしたことだ。フィリピンなどに対する中国の威嚇や、尖閣諸島周辺海域への侵入にもかかわらず、米国政府は幾度となく、対立する主権の主張については特定の立場を取らず、すべての関係国が論争を平和的に解決することを期待すると述べてきた。その結果、日本やフィリピンのような同盟国は、米国政府がその条約義務を果たさず、自分たちが単独で、中国の強硬姿勢に向き合わねばならないのではないかと危惧するようになったのだ。(p.13)

1-11.
 次に、オバマ政権は、アジアで従来以上に大きな役割を果たすと主張しながら、劇的に米国の軍事予算を削減することとしたため、自らの信頼性を損ねた。アジア地域において、向こう10年間の米軍の質的な優位を疑う人は誰もいない。しかし、中国が軍事支出を年間10%以上拡大し続けている時に米国が軍事予算を減らすという事実は、アジアにおける米軍の長期的優位が次第に疑わしくなっていることを意味する。(pp.13-14)

1-12. 【強硬姿勢強める中国「防空識別圏」設定】
 こうしたピボットに対する軍事的憂慮が、13年11月下旬に浮き彫りになった。中国が東シナ海に新たな「防空識別圏」の設定を宣言したからだ。中国の防空圏は日本および韓国のそれと重複している。中国政府は、軍用機、民間機を問わず、すべての航空機に、中国当局に事前通告し、飛行計画を提出することを求めた。これは北東アジアの空を支配し、尖閣諸島に対する日本の施政権を脅かそうとするあからさまな試みに映る。中国政府はおそらく、上空での自国の利益を主張することをそう簡単にあきらめないだろう。米軍の縮小は、中国のそうした行動を一層煽るだけだ。(p.14)

1-13.
 アジア圏内の米国の同盟国、友好国にとって最大の懸念は、こうして中国が強硬姿勢を強めるなか、米国政府が引き続き中国政府との戦略的な関係構築を話題にしていることだ。その一方で、中国政府が一段と影響力を強め、近隣諸国を威嚇しようとする熱意ばかりが伝わってくる。こうした態度は、継続的な地域の安定にとって不穏な動きである。(p.14)

5 manolo 2013-12-25 01:59:17 [PC]

1-14.
 さらに、冒頭でも述べたワシントンの政治的な機能不全が米国によるアジアへのピボットを損ねている。13年10月、オバマ大統領は予定していた東南アジア諸国連合(ASEAN)年次会合と東アジア首脳会議への出席をキャンセル。多くの人をこれに対し、オバマ大統領は国内問題と国外問題の双方をさばけず、大統領が国内で存在感を維持するためにアジアを犠牲にしようとしているサインだと解釈した。一方で、オバマ大統領がASEANの会合を欠席したことにより、習近平国家主席が得をしたと皆の目に映った。習主席は大々的に報じられた東南アジア歴訪をこなし、アジア太平洋経済協力会議(APEC)会合でスポットライトを浴びる前に、マレーシアおよびインドネシアと包括的な戦略的パートナーシップ関係の構築で合意した。(p.14)

1-15.
 ではなぜオバマ大統領のアジアへのピボットは、本当の意味で始まる前に終わってしまったのか。その理由の1つは、外交政策を運営する個々人と関係したものだ。先に述べたように、ピボットの真の生みの親はクリントン氏とキャンベル氏だった。だが、両氏とも1期目の終わりの13年2月にオバマ政権を去った。新国務長官のジョン・ケリー氏は、両氏に比べると、アジアにもピボットそのものに傾倒しているようにはとても思えない。むしろ欧州に対して強い関心を持つことで知られており、イランおよびシリアとの慌ただしい協議に飛びついた。また、キャンベル氏のようなユニークな特質をもつ東アジア担当国務次官補もいない。そのため、今のオバマ政権内にはアジアに強い関心を持つ高官がおらず、現職のアジア担当者たちは前任者ほどの影響力を持たない。(p.14)

6 manolo 2013-12-25 02:02:53 [PC]

1-16.
 とはいえ最も重要なことは、先にも述べたように、現政権がオバマ大統領以下、なぜ米国にピボットが必要だったのかそもそも十分に説明してこなかったことだ。重要な政策にもかかわらず、明瞭さがないため、オバマ政権が2期目早々に窮地に陥るとピボットはいとも簡単に棚上げされてしまう。そこに予算削減などの国内の困難が重なり、オバマ政権は米国の関心をアジアに着実にシフトさせるお金とエネルギーが底をついてしまった。このことは、今後さらに自信を深める中国と向き合うことになる米国の同盟国、友好国にとって、心配の種になる。信頼できる米国のプレゼンスがなく、米国大統領の側に明確な政治的意思がない今、アジアの安定を維持するのが難しくなる可能性は十分ある。(p.14)

1-17.
 アジアの主要大国間における信頼が依然欠如しており、東シナ海での問題など深刻な論争を解決する(あるいは議論する)多国間メカニズムが存在していないという事実は、米国の役割が相変わらず重要であることを意味する。しかし、米国が60年にわたり、アジアの平和維持に力を貸し、同盟関係にある国々と協力してきた今、オバマ政権はまさに米国の政策を根本的に悪い方向へ変えてしまう瀬戸際にあるのかもしれない。 それは図らずも、オバマ大統領自身が、世界一重要だと言った地域において、いくつかの選択肢を誤り、自身の政治的、軍事的影響力を落としてしまった結果なのである。(p.14)

7 manolo 2015-02-06 01:25:54 [PC]

出典:『ニューズウィーク日本版』、2/10/2015、p.10

アメリカ離れを加速させるサウジの不信と不満
盤石の友好関係というイメージとは裏腹に中東政策をめぐる亀裂が広がっている

2-1.
 アメリカとサウジアラビアは永遠の相互依存関係にあり、その同盟は決して揺るがない。アメリカには石油が、サウジアラビアには安全保障が必要なのだから――そんな見方は、今や根拠を失いつつある。

2-2.
 オバマ米大統領は先週、急きょサウジアラビアを訪問。先日死去したアブドラ国王の後を継いだサルマン新国王と、見解が相違する中東政策について幅広く話し合った。問題はイスラエルやシリアをめぐる対立だけではない。米政府が、サウジアラビアと敵対するイランと核協議で合意しようとしていることだけでもない。サウジアラビアは数年前から独自外交を展開している。「アメリカはもはや取引相手にすぎないらしい」と、チャールズ・フリーマン元駐サウジアラビア米大使は言う。「彼らが重視するのは、自分たちの利益だ」

2-3.
 両国は70年前から、石油と安全保障の交換を軸に絆を深めてきた。湾岸戦争当時には、サウジアラビア国内に50万人規模の米軍が駐留。アメリカは原油価格が高騰しても、サウジアラビアの生産拡大を当てにできた。くさびを打ち込んだのが、9・11テロだ。実行犯の大半がサウジアラビア人だったため、アメリカには今も、サウジアラビア政府を疑う声がある。対するサウジアラビアは、03年のイラク戦争でアメリカに不信感を抱いた。開戦はイランの影響力拡大を招くと考えたからだ。

8 manolo 2015-02-06 01:26:54 [PC]

2-4.
 オバマ政権になっても、失望は続いた。11年に「アラブの春」がエジプトに訪れた際、親米路線を続けるムバラク大統領をアメリカが見捨てたと、サウジアラビアは激怒した。後任となったムスリム同胞団出身のモルシ大統領を、アメリカが支持したことも問題だった(ムスリム同胞団はサウジアラビアで活動を禁止じられている)。13年7月、事実上のクーデターでモルシ政権が倒れるとサウジアラビアはクウェートなどと共に、エジプトに120億ドルの経済援助を約束。一方、オバマ政権は人権問題を理由に、対エジプト援助を数カ月停止した。

2-5. 【イエメンという追い打ち】
 態度の変化は経済面にも及んでいる。米通商代表部(USTR)によれば、アメリカのサウジアラビア輸出総額は12年に250億ドルだったが、13年には190億ドルに減少。一因は、サウジアラビアの自動車輸入先がアメリカから中国にシフトしていることにあるという。原油価格が下落する今も、サウジアラビアは生産レベルを維持している。原油安容認の狙いは、シリアを支援する産油国イランやロシアに打撃を与えることだけでなく、米シェール・オイル業界の競争力をそぐことにある。

2-6.
 両国にとって新たな試練となるのが、サウジアラビアの隣国イエメンの情勢だ。1月下旬、クーデターで親米政権を倒した、イスラム教シーア派武装組織ホーシー派は、イランから支援を受けているとされる。イエメンがさらに混乱すれば、同国を拠点とするアルカイダ系テロ組織の台頭を招く恐れもある。米プリンストン大学のバーナード・ヘイカル教授(中近東学)は、サルマン国王とホーシー派の対話にオバマが一役買うことを期待する。「イエメン内のあらゆる勢力との接触をサウジアラビアに促せば、アメリカは極めて生産的な役割を果たせる」とヘイカルは米ラジオ局に語った。「イエメンの安定化に貢献できるだろう」
問題は、サウジアラビアがオバマを信頼できるかどうかだ。
 
1 manolo 2015-01-30 07:31:33 [PC]


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出典: 『週刊東洋経済』12/27/2014-1/3/2015、「22. 日中関係.」、田岡俊次、pp.86-89

「軍事衝突」しないし、できない

1-1.
 2006年、安倍晋三首相は就任してわずか12日後の10月8日に北京を訪れ、胡錦濤・中国国家主席と会談。「戦略的互恵関係」で一致した。その8年後、14年11月10日に安倍氏は北京で習近平・国家主席と会談。再び「戦略的互恵関係」で合意した。長く森の中をさ迷い、気づくと元の場所に戻っていたような感がある。首脳2人による25分間の会談が行われる3日前の7日、「日中関係の改善に向けた話し合いについて」と題した合意文書が発表された。これは外交交渉では異例だった。 安倍氏は「条件なしの日中首脳会談」を主張していたが、4項目の合意をあいまいながら条件をつけた形で、会談でどちらかが「それは違う」などと言い出せば大変だから、事前に発表して確定しておいたほうが無難であったろう。(p.86)

2 manolo 2015-01-30 07:33:08 [PC]

1-2.
 焦点の尖閣諸島について、「双方は、尖閣諸島等東シナ海の海域において近年緊張状態が生じていることについて異なる見解を有していると認識し、対話と協議を通じて、情勢の悪化を防ぐとともに、危機管理メカニズムを構築し、不測の事態の発生を回避することで意見の一致を見た」とする。「双方が異なる見解を有している」ことは事実だから両国のタカ派もこれを批判しにくい。外交では互いのメンツを立てないとまとまらないし、この領有権論議はうやむやにするしか和解の道がないから、巧妙な玉虫色の外交的表現だ。(p.86)

1-3.
 習氏は13年6月にオバマ米大統領と米カリフォルニアのパームスプリングスで首脳会談を行った際、尖閣問題の「棚上げ」「現状維持」方針でオバマ氏と合意したもようで、その後中国側は「棚上げでよい」と言い始めた。米国側も「現状不変更」を唱えた。中国の姿勢は、領有権の主張は変えないが日本の実効支配の継続は黙認し、日本側も施設の建造など現状変更はすべきでない――というもので、所有者が日本の私人から国に替わった点を除いて元に戻るのだから妥当な落としどころと思われた。(p.86)

1-4.
 だが、日本の外務省は民主党タカ派の前原誠司氏が外相だった時期に「領土問題は存在しない」と明言した手前、「日本の領土を棚上げにすることは認められない」と言うしかなく、論理的にはスジは通っても交渉がしにくい自縄自縛に陥っていた。今回の合意文書には「棚上げ」とか「現状維持」の文言はないが、「黙認」である以上それは当然だ。だが「情勢の悪化を防ぐ」とは記載された。仮に中国人が島に上陸したり、日本人が建造物を建てたりすれば、情勢の悪化は不可避だから、それはしないことになる。(p.86)

1-5.
 双方が何もしなければおのずと「棚上げ」になっていくから、その実現は容易だが、巡視船などのにらみ合いは「異なる見解」の表明であり、また「現状」の一部でもあるから当面は続きそうだ。海上での衝突事故や、それがきっかけで不測の事態になることを防ぐためのホットラインの開設や、監視活動のルール作りなどが進むだろうから戦略的合計関係が進展すればにらみ合いも下火になるだろう。(pp.86-87)

3 manolo 2015-01-30 07:35:11 [PC]

1-6. 【「封じ込め」でなく「抱き込み」狙う米国】
 日中のこの合意文書が発表されると、APEC(アジア太平洋経済協力会議)の閣僚会合に出席するために北京に滞在していたケリー米国務長官は「米国は心からこれを歓迎する」と岸田文雄外相に語り、日中が関係改善をさらに進めるよう求めた。これは当然で、米国は日中双方に対し和解を求めてきたからだ。(p.87)

1-7.
 日本では冷戦時代の世界観から抜け出せない人が少なくないが、1970年代か末から冷戦終了まで約10年間、米国と中国はソ連を共通の脅威として事実上の同盟状態にあった。米国は中国の国産戦闘機F8IIの開発に協力し、対潜水艦魚雷Mk46を供与したほか、UH60ヘリコプターを民間機S70として輸出、兵器製造技術や製造設備を提供するなど、中国軍を「チャイナカード」として育成していた。中国は米国と協議のうえで、ソ連寄りになっていたベトナムに1979年に侵攻したこともあったほどで、イデオロギー的な観念論では国際情勢は読めない。(p.87)

1-8.
 米国にとって中国は、①米国債約1兆3000億ドルを保有し、最大の海外保有者として米財政を支えている、②3兆9000億ドルもの外貨準備の大半をウォール街で運用し米金融・証券界最大の海外顧客、③旅客機約150機(日本の旅客機は約700機)を毎年輸入し、米国の軍需産業の主体である航空機業界の第1の海外顧客、④奇跡的回復を遂げたGM(ゼネラル・モーターズ)の自動車売上の約3割、300万台を中国で販売、⑤ネット人口6億人、国慶節(9月下旬からの連休)の国内旅行者が4.8億人にもなる巨大な消費市場――である。(p.87)

1-9.
 米国はイラク、アフガン戦争で直接戦費約1兆ドル超を費やしたうえ、重傷者3万人以上への生涯の障害給付や戦費調達のために発行した国債の利払いなどで、今後2兆ドル程度の出費が必要と試算され、すでに財政は破綻に瀕している。貿易赤字は少し減ったとはいえ13年に4715億ドルだったから、オバマ政権が「財政再建・輸出倍増」を目標とし、そのために重要な中国に対して「コンテインメント」(封じ込め)を策さず「エンゲージメント」(抱き込み)を考える、と表明するのは当然だ。一方、中国にとっても米国は最大の輸出市場(輸出の16.7%。日本へは6.8%)で最大の融資・投資先でもあるから、両国が争えば双方が壊滅的な打撃を受ける状態だ。(p.87)

4 manolo 2015-01-30 07:36:56 [PC]

1-10.
 米軍も「中国抱き込み」の方針に沿い、14年夏の「リムパック」(環太平洋合同演習)に中国海軍を招いた。中国は4隻が参加したが、これは本来、米国の同盟国海軍の演習だった。また米海軍士官を養成するアナポリス海軍兵学校中国人を入校させて教育し、米国の統合参謀本部と中国の総参謀部との人的交流も行っている。(p.87)

1-11. 【「中国包囲網」は日本人の集団的妄想】
 日本では「米中対立」という先入観で見るためか、オーストラリア北岸のダーウィンに米海兵隊が駐在することも「中国への牽制」だとの解釈が出たが、中国沿岸から5000キロメートル、大西洋の幅ほどにも離れた場所に軽装備の海兵1個大隊(1100人)を置いても牽制の効果はない。インド洋で活動する米艦隊はオーストラリア西岸のパースを拠点としており、米海兵隊は海外での戦乱、災害などの際の在留米国人の救出が任務の一つであるため、インド洋に海兵隊駐屯地がないのは不便だからオーストラリアにも駐屯することになったのだ。日本の報道には「中国包囲網」の語がよく出るが、米国は「封じ込めは考えない」とし、オーストラリアも包囲網に反対、韓国も中国に取り入ろうとしており、「中国包囲網」は日本的妄想に過ぎない。(p.87)

1-12.
 米国は、台湾と中国の対立に巻き込まれては迷惑だから、台湾・民進党の陳水扁総統(00~08年在任)が、憲法改正など独立への動きを示すたびに厳しく非難、干渉してあきらめさせた。2代目ブッシュ大統領(当時)はシンガポールのリー・シェンロン首相と会談した際、陳氏の名を言わず「ザット・バスタード」(あの野郎)と呼び続けリー氏を驚かせた。一方、現在の馬英九総統はハーバード大で博士号を取り、ニューヨークで弁護士をしていた知米派だから、急激な親中政策を進めた。10年の「経済協力枠組み協定」(自由貿易協定)など19もの協力協定を結び、中台間の航空定期便は週655便に達する。台湾では反発もあるが、米国からは支持、称賛を受けている。親米派イコール親中派となる情勢だ。米国の中国重視は、大統領がいずれの党であれ国益に基づくから、変わりえないだろう。(pp.87-88)

5 manolo 2015-01-30 07:38:42 [PC]

1-13.
 米国は安倍政権の右傾を警戒し、13年2月の安倍氏の訪米前には「集団的自衛権は議題にしない」と通知し、首脳会談では安倍氏が少し言及してもオバマ氏は反応しなかった、とされる。会談後の記者会見もなく写真撮影だけで「同盟強化で中国に対抗」などと口走られては迷惑、との姿勢が見えた。その後の韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領や中国の習主席の訪米と比べ明らかの冷遇だったし、13年12月に安倍氏が靖国神社に参拝すると米国務省は「失望した」との声明を出した。これらは陳氏に対する共和党ブッシュ政権の態度と似通っていた。13年10月の日米外務・防衛大臣の会議では日本の要請で「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)の改定が決まったが、その共同発表では日本側の草稿に多く出た「中国」の語を米国側がほぼすべて削除し、指針改定が中国を対象とするとの疑念を晴らそうとした。(p.88)

1-14. 【記者会見のオバマ発言 日本の新聞はほぼ無視】
 14年4月の安倍・オバマ会談では、オバマ氏が尖閣諸島は日米安全保障条約5条(共同防衛)の適用対象であることを認めたことが大きく報じられたが、これは尖閣諸島の赤尾嶼(せきびしょ)、黄尾嶼(こうびしょ)(大正島(たいしょうとう)、久場島(くばじま)と改称)が安全保障条約に基づく日米地位協定で米海軍の射爆撃場として提供されているから当然だ。(p.88)

1-15.
 だが、ガイドラインには「自衛隊は日本に対する着上侵攻を阻止し排除するための作戦にプライマリー・リスポンシビリティ(一義的責任)を有する」との条項がある。防空や周辺海域の防衛に関しても同様だ。しかしこれでは日本は何のために米国に基地を貸し、維持費を負担しているのか、との疑問が出るから邦訳では「主体的に実施する」とごまかしている。この条項はガイドライン改定でも残ることに決まった。「尖閣が安保条約の適用範囲」といっても米国に参戦の義務は必ずしも生じないし、米軍は尖閣有事の日米共同作戦計画の策定にも応じないのだ。(p.88)

6 manolo 2015-01-30 07:40:02 [PC]

1-16.
 この安倍・オバマ会談後の記者会見でオバマ氏は安倍氏に中国との関係改善を求めたことを次のように述べた。「私は安倍首相にこの問題を平和的に解決する重要性を力説した。状況をエスカレートさせず、言辞を低く保ち(口を慎め、の意)、挑発的行動を取らず、いかにして日中が協力できるかの道を定めること。私はこちらのほうを大きな要点としたい。われわれは中国と強い関係を持つ。彼らはこの地域だけでなく世界にとって決定的に重要な国なのだ。」「私は直接安倍首相に言った。この問題でエスカレーションを起こすのは根本的な誤りで、むしろ日中は対話と信頼醸成を目指すべきだ。われわれはそれを勧めるよう外交上できることは何でもするつもりだ」。翌日の朝日新聞には記者会見の内容はほとんど載らず、「尖閣には安保条約適用」との見出しが並んだが、実はこれは米国長官らが以前から言っていたことで大したニュースではなく、「米大統領、対中関係改善を要求」が見出しとなるべきだった。(p.88)

1-17.
 もし尖閣付近で不測の事態が起き武力紛争になれば、米国は苦しい立場になる。外国領の無人島の件で経済上決定的に重要な中国と戦争することはバカげている。だが、もし米軍が傍観し、巻き添えを食わないよう戦艦、航空機をグアムなどへ避難させれば安保条約は終了し、米海軍は横須賀、佐世保を使えなくなり、西太平洋の制海権が大きく損なわれるだけでなく、ほかの国に対する威信も失墜する。何としてでも日中首脳会談を実現させ、事態の悪化を止める必要があった。(p.88)

1-18. 【中国空軍が数で優勢 操縦士の錬度は同等か】
 日本にとっても危ないところだった。13年12月に決まった中期防衛力整備計画では陸上自衛隊は「水陸機動団」(海兵隊、約3000人)を編成し、水陸両用装甲車AAV7を52両、「オスプレイ」を17機調達、海上自衛隊は大型の「多機能艦」(強襲揚陸艦)の建造を検討するなど、奪回作戦の準備を進めていた。『防衛白書』では「万一島嶼(とうしょ)を占領された場合には、航空機や艦艇による対地射撃により敵を制圧した後、陸自部隊を着上陸させるなど島嶼を奪回するための作戦を行う」と明言していた。(pp.88-89)

7 manolo 2015-01-30 07:41:09 [PC]

1-19.
 だが、離島の攻防戦では航空優勢(制空権)がカギで、こちらに制空権があれば誰も海を渡って攻めてこられず、もし相手がすきを見て上陸しても航空攻撃で補給と後続を断てば相手は自滅する。逆に相手が制空権を握れば、水上艦船は東シナ海で行動できず、逆上陸はほぼ不可能だ。ところが中国にとり東シナ海は最近まで最重要正面だった「台湾正面」で、そこを担当する中国・南京軍区には、台湾空軍の戦闘機約420機に対抗するため、空軍の戦闘機8個連帯(推定約280機)、東海艦隊の海軍航空隊の戦闘機(同約50機)が配備されている。うち日本のF15に匹敵する中国のJ11、J10など「第4世代戦闘機」が約200機以上と考えられる。中国全体では、空軍、海軍合わせ「第4世代戦闘機」は約700機、日本は約280機だ。これに対し航空自衛隊は那覇空港の一部に、F15戦闘機20機余りだけで、近く四十数機にする計画だ。九州の築城(福岡県)、新田原(宮崎県)の基地からF15やF2を1000キロメートル余り離れた尖閣上空に出すことは可能だが、それでも数的には相手が2倍、3倍だ。(p.89)

1-20.
 中国軍パイロットの錬度はかつては低かったが、以前は戦闘機が4500機もあったのが1500機に減り、予算上の余裕も出たのか1人当たりの年間飛行訓練は日本の150時間と同等か、それ以上とみられる。大型レーダーを搭載した空中早期警戒機の能力や電波妨害などでは日本は技術的に優位だが、それで数的劣勢をどこまで補えるか定かでない。(p.89)

1-21. 【軍備競争なら財政破綻 「互恵関係」が大原則】
 仮に、島と周辺の戦闘で日本が一時的に勝てたとしても、その後どうするかが難問だ。戦争になれば相手が沖縄、九州の航空基地や上陸部隊が出る佐世保港、那覇港などを航空攻撃や巡航ミサイルでたたくのはむしろ定石だ。陸上自衛隊は「島嶼以外に拡大するとは想定していない」と説明するが、これは勝手な想定だ。どこの国でも軍人は「最悪の事態に備えて」と言いつつ、実はその予算獲得に好都合な「最良の事態」を想定することが多い。(p.89)

8 manolo 2015-01-30 07:42:06 [PC]

1-22.
 国連や米国などの仲裁で停戦になっても、その後は軍備競争になる公算が大きい。今での中国のGDPは約2倍、国防費は日本の約3倍だが、10年後には中国のGDPは日本の4倍近くになり、国防費は今の対GDP比1.3%のままでも日本の6倍になりそうだ。中国と軍備競争に入れば、日本の財政が破綻するか、大増税で経済の衰退を招くかだ。日本が独力で中国と戦わざるを得ない場合、日米同盟は解消になる公算が大きい。中国は国連安保理の常任理事国で拒否権を持つし、核不拡散条約で公認された核保有国だ。(p.89)

1-23.
 中国は韓国、オーストラリアとも自由貿易協定を近く結ぶなど影響力を強めているから、日本は孤立し、結局は中国に屈せざるをえなくなる形勢かと案じていていたが、今回は日中衝突を防ぎたい米国のおかげで、少なくとも事態の悪化だけは食い止められたようだ。「戦略的互恵関係」の再確認が経済面で国益に資することは誰にもわかるが、安全保障面で軍備競争のスパイラルに入ることを防げた点で、日中首脳会談の成果はより大きいかもしれない。安全保障の要諦は敵をできる限り減らすことにあり、今回の合意はその扉を開いたことになるかもしれない。(p.89)
 
1 manolo 2015-01-18 00:32:20 [PC]


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出典:『ニューズウィーク日本版』、1/20/2015、「フランスの衝撃、フランスの不屈」、pp.26-27

銃撃事件
シャルリ・エブド本社の襲撃に揺れるパリ
哀悼と連帯が広がるなかで忘れてはならないこと

1-1.
 パリに夜が訪れ、追悼の日は終わりを迎えた。風刺週刊誌シャルリ・エブドの本社が襲撃されたのは、前日の1月7日水曜日。12人が射殺され、多数の負傷者が出た恐ろしい事件の衝撃から、フランスは懸命に立ち直ろうとしている。(p.26)

2 manolo 2015-01-18 00:33:55 [PC]

1-2.
 木曜日の朝、私はショックから抜け出せないまま、息子を学校へ送って行こうとしていた。パリ南部に隣接する地区で、女性警察官が銃撃されたと聞いたのはそのときだ。警察官はその後、死亡した。シャルリ・エブド襲撃とは関係ないとみられるものの、当局は警察官殺害を「テロ事件」と位置付けている。襲撃事件の容疑者は逃走中で、必死の捜索が行われていた。パリの至る所で一日中サイレンが鳴り響き、市民はほぼ誰もが無防備になったような不安を感じていた。(pp.26-27)

1-3.
 こんな事件は数十年間、起きていなかった。恐ろしいのは容疑者が訓練を受け、狙いを定めた上に犯行に及んだ点だ。彼らは計画的に襲撃し、逃走した。名指しで犠牲者を殺害した。8日の正午、フランスは追悼のさなかにあった。各地で黙祷がささげられ、パリのノートルダム大聖堂は鐘を打ち鳴らした。その音はセーヌ川を越えて町中に響き渡った。鐘が鳴り終わると、人々は拍手をし、国家「ラ・マルセイエーズ」を合唱した。ジャーナリストの証しである鉛筆を掲げる人も、「私はシャルリ」と書かれた紙を持つ人もいた。警察本部の前ではフランソワ・オランド大統領が雨の中、厳粛な面持ちでたたずんでいた。その顔は苦痛でゆがんでいるようだった。(p.27)

1-4.
 パリは不屈の年だ。第二次大戦中はナチスによる占領に耐え抜いた。90年代にはテロ事件が多発し、市民は危険と共に生きるすべを学んだ。それでも今。人々は動揺している。シャルリ・エブド襲撃事件の翌日、私の知人の多くは外出を控えた。地下鉄にも人の姿はまばらだった。パリっ子が熱狂する冬のセールが始まっていたが、高級百貨店ボンマルシェの入り口では手荷物検査が行われ、ショッピングを楽しむのはほとんど観光客だけだった。(p.27)

1-5. 【反動も過激化も許すな】
 衝撃が続く一方で、フランスは連帯と決意にも満ちている。今こそ、この共和国の理念である「自由、平等、友愛」の精神が求められるときだ。最大野党を率いるニコラ・サルコジ前大統領も、オランドとの対立関係を脇に置いて大統領府を訪れ、こう語った。今回の事件は「文明に対する宣戦布告だ」――。この発言を、イスラム原理主義者は都合よく解釈するだろう。ヨーロッパとイスラム世界は戦争状態にあるという、自分たちの主張が正しいと。さらに恐ろしいのは極右による反動だ。(p.27)

3 manolo 2015-01-18 00:35:52 [PC]

1-6.
 事件の容疑者サイド・クアシと弟のシェリフはその後、パリ郊外の印刷工場に立て籠もり、突入した警察とによって殺害された。彼らの逃走中、多くの人がヨーロッパでは国境は簡単に越えられることを懸念していた。極右はこの事実を盾に、移民から国境を守れと訴えた。だがシリア情勢が悪化し、避難民の状況が厳しさを増す今、国境を封鎖するのは人道にもとる。間違ったメッセージを広めることにもなりかねない。ジハード(聖戦)への参加を求めて、外国へ向かうヨーロッパの若者は増える一方だ。フランスをはじめとする国は間違いなく、さらなるテロ攻撃の危険に直面しているイラクやシリアの内戦、イスラム教スンニ派テロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)の台頭は、それに拍車を掛けている。(p.27)

1-7.
 しかし根本的な問題を忘れてはならない。今回の事件以前から、フランス社会は脆弱で不安定だった。ユーロの価値は下落し、失業率は高い。移民2世や3世のイスラム教徒の若者は権利を奪われ、チャンスも未来もないと感じている。殺伐とした高層住宅が並ぶパリ郊外の貧困地区には多くのイスラム系住民が暮らす。よほどの幸運か意志がなければそこを抜け出すのは不可能に近い。(p.27)

1-8.
 容疑者のシェリフ・クアシがいい例だ。32歳の彼は里子として育ち、ピザ配達員等の仕事を転々とするうちに、イスラム原理主義に慰めを見いだすようになったという。マリファナを吸い、ラップ音楽を聴く青年だったとの報道もある。つまりある意味では普通の青年、銃や流血の惨事とは縁がない道を歩むこともできたはずの青年だった。シャルリ・エブド襲撃と殺人という冷酷で野蛮な行為は、決して正当化できない。だが犯人の背景も忘れるべきでない。(p.27)

1-9.
 残念なことに、今回の事件は正反対の動きを引き起こしそうだ。左派と右派双方の原理主義者が勢力を増し、イスラム教徒を諸悪の根源とみるナショナリストが勢いづき、フランス社会に受け入れられていないと感じるイスラム教徒は過激化するだろう。反動の初期兆候は既に表れている。複数のモスク(イスラム礼拝所)が放火され、どこへ行っても疑いの目で見られると訴えるイスラム教徒もいる。極右の旗手、国民戦線のマリーヌ・ルペン党首は日に日に影響力を増し、恐怖をあおっている。(p.27)

4 manolo 2015-01-18 00:41:20 [PC]

1-10.
 フランスは、イスラム過激派を打ち負かす方法を見つけなければならない。イスラム系市民が、フランスを故国と感じるようにしなければならない。隣人がテロリストに変貌するのではないか……多くの国民が抱くそんな恐怖を、和らげなければならない。(p.27)

5 manolo 2015-01-18 22:04:31 [PC]

出典:『ニューズウィーク日本版』、1/20/2015、「「表現の自由」の美名に隠れた憎悪も糾弾せよ」、p.30

メディア
理想を貫いた彼らは勇敢だったが
差別的な風刺画は擁護できない

2-1.
 犠牲になった週刊紙シャルリ・エブドの編集者や風刺画家は、今や「表現の自由」という大義の殉職者と化した。殺害の脅迫にも屈せず、風刺画を掲載してイスラム過激派を皮肉ってみせ、銃弾に倒れた。私たちが尊ぶ表現の自由という理想のために、勇敢なる死を遂げたとたたえられている。だが、そう単純な話でもない。預言者ムハンマドを題材にした彼らの風刺画は、無分別で人種差別的だったとも言えるだろう。

2-2.
 すべての風刺画がそうだったとは思わない。スンニ派テロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)戦闘員がムハンマドの首を切り落とそうとしている絵は、過激派がいかにイスラムの信仰から乖離しているかという矛盾を鋭く突いていた。それでも大方の風刺画はムハンマドをかぎ鼻の悪党として描いていた。ムハンマドの絵を描くこと自体を冒涜と考えるイスラム教徒の怒りをあおることだけが目的のように見えた。

2-3.
 ただでさえフランスのイスラム教徒たちは貧困と差別に苦しんでいる。この国ではナショナリズムの高まりとともに、世俗主義や言論の自由といったリベラルな価値観を隠れみのにした外国人排斥がまかり通っている。シャルリ・エブドは、誰をも平等に風刺の対象としていると主張するかもしれない。だが、「白人至上主義」との批判があるのもうなずける。あるオンライン雑誌の投稿にあったように、「白人男性による攻撃は優れた風刺にはなりにくい」。

2-4.
 シャルリ・エブドの作品は勇敢であると同時に下劣でもあったが、この現実は受け入れ難いようだ。テロ事件後に巻き起こった議論は大抵、欧米人がイスラム教徒の感情を害することは許されるか許されないか、という二者択一だった。ムハンマドを描くことは言論の自由の下に擁護されるべきなのか、一切慎むべきなのか。ニューヨーク誌のジョナサン・チェートに言わせると答えは明白だ。「宗教を冒涜する権利は自由社会の最も基本的な権利の1つだ」と、彼は書いた。

6 manolo 2015-01-18 22:05:41 [PC]

2-5. 【『悪魔の詩』とは別問題】
 だが、この問題は二者択一で論じるのは誤りだ。私たちは罰せられることなく、憎悪に満ちた発言やばかげたと言葉を口にできる。だがその権利を行使するためには、自分がしていることが憎悪に満ちたりばかげていることを自覚しなければならないし、場合によっては擁護してもらえないこともあると認識しなければならない。リベラル派のブロガーのマシュー・イグレシアスが主張したように、シャルリ・エブドを擁護するのは必要ながらも「遺憾なこと」だ。彼らは反イスラム感情を巧妙に覆い隠し、「辺境に追いやられた少数派を苦しめる」。それに従い、怒れる過激派を増大することになる。

2-6.
 明白な人種差別も権利の1つであると声高に主張するのであれば、私たちは同時に明白な人種差別を声高に非難すべきだ。「先鋭的」風刺画が単にくだらないイスラム攻撃である場合は、そう指摘しなければならない。サルマン・ラシュディの小説「悪魔の詩」は欧米で高く評価され、イスラム世界では猛反発を呼んだ問題作だが、すべての、ムハンマド風刺が同列のように扱われるのは間違いだ。

2-7.
 フランス全土が悲しみに沈む今、こうした問題を論じることは難しいが、必要なことでもある。現時点ではグーグルはシャルリ・エブドに30万ドル近い寄付を申し出ており、英ガーディアン・メディアグループも15万ドルを寄付。フランス政府は100万超ユーロの支援を約束している。表現の自由を支持する力強い動きだ。だが同紙の「表現」は、政府が支援すべきたぐいのものとは思えない。

7 manolo 2015-01-21 07:52:49 [PC]

出典:『ニューズウィーク日本版』、1/27/2015、「「言論の自由」はお国柄で大きく違う」、pp.29

法律 すべては表現の自由で許されるのか
連帯ムードの一方で法的見解にはかなりのズレが

3-1.
 フランスの風刺週刊紙シャルリ・エブド襲撃事件は世界中で言論の自由をめぐる議論を巻き起こしている。渦中のシャルリ・エブドは先週、最新号の表紙にイスラム教の預言者ムハンマドの風刺画を掲載。偶像崇拝を禁止するイスラム教ではムハンマドの肖像画はタブーだが、同紙とその支持者は言論の自由だと主張する。

3-2.
 そもそも言論の自由とはどんな権利か。米合衆国憲法修正第1条は言論の自由を保障。表現・言論の自由は国際法でも保障され、世界人権宣言の前文にも掲げられている。だが法の規定となると、欧州でも国によってかなり異なるのが実情だ。そこで、アメリカ、イギリス、フランス各国の法の規定を簡単に説明しよう。

3-3.
 合衆国憲法修正第1条は「合衆国議会は、国教を樹立する法律、または自由な宗教活動を行うことを禁止する法律、言論または報道の自由を制限する法律を制定してはならない」と明記している。フランスとイギリスにはこうした憲法の規定がない。代わりに欧州人権条約と、表現の自由を守る義務を定めた「市民的および政治的権利に関する国際規約」に署名。国内法でも言論の自由を保障している。

3-4.
 とはいえ法律の文言には重要な違いがある。合衆国憲法修正第1条が言論の自由を法律で制限することを禁じているのに対し、イギリスとフランスの法律では政府の裁量権が大きい。ただしアメリカにしても野放しというわけでなく、言論を法的に規制するためのハードルがイギリスやフランスより高いだけだ。表現の自由より連邦法を優先した判例もある。例えば国家機密の漏洩や名誉毀損については修正第1条では保護されない。

8 manolo 2015-01-21 07:53:48 [PC]

3-5. 【ツイートしただけで逮捕】
 ツイッター上での冗談も要注意。イギリスでは10年、乗るはずのフライトが運休になったことに腹を立て、空港を「爆破する」とツイートした男性が「極めて攻撃的、みだら、もしくは威嚇的な」発言をした容疑で逮捕されている。アメリカでも国土安全保障法の下で、こうした発言が罪に問われる場合がある。例えば12年には、アメリカを「destroy(破壊)」しに行くとツイートしてアメリカ行きの便に搭乗した20代のイギリス人男女がアメリカへの入国を拒否され、強制送還された(destroyはイギリスのスラングで「大いに楽しむ」という意味もある)。

3-6
 ヘイトスピーチ(差別的表現)については、アメリカにはこうした表現を禁ずる包括的な法律はない。標的にされた人が損害賠償請求訴訟を起こすことは可能だが、表現の自由は守られているのが普通だ。フランスとイギリスでは人種や宗教や性的指向を侮辱すれば刑法上の罪に問われ、罰金や懲役刑の対象になり得る。人種差別か表現の自由かを判断するのはたいてい裁判所だ。フランスでイスラム教団体がシャルリ・エブドの編集長を相手取って起こした07年の集団訴訟では、風刺の対象はテロとイスラム原理主義であってイスラム教徒ではないとの判決が下った。

3-7.
 一方、名誉棄損訴訟を起こすならイギリスが一番だ。名誉毀損まがいの発言はどれも事実無根という前提で裁判が始まり、被告側は事実無根でないことを証明しなければならなない。

9 manolo 2015-01-22 01:48:51 [PC]

出典:『The Economist 』、1/10/2015、「Terror in Paris A blow against freedom」, pp.43-44

France and other European countries have long *braced for a commando-style terror attack, but it was no less shocking when it came.

*brace for: 備える

4-1.
 It was the sort of attack the French government had *dreaded for months. Only in December Manuel Valls, the prime minister, declared that France had “never faced a greater terrorist threat”. On January 7th armed gunmen burst into the Paris offices of Charle Hebdo, a newspaper known for its **defiant publication of satirical cartoons, and shot dead ten staff inside. Two police officers were also killed. President Francois Hollande, who arrived swiftly at the scene, was in no doubt: it was “a terrorist attack” of “extreme barbarity”. It was the worst act of terrorism to be perpetrated on French soil for over 50 years. (p. 43)

*dread vi. 非常に恐れる
**defiant a. 挑戦的な

4-2.
 The choice of target was not random. Charlie Hebdo has long prided itself for putting free speech above political correctness, *mocking politics as well as religion, and Catholicism as well as Islam. In 2006 it reprinted cartoons of the Prophet Muhammad that had provoked **consternation and terrorist threats when they were first published by a Danish newspaper, Jyllands-Posten. (The economist chose not to follow suit.) Five years later, Charlie Hebdo published an edition entitled Charlie Hebdo, which it advertised as “edited” by the prophet. During the night before publication, its Paris offices were firebombed. (p.43)

*mock: vt. あざける
**consternation n. 狼狽

4-3.
 The paper’s offices and some of its cartoonists have since been under police protection. But this was not enough to stop two men, armed with automatic weapons, forcing their way in and shooting dead eight journalists, including Stephane Charbonnier (known as Charb), its editor and best-known cartoonist. One of the policemen killed was his body guard. Bernard Maris, an economist close to the paper, was also killed. Footage showed the men shouting “We have avenged the Prophet Muhammad” as they left the building. (p.43)

4-4.
 French politicians, on all sides were quick to condemn the attack. Mr Hollande cleared his diary to visit the scene and hold an emergency cabinet meeting on security. Nicolas Sarkozy, the centre-right former president, called the shootings an “*abject act” and an “attack on our democracy”. French Muslims too expressed outrage over the terrorists. Hassen Chalghoumi, **the imam of Drancy, declared that “their barbarism has nothing to do with Islam”. (p.43)

*abject: a. 軽蔑に値する
**imam n. イマーム(礼拝の導師)

10 manolo 2015-01-22 01:50:48 [PC]

4-5.
 With the gunmen on the run, the police named two suspects: Cherif and Said Kouach, both French citizens. A third man turned himself in and seven other people were arrested. Of Algerian origin, the two brothers were born in a rough part of north-east Paris, and were known to the security services for links to jihadist radical groups. Cherif, a former pizza-delivery driver, was convicted in 2008 of association with terrorism, in a case connected to jihadist networks that recruited fighters against Americans in Iraq, and served 18 months of a three-year prison sentence. (p.43)

4-6.
 While the manhunt continued, broader questions were raised over how the attack happened in a country with robust intelligent surveillance system and tough anti-terror lows. Mr Valls said the suspects were “doubtless followed” by the intelligence services, but there was “no zero risk”. He stressed that several terror plots had been *thwarted and hundreds of individuals were under surveillance. On January 8th a policewoman was shot dead in a second, probably unrelated, attack. (p.43)

*thwart: v. 挫折させる、妨げる

4-7.
 France is no stranger to terrorism, much of it linked to the bloody fight for Algerian independence. In 1995 eight people were killed in attack on the PER suburban underground, and two more died in another attack a year later. More recently, security was tightened after France was singled out as a target by al-Qaeda on various grounds, including its introduction five years ago of a ban on face-covering headscarves, as well as its military intervention in the African Sahel. But most analysts *reckon that the latest attack is of a different nature. Recent fears have concentrated on French citizens returning from jihadist training in Syria and Iraq. One such, mehdi Nemmouche, a French citizen, killed four people at a Jewish museum in Brussels last year. (p.43)

*reckon v. 考える、憶測する

4-8.
 The government estimates that as many as 1,000 Frenchmen have either left to fight for Islamic State, already returned, or are on their way back. The January 7th attack appears to have been well planned and executed. “These are guys who have been trained to fight, not to blow themselves up,” says Francois Heisbourg, of the Foundation for Strategic Research. Indeed, they may be less interested in influencing French policy than in simply demonstrating their murderous capacity. (p.43)

4-9.
 In an attempt to curb the flow of fighters, the government last autumn tightened its anti-terror legislation, making it easier to detain suspects at airports and to *confiscate their passports. But Mr Valls and Bernard Cazeneuve, the interior minister, have remained keenly aware that a possible attack by home-grown jihadists could take place at any moment. (pp.43-44)

*confiscate: v. 押収する

11 manolo 2015-01-22 01:56:13 [PC]

4-10.
 The difficulty for France now is not only how to deal with the shock, the aftermath and heightened security worries. Home to Europe’s biggest Muslim minority, some 5m-6m strong, the country has long struggled to strike the right balance between secular traditions and the (peaceful) demands of Muslim French citizens. In several ways, France has unapologetically reaffirmed its secular republican principles, for example, by outlawing the wearing of religious symbols in schools, such as the Muslim headscarf for women. (p.44)

4-11.
 Yet fears that the country has *ceded too much ground to Muslim have also boosted Marine Le Pen’s populist National Front. Many polls suggest she could get into the second round of voting in the 2017 presidential election. Indeed, just such a scenario is at the heart of a provocative novel, published on the same day as the terrorist attack, by Michel Houellebecq, the **enfant terrible of French literature. He imagines a France in 2022 run by a Muslim president who has beaten Ms le Pen in a second-round run-off, and imposes conservative Islamic principles on the country. Critics have denounced the novel as ***scaremongering.

*cede: v. 譲歩する
**enfant terrible a. はた迷惑な人、異端児
***scaremongering a. 人騒がせな

4-12.
 In a televised address on January 7th Mr Hollande called for national unity and designated January 8th a day of national mourning. He declared that “the entire republic was threatened” by the attack, but *vowed that “liberty will always be stronger than barbarity”.

*vow v. 誓う、明言する

4-13.
 Even before he spoke ordinary French people adopted this message as their own. Tens of thousands turned out across the country at evening *vigils in sympathy for Charlie Hebdo and in defiance of terrorism, many displaying three words of solidarity that had spread earlier as a **hashtag on social network: “Je Suis Charlie”. The French were particularly touched by similar large demonstrations abroad, including in London. Yet, as terror attacks on other cities
besides Paris have shown, it takes time to recover from such national tragedies. And they may leave lasting mark on the country’s political culture in ways that are not always clear at the time. (p.44)

*vigil: n.(祈りのための)徹夜
**hashtag n. ハッシュタグ
 
1 manolo 2015-01-21 08:11:02 [PC]


275 x 183
出典:『ニューズウィーク日本版』、9/30/2014、「それでも止まらない欧州分裂の波」、pp.30-33

影響 スコットランドの試みに触発されて
ヨーロッパ各地で独立分離運動が盛り上がっている

1-1.
 否決されたとはいえ、スコットランドの住民投票はヨーロッパ各地にくすぶる分離独立運動を勢いづけた。今後注目を集めそうな8つの地域を紹介しよう。(p.30)

2 manolo 2015-01-21 08:12:09 [PC]

1-2. 【カタルーニャ(スペイン)】
 スペイン北東部に位置するカタルーニャ自治州は、昔から独立運動が活発だった。人口750万人の大半は言語もスペインとは違うという意識が強く、マドリードの中央政府から高度な自治権を認められてきた。だが、自治州のアルトゥール・マス首相は、スペインからの完全な独立を求めて11月9日に住民投票を行うと発表。9月11日の「カタルーニャの日」には、住民が州都バルセロナでV字形に交わる通りを埋め尽くし、投票(vote)と勝利(victory)を訴えた。(p.30)

1-3.
 スペイン議会は、カタルーニャの住民投票実施を認めていない。これに対して独立強硬派は、政府があくまで住民投票を邪魔するなら、デモや不買運動などの不服従運動を展開すると主張している。スペイン政府としては、むしろ住民投票の実施を認めた方が得策かもしれない。9月初旬に日刊紙エル・パイスが行った世論調査では、実際に独立を支持するカタルーニャ人は27%しかおらず、42%は自治権を拡大してスペインに残留するほうがいいと答えた。(pp.30-31)

1-4. 【フランダース(ベルギー)】
 ベルギー北部のオランダ語圏(フランダース地方)と南部のフランス語圏(ワロン地方)の不仲には長い歴史がある。経済的に立ち遅れたフランス語圏(人口400万人)に多額の補助金が交付されていることも、オランダ語圏(同600万人)の住民にとっては不満の種だ。今年5月に行われたベルギー下院選挙では、ベルギーを解体して「フランダース共和国」を樹立することを究極の目標とする政党「新フランドル同盟」が勝利。おかげでフランス語圏を基盤とする政党との連立交渉はいまだにまとまっていない。(p.31)

1-5.
 とはいえ、ベルギーがすぐに分裂することはなさそうだ。首都ブリュッセルは経済の要で、オランダ語圏の住民にとって歴史的な故郷でもある。だが住民はワロン人が圧倒的に多く、ベルギー解体を強行すれば、オランダ語圏はブリュッセルを失う可能性が高い。新フランドル同盟は当面、現在の連邦という枠組みを受け入れていく意向だ。だが、スコットランドの住民投票に触発されたのは間違いない。同党のビエ・デブルイン議員は投票前、「スコットランドは重要な前例になる」と語っている。(pp.31-32)

3 manolo 2015-01-21 08:14:18 [PC]

1-6. 【ベネト(イタリア)】
 運河の街をゴンドラで巡り、サンマルコ広場のカフェでカプチーノを1杯――ベネチアには 外国人の描くイタリアのイメージが詰まっている。だが、住民の考えは違うらしい。ベネチアのあるイタリア北東部ベネト州で、今年3月に行われた調査によると、89%がイタリアからの独立を支持。その後の世論調査でも、州民500万人の過半数が、チャンスがあるなら独立するべきだと答えた。ベネト州のある地域にはかつて、海洋国家として栄えたベネチア共和国があった。18世紀末にナポレオンに征服され、フランスとオーストリアの支配を経てイタリアに編入されたのは、わずか150年前だ。(p.32)

1-7. 【グリーンランド(デンマーク)】
 世界最大の島グリーンランドが経済的に沈まずに済んでいるのはデンマーク政府の補助金のおかげだ。その額は年間6億5000万ドル、グリーンランドの予算のおよそ半分に当たる。だが変化の兆しが見えてきた。地球温暖化で北極圏の氷が解け始め、鉱物資源の開発が有望になってきたのだ。昨年選出されたアレカ・ハモンド首相は外国企業を受け入れて資源開発を進め、経済的自立を果たす考えだ。人口5万7000人と、独立すれば、世界最小クラスの国だ。(p.32)

1-8. 【バスク(スペイン)】
 バスク地方の過激な民族主義組織「バスク祖国と自由(ETA)」は11年に、スペイン政府との停戦を宣言した。だが、それまでの武装闘争による死者は1000人を超える。スペイン北部とフランスの国境にまたがる風光明媚なこの地方は、今も流血の歴史のトラウマに苦しむ。カタルーニャと違って、早期の独立に慎重なのもそのあたりに理由がありそうだ。(p.32)

1-9.
 それでも、オイアルツンなどバスク自治州の町では独立支持のポスターをよく見掛ける。州の人口は200万人余り。自治州の与党バスク国民党は自治拡大を求めているが、同党の支持者には長期的な目標として独立を望む人も多い。自治州のイニゴ・ウルクル首班はカタルーニャの住民投票を支持し、スコットランドの住民投票にもエールを送った。(p.32)

4 manolo 2015-01-21 08:15:38 [PC]

1-10. 【ウェールズ(イギリス)】
 ウェールズの独立派はスコットランドの住民投票に羨望を隠せなかった。スコットランド民族党と違って、ウェールズの独立派政党ウェールズ党は自治議会の少数派にとどまっている。それでもリアン・ウッド党首はスコットランドの住民投票が追い風になれば、16年の選挙では大躍進できると期待する。(p.32)

1-11.
「スコットランドは住民投票で一躍注目を集めた」とウッドは言う。「ウェールズも予想外の住民投票を実現すれば、ロンドンに一目置かれるはずだ」 イングランドの西にある緑豊かな丘陵地帯ウェールズ。人口300万人の約20%がこの地方独特のウェールズ語を話す。(p.32)

1-12. 【バイエルン(ドイツ)】
 昨年のバイエルン州議会選挙では、分離独立派のバイエルン民族党の得票率は2.1%。まだ少数派だが、同党の過去50%余りの歴史で最高の得票率だ。湖と古城とチロル風民族衣装で知られるこの地方でも、独立意識が徐々に高まり始めている。「独立派の勝利を心から祈る」と、バイエルン民族党のフローリアン・ウェーバー党首はスコットランドの住民投票の前に語った。「(彼らが勝利すれば)バイエルンの独立運動も盛り上がり、メディアはもはやこの問題を軽視できなくなる」 バイエルン州の住民120万人の多くはカトリック教徒。自分たちはプロテスタントの「冷酷な北部人」とは違うという意識がある。1866年の戦争でバイエルンはプロイセン主導のドイツ帝国の一部となったが、多くの住民がドイツ統一依然の伝統文化を誇りにしている。(p.32-p.33)

1-13. 【南チロル(イタリア)】
 この地方は第一次世界大戦後にイタリアに割譲されたが、今もオーストリア帝国時代の面影を色濃く残す。住民50万人の約60%は、イタリア語と並んでこの地方の公用語になっているドイツ語を母語とする。昨年の世論調査では分離独立を支持する人が46%に上まわった。経済的豊かさを謳歌するチロル地方にとっては、出口の見えないイタリアの経済危機は足かせにほかならない。「スコットランドと南チロルの独立は実現可能なだけではない」と、南チロル自由党の地方議員ベルンハルト・ジンマーホッファーは言う。「避けて通れない歴史の必然だ」(p.33)
 
1 manolo 2013-01-19 20:35:41 [PC]

出典: WEDGE、2/2013、pp.16-18(土屋大洋)

1-1. バルト三国の一角を占めるエストニアは、小国ながら先端的なITシステム国家として知られている。そのエストニアの首都タリンに、北大西洋条約機構(NATO)のサイバー戦争の研究機関で「協調的サイバー防衛研究拠点(CCD COE)」が置かれている。NATO加盟国のの軍人、研究者、法律家たちが、そこでサイバー戦争についての研究をを行っている。エストニアがCCD COEを誘致したのは、2007年4月、大規模なサイバー攻撃を受けたからである。ロシアの愛国主義者によるものと考えられる攻撃は、エストニアのメディア、金融機関、政府機関などに執拗に続けられ、数日間、それらの機能を麻痺させた。ITに依存する社会の脆弱性を世界に知らしめることにことになった。(p.16)

1-2. 現実が先行し、多様なサイバー攻撃が行われているが、国際法の世界では「サイバー戦争」はまだ明確に規定されていない。戦争とそうではない攻撃との間の線引きが行われていないのだ。サイバー攻撃にどう対応すべきか、NATOとしても最終的に決めかねたということが背景にある。しかし、サイバー攻撃に対する安全保障意識が高まっていることに変わりはない。(p.16)

1-3. しかし、現段階では、エストニアが受けたような「分散サービス拒否型(DDoS-ディードス)」と呼ばれる大量アクセスによる麻痺をねらった攻撃や、「標準型電子メール攻撃」といったものが多い。(p.17)

1-4. 【最近の国内外のサイバー攻撃】

2007年
- エストニアでの、海外からの不正アクセスが集中し、政府や金融機関のシステムが混乱
2009年
- アメリカのホワイトハウスや韓国の大統領府などのサイトに大量のデータが送り付けられ、一時接続不能に
2010年
- イランの核関連施設がウイルス「スタックスネット」に感染。遠心分離機が一時制御不能に
2011年
- 日本やアメリカでソニーがハッカー集団から攻撃され、大量の顧客の個人情報が流出
- 三菱重工業の開発拠点のサーバーがウイルス感染し、原子力、防衛装備品の情報が流出
- 衆参両院において、議員い貸与されているパソコンなどに外部から不正侵入、IDやパスワードが流出
2012年
- 財務省、最高裁判所などのホームページに不正なアクセス
(p.17)

2 manolo 2013-01-19 21:04:42 [PC]

1-5. 標的型電子メール攻撃は、巧妙な手法でコンピュータ・ウイルスをターゲットとなる組織や人間に送りつけ、そのコンピュータを乗っ取ってしまうものである。ウイルス対策ソフトを入れているから大丈夫とはいえない。本気で相手のコンピュタを乗っ取ろうとする悪者はそうしたソフトに引っかからないカスタマイズ化されたウイルスを送りつけてくる。それも、実在の人物が送ってきたように装ったり、自然に添付ファイルを開いてしまうように工夫したりされているので、多くの人が引っかかってしまい、その事実にすら気づかない。その結果、長期間にわたって内部文書が流出し、芋づる式に組織内外のコンピュータが乗っ取られてしまう。日本の軍需産業や衆参両院の議員たちも引っかかってしまった。アメリカやヨーロッパに対しても毎日こうした攻撃が行われている。(p.17)

1-6. さらに深刻なのは、通常兵器と結びついた場合である。07年にシリアの砂漠の中に建設中だった核施設を戦闘機で空爆したのはイスラエルだった。イスラエルから目的の核施設へ最短距離で到達するには、シリアの首都ダマスカスの上空を通らなければならない。しかし、イスラエルの戦闘機をシリアは素通りさせてしまった。イスラエルが事前にシリアの防空網を電子的に操作していたといわれている。(p.17)

1-7. また、イランではアフマディーネジャード政権が核開発を進めている。ところがイランの核施設の制御システムにコンピュータ・ウィルスが投入され、1000台の遠心分離器が異常を来した。「スタックスネット」と名付けたこのウイルスを誰が作り、イランに送り込んだのかは不明だったが、12年6月、米ニューヨークタイムズは、アメリカ政府とイスラエル政府が共同でイランの核開発を阻止するために行ったという記事を掲載した。(p.17)

1-8. 通常兵器と組み合わせたサイバー攻撃や、重要インフラに対するサイバー攻撃は、多大な物理的被害を引き起こす可能性がある。これからの戦争においては、サイバー攻撃が併用されることになろう。すでに北朝鮮は、韓国におけるGPS(全地球測位システム)利用を妨害するジャミング攻撃を何度となく行っている。(p.17)

3 manolo 2013-01-19 21:31:18 [PC]

1-9. 11年5月に発表された「サイバー空間のための国家戦略」のなかでアメリカは、サイバー空間における敵対行動に対して、その他の脅威の対するのと同様に対応することとし、軍事を含めたあらゆる手段を国際法に合致した形で適切に行使する権利を劉邦するとしている。また、11年7月に発表された「サイバースペースにおける作戦戦略」と題する米軍の報告書では、陸、海、空に続く第4の作戦として宇宙をとらえ、サイバースペースを第5の作戦空間であるとしている。さらにオバマ政権は、サイバー軍(USCYBERCOM)を設置し、臨戦態勢を整えている。(p.17)

1-10. 実際に米軍の中で最もサイバー攻撃を受けているのはどこかというと、意外にも輸送軍(USTRANSCOM)であると、同軍の司令官であるウイリアム・M・フレーザー空軍大将が述べている。輸送軍は、物資や人員を輸送することを目的とした部隊である。米軍や米政府機関の多くでは、内部用のネットワークに接続する外部用のネットワークを切り分けているが、輸送軍のように民間からの調達にかかわるところでは、外部用のネットワークの利用が大きくなるとともに、内部用のネットワークとの接点をどうしても作らなくてはいけなくなる。そこが米軍のアキレス権になっている。(p.17)

1-11. 自国から離れた戦場で戦う米軍にとっては、長く伸びたロジスティックが重要になる。それを支えるのがIT技術であり、そこが弱点にもなってしまう。(p.17-18)

1-12. 米軍は、サイバー攻撃に対する反撃として、あらゆる措置をとるとし、核兵器の使用さえ否定していない。レオン・パネッタ国防長官は、12年10月に行った演説の中で「サイバー真珠湾」攻撃の可能性を示唆し、国防総省だけで30億ドル(約2600億円)もの予算を投じるとしている。(p.18)

4 manolo 2013-02-11 19:06:02 [PC]

出典: ニューズウィーク日本版、2/12/2013、p.19

2-1. ジャーナリストたちは注意したほうがいい。中国要人の秘密を探ろうとすれば中国人ハッカーの逆襲が待っている――先週の米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)の記事からは、そんな警告が読み取れる。記事によれば、同社のコンピューターシステムは過去4ヶ月間、中国の人民解放軍との関係が疑われるハッカー集団からサイバー攻撃を受けていた。最も考えられそうな動機は、中国の温家宝(ウェン・チアパオ)首相の親族による蓄財疑惑を報じたことへの報復だ。

2-2. 担当した記者にとってせめてもの慰めは、NYT側もハッカーの動きをつかんでいたこと。蓄財疑惑の取材が始まった当初から攻撃を予想し、通信大手のAT&Tに自社のネットワークを監視させていた。最初にサイバー攻撃らしき動きを察知したのは蓄財疑惑の記事を掲載したその日だったという。ハッカーの狙いは、この記事の取材に協力した情報提供者の身元を割り出すことだったとみられている。幸い、「蓄財疑惑の記事に関連し、取材源などの秘密情報が含まれている電子メールやファイルが盗まれた形跡は見つからなかった」とNYTのジル・エイブラムソン編集主幹は言う。

2-3. だがそんなことは気休めに過ぎない。NTYは、サイバー攻撃を予期していながら防げなかった。ハッカー集団は、NYTの社員全員のパスワードを盗み出し、そのうち53人のパソコンに侵入した。中国担当者2人の電子メールアカウントにも入り込んだ。それどころか、ハッカーたちはまだNYTのシステムに侵入し続けている可能性もあると、サイバー・セキュリティーの専門家は言う。

5 manolo 2013-02-11 19:24:31 [PC]

2-4. ここで最も憂慮すべきは「委縮効果」だ。NYTが中国からのサイバー攻撃に遭ったというニュースが世界中に知れ渡った今、中国政府に身元がばれる危険を冒してまで取材に応じようとする反体制活動家や内部告発者は減ってしまうかもしれない。その意味で、サイバー攻撃は極めて効果的だ。言論を封殺するために、過去の権力者は報道機関を閉鎖したり記者を殺したりした。そんな汚れ仕事に手を出す必要はもうない。もっと目につきにくくて効果的な選択肢ができたからだ。

2-6. ハッカーには匿名性がある。NYTのシステムに入り込んだのが誰かを特定するのは技術的にほぼ不可能。おかげで、中国側はもっともらしくいつまでも否認し続けられる。うまくすれば、誰にも気付かれずに目的のものを手に入れることができる。情報提供者や記者の個人情報は脅迫の材料にもなる。

2-7. 国境も盾にはならない。従来、外国メディアは現地メディアに比べると政府の弾圧を受けにくかった。だが今は、世界のどこにいようと中国のハッカー集団の攻撃から逃れられない。そして残念なことに、ハッキングを完全に防ぐのはほぼ不可能だ。

2-8. この事件から学ぶべき教訓は2つある。1つは用心を怠るな、ということ。NYTの被害も、スタッフの1人が勧誘メールを装って、個人情報の入力を求める初歩的なフィッシング詐欺に引っかかってしまったところから広がったようだ。そして、自分も自分のパソコンも無防備だという自覚を忘れずに仕事をすること。取材相手にも事前にリスクを知らせるべきだろう。敵を作りそうな記事の取材をするときは、自分も同僚も情報源も常に監視されている可能性がある。それでひるむようなら、ハッカーの思う壺になってします。だからこそ、これは極めて憂慮すべき事態なのだ。

6 manolo 2014-02-04 22:52:49 [PC]

出典:The Japan Times, “Anonymous cyberhacker jailed for 10 years in U.S.”, November 16, 2013,
http://www.japantimes.co.jp/news/2013/11/16/world/anonymous-cyberhacker-jailed-for-10-years-in-u-s/#.UvDuTLnxtMs

3-1.
 A self-described anarchist and “hacktivist” in the U.S. was sentenced to 10 years in prison Friday for illegally accessing computer systems of law enforcement agencies and government contractors. Prosecutors said the cyberattacks were carried out by Anonymous, the loosely organized worldwide hacking group, and that participants stole confidential information, defaced websites and temporarily put some victims out of business.

3-2.
 Jeremy Hammond, 28, was caught last year with the help of Hector Xavier Monsegur, a well-known hacker known as “Sabu” who helped law enforcement infiltrate Anonymous. More than 250 people, including Daniel Ellsberg, who famously leaked U.S. Defense Department documents during the Vietnam war, wrote letters of support for Hammond. His lawyers had asked that he be sentenced to time served, 20 months. But U.S. District Judge Loretta Preska said Hammond’s previous hacking conviction and arrests for other smaller crimes demonstrated his disrespect for the law. She also said she was imposing the sentence sought by prosecutors because Hammond’s own words from online chats revealed his motive was malicious. In one chat, Hammond wrote that he hoped to cause “financial mayhem” with one of his cyberattacks. “I’m hoping for bankruptcy, collapse,” he said.

3-3.
 Hammond defied the judge by naming countries that had been victimized by the hacks moments after she had ruled they shouldn’t be disclosed. He later smiled and waved to his supporters in the courtroom as deputy U.S. marshals led him way through a rear door. He told the judge he hacked into law enforcement-related sites in retaliation for the arrests of Occupy Wall Street protesters. “Yes I broke the law, but I believe sometimes laws must be broken in order to make room for change,” he said. He said his hacking days are over but added, “I still believe in hacktivism as a form of civil disobedience.”

7 manolo 2014-02-04 22:53:53 [PC]

3-4.
 Hammond’s “motivation was always to reveal secrets that he believes and still believes the people in our democracy have a right to know,” the defense wrote in court papers.
The secret-spilling group WikiLeaks published much of the material Hammond is accused of having stolen. WikiLeaks chief Julian Assange had responded to Hammond’s guilty plea with a statement saying, “The Obama administration’s treatment of Jeremy Hammond is a disgrace.” In its court filings, the government said Hammond had a previous hacking conviction and “caused harm to numerous businesses, individuals and governments, resulting in loses between $1 million and $2.5 million, and threatened the safety of the public at large.”

3-5.
 A criminal complaint said he took information of more than 850,000 people via his attack on Strategic Forecasting Inc., a publisher of geopolitical information also known as Stratfor. He also was accused of using the credit card numbers of Stratfor clients to make charges of at least $700,000. On Friday, Hammond said he had targeted Stratfor because it “works in secret to protect government and corporate interests at the expense of individual rights.” He claimed the credit card charges were for donations to charities. During his guilty plea, Hammond admitted he “took confidential information” from law enforcement agencies and contractors. In a 2005 feature article about Hammond’s hacking skills, he told the Chicago Reader he was a “hacktivist” who sought to promote causes but never for profit.

8 manolo 2014-06-14 18:29:03 [PC]

出典:『日本経済新聞』、6/10/2014、「サイバー犯罪、世界経済に影 損失、最大59兆円 米CSIS」、p.12

4-1.
 米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)は9日、サイバー犯罪による経済損失が世界で年間最大5750億ドル(約59兆円)、少なく見積もっても3750億ドルに上るとの推計を発表した。

4-2.
 CSISが同日発表した報告書によると、日本については他の先進国に比べて損失が小さいと指摘。損失を過小評価している可能性と、言葉の壁が犯罪防止の役割を果たしているとの見方を併記した。

4-3.
 一般に豊かな国ほどサイバー犯罪の標的になりやすく、損失が大きい国として、ドイツとオランダを挙げた。被害の規模はそれぞれ国内総生産(GDP)の1.6%と1.5%に上るとしている。逆に、損失が小さい国は日本とオーストラリアで、GDP比の0.02%、0.08%。

4-4.
 報告書は、日本について、算定方法に問題があり、実際の損失はもっと大きい可能性があることに言及する一方、「外国のハッカーにとって日本語の理解が困難なことが自然と防御になっている」と話す日本の当局者の見解も紹介した。

9 manolo 2015-01-17 01:24:49 [PC]

出典:『日本版ニューズウィーク』、12/30/2014 & 1/6/2015、「企業を狙ったハッキングが国家安全保障の問題に」、p.17

北朝鮮パロディー映画の公開がつぶされた事件は
サイバー攻撃新時代の不吉な幕開けを告げている

5-1.
 ソニー・ピクチャーズエンターテイメントを標的にしたサイバー攻撃は象徴的な意味合いを持つ。ハッカー集団の狙いは、ソニーが制作した映画(北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)第一書記の暗殺計画を描いたコメディー『ザ・インタビュー』)をつぶすことだったようだ。この事件が物語るのは、サイバーセキュリティーとサイバー犯罪、さらにサイバー戦争が新たな段階に突入したということだ。

5-2.
 これまでさまざまな国の政府やハッカー集団、愉快犯がサイバー攻撃を行ってきたが、その目的はカネや技術や機密を盗むことだった。だが、ソニーのコンピューターに侵入した一味(北朝鮮の当局者または彼に雇われた集団とみられている)の目的は違った。彼らは表現の自由を抑圧し、アメリカの大衆文化を操作し、憲法が保障する人権を抑圧しようとしたのだ。サイバーセキュリティー大手フュージョンXのマット・デボストCEOは、サイバー攻撃が「新時代に入った」と語る。「今やカネや知的財産目当ての犯罪だけでなく、壊滅的なダメージを与えて、相手の言動を操る攻撃にも備える必要がある。」

5-3.
 実際、ソニーに対する攻撃にはそうした効果があった。劇場へのテロ予告もあったため、予定していたクリスマス公開は中止に追い込まれた。問題の映画は軽いノリの娯楽作品だが、それでもソニーが政治的な圧力に屈し、それも外国の圧力に屈したとなると、笑って済ませるわけにはいかない。金正恩が裏で糸を引いていればなおさらだ。ハッカーが集団はこの事件で味を占めて、今後も気に入らない作品をつぶしにかかるかもしれない。ソニーの決定が悪い先例になる可能性がある。

10 manolo 2015-01-17 01:25:43 [PC]

5-4.
【政府はどう対応する?】
 実は、この手の事件はこれが初めてではない。カジノ運営会社のラスベガス・サンズは14年2月、イラン人グループによるサイバー攻撃を受けた。CEOのシェルドン。エーデルソンがイランに核攻撃を行うべきだと発言したことへの報復だ。たとえ独断と偏見に満ちた発現であろうと、エーデルソンには自由に発言する権利がある。その権利を行使した「罰」として彼の会社は4000万ドルの損失を被った(ソニーの損失は1億ドルに上るとみられている)。

5-5.
 ソニーの委嘱で調査を行ったファイア・アイによると、ソニーのサーバーに侵入したのは、たびたびの北朝鮮の依頼でハッキングを行っている「ダークソウル」という組織。バンコクのホテルでWiFiネットワークを使って攻撃を仕掛けたらしい。この攻撃に対して、米政府は制裁措置を取るなど何らかの対応をすべきなのか。言い換えれば、これは企業だけで対処すべき問題なのか、外交や国家安全保障に関わる問題なのか。

5-6.
 最大の論点は、政府が介入すべき一線をどこに引くか、だ。ある銀行がハッキングで重大な被害を受けても、それは銀行の問題であって、政府の出番はない。それは誰しも認めるであろう。しかし標的となった銀行が数社、あるいは十数社にも上った場合はどうか。どの時点で、個人なり企業のリスクが国家安全保障の問題になるのか。自国の企業を外国のサイバー攻撃から守るのは政府の仕事だろうか。だとすれば、どうやって守るのか。

5-7.
 サイバー攻撃の新時代は始まったばかりだが、専門家は数十年前からこうした事態を予想していた。にもかかわらず、そのリスクについて掘り下げた議論が交わされることはなかった。ソニーの事件が起きた今、もはや先延ばしは許されない。
 
1 manolo 2015-01-16 07:54:41 [PC]


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出典:『日本版ニューズウィーク』、12/30/2014 & 1/6/2015」、「学校襲撃事件で露呈した「よいタリバン」政策の限界」、p.19

1-1.
パキスタン北西部ペシャワルの学校を襲い、145人(うち子ども132人)を殺害したイスラム武装勢力パキスタン・タリバン運動(TTP)は、今回の襲撃がパキスタン軍に対する報復だとする声明を出した。
 この事件で明らかになったのは、「良い」タリバンと見なす組織には暗黙の承認を与え、自国にとって「悪い」タリバンと見なすTTPなどには強硬路線を取るパキスタンの政府の二面性だ。TTPは、アフガニスタンのタリバンとは全く異なるグループになる。

2 manolo 2015-01-16 07:56:11 [PC]

1-2.
 アフガニスタンのタリバンは、パキスタンの庇護下にある。パキスタン自体を攻撃目標とせず、パキスタンの敵であるインドやアフガニスタン政府を攻撃する「良い」タリバンだからだ。「パキスタンの軍や警察は、パキスタンを攻撃目標とする過激派とそうでないグループを区別する」と米ウッドロー・ウィルソン国際研究センターの上級研究員マイケル・クーゲルマンは言う。「アフガニスタンのタリバンのようにパキスタンを攻撃しないグループに対し、パキスタン側が援助や協力体制を取ることもある」

1-3.
 一方、TTPは、設立当初からパキスタン政府と軍を攻撃目標とする「悪い」タリバン。ノーベル平和賞を受賞したマララ・ユサフザイを2年前に襲撃したのも彼らだ。今回の学校襲撃で、パキスタン政府にはTTPを攻撃する正当な理由ができた。だが過激派に対して矛盾する対応を長く続けることはできないという国内外の批判もある。「政府がカシミール問題やインドを攻撃する一部のジハード(聖戦)集団を美化すれば、『ジハード産業』が繁栄する」と、米国平和研究所の上級研究員ラザ・ルミは言う。「TTPはジハード産業の分派だ。すべてのタリバンがパキスタンの国益に反するという国民的合意ができるまで、この問題は解決されないだろう」

1-4.
 コラムニストのファシ・ザカは、ペシャワルの大虐殺がパキスタン政府に変化をもたらすとは思えないと言う。「こういうことは何度も起きている。耳目を集めたマララへの銃撃後も、タリバン政策の矛盾は解消されなかった」 パキスタンはタリバンを色分けするが、あまりにご都合主義が過ぎる。実際には良いタリバンなど存在しないのだから。
 
1 manolo 2015-01-14 23:28:51 [PC]


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出典:『日本版ニューズウィーク』、11/25/2014、「中国版世銀に参加せず オーストラリアの本音」、p.23

1-1.
 オーストラリアは戦略上、この話には乗らない方が賢明だと判断したらしい。先月末、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立に参加しない方針を示した。

2 manolo 2015-01-14 23:29:50 [PC]

1-2.
 AIIBは、アジア諸国に対するインフラ開発資金の援助を目的とする。インドやタイ、マレーシアなど21カ国が設立に合意し、北京に本部を置いて来年の始動を目指す。当初は意欲を示していたオーストラリアが不参加を決断したのは、明らかにアメリカと日本の圧力を受けてのことだ。AIIB構想では、資金援助を通じて中国が支配力を強めることを懸念する声が高まっていた。さらに、アメリカやその同盟国が出資する世界銀行やアジア開発銀行との競合が危惧され、日米はオーストラリアにこれらの機関で従来どおり貢献するよう求めている。

1-3.
 オーストラリアは近年、対外投資に後ろ向きになっている。昨年も、開発援助を担当してきた独立政府機関のオーストラリア国際開発庁を外務貿易省に統合して独立性を失なわせることを発表し、困惑を招いた。そんなオーストラリアが、新たな開発銀行構想に積極的に関与する意思があるとは考えにくい。AIIBは期待外れに終わるだろうと、元豪政治家のピーター・リースは米メディアで主張。非効率でお役所的な「銀行というより国連機関のような組織になりそう」だという。

1-4.
 中国がAIIBによって、債務不履行に陥った国を操り影響を及ぼすことを懸念する向きもある。アジア諸国に軍事協力を求めたり、中国マネーの流入でソフトパワーを強化したりする狙いもあるかも知れない。だが、アフリカから東南アジアに至るまで、中国は諸外国で既に数多くのプロジェクトに資金を投じている。今更アジア開発銀行に対抗する新たな機関を設立する必要性に、疑問の声も上がっている。

1-5.
 オーストラリアが不参加を表明したことは、複雑な対中観を象徴しているようだ。オーストラリアは中国と10年近く自由貿易協定(FTA)交渉を重ね、アボット政権は早期の締結を目指してきた。一方で、貿易以外の分野で中国と密接な関係を結ぶことや、米豪関係を損なうような行動は避けている。中国と貿易を強化しても戦略的には深入りしない―それがオーストラリアの本音のようだ。
 
1 manolo 2014-10-13 21:22:00 [PC]


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出典:『日本版ニューズウィーク』、10/7/2014、「香港の占拠運動はアジア版「アラブの春」?」、p.20

行政長官選挙の自由化をめぐり
中国に反発する香港市民の複雑な心理

1-1.
 香港には中国にはない素晴らしいものがたくさんある。地に根を張った民主主義。収益性の高い民間企業への経緯――。香港は自由と資本主義のとりでた。

5 manolo 2014-10-13 21:49:12 [PC]

2-4. 【独裁政権「70年限界説」】
 習の12年12月の発現を受けて、中国共産党中央宣伝部は4部構成のドキュメンタリー『ソ連崩壊20年目の追悼』を制作し、すべての党員が見るよう義務付けた。ドキュメンタリーはソ連崩壊を3つの簡潔な言葉で説明していた。腐敗、イデオロギー統制の失敗、ミハイル・ゴルバチョフ元大統領の裏切りだ。中国によるソ連崩壊の分析が正しいかどうかはともかく、明らかなことがる。中国の新指導者である習は党の未来を憂えていて、過去2年間、ソ連の轍を踏まないために重要な手を打ってきたという事実だ。(pp.30-31)

2-5.
長期にわたる独裁政権を崩壊に導く大きな要因は二つ挙げられる。まずは経済発展だ。所得増加と民主主義に相関関係があることは周知の事実。国民が豊かになるにつれて、独裁政権が生き残る確率は低くなる。30年に及ぶ2桁の経済成長を遂げた中国は、既に一党独裁の維持が危うくなる豊かさのレベルに達している。国民一人当たりの所得は購買力平価で約1万ドル。中国よりも豊かな国を見ると、「自由でない」と分類されるのは14カ国しかない(米人権擁護団体フリーダム・ハウスの調べから)。しかもそれらの国々は、ベラルーシを除いて石油マネーで潤っている。石油に恵まれた独裁者は重税を課す必要もなく、金で国民を丸め込む。だから生き残る確率は高くなる。(pp.31-32)

2-6.
しかし中国にそんな贅沢は許されない。中国経済は多様な製造業を基盤としている。税金を徴収し、国家を維持する資金を生み出さないとならない。現在、中国の総合税率はGDPの35~40%と推定されるが、社会福祉が不十分な途上国にしては極めて高い。(p.32)

2-7.
 かつてのアメリカでは、植民者にイギリス本国への納税義務はあっても本国議会への納税義務はあっても本国議会において参政権がなかったため、独立機運が高まった。「代表なくして課税なし」は独立戦争のスローガン。課税と引き換えに発言権を持つことは、いずれ現在の中国でも実現するのだろうか。(p.32)

6 manolo 2014-10-13 21:49:58 [PC]

2-9.
 経済発展のほかに、指導層の腐敗と堕落も独裁政権崩壊のきっかけになる。一党支配といった強固でよく組織化された独裁政権でも、生存期間はだいたい70~75年くらいだ。最長記録を持つソ連は74年間、次が台湾の国民党の73年間、そしてメキシコの制度的革命党(PRI)の71年と続く。中国共産党は65年間、生きながらえてきた。70年説を信じるなら、党が余命を気にし始めてもおかしくない。(p.32)

2-10.
 習も民主化と腐敗が脅威と考え、トップ就任以来、両面作戦に着手した。まずは文化大革命後の厳しい汚職追放運動だ。党は12年末から50人を超える高官と何百人もの中堅職員を汚職の疑いで告発。12年まで中国共産党最高指導部のメンバーだった周(チョウ・)永(ヨン)康(カン)や、軍のナンバー2だった徐(シュイ・)才(ツァイ)厚(ホウ)など、これまでは手が出せないとされた党や軍のトップも含まれている。さらに習は贅沢な宴会や贈答品、公用車の私的使用も禁じた。(p.32)

2-11. 【国際社会を気にしない】
 汚職追放運動の目的が党内の規律と国民の信頼の回復である一方、習は民主化運動を抑え込むイデオロギー面での容赦ない攻撃にも出た。かつて活気あった中国のソーシャルメディアに対する締め付けも始まった。有名なブロガーたちが「デマを流した」として投獄され、弾圧に怯えて口を閉ざすブロガーが増えている。各国で起きた民主化要求の大衆運動が自国に波及することを恐れ、貧しい村に図書館をつくる団体を活動中止に追い込むなど、NGOへの規制も強めている。歴代政権の弾圧をくぐり抜けてきた有力な人権活動家や弁護士が、不可解な容疑で身柄を拘束されるケースも起きている。(p.32)

2-12.
中国の民主化勢力を締め付ける習のイデオロギー政権は、もしかしたら保守派からの攻撃をかわすための巧妙な策略かもしれない。汚職にまみれた保守派の多くは習の汚職キャンペーンに激しく反発しており、習が民主派に弱腰なところを見せればすぐにも失脚させようと手ぐすね引いているからだ。ありそうな話だが、現在の反民主化キャンペーンの激しさを見る限り、中国の旧守派勢力は習の意をくんで動いているのであり、イデオロギー面の締め付けは今後も続く可能性が高い。(p.32)

7 manolo 2014-10-13 21:50:44 [PC]

2-13.
 つまり、これは中国共産党の最新の思考を反映した新たな生き残り戦略の発動なのだ。右の汚職と左の民主派を同時にたたく新戦略は、いくつかの重要な点で、過去20年以上にわたる党の国内政策を規定してきた「天安門以降」の生き残り戦略と異なっている。天安門事件以降の中国共産党にとって、正当性の唯一のよりどころは高い経済成長の維持だった。もちろん民主派の弾圧はあったが、あくまで限定的・散発的だった。一方で党の支持基盤を拡大するため、実業家などの社会的エリートに党員資格を与えた。党幹部に対しては、イデオロギー的な正しさや高い倫理基準を強く求めることはなかった。(p.32)

2-14.
 習のやりかたが、前任者たちの戦略に比べて一党独裁の延命に有効かどうかはまだ分からない。しかし今回の香港における危機にどう対処するかは、習の政治的な真意やリーダーシップを判断する一つの材料になる。習の戦略において、一党独裁死守のイデオロギー闘争の主戦場が中国本土と想定されていたことは間違いない。香港は完全に想定外だった。残念ながら、何か突発的な事態が起これば、完璧な計画でさえ頓挫することは少なくない。今の習は香港の緊張のため、危ない綱渡りを強いられている。(pp.32-33)

2-15.
 言うまでもないが、今回の危機の発端は、香港の行政長官選挙における立候補の自由を中国共産党が拒んだことにある。強硬姿勢に起こった香港の学生や民主派勢力は、大規模なデモと座り込みで当局に対抗する道を選んだ。危機に対処するにあたり、習が最も懸念するのは国際社会の反応ではない。もしも対処を誤れば、一党独裁の存続をかけ続けた自らの戦略が揺るぎかねないという嫌念だ(pp. 32-33)

2-16.【穏健派は失脚する伝統】
 そこから導き出される第1の結論は、中国側は香港の民主派勢力に譲歩しないということだ。デモ参加者たちの要求を受け入れれば、党の政治的な弱さを露呈し、中国本土にいる民主派勢力をつけ上がらせることになる。それだけではない。譲歩は一党独裁の延命を目指す習近平戦略の核となる部分――民主派勢力を恐怖で抑止することに主眼をおいた戦略――の実質的な否定につながるだろう。(p.33)

8 manolo 2014-10-13 21:52:19 [PC]

2-17.
 さらに重要なのは、習自身が香港で譲歩すれば、党内保守派から「弱腰」と非難される可能性があることだ。習がそうした事態を警戒するのが当然だ。習自身は国家主席として絶大な権力を握っているが、党上層部の政治力学は常に揺れ動いている。汚職撲滅キャンペーンで、習はあまりにも多くの敵を作りすぎた。権力の集中を急いだため、「毛沢東の再来」かと揶揄する声もある。これは危険な兆候だ。悪夢のような文化大革命が終焉して以来、中国共産党は「毛沢東の再来」をなんとしても防ごうと努めてきた。習が香港への対処を間違えれば、立場は一気に危うくなる。党の歴史を振り返れば、上層部の失脚はほぼ例外なく、党の権力に歯向かう勢力に手加減したことが原因だった。顕著な例は天安門の学生に軍隊を差し向けることに反対した趙紫陽(チャオ・ツーヤン)総書記(当時)だ。一方、強硬路線を声高に主張して憂き目に遭った幹部は一人もいない。天安門事件への対処で失態を演じながら昇進した者もいる。そうした党の歴史は、習も熟知しているはずだ。(p.33)

2-18.
 香港の抗議活動を力づくで抑え込めば、国際社会からの非難と経済制裁を受けることになるが、その影響はどうか?残念ながら、国際社会の非難くらいで中国共産党が矛先を収めるとは考えにくい。何しろ党の存亡を賭けた戦いなのだから。党上層部の多くは、もし香港で民主派を弾圧しても、中国に莫大な投資をしている欧米諸国が本気で制裁を発動することはないと、高をくくっている。もちろん経済的な損失は莫大なものになるだろうが、大部分は香港が負い、中国本土はかすり傷程度で済む。党としては、経済的な損失を香港にいる民主派のせいにして自らを正当化できる。いかなる場合でも、共産党の打算は政治的なもので、経済的なものではない。どんな犠牲を払っても一党独裁を存続させることが大事なのだ。(p.33)

9 manolo 2014-10-13 21:56:52 [PC]

2-18.
 民主派に妥協して弾圧を回避するというシナリオは考えにくいものの、習とて歴史の大きな流れには逆らえない。強硬姿勢を貫き、実力行使に出れば今回の戦いに勝てるかもしれない。だが、今後も同じような戦いががいくつも待ち受けてるだろう。恐怖と抑圧の論理が常に勝つとは限らない。周はどこかで選べなければ。自分がはたすべき歴史的な使命、残すべき遺産は何なのか。賞味期限の近づいた理不尽な制度の延命に手を貸すことなのか。それとも偉大な改革者として中国の民主国家への平和的移行を仕切ることなのか。(p.33)

10 manolo 2014-11-04 07:59:43 [PC]

出典:『The Economist』、10/4/2014、「The Party v the people」、p.13

The Communist Party fears toughest challenge since Tiananmen. This time it must make wiser decisions.

3-1.
 Of the ten bloodiest conflicts in world history, two were world wars. Five of the other eight took place or originated in China. The scale of the slaughter within a single country, and the frequency with which the place has been bathed in blood, is hard for other nations to comprehend. The *Taiping revolt in the mid-19th century led to the deaths of more than 20m, and a decade later conflict between Han Chinese and Muslims killed another 8m-12m. In the 20th century 20-30m died under Mao Zedong: some murdered, most as a result of a famine caused by brutality and incompetence.

*Taiping revolt: 太平天国

3-2.
 China’s Communist Party leaders are no doubt keen to hold on to power for its own sake. But the country’s *grim history also helps explain why they are so determined to replace the territory’s fake democracy with the real thing. Xi Jinping, China’s president, and his colleagues believe that the party’s control over the country is the only way of guaranteeing its stability. They fear that if the party loosens its grip, the country will slip towards disorder and disaster.

*grim: a. 残忍な、冷酷な

3-3.
 They are right that autocracy can keep a country stable in the short run. In the long run, though, as China’s own history shows, it cannot. The only guarantor of a stable country is a people that is satisfied with its government. And in China, dissatisfaction within the Communist Party on the rise.

3-4.【Bad omens】
 Hong Kong’s “Umbrella revolution”, named after the protection the demonstrators carry against police pepper-spray (as well as the sun and the rain), was triggered by a decision by China in late August that candidates for the post of the territory’s chief executive should be selected by a committee stacked with Communist Party supporters. Protesters are calling for the party to honour the promise of democracy that was made when the British transferred the territory to China in 1997. Like so much in the territory, the protests are startlingly orderly. After a night of battles with police, students collected the plastic bottles that littered the street for recycling.

11 manolo 2014-11-04 08:02:24 [PC]

3-5.
 For some of the protesters, democracy is a matter of principle. Others, like middle-class people across mainland China, are worried about housing, education and their own job prospects. They want representation because they are unhappy with how they are governed. Whatever their motivation, the protest present a troubling challenge for the Communist Party. They want *reminiscent not just of uprisings that have toppled dictators in recent years from Cairo, Kiev, but also of the student protests in Tiananmen Square 25 years ago. The decision to shoot those protesters succeeded in restoring order, but generated mistrust that still pervades the world’s dealings with China, and China’s with its own citizens.

*reminiscent: a. (of) 思い出させる

3-6.
 In Hong Kong, the party is using a combination of communist and colonial tactics. Spokesmen have accused the protesters of being “political extremists” and “black hands” manipulated by “foreign anti-China forces”; demonstrators will “reap what they have sown”. Such language is straight out of the party’s *well-thumbed **lexicon of ***calumnies; similar words were used to ****denigrate the protest in Tiananmen. It reflects a long-standing unwillingness to engage with democrats, whether Hong Kong or anywhere else in China, and suggests that party leaders see Hong Kong, an international city that has retained a remarkable degree of freedom since the British handed it back to China, as just another part of China where critics can be intimidated by accusing them of having shadowy ties with foreigners. Mr Xi, who has long been closely involved with the party’s Hong Kong policy, should know better.

*well-thumbed: a. 手あかで汚れた
**lexicon: n. 語彙
***calumny: n. 中傷
****denigrate: v. 中傷する

3-7.
 At the same time the party is resorting to the colonialists’ methods of managing little local difficulties. Much as the British―*excoriated by the Communist Party―used to buy the support of tycoons to keep activism under wraps, Mr Xi held a meeting in Beijing with 70 of Hong Kong’s super-rich to ensure their support for his stance on democracy. The Party’s supporters in Hong Kong argue that bringing business onside is good for stability, though the resentment towards the tycoons on display in Hong Kong’s streets suggests the opposite.

*excoriate: v. 激しく非難する

12 manolo 2014-11-04 08:03:59 [PC]

3-8.
 Yet the combination of *exhortation, co-option and tear gas have so far failed to clear the streets. Now the government is trying to wait the protesters out. But if Mr Xi believes that the only way of ensuring stability is for the party to reassert its control, it remains possible that he will authorise force. That would be a disaster for Hong Kong, and it would not solve Mr Xi’s problem. For mainland China, too, is becoming restless.

*exhortation: n. 勧告
**co-option: n.

3-9.
 Party leaders are doing their best to prevent mainlanders from finding out about the events in Hong Kong. Even so, the latest news from Hong Kong’s streets will find ways of getting to the mainland and, and the way this drama plays out will shape the government’s relations with its people.

3-10.
 The difficulty for the Communist party is that while there are few sign that people on the mainland are hungering for full-blown democracy, frequent protest against local authorities and widespread expressions of anger on social media suggest that there, too, many people are dissatisfied with the way they are governed. Repression, co-option and force may succeed in silencing the protesters in Hong Kong today, but there will be other demonstrations, in other cities, soon enough.

3-11.【A different sort of order】
 As Mr Xi has accumulated power, he has made it clear that he will not tolerate Western-style democracy. Yet suppressing popular demands produces temporary stability at the cost of occasional devastating upheavals. China needs to find a way of allowing its citizens to shape their governance without resorting to protests that risk turning into a struggle for the nation’s soul. Hong Kong, with its history of free expression and semi-detached relationship to the mainland, is an ideal place for that experiment to begin. If Mr Xi were to grasp the chance, he could do more for his country than all the emperors and party chiefs who have struggled to maintain stability in that vast and violent country before him.

13 manolo 2015-01-14 23:03:47 [PC]

出典:『日本版ニューズウィーク』、12/9/2014、「追い詰められた香港デモ 共産党は勝利者なのか」、p.14

拠点は撤去され、リーダーが逮捕された「雨傘革命」だが
この運動は中国指導部の挫折の始まりかもしれない

4-1.
 わずか18歳で香港の民主派デモを指揮した黄之鋒(ホアン・チーフォン)は、間違いなくこの「雨傘革命」の顔だ。だが黄はヒーローになり切れなかった。商売を邪魔しているという市民からの申し立てに基づき、デモ隊が1ヵ月半立て籠もり続けた繁華街・旺角(モンコック)のバリケードが先週撤去され、黄も警官隊に逮捕された。翌日釈放された黄は、若者2人から顔に生卵を投げ付けられた。

4-2.
 17年の香港特別行政区の行政長官選挙をめぐり、誰でも出馬できる普通選挙を求める民主派と、民主派の立候補を阻止したい共産党の対立から始まった今回のデモは一時「89年の天安門事件の再来になる」とみられた。共産党にとって完全な自由選挙は到底受け入れられず、一方で、流血の事態になれば、再び世界から経済制裁を受けかねない。しかし、香港では今のところ、大規模な流血は起きていない。デモ隊はその後も旺角で警察と衝突を続けているが、黄ら学生リーダーは香港政府との直接対話を再開するめどもなく、内部分裂で運動は手詰まりになっている。最後まで学生に主導権を渡さなかった行政長官の梁振英(リャン・チェンイン)、そして絶対に妥協しない姿勢を示していた習近平(シー・チンピン)国家主席の高笑いが聞こえるようだ。

4-3.
 しかし共産党は本当に「勝利」したのだろうか。香港中心部をデモ隊が占拠する半年前、約800キロ離れた台北で学生が立法院(国会)を占拠するヒマワリ学生運動が起きた。彼らが直接批判したのは、中国とのサービス貿易協定をめぐる国民党政権の強引な対応だが、その背後にいるのは大陸の共産党政権だ。台湾の学生たちは、中国大陸との経済関係が強まることで、いずれ台湾の民主政治や言論の自由が失われることを恐れていた。

14 manolo 2015-01-14 23:07:11 [PC]

4-4.
 今回の香港デモが求めたのも、共産党政権の価値観とは相いれない制限なき普通選挙だった。同じ1年の間に、台湾と香港で共産党に対して、自由や民主主義を守ろうとする政治運動が起きたのは、偶然か必然か。「台湾と香港は共に、中国の経済的恩恵とセットになった自由の縮小、民主の後退というリスクに直面している」と、台湾の社会学者・林宗弘(リン・ツォンフォン)は言う。「似たような状況にあれば社会運動が起きる確率は高くなる」

4-5.
 これまで共産党は圧倒的な経済成長を背景に、香港と台湾に「同一化」を迫ってきた。香港では12年に、中国人としての愛国心を育成する教育を小学生に押し付けようとの動きがあった(今回のデモで活躍した黄らから猛抗議を受けた)。台湾で08年に親中派である国民党の馬英九(マー・インチウ)が総統に当選し、いまだに政権を維持しているのは、大陸への貿易依存度が3割に達していることと無縁ではない。

4-6. 【馬は風の変化を読んだ?】
 一方で、中国との経済関係の強化は、台湾や香港で格差の拡大や若者の就職難というデメリットももたらしている。さらに今まで育んできた自由、そして民主主義という価値観が奪われかねないとなれば、台湾や香港の人々が反発するのも当然だ。空気の変化を何より雄弁に物語るのが、親中派と見られていた台湾の馬総統の言葉だ。香港デモについて馬は「中国は普通選挙による行政長官選出という約束を守るべきだ」と、あえて共産党政府を批判した。低支持率にあえぐ馬なりの打算もあるだろうが、台湾世論の風向きの変化を感じ取っているはずだ。

4-7.
 香港と台湾の学生デモは共産党の一党独裁によって、挫折の始まりなのかもしれない。当の共産党だけでなく、敗北したかに見える黄ら学生リーダーも気付いていないかもしれないが。
 
1 manolo 2014-10-20 22:08:20 [PC]


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出典:『日本版ニューズウィーク』、10/21/2014、「無人軍用車が変える未来の地上戦」、pp.42-44

戦争 紛争地帯を飛び交う無地航空機に続いて
陸上でも遠隔操作で動く軍用車両が導入されている

1-1.
 戦争の未来が見えてきた。もはや最前線に重装備の兵士はいない。先頭に立って目を光らせ、敵の奇襲に反撃するのは無人走行車両(UGV)。イラクやアフガニスタンの戦争でその名をはせた無人航空機(UAV)の地上バージョンだ。既にイスラエル軍は、遠く離れた安全な場所から無線操縦できるUGVを配備している。(p.43)

2 manolo 2014-10-20 22:10:42 [PC]

1-2.
 米軍事産業大手のオシュコシュは暗闇での戦闘状況を見極める能力が人間より高い軍用車両の自動操縦技術を開発。現在、米海兵隊がこの技術をテストしている。空の無人機で実績のあるロッキード・マーティンも軍用車両の自動操縦に取り組み、海兵隊と陸軍が共同でテストを行ってきた。専用車両も開発し、メサ・ロボティクスやキネティク・ノースアメリカといったベンチャー企業の製品ともども、米陸軍でテスト中だ。(p.43)

1-3.
 国防総省の防衛先端技術研究計画局(DARPA)がボストン・ダイナミクス社と共同開発した「アルファ・ドッグ」は四足歩行ロボットで、最大180キロの器材を背負って連続32キロの走行が可能だ。英軍も先に、敵の障害物を破壊しつつ、戦場で塹壕を掘れるBAEシステムズの装甲掘削車両「テリア」60台を購入している。テリアは通常人間が乗り込んで運転するが、遠隔操作による無人走行も可能だ。「こうしたUGVがあれば、われわれは戦場で間違いなく優位に立てる」と、英国国防省筋は言う。「監視・警戒・爆発物処理の機能を搭載したUGVを前に置けば、兵員の安全と行動の自由を確保できる」(p.43)

1-4.
 イスラエルは国境警備にUGV「ガーディアン」を使っているが、来年には新たな車両「ボーダー・プロテクター」の導入を予定している。パレスチナ自治区ガザ地区の境界パトロールに使われるこうしたUGVは、仕掛けられた爆弾を察知し、銃声に「聞き耳」を立て、銃弾の飛んできた方角を瞬時に割り出すことができる。(p.43)

1-5. 【物資輸送の支援に期待】
 戦場の光景は様変わりするだろう。空の無人機は「航空戦と対テロ戦に革命的な影響を与えた。UGVも地上戦に同じような影響を及ぼし得る」と、元英陸軍准将で現在は英国戦略研究所の上級研究員を務めるベン・バリーは予測する。英軍は以前から、UGVを爆弾処理に使っている。イラクとアフガニスタンで戦う多国籍部隊にとって、さまざまなUGVは欠くことのできないツールとなってきた。米戦略国際問題研究所の最近の報告によると、米軍が保有する各種のUGVは既に数千万台に上る。(p.43)

3 manolo 2014-10-20 22:12:14 [PC]

1-6.
 現在テスト中のUGVの機能は格段に進歩している。その多くは最高時速64キロで戦場を走り回ることができる。兵士に食べ物や爆弾を供給したり、敵の爆弾の爆発を阻止したりもする。最近の試験走行では、オシュコシュのテクノロジーを導入した海兵隊の輸送車両の半数が、悪路のコースを運転手なしで走行できたという。陸軍もロッキード・マーティンのシステムを組み込んだ車両で同様の無人走行試験に成功している。(p.43)

1-7.
 運転手を必要としないシステムの最大の利点は何か。米軍の武力支援・補給部門の研究開発を統括するアルモンド・トーマス少尉によれば「人間のような持久力の制約がない」点だ。つまり、遠隔操作で走行するUGVは24時間休みなく動ける。人間の運転手と違って睡眠や休息を必要としないからだ。軍の最も重要な活動の1つである物資の輸送でもUGVは重要だ。どんなに優秀な兵士がそろっていても、食料と弾薬が安定的に供給されなければ戦えない。だが何台も連なって走行する物資輸送の車両は非常に目立つ。アフガニスタンでもイラクでも、敵は輸送の車列を執拗に攻撃してきた。(pp.43-44)

1-8.
 最近も、アフガニスタンに向かうNATO(北大西洋条約機構)軍の補給部隊がパキスタンのペシャワルで民兵に攻撃され、運転手の2人が殺された。イラクとアフガニスタンでは03~07年の間に、補給部隊への攻撃で米軍兵士と請負会社の要員300人以上が死亡している。UGVで物資輸送の車列を支援できれば、従来は車列の警備に充てていた兵士を戦闘任務に回せる。「自律型のUGVシステムがあれば、われわれの戦闘能力は飛躍的に高まる。様々な任務や脅威に柔軟かつ適切に対応できる」と言うのは、陸軍で戦車・車両の研究開発を指揮するポール・ロジャースだ。(p.44)

1-9.
 結果として戦場に赴く人間の兵士は少なくて済むことになる。当然戦死者も減る。「UGVの開発を支持する大きな推進力になっているのは、犠牲者を減らしたいという願望だ」とバリーは言う。オシュコシュの社長で元陸軍少将のジョン・ユライアスに言わせると、UGVは現場の指揮官にとって願ってもない助っ人だ。「部下の命を失うのは、指揮官にとって最もつらいこと」だからだ。「しかし車なら簡単に交換できる」(p.44)

4 manolo 2014-10-20 22:13:51 [PC]

1-10. 【「開戦」の定義に疑問が】
 兵士が命を落とすリスクを先端技術で減らす。技術の進歩で、それが実現可能になりつつある。イスラエル軍や英軍に続いて、米軍も普通の自動車サイズ並みのUGVを実戦配備する日は近いだろう。今の米軍が主として相手にするのは、自爆攻撃も辞さない武装勢力だ。彼らは補給部隊の車列をよく標的にする。だから無人トラックによる補給は効果的な対策だろう。そうなれば生身の兵士は、トラックに燃料を積んだら遠くからリモコン装置を操るだけで済むわけだ。(p.44)

1-11.
 使い捨ての多目的UGVは、戦争の在り方を変えることにもなる。「開戦を望む政府が世論の支持を得ようとするとき、予想される死傷者数が抑制因子として働いてきた」と指摘するのは、マサチューセッツ大学ローウェル校准教授で、戦争倫理に詳しいジョン・カーグだ。「これまで地上部隊が果たしてきた役割の多くをUGVが代行するようになれば人命の損失リスクが減り、政策決定者へのブレーキが利きにくくなる」 一方で、開戦の定義に関する疑問も引き起こす。交戦能力を持つUGVを国境地帯に配備すれば、それだけで相手方に脅威を与えるから、開戦の意思表示となるのか?(p.44)

1-12.
 UGVに人間を攻撃させるのが倫理的に許されるかという疑問もある。ある国の軍隊が反政府勢力にUGVを差し向けた場合、反政府勢力は機械と対決しなければならなくなる。国の軍隊がUGVを所有していれば、世論は人間の兵士よりUGVを投入するように求めるだろう。しかし反政府勢力側も、UGVを使った自爆攻撃を仕掛けてくるかもしれない。(p.44)

1-13.
 オシュコシュで無人システムの開発を指揮するジョン・ベックによれば、開発の次なる目標はUGVの動きをもっと自然にし、敵の目には有人か無人か分からなくすることだ。敵がUGVを避けて有人車両だけを狙うようでは困るからだ。(p.44)

5 manolo 2014-10-20 22:15:24 [PC]

1-14.
 無論、UGVの開発はそれだけでは終わらない。昨年、米陸軍が行ったテストでは、最新鋭のUGVが所定の標的に接近し、発砲し、無事に基地へ戻ってきた。つまり戦闘用UGVの実用化も近いということだ。そうなれば人間の犠牲は減らせる、だが人間とロボットには決定的な違いがある。人間は引き金を引く際に、発射したらどうなるかが頭をよぎる。一方、ロボットが結果を熟慮することはない。だから破壊と暴力を制限するよりも、増大させる結果になるかもしれない。「UGVが自律的殺人兵器になるまでには、まだ時間がかかる」とカーグは言う。「だからこそ、いま考えるべきだ。指揮官がロボットに命令を下し、ロボットが人を殺したら、誰の責任なのか。それが現実になる時代はすぐそこまで来ている。」(p.44)