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Tokon Debatabank II

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スレッド名コメント作成者最終投稿
従軍慰安婦2 manolo 2014-03-23 13:17:42 manolo
宗教と教育6 manolo 2014-02-04 22:27:40 manolo
積極的差別是正措置(アファーマティブ・アクション)6 manolo 2014-02-03 23:31:32 manolo
タイの反政府デモ6 manolo 2014-02-03 23:10:37 manolo
首相靖国参拝11 manolo 2014-02-01 19:39:37 manolo
通信傍受8 manolo 2014-01-27 06:58:37 manolo
暴力団犯罪4 manolo 2013-12-11 03:07:20 manolo
労働組合9 manolo 2013-11-26 21:09:30 manolo
サウジアラビアの女性差別3 manolo 2013-11-20 16:52:34 manolo
ヘイト・スピーチ23 manolo 2013-10-31 07:50:55 manolo
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1 manolo 2014-03-23 13:14:39 [PC]


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出典:『Newsweek』2014

1-1.
 慰安婦問題に関する日本のメディアの世論調査が波紋を広げている。フジニュースネットワークと産経新聞が先週公表した合同世論調査で、第二次大戦中の慰安婦募集の強制性を認めた93年の「河野談話」について、66.3%が「政府や国会は調査のあり方や談話の経験を検証すべきだ」という答えも58.6%に上った。

1-2.
 米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は「(フジ産経グループ)の政治的傾向や質問方法からして、この調査の数字がどの程度一般市民の感情を反映を反映しているか」と疑問を投げ掛けた。だが、検証や見直しを求める声は党派を超えて広がりつつある。調査結果によれば、共産党支持層の64.1%、無党派層の68.5%など、すべての政党支持層で「検証すべき」が「思わない」を上回った。「見直し」もみんなの党支持層以外は広範な支持を得た。一方、「集団的自衛権行使」「原発再稼働」などに関しては、支持政党で回答が分かれた。憲法改正に自民党支持層の64.1%が賛成したが、公明党支持層の賛成は37.8%。この結果を見れば、フジ産経グループの調査が政治的に偏向したとは必ずしも言えない。

2 manolo 2014-03-23 13:17:42 [PC]

1-3.
 慰安婦問題に詳しい津田塾大学教授の菅野稔人は「党派を問わず、日本人は韓国政府のやり方にうんざりしている」と分析する。河野談話でも納得しない韓国に対して、95年に社会党(現社民党)の村山富市首相はアジア女性基金による見舞金で解決策を図ったが、元慰安婦たちは国家賠償を求めて受け取りを拒否。「韓国政府は今ではフランスの国際マンガ際で慰安婦の宣伝までする。日本人の多くはいつまで続くのか、と不信感を抱いている」と、菅野は言う。今回の世論調査のきっかけは、事務方トップとして河野談話作成に関わった石原信雄元官房長官の国会証言。石原によって、談話の基礎となった元慰安婦たちの証言に裏付けがなかったことが明らかになり、菅善偉官房長官が検証を支持した。

1-4.
 韓国各紙は「韓日関係が破綻する」と批判し。朴槿恵(パク・ク・ネ)大統領は「日本の孤立を招く」と牽制し、日本の元村山首相も「詮索は無意味」と反発した。こうした「検証すら許さない」空気こそが河野談話への不信と見直し論に拍車をかけてきたのだが。
 
1 manolo 2013-02-05 20:11:39 [PC]

出典: 『宗教と現代がわかる本 2011』、渡邊直樹[責任編集]、平凡社、3/11/2011、pp.238-241(「テキサス州の教科書論争と宗教の関係、藤原聖子」)

1-1. オバマ政権誕生とともに、アメリカ人が宗教離れを起こしている、あるいはブッシュの支持基盤だった宗教保守に意識の変化が生じているといった報道が続いた。しかし、二〇一〇年に入って目立ってきたのは、追いつめられた宗教保守の中から過激な行動をとる人が出てきたことである。同時多発テロ事件から九年目にあたる九月一一日を前に、フロリダ州であるプロテスタントの牧師がクルアーンを焼くと挑発する事件が起きた。ニューヨーク市では、世界貿易センタービル跡地近くにモスクを建設する計画への反対が高まり、反イスラム感情が再燃した(フロリダ州の事件を受け、実際にクルアーンを焼いてみせる者も現れた)。(p.238)

1-2. これらに比べると日本ではあまり報道されていないが、アメリカで大論争を呼んだニュースの一つに、テキサス州教科書問題がある。一言でいえば、保守勢力が、歴史教科書をはじめとする社会科教科書を右寄りに書き換え、「キリスト教国家」としてのアメリカン・アイデンティティを鮮明化しようとしているのである。これが「一部の過激派の暴走」と見るだけで済まされないのは、人口が多いテキサス州で採用される教科書は、ほぼそのまま他州でも使用される傾向があるためである。「売れる教科書」はテキサス州に合ったものであり、製作コスト削減のためにそれが大量に作られるのだ。つまり、教育理念ともイデオロギーとも直接関係ないマーケティング事情により、アメリカの歴史教科書の内容が変えられてしまうのではという懸念があるのである。(p.238)

2 manolo 2013-02-05 20:26:47 [PC]

1-3. テキサス州では一〇年ごとにカリキュラム基準が見直され、それに従って教科書も改訂される。基準案はまず教員等の専門家グループが作り、それに対して州教育委員会が意見を出す。今年に入って明らかになったのは、小・中・高校の社会科のカリキュラム案に対して、教育委員会が前例のないほど多数の修正を求めたことである。教育委員会の構成は、保守的な共和党氏支持者一〇名、民主党支持者五名で、前者のリーダーは自分を「ガチな創造説を支持するキリスト教原理主義者」と呼んではばからない歯科医であった。その後、委員は改選されるものの、保守派の優位は変わらず、五月には一〇〇以上の修正箇所を含む新基準が採択された。それはもう、リベラル派の教員たちに言わせれば「歴史の書き換え」に等しい分量だった。(pp.238-239)

1-4. 社会科、とくに歴史の教科書がイデオロギー対決の場になるのは、国の彼此を問わない。テキサスの保守派の言い分は、「むしろこれまでの教科書が左寄りに偏っていたのであり、われわれはバランスをとろうとしているだけだ」というもので、そこは「新しい歴史教科書を作る会」と似ている。だが、日本の歴史教科書論争がもっぱら大戦の位置づけをめぐって展開してきたのに対し、こちらは宗教的に動機づけられた要求が目立つ。(p.239)

1-5. それは具体的には、建国におけるキリスト教の役割を強調し、アメリカは正教分離の国だというのを自明視しないでほしいというものである。(中略)すなわちアメリカ建国の理念は啓蒙主義だけでなく、キリスト教に根ざすこと。たしかに憲法には聖書の語句はちりばめられていないが、独立宣言には「創造主Creator」「自然の法や自然の神の法」「神の摂理」といった言葉が使われおり、これと憲法の理念は不可分であること。「政教分離([wall of] separation between church and state)」という語は、トマス・ジェファーソンが書簡で用いただけで、憲法にも建国文書にも見られないこと。ジェファーソンは建国の父の中では異分子であり、よって、アメリカの独立・憲法起草に影響を与えた人物のリストから外すべきこと。これらの修正により、アメリカが憲法上は政教分離でないことを正当化できれば、公立校でキリスト教の集団礼拝をしてもよいし、官公庁に十戒の刻まれた碑を設置してもよいことになると、彼らは教科書改訂の社会的影響に期待している。(pp.239-140)

3 manolo 2013-02-05 20:40:32 [PC]

1-6. そして、彼らの言うキリスト教国家は、内実としては白人国家である。アフリカ系(黒人)初の米最高裁判事サーグッド・マーシャルやメキシコ系(ヒスパニック)の労働運動指導者セサール・チャベス等を偉人のリストから排除せよ、非暴力のキング牧師だけでなく、暴力的なブラック・パンサー党にも言及せよと、いった指示を出している。(p.240)

1-7. 逆に保守派の著名人や団体の記述を増やしてほしいと、フィリス・シュラフリー(反フェミニズム運動家)やモラル・マジョリティ(キリスト教保守派の政治団体)、全米ライフル協会等を挙げている。マッカーシーの「赤狩り」に対する肯定的評価も焦点の一つである。(p.240)

1-8. 従来の歴史解釈は、建国の父と呼ばれる政治家たちの宗教観は*理神論に大きく影響されていたというものだった。だが、かりに保守派委員が言うように、彼らが敬虔なプロテスタントだったとしても、そこから彼らがアメリカを政教一致のキリスト教国家にしようとしていたと導き出すのは論理の飛躍である。彼らは自分の経験に照らしても、特定の信仰を持つ政治家がすべての宗教・宗派に平等に接することができるとは思えず、だから国家が宗教に介入することを極力排除しようとした、ともいえるからである。実際、信教の自由を謳う修正第一条を歴史的コンテキストに置くならば、そのような解釈が妥当だという説がある。(pp.240-241)

*理神論
啓蒙主義において登場した、合理的に神をとらえる思想。神の存在は認めるが、それを人格神とはせず、奇跡や啓示を信じない。(p.240)

4 manolo 2013-02-05 20:52:53 [PC]

1-9. 今後、教科書が電子化すれば、出版社が州ごとに教科書の内容を変えることも容易になるため、テキサス州の影響力は弱まるという意見もある。しかし、実のところ教科書に異議申し立てをしている宗教団体は、テキサスの保守派プロテスタントだけではない。他州でもイスラーム、ユダヤ教、ヒンドゥー教団体等が、教科書中の自分たちのイメージを好転さえようと運動している。そういった宗教勢力と、歴史学専門家の集団の中で軋轢が生じている。かつては歴史学者の見解はゆるぎなき権威だったが、今は、学校も企業の一つであり、そのステークホルダーである親や地域住民の要望に応じるべきという考えが広がっている。テキサス州教育委員会を支えるクリスチャンの親たちや各種宗教団体は、そのようなステークホルダーでもあるのだ。(p.241)

1-10. 「皆で教育を考えるのが民主主義だ」という掛け声が、「宗教を教育に介入させるな」という制止の動きを鈍らせるという、ねじれた現象が起きている。従来の右・左の図式に収まらない対立が、教科書をめぐって展開されているのである。(p.241)

5 manolo 2014-02-04 22:25:11 [PC]

出典:Reuters, “Evolution lessons in Texas biology textbook will stay, board says”, Lisa Maria Garza, December 18, 2013, http://www.reuters.com/article/2013/12/19/us-usa-texas-evolution-idUSBRE9BI02L20131219

2-1.
 A panel of experts has rejected concerns by religious conservatives in Texas that a high school biology textbook contained factual errors about evolution and a state board approved the book on Wednesday for use in public schools. The debate over the Pearson Biology textbook was the latest episode of a lengthy battle by evangelicals in Texas to insert Christian and Biblical teachings into public school textbooks.

2-2.
 Two years ago, conservatives pushed for changes in history textbooks, including one that would have downplayed Thomas Jefferson's role in American history for his support of the separation of church and state. That effort was unsuccessful. The second-most populous U.S. state, Texas influences textbook selections for schools nationwide. In the case of the biology book, an unidentified volunteer reviewer complained to the Texas State Board of Education that it presents evolution as scientific fact rather than a theory, which conflicts with the creation story written in the Book of Genesis in the Bible.

2-3.
 The reviewer concluded that the text, which includes lessons on natural selection and the Earth's cooling process, are errors that needed to be corrected by publisher Pearson Education, one of the nation's largest producers of school textbooks and a unit of Pearson Plc. The opinion caused the board to delay approval of the textbook and appoint a three-member panel of science experts to analyze the book's lessons and report any factual mistakes.

6 manolo 2014-02-04 22:27:40 [PC]

2-4.
 "The professors didn't recommend any changes so the book is now approved," Texas Education Agency spokeswoman Debbie Ratcliffe said in an email. "Schools can purchase it this spring for use in the fall." Until the expert panel ruled, Pearson was not able to market its book as approved by the board to school districts in Texas. The state's more than 1,000 public school districts are permitted to order their own books and materials, but most follow the state-approved list.
 
1 manolo 2014-01-28 01:37:03 [PC]


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出典:『よくわかる法哲学・法思想』、深田三徳・濱真一郎編著、ミネルヴァ書房、5/20/2007(「第3部 I-3 「積極的差別是正措置」)、小久見祥恵、pp.166-167

1-1. 【1. 積極的差別是正措置とは何か】
 過去の差別や抑圧を禁止し、世界の国々で法の下の平等が保障される現在もなお、差別解消への取り組みは緊急の課題であり続けている。差別解消への取り組みの一つとして、*アファーマティブ・アクション(affirmative action)ないしポジティブ・アクション(positive action)といった積極的差別是正措置が挙げられる。アメリカ合[衆]国では1960年代以降、人種や性別等を理由に過去に差別を受けてきた集団の成員(人種的・民族的マイノリティや女性)を、雇用や高等教育機関(大学や大学院)への入学等の場面で優先的に扱うアファーマティブ・アクションが実施されてきた。ヨーロッパでもまた「ポジティブ・アクション」と呼ばれる広い意味でのアファーマティブ・アクションとして、とりわけ女性の優遇措置が実施されてきた。そしてわが国では、男女雇用期間均等法、男女共同参画社会基本法の下で、ポジティブ・アクションの実践が検討されている。(p.166)

2 manolo 2014-01-28 01:39:34 [PC]

*アファーマティブ・アクションないしポジティブ・アクション
積極的差別是正措置は、おもにアメリカ、カナダ、オーストラリア、フィリピンではアファーマティブ・アクションと呼ばれるが、両者の間に本質的な違いはない。わが国では、男女共同参画社会基本法の中で「積極的改善措置(ポジティブ・アクション)」という語が用いられている。(p.166)

1-2.
 アファーマティブ・アクションないしポジティブ・アクションといった積極的差別是正措置は、差別による経済的格差や教育格差の解消といった利点を有するものの、様々な批判もつきまとう。各国でこれらの措置の合憲性が裁判上争われてきたことが示すとおり、これら積極的差別是正措置をめぐる問題は、財の配分に関わる正義の観念や、平等の理念についての重要な論点を含んでいる。(p.166)

1-3.
 積極的差別是正措置は、その目的、根拠となる法律、実施主体及び方法の異なる様々な措置を含む。アメリカ合[衆]国における教育機関入学時の優遇措置をみれば、入学試験の合格点のラインで優遇措置の対象となるグループの受験生と、対象とはならないグループの受験生が並んだ場合、前者を優先する、という措置は比較的緩やかな措置である。厳格な措置としては、優遇措置の対象となるグループに属する受験生に対して総合的な点数を加点する措置(プラス方式)や、定員の一定割合を黒人などの人種的マイノリティや歴史的に差別されてきた集団に割り当てる措置(割り当て方式、クォータ方式)がある。各々の措置の目的もまた、学生集団の多様性を確保する目的と、過去の差別による不利益を排除する目的とに区別することが可能である。(pp.166-167)

1-4.
 女性に対するポジティブ・アクションも同様に多様な措置を含む。職業訓練及び支援などは穏やかな措置であるのに対し、国・地方議会の議席の一定の割合を女性に割り当てる*クォータ制は厳格な措置としてあげられる。しかし、フランス、イタリア、スイスでは、**裁判所がクォータ制に対して憲法違反の判断を下しており、またアメリカ合[衆]国連邦最高裁も方法や目的の違いによって、措置の合憲性に関する異なる判断を下してきた。(p.166)

*クォータ制
議員の議席の一定割合を女性に割り当てる措置の他に、名簿式比例代表制選挙における女性の候補者の割合を定める措置などが含まれる。

3 manolo 2014-01-28 01:43:05 [PC]

**アファーマティブ・アクションの合憲性をめぐりアメリカ合[衆]国最高裁は1978年のバッキ判決(Regents of Uni[v]ersity of California v. Bakke, 438 U.S. 265, 1978)において初めてアファーマティブ・アクションについて判断を示した。バッキ事件ではメディカル・スクールの入学定員100名のうち、16名分をマイノリティに割り当てるプログラムの合憲性が争われ、裁判官の間で意見が分かれた。結果として違憲の判断が下されたが、「割り当て制は許されないが、学生集団の多様性を達成するために人種を考慮することは正当化される」としたパウエル裁判官の見解は、その後、広く実施されるアファーマティブ・アクションの正当化の根拠となった。最高裁は、企業の雇用におけるアファーマティブ・アクションに関する判断を含め、バッキ判決以降アファーマティブ・アクションについて14の判決を下してきた。近年では、グラッター判決(Grutter v Bollinger, 539 U.S. 306. 123 S. Ct. 2325, 2003)で、ロースクールの入学者選抜方法が合憲と判断され、グラッツ判決(Gratz v. Bolinger, 539 U.S. 244, 123 S. Ct. 2411, 2003)では学生の入学者選抜方式はともにプラス方式を採用していたが、後者では機械的に点数をプラスしたこと、並びに個人としての考慮ではなく、ある集団への所属が考慮されたことが違憲判決に結びついた。(pp.166-167)

1-5. 【3. 積極的差別是正措置の課題】
 積極的差別是正措置一般に関しては、逆差別である、という批判が向けられたことがある。とりわけ2で挙げた厳格な措置の場合、優遇されない側に過度の不利益を与える点で差別的取扱いにあたる、という批判がしばしば向けられる。法の下の平等の保障は、人種や性別などの特質によって不利に扱われないことを保障しているため、優遇措置は平等に反するおそれがある。しかしそもそも平等は各人を一律に同じに扱うことを(equal treatment)ではく、「対等者として扱うこと(treatment as equal)」を意味していると理解されるため、異なる取り扱いが必ずしも平等を侵害するわけではない。むしろ積極的差別是正措置は「対等者として扱うこと」にあたる「平等」を保障する措置にあたる。(p.167)

4 manolo 2014-01-28 01:43:33 [PC]

1-6.
 しかし、積極的差別是正措置が平等を保障する措置として正当化されるとしてもなお、その手段が目的に合致しない場合もある。例えば黒人や女性が、人種や性別に基づく過去の差別を理由に、現在優遇されるとする。黒人や女性の集団を、白人の男性の集団と比較すれば、社会的・経済的地位が低いかもしれない。しかし、中には恵まれた地位にある黒人や女性がおり、それとは反対に社会的・経済的地位の低い白人男性もいる。この白人男性にとってみれば、区別ゆえの不利な取り扱いを受けることになる。(p.167)

1-7.
 また、積極的差別是正措置に対するもう一つの強力な批判として、優遇される側にスティグマ(=劣等の烙印)を押し付ける危険性を孕む、という批判がみられる。優遇するためとはいえ、黒人や女性を「劣っている」人々としてとして扱うために過去に用いた基準を、現在も維持し続ける点が危惧される。積極的差別是正措置の実施に際しては、これらの批判を踏まえ、前項でみたような措置の方法や期間についての慎重な検討が要請される。(p.167)

5 manolo 2014-02-03 23:30:44 [PC]

出典: BBC News, “Texas affirmative action case heard by US Supreme Court”, October 10, 2012, http://www.bbc.co.uk/news/world-us-canada-19899036?print=true

2-1. [The US Supreme Court has challenged the consideration of a student's race in public university admissions policies.]
 The court heard an appeal brought by a white student denied a place at the University of Texas in 2008. A ruling for Abigail Fisher could affect so-called affirmative action programmes elsewhere, analysts say. The Supreme Court upheld the use of race in admissions in a 2003 ruling, but the court has become more conservative in the past nine years. Justice Sandra Day O'Connor, who wrote the decision on the 2003 University of Michigan case, has since retired. Her successor, Samuel Alito, opposes the use of racial preferences in admissions.

2-2. ['Race above all'?]
 Justice Alito and Chief Justice John Roberts asked probing questions about details of the University of Texas admissions policy and when race could become a deciding factor between otherwise similar applicants. The chief justice also asked the university's lawyers how judges would be able to tell when the college achieved a "critical mass" of diversity on campus. He added later in the session: "I'm hearing a lot about what it's not. I would like to know what it is." Justice Anthony Kennedy, often seen as a deciding vote between the court's liberal and conservative justices, has also never voted in favour of racial preference, the Associated Press reports. "What you're saying is what counts is race above all," Justice Kennedy said on Wednesday. Liberal justices, including Ruth Bader Ginsburg, Sonia Sotomayor, and Stephen Breyer asked questions that some say suggested support of affirmative action. Correspondents say that even if the court does not uphold the Texas admissions policy, striking down broader consideration of race in university admissions appeared unlikely.

6 manolo 2014-02-03 23:31:32 [PC]

2-3. ['Respect equality']
 The University of Texas updated its admissions policy after the 2003 Supreme Court ruling to consider race without using quotas. Students in Texas high schools are automatically admitted to the university if they are in the top 8% of their class in terms of academic achievement. The threshold was previously 10% and Ms Fisher's grades did not put her in that category. Race and other factors can be considered as factors in admissions to any remaining spots - approximately 25% of the annual student intake. Ms Fisher, along with another woman who has since dropped out of the case, filed a complaint arguing that the university's race-conscious policy violated their civil and constitutional rights. She was never admitted to the University of Texas and has since graduated from Louisiana State University. "If any state action should respect racial equality, it is university admission," Ms Fisher's lawyers said in their written submission to the court.

2-4.
 A federal appeals court has already backed the University of Texas admissions programme, saying it was allowed under the Supreme Court's Michigan decision. Justice Elena Kagan, previously involved in the case as US solicitor general, has recused herself from the proceedings. That leaves eight justices to decide the case, and a 4-4 tie would uphold the decision of the lower appeals court. Private universities, including elite institutions such as Harvard and Columbia, have filed briefs to the court arguing that their national recruitment policies make it impossible for them to assure diversity without legal backing for racial preference, Reuters reports.
 
1 manolo 2014-01-28 16:10:09 [PC]


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出典:ニューズウィーク日本版、「バンコク騒乱を読み解く6つのポイント」、2/4/2014、p.20

1-1.
 バンコクで毎年のように繰り返される反政府デモは、陽光降り注ぐビーチやスパイスの効いた料理、猥雑なナイトクラブと共に、もはやタイの「定番」の光景になってしまった。今も、昨年11月に始まった反政府デモが、デモ隊と警察官の双方に死傷者を出しながら続いている。政府は、先週、バンコクとその近郊に非常事態宣言を発令したが、今のところ強制排除は手控えている。この反政府デモでは、誰が何を求めているのか、今後はどう展開するのか。そして、タイでのバカンス計画は見直すべきか。タイ反政府デモを読み解くための基礎知識をまとめた。(p.20)

2 manolo 2014-01-28 16:30:27 [PC]

1-2. 【1. 反政府派の目標は?】
 反政府派が目指すのは、選挙で選ばれたインラック政権を引きずり降ろし、2月2日に予定されている総選挙を中止させた上で、選挙を経ない暫定政府を発足させること。汚職を根絶した後に選挙を行おうとしているが、腐敗を一掃できる保証はない。反政府は指導者のステープ元副首相も、クリーンな政治家とは言い難いからだ。

1-3. 【2. 反汚職だけが動機ではない】
 反政府デモは、有力政治家一家であるシナワット家に対する戦いという性格をもっている。現首相のインラックは、シナワット家の権力を固めてきたタクシン元首相の妹だ(現在、タクシンは汚職で実刑判決を受け、中東のドバイに逃れている)。この国の政治は伝統的にバンコク主導で動いてきたが、シナワット家はポピュリスト的政策により農村部で支持を拡大し、過去10年に選挙にことごとく勝利してきた。選挙で勝てない反シナワット家勢力が実力行使に出たのが、今回の反政府デモといえるだろう。

1-4. 【3. 貧困層の反乱ではない】
 デモには多くの層が参加しているが、中心は中・上流階級だ。抗議活動の現場にはお祭りムードが漂っている。スターバックスのコーヒーを片手に、スマートフォンでセルフィー(自分撮り)を楽しむ参加者も多い。

1-5. 【4. 軍事クーデターの可能性も】
 反政府派指導者たちは、軍が現政権を追い落として自分たちに権力を与えてくれることを期待している節がある。実際、軍事クーデターのうわさは絶えない。これまで軍はたびたびクーデターを起こしており、06年にはクーデターでタクシン政権を倒したこともある。しかし、軍部は自らが政権を担うことに消極的に見える。面倒な仕事には手を出したくないのだろう。

1-6. 【5. 内戦に発展する恐れも】
 選挙で選ばれた政権が引きずりおろされれば、激しい抗議活動が起きるだろう。「赤シャツ隊」と呼ばれるシナワット家支持グループはかなり闘争的だ。10年春には、バンコクの繁華街を占拠して治安部隊による強制排除に長く抵抗し続けた実績がある(最終的に100人近い死者を出した末に排除された)。

3 manolo 2014-01-28 16:38:08 [PC]

1-7. 【6. 旅行は中止すべき?】
 不安になるのは無理もないが、少なくとも現時点ではイメージほど危険ではない。昼間、デモ隊のバリケードは大抵少人数で守っているだけだ。警察がその気になれば簡単に排除できるが、取りあえずは静観している。夜になると、仕事を終えた反政府系の市民が集まってくるが、オフィスワーカーや高齢者、流行に敏感な若者など、武等派とは言い難い面々が中心だ。それに、バンコクの主要な国際空港や観光スポットの多くは、抗議活動の行われている地区からだいぶ離れている。ましてや、美しいビーチの周辺は平穏そのものだ。ニュースを見なければ、この国で政治的騒乱が起きていることに気付かないだろう。

4 manolo 2014-02-03 23:06:25 [PC]

出典: BBC News, “Q&A: Thailand anti-government protests”, January 29, 2014, http://www.bbc.co.uk/news/world-asia-25149484

 Thailand has been hit by major protests after three years of relative calm. The BBC looks at the factors behind the protests and at what the demonstrators want.

2-1.
 What started the protests?

 Demonstrations kicked off in November after Thailand's lower house passed a controversial amnesty bill which critics said could allow former leader Thaksin Shinawatra to return without serving time in jail. Mr Thaksin, one of the most polarising characters in Thai politics, was ousted in a military coup in 2006. He now lives in self-imposed exile overseas after being convicted of corruption, but remains popular with many rural voters. The amnesty bill, which was proposed by his sister Prime Minister Yingluck Shinawatra's Pheu Thai Party, was eventually rejected by the Senate. However, anti-government protests continued and new demands emerged.

2-2. [Analysis: Protesters' challenge]
 Who are the protesters?

 Protest leader Suthep Thaugsuban wants the government to step down. The demonstrations are being led by Suthep Thaugsuban, a former Thai deputy prime minister who resigned from the opposition Democrat Party to lead the rallies. The protesters - who tend to be urban and middle-class voters - are united by their opposition to Mr Thaksin, and their belief that he is still controlling the current Pheu Thai government. Thaksin-allied parties have won the last five elections, because of their rural support base. Mr Suthep and his supporters say they want to wipe out the "political machine of Thaksin" and install an unelected "people's council" to reform the political system. The protesters say the government has been buying votes with irresponsible spending pledges aimed at its support base - thereby creating a flawed democracy and harming the Thai economy.

5 manolo 2014-02-03 23:09:14 [PC]

2-3. [Profile: Suthep Thaugsuban and Thailand's protesters]
 What have the protesters done?

 Thaksin Shinawatra remains a divisive figure in Thailand. About 100,000 protesters rallied in Bangkok on 24 November, when the campaign kicked off. The protests - which involved blockading government ministries - were largely peaceful for the first week but turned deadly when violence broke out near a pro-government red-shirt rally on 30 November. At least 10 people have been killed in various clashes since then. On 8 December, all opposition MPs in parliament resigned. Protesters said they would march on Government House, the prime minister's office, the next day. In response, Ms Yingluck called a snap election for 2 February. The opposition Democratic Party has said it will boycott the election. In recent weeks, protesters have disrupted electoral registration and blocked advance voting. They have also, since 13 January, blocked key road junctions in Bangkok in what they are calling a shutdown. The Election Commission has called for the polls to be delayed because of the ongoing unrest, but the government says they will go ahead. A state of emergency is in place in Bangkok and three surrounding provinces, but it is not clear to what extent this can be enforced, given the military's cool attitude towards Ms Yingluck's government.

2-4. [Thailand imposes state of emergency]
 What will happen next?

 The Thai government says that the 2 February polls will go ahead - but because of the opposition boycott plus the protesters' disruption to registration it is not clear if the election will return enough MPs for a quorum in parliament. Various legal moves could also potentially complicate the situation. On 8 January, the anti-corruption body said it would charge more than 300 politicians - mostly from the ruling party - over an attempt to make the Senate fully elected. This could ultimately lead to the lawmakers being banned from politics. The anti-corruption body also said on 16 January that it was investigating Ms Yingluck in connection with a controversial government rice subsidy scheme - a move that could potentially force Ms Yingluck from politics. Governments of Mr Thaksin's allies have been forced from power in the past by legal rulings. And the last election that was boycotted by the opposition, in 2006, was subsequently annulled.

6 manolo 2014-02-03 23:10:37 [PC]

2-5. [Thai PM probed over 'corrupt rice subsidy scheme']
 What about the government supporters?

 The "red-shirts" have mostly stayed away so far - but their return could trigger clashes The government the protesters are trying to oust won elections in 2011, with support from voters in mostly rural areas of the country, especially the north and north-east. So far the "red-shirts" - the government supporters who shut down parts of Bangkok in 2010 to protest against a government led by the current opposition party - have for the most part remained off the streets. But "red-shirt" leaders say they will take to the streets if the military ousts the current government. Observers fear that if they were to [decide] to protest, an escalation in violence would follow. In January, a prominent "red-shirt" leader was injured in a drive-by shooting, in what police said they believed was a politically-motivated attack.

2-6. [Inside Thailand's 'red villages']
 What impact will the protests have?

 Ms Yingluck warned early on that further protests could cause the economy to deteriorate. Protests in 2008 and 2010 hit Thailand's economy hard, especially the business and tourism sectors. This time, several countries have issued travel warnings for Thailand. But a more worrying concern is that once again Thailand is deeply divided, with the issue of Mr Thaksin and his role in the country's future an apparently unresolvable one - suggesting the cycle of instability will continue.
 
1 manolo 2014-01-30 15:54:51 [PC]


263 x 192
出典:ニューズウィーク日本版、「劇場化する靖国問題」、1/28/2014、pp.23-28

日本 首相参拝で慰霊の場が外交劇場と化す
異常とも言える騒ぎの核心にあるのは欺瞞だらけの中韓の批判と議論を避ける日本の怠慢だ(p.23)

1-1.
 「騒ぐようなことじゃない」 昨年12月26日の朝、東京の靖国神社で参拝に訪れる安倍晋三首相を宮司の徳川泰久共に迎えながら、日本遺族会会長の尾辻秀久参議院議員(自民党)は苦い思いをかみしめていた。日本海軍の駆逐艦隊艦長だった尾辻の父は、戦時中に南太平洋ソロモン沖で戦死した。幼かったため、父の顔はよく覚えていない。だが、母に連れられて幼い妹と参拝するようになってから、尾辻にとって靖国神社は父と切り離せない場所になった。

2 manolo 2014-01-30 16:22:34 [PC]

1-2.
 遺族会会長である尾辻にとって、時の首相による靖国参拝は手放しで歓迎することのように思える。しかし当日の朝に参拝の連絡を受け、慌ただしく神社に向かった尾辻の心は淡々としていた。落ち着きを失っていたのは神社や尾辻ではなく、周囲だ。「靖国参拝はいわば墓参り。それを脇から騒ぐのは無礼ではないか」と、尾辻は言う。「靖国は慰霊の場だ」(p.23)

1-3.
 日本の首相による靖国参拝を批判し続けてきた中国と韓国は、今回の安倍の参拝後も「横暴にも第二次大戦のA級戦犯がまつられている靖国神社を参拝」(中国外務省報道官)「『軍国主義の心臓』靖国神社を参拝」(韓国の朝鮮日報)と、お決まりの批判を繰り広げた。こうした中韓両国の反発を予想したかのように、安倍は参拝直後に「平和を誓うために参拝した」という趣旨の談話を出した。ただ、尾辻にはその内容が気に掛かった。靖国は霊魂が眠る場所。仰々しい誓いを立てるような場所ではない。静かに手を合わせてもらえれば、それでいい――。(p.23)

1-4.
 今の日本には「2つの靖国」が存在している。1つは中国と韓国がむき出しの感情をぶつけ、結果的に外交の道具と化した「ヤスクニ」。もう1つは、外国からの批判に惑わされ、日本人が見失ってしまった慰霊の場としての靖国だ。78年にA級戦犯14人が合祀され、80年代半ば以降に外交問題になってから、まるで腫れ物に触るかのように日本人は靖国問題の本質的な議論を避けてきた。いつしかその怠慢が「2つの靖国」という乖離を生み、靖国神社を本来あるべき姿から懸け離れた存在に変えてしまった。(p.23)

1-5. 【無関心だった中国と韓国】
 首相の靖国参拝は歴史教科書問題、従軍慰安婦問題と共に、中国と韓国が第二次大戦に対する日本の歴史認識を追求する上での「材料」にされている。今でこそ中国と韓国にとって靖国参拝は「決して譲ることのできない外交問題」というイメージが定着しているが、実のところかつてはあまり問題視していなかった。(pp.23-24)

3 manolo 2014-01-30 16:51:41 [PC]

1-6.
 戦後、吉田茂をはじめ歴代の日本の首相は靖国参拝を行ってきた。首相参拝が批判されるのは78年のA級戦犯合祀がきっかけだが、中国が問題視し始めたのは85年、中曽根康弘首相の10回目の参拝の時だった。「それまで中国側は合祀の意味を理解してなかったか、あるいは大目に見ていた」と、小泉政権時代に中国公使を務めた宮家邦彦は言う。「日本の一部の新聞が騒いで、中国側も動かざるを得なくなった」(p.24)

1-7.
 神社側によってひそかに行われていた合祀は、79年4月の報道によって表沙汰になった。その直後に当時の大平正芳首相が参拝しがた、鄧小平ら中国指導部から批判が出ることはなく、大平の後に鈴木善幸が在任期間わずか2年4カ月の間に9回参拝しても、外交問題になることはなかった。その風向きを変えた1つのきっかけが日本メディアだ。戦後40周年に当たる85年、「戦後政治の総決算」を掲げた中曽根政権に対し、右傾化を警戒する朝日新聞などリベラル系メディアが、それまで大きく取り上げてこなかった首相参拝の批判記事を続々と掲載し始めた。(p.24)

1-8.
 日本メディアの批判の焦点は、実は政教分離にあった。ただ、この報道キャンペーンが82年の歴史教科書の書き換え問題以来くすぶっていた中国の日本批判に火を付け、結果的に靖国に目を向けさせた可能性もある。中国が72年の日中国交正常化から85年まで靖国問題に沈黙していたのは、その国情も背景にあるだろう。80年の中国のGDPは日本の3分の1以下。文化大革命という動乱がようやく終わり、経済開放に取り組み始めたばかりで、既に先進国として経済成長を遂げていた日本に学ばねばならなかった。(p.24)

1-9.
 その中国から突然、靖国参拝への批判が噴出したのは、国際情勢の変化も影響していたはずだ。文革の最中の70年初めには「帝国主義国家」として敵視していたアメリカ、そして日本と突如手を結んだのは「三角外交」によって深刻な対立関係にあったソ連を牽制するためだった。80年代に入って中ソ関係が改善するのと、歴史問題を材料に中国が日本を批判し始めるタイミングは一致している。(pp.24-25)

4 manolo 2014-01-30 17:17:28 [PC]

1-10.
 韓国はこの時期、靖国批判に積極的に関与していなかった。いわゆる親日派が幅を利かせていた80年代の全斗?(チョンドゥファン)政権時代、靖国参拝に対する韓国の関心は必ずしも高くなかった。そもそも日本に統治されていた韓国は日本と戦争をしたわけではない。戦死者をまつる靖国神社とはあまり関係なく(日本軍の一員として戦い、命を落とした朝鮮半島出身者がまつられていることを除いて)、A級戦犯合祀の事実で影響を受けているわけでもない。(p.25)

1-11.
 「中国やアメリカにとっての靖国参拝に対する批判が持つ特別な意味を、韓国の人々は理解できないだろう」と、神戸大学大学院国際協力研究科の木村幹教授(韓国政治)は言う。第二次大戦中に連合国でなかった韓国には、靖国は実のところ関係がない問題だ。日本との外交問題の中心はあくまで歴史教科書と慰安婦、そして竹島(韓国名・独島)をめぐる領土問題だ。

1-12. 【自己都合で靖国を批判】
 中国にとっては、侵略国だった日本と国交正常化するために中国国内の世論を説得する必要もあった。そこで編み出したのは「悪いのはA級戦犯、日本国民は悪くない」という都合のいい理屈だ。また今の共産党政権が成立したのは蒋介石率いる国民党との血と血で洗う内戦の結果だが、その正統性を強調するときに引き合いに出されるのが、なぜか国民党でなく日本だ。「アヘン戦争以来の列強による『屈辱の100年』を耐え、最後にやってきた日本に勝利したことが中華人民共和建国の正統性になった」と、在北京日本大使館で駐在武官を務めた東京財団研究員の小原凡司氏は言う。このためA級戦犯がまつられた靖国神社を日本の首相が参拝することを容認すれば、日中国交正常化だけでなく、49年以来の共産党政権の正統性まで揺るぎかねない―中国が靖国に過剰反応するのは、そんな自国の都合からである。(p.25)

1-13.
 01~06年の在任中、毎年参拝した小泉純一郎首相に対して、中国は参拝ごとに激しい批判を繰り返した。江沢民(チャンツォーミン)国家主席の時代には江自らが批判の先頭立ち、日中首脳会談では小泉に対して「参拝は13億中国人民の感情に触れる問題」(02年)などと抗議した。ソフトなイメージから対日融和が期待された次の胡錦濤(フー・チンタオ)主席も、靖国批判の旗を降ろすことはなかった。(p.25)

5 manolo 2014-01-31 12:24:50 [PC]

1-14.
 江沢民は89年の天安門事件後、思いもかけず鄧小平によって総書記に抜擢され、常に背後から鄧の重圧を感じていた。胡錦濤も江沢民に囲まれ、身動きが取れなかった。2人にとって日本の首相の靖国参拝を認めることは、共産党の正統性の否定、ひいては自らの失脚に結びつかネない敏感な政治テーマだった。ただ、同時に靖国問題は「反日カード」の1つとして、国内の不満のガス抜きをするための有効な手段としても機能した。(pp.25-26)

1-15.
 それは現在の習近平主席も同じだ。人民解放軍に権力基盤を持つとされる習も、就任1年ではまだ国内の派閥争いから自由にはなれない。不用意に靖国参拝を容認すれば、対立する勢力に足を引っ張る格好の材料を与えてしまう。「(習は}昨年来、内政に忙殺され、外交で決断をする余裕はない」と、宮家は指摘する。(p.26)

1-16.
 こうした状況に、韓国も便乗してきた。韓国が靖国を外交カードとして利用するようになったのは、国内事情ゆえんだ。本来、靖国問題と関係ないはずの韓国は政権の変化に応じてトーンを変えており、その批判には一貫性も重みもない。いわば、中国が走らせる「靖国列車」の乗り合い人、という立場にすぎない。(p.26)

1-17.
 連合国の一員でなかった韓国が一転して靖国問題に批判を強めるようになったのは90年代半ばのこと、金大中(キム・デジュン)大統領の太陽政策を03年に引き継いだ蘆武鉉(ノ・ムヒョン)政権の支持者らには、北朝鮮寄りの傾向が強かった。その結果、韓国政府が日か挑戦を敵視するレベルは相対的に弱まり、日本が主要が「外敵」になった。靖国参拝は韓国政府にとっても看破できないものとなり、金大中時代には「深い憂慮」という表現にとどまっていた声明が、蘆武鉉時代に「韓国に対する挑戦」とエスカレートしていった。そして慰安婦・竹島・教科書の「半日3点セット」に加え、靖国問題は韓国政府が内政対応に窮した際の強力な切り札になった。(p.26)

6 manolo 2014-01-31 16:11:55 [PC]

1-18.
 靖国問題を内政に利用する中韓両国だが、実はそれぞれの内情は大きく異なる。韓国にとって靖国は諸刃の剣だ。それは、韓国が内なる「ヤスクニ」を抱えているからに他ならない。韓国にとっての「靖国」は国立墓地である国立ソウル顕忠院だ。ソウルの中心に位置するこの墓地には、日本の植民地時代に独立を目指した運動家や朝鮮戦争の犠牲者、ベトナム戦争に参加した韓国兵の戦死者がまつられている。日本も安倍首相や野田佳彦前首相もかつてここを訪ねて献花している。(p.26)

1-19. 【譲れる国と譲れない国】
 この施設に関する韓国国内からの批判は、ベトナム戦争にまつわるものだ。韓国政府は当時30万人もの兵士をベトナムに派遣したが、一部の兵士は現地住民を虐殺したり、性的に暴行したとされる。こうした証言があるため、「人道に対する罪」を犯した兵士が眠る国立墓地は韓国人にとって必ずしも「なんの問題もない施設というわけではないようだ。(p.26)

1-20.
 世宗大学日本文学科の朴裕河(パク・ユハ)教授は、「ベトナム人をどれだけ殺傷したか、さらにはベトナムの少女をどれだけ強姦したかについて、国立墓地は戦争記念館は沈黙を続けている」と指摘する。さらに、日常の奥底まで軍事主義的施行方式に染まっている」韓国による靖国批判は、「根本的な矛盾を抱えている」と指摘する。韓国の左派メディアであるハンギョレ新聞も、「ベトナム戦争時に起きた不幸な民間虐殺を最後まで認めようとしない韓国人の心の中にも(中略)、いつのまにかヤスクニは渦巻いているのかもしれない。(pp.26-27)

1-21.
 一方、中国が靖国問題で譲歩する可能性は低い。情報できない最大の理由は尖閣問題だ。元外交官宮家によれば、小泉首相が引き起こした参拝問題を解決したのは、後継となった第1次政権時代の安倍だ。参拝するともしないとも言わない曖昧戦略をと、「戦略的互恵関係」という、同じく曖昧な2国間関係の枠組みがうまく働いたのだ。領土問題が今ほど注目されてなかったこの時代、靖国問題を棚上げすることで日中双方のメンツを保つことが可能だった。(p.27)

7 manolo 2014-01-31 16:42:08 [PC]

1-22.
 ところが10年に尖閣諸島をめぐる争いが本格化し、日中関係が緊迫すると、中国国民が靖国問題を棚上げすることは不可能になってしまった。「だから中国政府は一切の妥協を見せない」と、宮家は言う。中国政府が領土に対して敏感になる背景には、もちろんそのしたたかな海洋戦略がある。昨年末の参拝騒ぎがいったん収まり、靖国問題に対する日本メディアと国民の関心は「安倍首相がいつ再び参拝するのか」という一点に集まろうとしている。そこで問題になるのは、遺族やその他の関係者にとっての慰霊の場としての靖国ではなく、「参拝で中国や韓国との関係はどうなるのか」という外交の道具化した「ヤスクニ」だ。(p.27)

1-23. 【失われた本質的な議論】
 一方で、靖国問題で日本人が向かい合うべき本質的な議論は放置されたままだ。そもそも靖国とはどのような存在なのか。戦没者の慰霊の場はどうあるべきなのか。政教分離をどう考えるのか。ひいては、あの戦争をどう総括するのか――。派生した外交問題ばかりがクローズアップされ、靖国問題の核心をめぐる国民的議論はすっかり埋没している。

1-24.
 外交問題化してから、在任中に参列した歴代の首相たちは小手先の対応を繰り返すばかりで、ことの本質をうやむやにし、国民議論をの欠如を助長してきた。国内の反発にかかわらず10回の参拝を行った中曽根は、85年に中国から批判を受けた後は参拝をやめてしまった。毅然としていたように見えた小泉も、参拝日を公約の8月15日からずらすだけでなく、服装もモーニング、羽織はかま、スーツと二転三転。さらに参拝の方法も昇殿したりしなかったりと、その場しのぎに終始した。安倍も参拝にこだわったものの、国民の議論を喚起することはなかった。(p.27)

1-25.
 その一方で、小泉参拝の時に盛んに議論された分祀問題や、靖国以外の新たな国立追悼施設建設といった問題に関する議論はすっかり忘れ去られてしまった。もはや慰霊の場がどうあるべきか、という問題を喚起する者はおらず、本質的な議論は起こる兆しすらない。小泉以降の首相が靖国参拝を敬遠してきたことで、議論できる時間はいくらでもあったはずだ。しかしそんな議論が行われないまま、もともとあった「靖国アレルギー」ばかりが国民の間に広がっている。(p.27)

8 manolo 2014-02-01 18:40:44 [PC]

1-26.
 遺族会の尾辻に言わせれば、靖国をめぐる混乱は、日本人が自らの過去と向かいったこなかったツケだ。「日本はあの戦争についてまったく総括していない」と尾辻はいう。当時の日本の指導者を戦争犯罪人として扱った東京裁判に対しては、戦勝国が事後法で裁き、再審もないままに、処刑した、という疑問が今もある。だがそれならば日本人が自らの手で、当時の指導者の責任を追及すべきだったのではないのか。A級戦犯だから東条英機元首相が悪い、というのではなく、日本人自身の手で彼が負う責任を問うべきだったのではないか――尾辻はそう考える。確かに、日本人自身が戦争指導者を総括していたら、靖国をめぐる外交問題は起きていないはずだ。(pp27-28)

1-27.
 議論を避けてきた日本人の怠慢は何も戦争指導者の責任追及にとどまらない。外交にせよ安全保障にせよ、戦後の日本は既存の秩序に安住するばかりであった。冷戦構造の崩壊や湾岸戦争、イラク戦争といった世界情勢の変化でほころびが出ても、国内の議論を重ねることなく外国の顔色を見て何となくやり過ごす。「一億総無責任」体制は今も続いている。(p.28)

1-28.
 「ぬるま湯」からの脱出は、時として激しい痛みを伴う。中曽根の「戦後政治の総決算」や安倍がかねて掲げた。「戦後レジームからの脱却」というスローガンはそれにかなうものかもしれない。だがどこか曖昧模糊としているおは、痛みを伴う覚悟や国民的議論や説明を抜きにして、事を進めようとしているからだろう。だとすればそれも無責任体質の繰り返しにすぎない。(p.28)

1-29. 【中韓両大使の意外な反応】
 小泉政権から第2次安倍政権まで7年にわたって日本の首相参拝は絶え、民主党政権になると官房長官や外相以外の閣僚も参拝の自粛が求められた。「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」の羽田雄一郎参議院議員(民主党)は幼い頃から毎年参拝を続けてきたが、野田内閣の国土交通相として、12年に自粛要請に直面にした。最終的な私的参拝の形で終戦の日に参拝をしたが、羽田はその数日前に、中国と韓国の駐日大使に参拝の意思を伝えていた。英霊に平和を誓うための参拝だと、分祀論議を交えながら力説した。(p.28)

9 manolo 2014-02-01 18:41:07 [PC]

1-30.
 厳しい言葉を覚悟したが、膝詰めで向き合った韓国大使から「思いは理解した」という意外な答えを聞かされた。中国側からの同様の言葉が返ってきた。中韓両国は、本心では靖国神社が「軍国主義の心臓」ではないことを理解している。両大使の言葉は、裏を返せば彼らの公式批判に欺瞞が含まれることを自ら認めたようなものだ。もっとも、中韓の欺瞞を追求するだけでは、靖国問題は何も解決しない。日本が自らの怠慢を改め、慰霊の場としての靖国に向き合って初めて、こじれた問題の糸口は見つかる。(p.28)

1-31. 【外交問題と化した靖国参拝】
1945年の敗戦によって国家神道の時代は終わり国の管理は【終わり、国の管理下にあった靖国神社も宗教法人化した。戦後それほど注目されなかった靖国参拝が問題になるのは1978年のA級戦犯合祀以降。中国と韓国だけでなく、アメリカまでも巻き込んだ外交問題に発展した。

1945年 太平洋戦勝終結
1946年 靖国神社宗教法人化
1952年 サンフランシスコ平和条約発効
1965年 日韓基本条約締結
1972年 日中国交回復
1978年 日中平和条約締結
      鄧小平来日
      靖国神社にA級戦犯合祀
1979年 靖国神社にA級戦犯合祀を共同通信が報道
      大平首相参拝(任期中計3回)
1980年 鈴木首相参拝(計9回) 
1983年 中曽根首相が終戦記念日に参拝(計10回)
1985年 中国の靖国参拝が批判が本格化
1986年 遊就館再開
1987年 韓国民主化
1989年 中国で天安門事件
1996年 橋本首相参拝(1回のみ)
2001年 小泉首相参拝(計6回)
2005年 中国で反日デモ
      韓国の慮武鉉大統領が日韓首脳会議で靖国参拝批判
2006年 小泉首相が周年記念日に参拝
      シーファー駐日米大使らが遊就館の展示批判
2010年 尖閣沖漁船衝突事件、中国で反日デモ
2012年 尖閣諸島国有化、中国で反日デモ
2013年 安倍首相参拝
(pp.24-25)

10 manolo 2014-02-01 19:22:51 [PC]

出典:The Economist, 1/4/2014, "Japan and its neighbours: A slap in the face", p.20

2-1. 【Shinzo Abe takes a dangerous gamble】
 The first visit by a Japanese prime minister in seven years to the Yasukuni shrine in Tokyo, made by Shinzo Abe on December 26th, looks like a diplomatic disaster. China, South Korea and America had all made clear their opposition to his going to a temple where the spirits of 14 high-ranking war criminals are ensrhined, along with those of 2.5m other Japanese war dead. Mr Abe said he regretted not his having visited the shrine during first stint in the job in 2006-07. He may well have felt he had little to lose, and judge now that his decision to go has been vindicated by international reaction.

2-2.
 The Chinese and South Korean governments were predictablly fierce in their responses. A Chinese spokesman accused Mr Abe of "beautifying aggression" and called the war criminals remembered at Yasukuni "the Nazis of Asia". South Korea expressed "lamentation and rage". The visit ruffled South-East Asia, too. Even Singapore, which rarely speaks out on such issues, expressed regret at Mr Abe's visit.

2-3.
 America, too, was embarrassed and angered by the provocation. Senior officials of Japan's closest ally had urged Mr Abe numerous times not to visit Yasukuni. He may have hoped that American annoyance would be tempered by the news on December 27th of progress in winning approval for the long-planned relocation of its Futenma air base on Okinawa to a less populous part of that island. Yet America, which kept silent during six visits to Yasukuni by a former prime minister, Junichiro Koizumi, from 2001 to 2006, this time expressed "disappointment".

2-4.
 Its reprimand, however, was fairly gentle, urging Japan "and its neighbours" to work for better relations. And Mr Abe may even consider the threats from South Korea and China fairly toothless. South Korea's president, Park Geun-hye, had already ruled out any meeting with Mr Abe. Her government's poor relations with Japan are concern for America, but not for Korean citizens or businesses.

11 manolo 2014-02-01 19:39:37 [PC]

2-5.
 As for China, its government has neither encouraged anti-Japanese protests nor imposed trade sanctions. Indeed, an editorial in the normally ultra-nationlistic Global Times newspaper argued for responding to Mr Abe's provocation in a measured way, and shunning "large-scale economic sanctions". China has ruled out any summit with Mr Abe. But tension over the disputed Senkaku and Diaoyu islands meant none was on the cards anyway.

2-6.
 So Mr Abe's gamble looks, for now, to be fairly low-risk. His visit to Yasukuni clearly accords with his own desire to free Japan from what he sees as its humiliating, pacifist post-war constitution. It's timing was well calculated. In November China annoucend the establishment of an air-defense identification zone (ADIZ) in the Est China Sea that overlaps with Japan's own ADIZ and includes the disputed islands, which Japan controls. Mr Abe may have seen this act of Chinese assertiveness as cover for a nationalist step of his own.

2-7.
 He will also ahve been encouraged by a general warming towards Japan around the region. Since taking oddie a year ago he has visited all ten members of the Association of South-East Asian Nations (ASEAN) and in December he hosted a Japan-ASEAN summit. Even those ASEAN members seen as loyal friends of China, such as Cambodia, agreed to a statement on the importance of the freedom of aviation, an implicit-if-mild-rebuke to China.

2-8.
 Concern about China's rise mean that many Asian nations, and even America,a re prepared to put up with Mr Abe's provocations, repellent though they find them. Ominously, one of his advisers says he might make a pilgrimage to shrine an annual event. That Abe apears to have got away with it this time is no guarantee he would keep doing so.
 
1 manolo 2014-01-13 23:33:19 [PC]


261 x 193
『よくわかる刑事訴訟法』、椎橋隆幸編著、4/20/2009、ミネルヴァ書房、(「III-28 通信傍受」)壇上弘文、pp. 84-85

1-1. 【1. 通信傍受の必要性】
 現代社会は、都市化され、匿名化された社会であり、犯罪が行われた場合に、必ずしも目撃者等の有力な証人がいるとは限らず。ましてや組織的に犯罪が行われた場合は、その活動が計画的・密行的に行われるため、その摘発・検挙が非常に困難である。したがって、組織犯罪対策としては、物理的侵入を伴う従来の操作方法とは異なる。組織の構成員たる個人の行動、ひいては組織それ自体の行動を監視することが必要となる。また、犯罪組織は、今日非常に便利になった情報通信技術を利用して自らの目標を達成しようとしており、こうした犯罪活動の実態から考えても、組織犯罪の操作には通常の操作方法がそれほど有効なものとならない場合も多く、組織の活動を把握するためには、その意思連絡を?むこと、すなわち組織の通信を傍受することが必要になる。そうした状況の下、組織犯罪の捜査における有効な手段として、*平成12年(2000)年8月15日に「犯罪のための通信傍受に関する法律」が施行された。(p.84)

*ただし、犯罪捜査のための通信傍受については本法成立にも刑事訴訟法の検証許可状により電話傍受が行われていた。最決平成11年12月16日刑集53券9号1327頁、甲府地判平成3年9月3日判時1401号127頁、東京高判平成4年10月15日判夕808号168頁、旭川地判平成7年6月12日判時1564合147頁、札幌高判平成9年5月15日判夕962号275頁等参照。(p.84)

2 manolo 2014-01-13 23:35:04 [PC]

1-2. 【2. 憲法との関係】
 憲法21条2項は、通信の秘密を保障する。わが国の憲法が保障する基本的人権には様々なものがあるが、それらは濫用が禁止され、公共の福祉の下に制約を受けるものであり、個人の内心にとどまらない限り絶対的に無制限なものではない。通信の保護の保障も例外ではない。今日の社会では通信技術が著しく発達し、一般の人々がごく当たり前にそれらを利用している。通信の秘密の保障は、非常に重要なものであるが、通信制度は公共財であり、これを害悪、すなわち犯罪に利用する場合にまで絶対的にまた無制限に保護すべきものとはいえないはずである。したがって、*一定の条件を満たす場合には、通信の秘密の保障を制約することが憲法上許されていると考えてよい。(p.84)


*捜査機関による濫用を防止すべく、厳格な要件を規定し、かつ犯罪摘発のための有効な手段として、必要最小限の範囲で通信の傍受を許容することができるといえよう。(p.84)

1-3.
 また、憲法35条は、捜索・差押えに関する令状主義を定めたものであるが、通信傍受法においては、厳格な要件を充たす場合に、裁判官の発する、傍受すべき通信及び傍受の実施対象とする通信手段を明示する令状によって通信の傍受を行いうるものであり、憲法の令状主義に合致するものであるといえよう。(p.84)

3 manolo 2014-01-13 23:37:30 [PC]

1-4. 【3. 刑務所との関係】
 刑訴法197条1項ただし書きは、「強制の処分」は刑訴法に定められていなければならないとする「強制処分法定主義」を規定している。通信の傍受はその処分を受けている者が知らぬ間に政府による監視下に置かれるものであるため強制処分と解され、現行法上具体的な実施方法等の要件が定められていないため「強制処分法定主義」違反であり許されないという見解もあった。捜査においては、通信傍受法制定前、その実施に当たり検証許可状を得て行われていたが、検証に関する規定にも、通信の傍受については明確な定めはなく、通信の傍受は検証には当たらないとの見解も主張されていた。判例上は、検証許可状による電話傍受を肯定しており、学説上も、検証とは法廷にそのまま顕出することができないものを事実認定に当たる裁判官が五感で認識することができるように証拠を保全する活動であり、音声というそのままの状態では法廷に顕出できない証拠を録音という作業によって法廷に顕出できる形態に直して保管するための処分であるので、検証または検証に類似した処分であると解しうるとの見解が示されていた。ただし、検証許可状による電話の傍受については、法律上具体的な要件が定められておらず、傍受実施方法や記録の作成・保管、不服申し立て手続き等に関する規定がないこと等、*適正な実施を担保する措置が不十分であるとの指摘もあった。(p.85)

*通信傍受法においては、濫用防止のための厳格な要件・実施方法及び関係者の権利保護のための救済策としての不服申し立て等の手続きが定められた。(p.85)

4 manolo 2014-01-13 23:38:24 [PC]

1-5. 【通信傍受の要件】
 通信傍受法は、①通信の傍受が許される対象犯罪が薬物関連犯罪、銃器関連犯罪、集団密航に関する罪、組織的な殺人の罪に限定しており、その4種対象犯罪が行われたと疑うに足りる「十分な理由」が必要であるとし(通信傍受法3条1項)、②それらの殺人が数人の共謀によるものであると疑うに足りる状況があるときなどにおいて、③当該犯罪の実行に関連する事項を内容とする通信(犯罪関連通信)が行われたと疑うに足りる状況があり、かつ、④他の方法によっては、犯人を特定し、犯行の状況もしくは内容を明らかにすることが著しく困難であること(補充性の原則)を要件として規定する(実体要件)。つぎに、これらの実体要件の充足を認めた「地方裁判所」の裁判官が事前に発布した傍受令状の入手が必要とされる(手続要件)。傍受令状の請求は、検事総長が指定する検事、国家公安委員会または都道府県公安委員会が指定する警察官、厚生労働大臣が指定する麻薬取締官及び海上保安庁長官が指定する海上保安官に限定されている(同法4条)、傍受ができる国は、10日以内であり(同法5条)、10日以内の期間を定めて、傍受ができる期間を延長することができるが、その期間は、通じて30日を超えることはできない(同法7条1項)*。

*その他、通信傍受実施の際の立ち合いを求め、立合人が傍受の実施に関し捜査機関に対して関して意見を述べることを許容し(同法12条)、医師等の業務に関する通信の傍受の禁止(同法15条)、立会人の意見とその意見に対する捜査機関の措置を記録に残し、裁判官による傍受記録の封印・保管(同法19条‐22条)、通信当事者に対する傍受実施の通知(同法23条)、通信の傍受に対する不服申立て(同法26条1項、2項)、通信傍受実施状況の国会への報告(同法29条)、通信の機密を侵す行為の処罰及び付審判請求手続き(同法30条)等、通信の傍受の適正な実施を担保するための数多くの事前・事後の手続きが定められた。(p.85)

5 manolo 2014-01-26 11:40:13 [PC]

出典:『よくわかる刑事訴訟法』、椎橋隆幸編著、ミネルヴァ書房、4/20/2009(「III-29 秘密録音」)、壇上弘文、pp. 86-87

2-1.【1. 秘密録音とは】
 秘密録音という用語は、多義的に用いられている言葉であるが、本節で検討するのは、会話当事者の一方または依頼か承諾により、他方の相手方に秘密裡に録音する場合についてである。このような様態の録音は、当事者録音、一方同意録音等と呼ばれることもある(p.86)

2-2.
 一方当事者の同意のある録音については、モラルの問題は別にして、違法とは言えないとする見解が多数である。他方、このような録音は人格権(表現の自由、自己の音声が他者からの管理を受けない自由)が侵害されるので違法であるとか、または令状主義の貫徹、プライヴァシーの保護、信頼的通信、道義性の要求から、違法性を疑問視する見解などの有力である。さらに、秘密録音を原則として違法としつつ、一定の事情の下で違法とする見解も主張されている。(p.86)

2-3.
 実際に、会話の相手側に伝達した内容は、その相手方から他人に洩らされる危険が常にあり、会話が秘匿されるとの期待は弱いともいえよう。会話の相手方が自らの目と耳で知り得た事柄を記憶にとどめ、その記憶を頼りに他人に漏らす危険は他方の会話者が通常甘受しなければならないものといえる。会話を録音機材に録音した場合も、会話の内容を他人に漏らすことが器械による記録・再生として正確に行われるにすぎないので、プライヴァシーの侵害の程度が異なるとはいえないとも考えられた。しかし、会話の相手方録音機材を身につけているとそうでない場合とでは、話しては同じ内容を話さないともいえよう。たいていの場合は、話し手は同じ内容を話さないともいえよう。たいていの場合は、話し手は慎重に言葉を選ぶようになり、また、会話の内容についても用心深くなり、結果として自由闊達な会話はできなくなってしまうであろう。したがって、自らの記録に基づいて会話内容を他人に漏らす場合と一方当事者の同意を得て秘密録音を行う場合とではプライヴァシー侵害への脅威という点では質を異にするというべきである。結論として、会話の一方当事者の同意がある録音は、全く同意のない場合よりも要件を緩和して令状制度の規律の下に認められるべきであろうと思われる。(p.86)

6 manolo 2014-01-26 11:42:14 [PC]

2-4. 【2. 私人である会話当事者による録音】
 私人である会話当事者による録音の場合は、捜査機関が行う録音に比較して、その公共的利益は高くないといえよう、すなわち捜査機関は犯罪解明という公共の利益の実現のための捜査活動を行うが、私人の場合には犯罪捜査を行うことは期待されていない。したがって、公共的必要性が高くはなく、他人のプライヴァシーを制約する私人による秘密録音は、一般的に、正当な理由のない限り許されないものとすべきであり、例外的に当該秘密録音によるプライヴァシー侵害の程度と秘密録音を正当とする理由の有無・内容・程度との比較度量衡により判断されるべきであろう。最高裁は、被告人から詐欺の被害を受けたと考えた者が、被告人の説明内容に不審を抱き、後日の証拠とするために、被告人との会話を録音したテープにつき、このような場合に、一方の当事者が相手方との会話を録音することは、たとえそれが相手方の同意を得ないで行われたものであっても、*違法ではないと判示している。このように、現在または近い将来の被害に対する「自己防衛」目的または過去の犯罪被害の証拠の確保もしくはその被害についての紛争解決のための証拠の確保のために、相手方の同意のない会話の録音することは許されるといえよう。(pp.86-87)

*最決平成12年7月12日刑集54巻6号513頁参照。その他、参考判例として最決昭和56年11月20日刑集35巻8号797頁、松江地判昭和57年2月2日判時1051号162頁(共犯者による録音と警察官による録音との両方の場合を含む事例)、東京地裁昭和57年8月25日判タ496号174頁など参照。(p.87)

7 manolo 2014-01-26 11:44:01 [PC]

2-5. 【3. 捜査官である会話当事者による録音】
 警察官が会話の一方当事者である場合に行われた秘密録音に関しては、下級審裁判例において、一般的には会話の一方当事者による秘密録音につき違法ではないとしながら、「しかし、それは相手方が、機械により正確に録音し、再生し、さらには話者(声質)の同一性の証拠として利用する可能性があることを知っていれば当然拒否することが予想されたところ、その拒否の機会を与えずに秘密録音することで相手方がプライヴァシーないし人格権を多かれ少なかれ侵害することは否定できず、いわんやこのような録音を刑事裁判の資料とすることは司法の廉潔性の観点からも慎重でなければならない。したがって、捜査機関が対話の相手方の知らないうちにその会話を録音することは、原則として違法であり、ただの録音の経緯、内容、目的、必要性、侵害される個人の法益と保護されるべき公共の利益と権衡等を考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度においてのみ、許容されるべきものと解すべきである。」と判示する*。捜査機関による録音の場合には、私人による場合と比べ、多くの人物・物質的資源を背景に組織的に行われるため、プライヴァシーの侵害も一般的に大きいといえる。そのため政府の権限行使が恣意的・不当なものとならないようにしなければならず、他方で、犯罪捜査という公共の利益を効果的に実現するために、過度の制限を避け、適切に規律されなければならないと言えよう。捜査官及びその指示に従って行われる秘密録音については、今後さらなる検討が必要であると思われる。(p.87)

8 manolo 2014-01-27 06:58:37 [PC]

*千葉地裁平成3年3月29日判時138号141頁(三里塚闘争会館事件)参照(この事案においては、例外的に秘密録音を相当と認めて許容している)。その他、東京地判平成2年7月26日判時1358号151頁において、「対話者の一方が相手側の同意を得ないでした会話の録音は、それにより録音に同意しなかった対話者の人格権がある程度侵害されおそれを生じさせることは否定できないが、いわゆる盗聴の場合とは異なり、対話者は相手方に対する関係では事故の会話を聞かれることを認めており、会話の秘密性を放棄しその会話内容を相手の支配下に委ねたものと見得るのであるから、右会話録音の適法性については、録音の目的、対象、手段方法、対象となる会話の内容、会話時の状況等の諸事情を総合し、その手続きに著しく不当な点があるか否かを考慮してこれを決めるのが相当である」と判示されている。(p.87)
 
1 manolo 2013-12-11 03:00:30 [PC]


272 x 186
出典:『よくわかる憲法[第2版]』、工藤達朗編、5/25/2013、ミネルヴァ書房(V-10.「暴力団犯罪」)pp.166-167

1-1. (【1. 暴力団とは何か】
 *暴力団犯罪とは暴力団の構成員によって敢行される犯罪である。ここでいう暴力団」とは、「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」(平成3年法律第77号、以下、暴力団対策法と略称する)2条2号に定義されているごとく、「その団体の構成員(その団体の構成団体の構成員を含む。)が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれがある団体」であるということになる。(p.166)

*データは少し古いが、暴力団犯罪の特徴として、林則清は、①暴力団気質の変化(打算的になった)と組織統制力の低下、②暴力団の縄張り観念の希薄化と流動化、③暴力団がその資金活動の対策や幅を、企業社会や一般的経済取引、さらには市民の日常生活にまで拡げてきていること、④暴力団の拳銃による武装化と所持の日常化、⑤徹底した功利主義が支配する職業的利欲犯罪集団である点に求めている。これらの特徴は、現時点での暴力団犯罪を説明する上でも有用であろう。(p.166)

2 manolo 2013-12-11 03:05:10 [PC]

1-2. 【2. 戦後の暴力団の動向】
 『平成元年 犯罪白書』(1989年)によれば、戦後の暴力団の動向は大きく5つの時期に区分することができるとする。第1期は「戦後の混乱期」(昭和20年代前半)で、この時代は、旧来の博徒・的屋のほかに、大小無数の新興不法集団が続々登場し、露店、闇市、賭博、集団強盗、用心棒等あらゆる分野に進出し、各種利権をめぐり、既存勢力らと武力による激しい対立抗争を繰り返した時代である。第2期は「対立抗争期」(昭和20年代末~昭和30年代末)で、この時代は、朝鮮戦争特需を契機に社会経済の復興が進むに従い、大都市や新興工業都市に盛り場が誕生し、パチンコ、公営ギャンブル、風俗営業、売春、ヒロポン等、新たな利権をねらって多くの新興グレン隊が台頭し、既存勢力の間に抗争事件が続発し、旧来の組織と振興組織が離散集合を繰り返し、各地域において一応の勢力地図ができ上がる時代である。第3期は、「頂上作戦とその影響期」(昭和30年末~昭和40年前半)で、暴力団幹部による不法事犯、資金源犯罪及び武器関係犯罪等の厳重取締りを中心とした暴力団に対する総合的集中取締りが展開された時代である。第4期は、「広域化・寡占化による再編の時代」(昭和40年代後半~昭和50年代前半)で暴力団の組織の復活・再編を図り、大規模広域暴力団が確立していく時代である。そして、第5期は、「世代交代と変動の時代」(昭和50年代後半~平成元年)で、暴力団の世界において、大規模な世代交代が進行中で、新たな覇権をめぐって大きな変動が起こりつつある時代である。(p.166)

3 manolo 2013-12-11 03:05:46 [PC]

1-3. 【3. 暴力団対策法の制定】
 特に、近年において、暴力団犯罪はかなり巧妙になっているが、その巧妙化は、①資金獲得活動のために使用する手段の巧妙化、②資金獲得活動の範囲の巧妙化、③組織維持のための巧妙化等において顕著である。特に、暴力団の資金獲得の範囲が。覚せい剤の密売、賭博、ノミ行為といったいわゆる伝統的なものから、一般市民の間の民事事件にまで介入するようになった。結果として、ついに、平成3年5月15日、暴力団員の行う暴力的要求行為等について必要な規制を行い。暴力団の対立抗争等による市民生活に対する危険を防止するために必要な措置を講ずる等により、市民生活の安全と平穏の確保を図る目的として、「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」が公布され、よく平成4年3月1日に施行された(平成5年5月12日一部改)のである。(pp.166-167)

1-4.
 本法は、形式も実質上も暴力団対策のみを目的とする、日本で初めての警察庁所管の立法であり、現行の法令では充分にカバーされていない、あるいは現行の法令には抵触しないような形で行われている。グレー・ゾーンにおける*暴力団員の不当な活動を規制してくことにその目的がある。そして、その手段として、行政命令が用いられる点に特色があるのである。(p.167)

*暴力的要求行動の禁止(9条)
指定暴力団の威力を示して行う、以下の違法と合法すれすれの14種類の行為を禁止している。
(1)人の弱みに付け込む金品要求行為
(2)不当贈与要求行為
(3)不当下請等要求行為
(4)みかじめ料要求行為
(5)用心棒料要求行為
(6)高利債権取立行為
(7)不当債務免除要求行為
(8)不当貸付要求行為
(9)不当信用取引要求行為
(10)不当自己株買取事業等要求行為
(11)不当地上げ行為
(12)競売等妨害行為
(13)不当示談介入行為
(14)因縁をつけての金品等要求行為
(p.167)

4 manolo 2013-12-11 03:07:20 [PC]

1-5.
 その法的性格にしても、イタリアのような団体規制・組織成立法ではなく、また、アメリカのような立法規制立法でもなく、その中間に位置し、具体的に暴力団を指定し、その指定暴力団の活動のうちでも規制する必要性の高い行為のみに限定するという、二重の絞りをかけている点に徳所があるいえよう。暴力団対策法の概要は、①一定の要求に該当する暴力団を指定し、この指定された暴力団(指定暴力団等)の暴力団員(指定暴力団員)を規制の対象とする、②指定暴力団員が指定暴力団の威力を示しておこなうみかじめ料の要求等の典型的な不当な金品等の要求行為を規制すると共に、都道府県公安委員会は、暴力団の不当な要求行為による被害の回復等のための援助を行う、③対立抗争時の指定暴力団員の事務所の使用及び暴力団への加入の勧誘等の行為について一定の規制を行う、④全国及び都道府県ごとの暴力団追放推進センターを指定し、暴力団員の活動に被害の予防等に資するための民間公益活動の促進を図る等である。(p.167)

1-6.
 今後の暴力団犯罪対策の長期的な対策としては、この種の犯罪を醸成しやすい社会環境を除去し、暴力団構成員の強制に力尽くし、さらには暴力団予備軍ともいうべき者を一掃することが必要となるであろう。しかし、当面の対策としては、暴力団の存立基盤である人(構成員)、金(資金源)、物《武器》に対する徹底的な取締りを行い、組織に実質的な打撃を与えることによって。その分断・解体を図る直接的制圧作戦と、暴力団の存在を許している社会基盤を崩壊させ、社会から孤立させるために、関係機関・団体等が連携して、暴力団を社会から締め出す孤立化作戦を並行して押し進めることが肝要であろう。(p.167)
 
1 manolo 2013-11-03 23:53:53 [PC]


222 x 227
出典『よくわかる産業社会学』、上村千恵子編著、ミネルヴァ書房(VII-1.「労働組合とは何か」)pp.100-101

1-1. 1. 労働組合の役割
 日本の労働組合法によれば、労働組合(labor union)とは「*労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体」と定義される(労働組合法第二条)。労働組合とは、市場において使用者と対峙する際に弱い立場におかれやすい労働者が、市場メカニズムの一方的な犠牲にならないよう、自らの交渉力を強化するために組織する団体だといえる。(p.100)

*この定義は、イギリスの社会問題研究家であるウェッブ夫妻の考え方を反映したものとなっている。ウェッブ夫妻は、「労働組合とは、賃金労働者が、その労働生活の諸条件を維持または改善するための恒常的な団体である」という見解を示している(ウェッブ、S.・ウェッブ、B.、荒畑寒村監訳、1973、『労働組合運動の歴史』日本労働協会、p.4)。

2 manolo 2013-11-03 23:55:36 [PC]

1-2.
 もっとも、歴史的にみると、当初からこのように労働組合の存在が認められてきたわけではない。資本主義社会の初期においては、取引の自由、営業の自由、労働の自由といった個人的自由が法的原則として重視されており、それらの自由を制約しかねない労働組合の結成やその活動を禁圧する政策がとられていたのである。これに対し、労働組合の政治的勢力が増大し、かつ労働組合の意義についての社会の認識が改まると、労働組合は法的に認められるとともに、その結成や活動に対してさまざまな保護や助成を受けられるようになった。(p.100)

1-3.
 日本でも、戦前においては労働組合の結成や活動や多くの制約を受けていた。これに対し、1945年に制定された労働組合法(1949年改正)は、その目的として、「労働者がその労働条件について交渉するために自ら代表者を選出することその他の団体交渉を行うために自主的に労働組合を組織し、団結することを擁護すること並びに使用者と労働者との関係を規制する労働協約を締結するための団体交渉をすること及びその手続きを助成すること」を掲げている(労働組合法第一条)。これにより、労働組合は、単に法的に存在が認められたのみならず、その結成や活動に対して一定の保護や助成を受けられるようになった。(p.100)

1-4. 2. 労働組合の条件
 ただし、労働者が結成するすべての団体が労働組合として認められ、保護や助成を受けられるわけではない。労働組合法では、第二条但書において、次のような団体は労働組合として認められないと規定している。(p.100)

1-5.
 第一は、「使用者の利益を代表する者の参加を許すもの」である。労働組合は、労働者の利益を守るのが原則だからである。第二は、「経費の支出につき使用者の経理上の援助を受けるもの」である。労働組合は、使用者から独立した存在でなければないからである。第三は、「共済事業その他福利事業のみを目的とするもの」、第四は、「主として政治運動又は社会運動を目的とするもの」である。労働組合は、労働協約の締結を通じて労働条件の維持改善を図るのが原則だからである。(pp.100-101)

3 manolo 2013-11-03 23:57:07 [PC]

1-6. 3. 労働組合の形態
 労働組合は、組織する組合員の範囲や資格によって、いくつかの形態に分けることができる。まず、労働組合の歴史のなかで最も古いのが、職業別組合(*craft union)である。職業別組合とは、一定の職業につく訓練を受けた労働者が、産業や企業を問わず職業の共通性を基礎として結成する労働組合である。17世紀末から18世紀はじめのイギリスにおいて、羊毛職工、植字工、仕立職人、船大工などの多くの熟練職業の労働者が、初期の労働組合を結成した。これら職業別組合の特徴としては、それぞれの職業の労働者の利益を守るために、訓練課程や資格を統制するとともに、一定の賃金水準を設定してそれを下回る賃金で働くことを禁止するなど、独占的、排他的性格を持ちやすいことがあげられる。(p.101)

*「職能別組合」ともいう。

1-7.
 やがて、資本主義が高度化し、鉄鋼産業、造船産業、機械産業、自動車産業などにおいて機械化された大量生産が発達してくると、同一産業における労働条件や作業環境の共通性を基礎として、多くの半熟練・不熟練労働者を組織する産業別組合(industrial union)が出現した。これらの産業別組合の特徴としては、アメリカのCIO(Congress of Industrial Organizations)の運動に代表されるように、使用者調の弾圧に抗して激しい闘争を通じて結成され、社会主義や共産主義などのイデオロギーと結びつきやすい側面があったことがあげられる。

1-8.
 欧米諸国においては職業別組合、産業別組合が主流であるのに対し、日本において特徴的にみられ、また日本の労働組合の代表的な形態となっているのが、特定の企業または事業所で働く労働者(しばし正規労働者に限定される)を組織する企業別組合(enterprise union)である。たとえば、トヨタ自動車株式会社のトヨタ自動車労働組合、株式会社日立製作所の日立製作所労働組合というように、組合名に企業名を冠しているのが一般的である。(p.101)

1-9.
 これに対し、さまざまな職業、産業、企業の労働者、特に不熟練労働者を幅広く組織するのが、一般組合(general union)である。その代表としては、イギリスの運輸一般労働組合、一般・都市労働組合、商業・配給関連労働組合などがあげられる。日本においても、企業別組合に組織されにくい中小企業の労働者や個人労働者が、主として地域別の一般組合に組織されている。(p.101)

4 manolo 2013-11-05 00:27:35 [PC]

出典『よくわかる産業社会学』、上村千恵子編著、ミネルヴァ書房、(VII-2.「企業別組合」)pp.102-103

2-1. 1. 企業別組合と日本型雇用システム
 欧米とは異なり、日本では、特定の企業または事業所で働く労働者を組織する企業別組合がもっとも代表的な労働組合の形態となっており、組合員の約9割がこの形態の労働組合に属しているとされる。そして、企業別組合は、しばし海外の研究者によって、*終身雇用、年功序列と並ぶ日本型雇用システムの本質的特徴のひとつとして取り上げられてきた。具体的には、従業員の一体感を高めることによって、企業コミュニティ形成の基盤となっているといわれる。(p.102)

*そのような海外の研究の代表としてアベグレン、J.、占部都美監訳1958、『日本の経営』ダイヤモンド社:OECD、労働省訳、1972、『OECD対日労働報告書』日本労働協会などがあげられる。また、OECD上掲書の「序」において、当時の労働事務次官・松永正男は、生涯雇用、年功序列、企業別労働組合が「三種の神器」として日本の経済成長に貢献したと述べている。(p.102)

2-2. 2. 企業別組合の特徴
 企業別組合という形態をとることには、労働者にとってプラスの側面とマイナスの側面とがある。プラスの側面としては、以下の事柄があげられる。第一に、労働者を組織化しやすく、組合運営が財政面でも安定しやすいということである。企業別組合の多くは、職場において労働者が必ず組合員に加入しなければならないという、ユニオン・ショップ制度をとっている。この制度により、労働組合は新規採用者を自動的に組織化することできる。また、企業別組合の場合、組合員が同一企業の労働者であるために、*組合費が徴収しやすく、組合運営が財政面で安定したものになりやすい。(p102)

*多くの大企業では、給与支給の際、組合員の賃金から組合費を天引きし、労働組合に一括して渡す、チェック・オフ制度をとっている。(p.102)

5 manolo 2013-11-05 00:32:01 [PC]

2-3.
 第二に、*ブルーカラー労働者とホワイトカラー労働者が一体となって組合活動に携われることである。欧米の職業別組合、産業別組合の多くは、ブルーカラー労働者を中心に結成されているため、産業化の進展によってホワイトカラー労働者が増加するなかで、彼らの組織化に苦労している。これに対し、日本の企業別組合においては、ホワイトカラーの組織化が容易であるのみならず、彼らの知識や能力を組合活動の資源として活用することができる。(p. 102)

*このような労働組合を工職混合組合と呼ぶ。

2-4.
 第三に、最も重要なこととして、企業の内部、すなわち生産活動が行われる職場に組合の組織があることによって、職場の実状に即した組合活動を行いうること、さらには、経営の実情を踏まえた現実的な組合活動を展開しやすいことがあげられる。組合員が現実にどのような不満や要望を抱いているのかを把握し、それらを組合の政策として使用者に伝えていくことが、組合活動の基本である。そのような点において、企業別組合は、組合員の利益に適った行動をとるのにふさわしい形態だということができる。(pp.102-103)

2-5.
 他方、マイナスの側面としては、以下の事柄があげられる。第一に、労働者が企業別組合の枠をこえて連帯するのが難しいということである。当然のことながら、企業別組合の組合員となれるのは、当然企業の労働者に限られる。それゆえ、給与や手当が当該企業の経営状態や使用者の方針に左右される傾向があり、労働条件を社会的に標準化することが難しい。(p.103)

2-6.
 第二に、労働組合と使用者が癒着しやすいということである。企業別組合において、組合員の雇用を安定させ、労働条件を向上させるためには、当該企業の事業が安定し、成長していかなければならない。それゆえ、使用者の利益と組合員の利益が一致する部分が多く、結果として、*組合員の利益が使用者の従属させられるということがしばしば起こりうる。(p.103)

*このように、使用者が実権を握っている労働組合のことを、御用組合(yellow union)と呼ぶ。

6 manolo 2013-11-05 00:34:43 [PC]

2-7.
 第三に、日本企業別組合の多くは正規労働者のみの組合であり、パートタイマーなど非正規労働者の組織化が遅れているということである。もっとも、近年では非正規労働者を組織化する労働組合も増加しつつあるが、現状としては、労使関係において非正規労働者の意見が十分に反映されているとは言い難い。(p.103)

2-8. 3. 産業別組合との連携
 企業別組合のもとでは、労働者が企業の枠を超えて連帯することは難しいと述べた。しかし、1955年以降の賃金交渉において、最終決定こそ各企業の労使交渉に委ねられるものの、あらかじめ産業別組合(正確には、企業別組合の連合体)が賃上げ要求を提示し、企業別組合がそれに従って行動するという独特の慣行が生まれた。これを春闘(春季生活闘争)という。(p.103)

2-9.
 春闘は、毎年2月頃から始まる。まず、自動車、電機、鉄鋼といった製造業の産業別組合が、産業別の賃上げ要求を提示する。次に、それらの産業別組合に加盟する大手製造業の企業別組合が、産業別組合の指導の下で交渉を行い、できる限り同一産業内で足並みの揃った賃上げ水準を引き出す。そして、そこで形成された賃上げ相場が、非製造や中小企業の賃上げに波及するというかたちをとる。(p.103)

2-10.
 なお、1990年のバブル崩壊後においては、同一産業内でいわゆる「勝ち組」企業と「負け組」企業が明確化したため、最終的な賃上げ水準がばらつくようになった。また、成果主義賃金の導入により、春闘における賃上げ率が個々の労働者の所得向上に結びつかなくなってきており、従来の意味での春闘の役割は希薄化しつつある。しかし他方で、春闘は、雇用維持や労働時間の短縮など、賃上げ以外の問題について労使が話し合う場という新しい役割を担いつつある。(p.103)

7 manolo 2013-11-26 21:06:57 [PC]

出典『よくわかる産業社会学』、上村千恵子編著、ミネルヴァ書房(VII-3.「労使の対立」)pp.104-105

3-1. 【1. 労使関係とは何か】
 労働者と使用者(経営者)との間に形成される関係を、*労使関係(industrial relations)という。労使関係のあり方は、労働組合の活動方針や経営方針次第で多様な形態をとりうるが、いかなる形態のものであれ、その根底に構造的な利害対立がある点では共通している。以下、戦前および戦後においてその利害対立がどのようなかたちで立ち現われてきたかを、事例に即してみていく。(p.104)

*これに対し、労働者と資本家の階級的対立関係を表現するときには、労資関係という用語を用いる。(p.104)

3-2. 【2. 戦前の労働問題】
 戦前の日本では、労働組合の結成や活動は多くの制約を受けていた。そのため、労働者は、団結して異議を申し立てる機会も与えられないまま、過酷な環境もとで低賃金を強いられてきた。ここでは代表的な2冊を取り上げる。

3-3.
 ひとつは1899年(昭和32年)に上梓された横山源之助『日本の下層社会』である。同署によれば、当時の紡績工場においては、地方の農村から集められた義務教育未了の10歳未満の少女たちが、30畳から40畳に40人から50人が押し込められる狭い寄宿舎で寝泊まりしながら、防火装置も整わない灼熱の工場で昼夜二交代勤務に従事していたという。しかも、労働者の福利を顧みない経営者により会社は中国市場で多額の利益を収めながら、労働者の手元に渡る賃金はわずかで、貯金すらままならなかった。

3-4.
 いまひとつは、第一次大戦後の1925年(大正14年)に上梓された細井和喜蔵『女工哀史』である。同書には、当時の紡績工場における、仕事上の些細なミスに対する残酷な身体的懲罰、不良品の発生に対する理不尽な罰金制度の存在が克明に配されている。また、工場の衛生状態も悪く、女性の死亡率は1000人中の23人と、当時の一般女性の3倍に上っていたという。(p,104)

8 manolo 2013-11-26 21:08:15 [PC]

3-5. 【3. 戦後の労働争議】
 戦後、1945年の労働組合法の制定法により労働組合の形成が法認されると、全国各地で激しい労働争議が巻き起こった。ここでは、当時、世間で大きな注目を集めたふたつの争議を取り上げる。(p.104)

3-6.
 ひとつは、近江絹糸争議である。近江絹糸は、戦後に急成長を遂げた後発の繊維メーカーであり、その躍進ぶりには目を見張るものがあったが、その背景には労働法や労働者の人権を無視した前近代的経営があった。具体的には、「フクロウ労働」と呼ばれる専門深夜番制度、労働者を交互に競わせる仕掛け、勤続を重ねても昇給しない賃金制度が敷かれるとともに、仏教の強制、信書の開封、私物検査、外出制限といった人権侵害が横行していた。そこで、これに反発した労働者は、1954年、全繊同盟の指導のもと近江絹糸労働組合を結成し、22項目の要求を使用者側に提出した。しかし、使用者側がこれを拒んだため、組合側はストライキに入った。結局、中央労働委員会の3度目の斡旋によって組合の勝利のもとで事態は終結したが、争議の過程で組合側に自殺者が出るなど、その代償は決して小さなものではなかった。(pp.104-105)

3-7.
 いまひとつは、1959年から1960年にかけて、三井三池炭鉱で行われた三井三池争議である。1958年以降、石炭業界は厳しい不況に見舞われ、三井三池炭鉱においても、希望退職などによる人員削減が提示された。しかし、希望退職者が不足したため、1959年12月、使用者側が戦闘的な組合活動員を含む1200名を指名解雇、これに反発した組合側がストライキに入るかたちで争議が始まった。争議は、財界が使用者側を、総評が組合側を支援する「総資本対総労働」の対決と位置づけられたこともあり、長期化した。最終的には、組合側が世論の支持を得られなかったこともあり、使用者側による指名解雇を認める形で決着したが、長期化の混乱のなかで幾度の暴力事件が発生し、少なからぬ死傷者を出すなど、大きな犠牲を伴う争議となった。(p.105)

9 manolo 2013-11-26 21:09:30 [PC]

3-8. 【4. 職場共同体と仕事の規則】
 高度成長期が終わる頃には、犠牲者を伴う激しい労働争議はほとんどみられなくなった。しかし、労使の対立的な関係自体がなくなったわけではない。そのような関係が象徴的に見られるものとして、1975年から1977年にかけて調査が行われた国鉄動力車労働組合(動労)の事例を取り上げる。(p.105)

3-9.
 当時の動労は、団体交渉においてストライキを辞さない強硬な態度を示すことで知られていたが、そのような態度を生み出していたのが、労働者の強い結束である。そして、その結束を支えていたのが、職場共同体による仕事の規制を通じた労働者同士の競争の回避、平等の保障であった。具体的には、労働協約に基づき乗務距離・時間に厳しい制限を設け、過重労働の回避、業務負担の平準化を図るとともに、昇給や昇格において年齢・勤続に基づく先任順位の準用の適用を要求し、業績主義的競争の回避を図っていた。(p.105)

3-10.
 現在では、当時の勤労のような労働組合は少ないが、この事例は、職場共同体による仕事の規制が、労働者の強い結束をもたらし、団体交渉において強硬な態度を生み出す基盤となりうることを物語っている。(p.105)
 
1 manolo 2013-11-19 18:39:30 [PC]


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出典: ニューズウィーク日本版、11/26/2013、pp.36-37

1-1.
 アメリカの政治家で科学者の故ベンジャミン・フランクリンによると、人間には3つのタイプがある。動かない人、動く人、そして、動かす人だ。34歳のコンピューター専門家マナル・アルシャリフは自分の前に立ちはだかる、てこでも動かない大岩を動かそうとしている。女性は車を運転してはならないというサウジアラビアの文化的な規範だ。(p.36)

1-2.
 サウジアラビアは女性の運転が禁止されている世界で唯一の国。イスラム教スンニ派の教えと部族的な伝統が、この国の1000万人の女性の権利を制限している。チュニジアの露天商の抗議がジャスミン革命につながり、「アラブの春」を巻き起こしたように、アルシャリフの活動も大きな地殻変動をもたらすとみられている。サウジアラビアで「女性の春」を起こしたいと、彼女は言う。サウジ王家はアラブの春の波及を警戒して、反政府派への締め付けを強化しているが、アルシャリフは屈しない。(p.36)

2 manolo 2013-11-20 16:40:24 [PC]

1-3.
 彼女は今や変革の顔だ。11年には外交専門誌フォーリン・ポリシーの「世界思想家100人」にランクイン。その発言や行動は中東全域に響き渡る。彼女は「僕がヒーローと呼ぶ人物の1人だ」とセルビアの先輩活動家のスルジャ・ポポビッチは言う。(pp.36-37)

1-4.
 厳密に言えば、サウジアラビアで女性の運転が法律で禁止されているわけではない。ただ、女性は運転免許証を取得できず、外国で修得した免許証は国内では無効とされる。女性が車でどこかに行きたいときは、身内の男性に頼むか運転手を雇うしかない。90年にこのタブーに抗議した女性たちは厳しく罰せられた。そのため、その後20年余り誰も運転禁止には異議を唱えなかった――アルシャリフがハンドルを握る決心をするまでは。(p.37)

1-5.【外の世界を知った衝撃】
 11年5月、自分の車があるのに運転できないことに業を煮やした彼女は運転席に乗り込んだ。友人がその様子をスマホに撮影した。「籠の鳥のようなもの」と、アルシャリフはその時の心境を話す。「ある日扉が開かれると、鳥はためらう。飛び出してもいいの、本当に大丈夫?」アルシャリフはアクセルを踏み、広い世界へと飛び立った。わずか8分間のドライブだったが、数日後アルシャリフは宗教警察に逮捕され、6時間拘束された。だがそのときには既に、YouTubeにアップされた動画は60万回も再生されていた。彼女の行動が報道されると、女性たちの反応は真っ二つに分かれた。「今のままでいいと思っている女性たちも多い」と、アルシャリフは説明する。「女王様のように扱われ、夫が何でもやってくれるから」(p.37)

1-6.
 執拗な嫌がらせは今も続いているが、アルシャリフは動じない。最初の運転の後、支持者たちと草の根運動を組織。ロゴを作り、地元メディアも巻き込んで、11年6月17日にみんなで一斉に車を運転し、動画を撮って公開しようと呼び掛けた。反響は驚くほど大きかった。ネット上でアンケートも実施した。「あなたは6月17日に車を運転したいですか?」という質問には回答者の84%が「はい」と答えたが、「運転できますか」に「はい」と答えたのはわずか11%だった。そこでボランティアの教官を募り、希望者に運転を教えることにした。(p.37)

3 manolo 2013-11-20 16:52:34 [PC]

1-7.
 ここまで運動が盛り上がったのは、本人にとっても予想外だった。アルシャリフは聖地メッカで幼少時代を過ごした。この街のカリキュラムは宗教教育が4割近くを占める。、中学1年になると、それまで仲良く遊んでいた親せきの男の子と引き離された。「ショックだった。ただの遊び友達なのに。家族と一緒に休暇でエジプトに旅したとき、自分で運転しスカーフもかぶらずに街を行く女性たちの姿に衝撃を受けた。「信じられない光景だった」(p.37)

1-8.
 アルシャリフは学校生活を通じて自我を確立していった。一致親はトラックの運転手、母親は主婦と、労働者階級の家庭だったが、両親の方針で3人の子どもたちは高い教育を受けた。(p.37)

1-9. 【サウジ男性の二重基準】
 成績優秀だったアルシャリフはコンピューター科学を専攻、国営の石油会社サウジアラムコに就職した。会社から派遣されて1年間ボストンで生活したことが2度目の開眼となった。自分でアパートを借り、車の運転もした。旅行に行くにもいちいち父親の署名は要らない。ところが祖国に帰ると苦痛の日々が待っていた。「何をするにも、父の署名入りに許可証が要る」。一度自由の味を知ったら、もう窮屈な生活には戻れない。サウジアラビアには二重基準があると、アルシャリフは言う。「教育のある男性は外国で女性が運転したり、フカーフなしでいる姿を見ても問題だとは思わない。でも自分の国に帰ると態度を一変させる」(p.37)

1-10.
 彼女はその後も国内で女性の権利拡大の活動を続けていたが、昨年5月にサウジアラムコに解雇され、今はドバイで働いている。離婚した夫が息子を国外に出したがらないため、息子に会いに祖国に「通う」日々だ。アルシャリフはサウジ当局のブラックリストに載り、移動中も監視されている。彼女たちの組織のサイトは最近、何者かに荒らされた。それでもアルシャリフは世界中を飛び回って活動を続け、自伝も執筆中だ。(p.37)

1-11.
 抑圧されていることに気付いたら、もう二度とその状態には戻れないと彼女は言う。初めてハンドルを握ったときもそうだった。「思い切って飛び出すだけ。自分を信じて飛び出すの」(p.37)
 
1 manolo 2013-09-21 15:52:24 [PC]


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出典:『WEBRONZA(シノドス・ジャーナル)』、桧垣伸次、7/23/2013、「ヘイト・スピーチ規制について ―言論の自由と反人種主義との相克」(http://webronza.asahi.com/synodos/2013072300004.html)(閲覧日9/21/2013)

1-1.
 近年、日本でもヘイト・スピーチという言葉がしばしば聞かれるようになり、ヘイト・スピーチを規制するか否かについての議論がなされている。ヘイト・スピーチという用語は、1980年代のアメリカで使われるようになったものであるが*、その捉え方自体が多様であるため、定義は論者によって異なる(そのためか、議論が錯綜していることもある)。本稿では、さしあたり、「人種、民族、宗教、性別等に基づく憎悪及び差別を正当化もしくは助長する表現」と定義する。

*それ以前では、1920~1930年代は人種嫌悪(race hate)、1940年代は集団的名誉毀損(group libel)などと呼ばれていた。

14 manolo 2013-10-29 22:29:12 [PC]

2-22.
 このように、既存の法制度のもとでは、不特定多数で構成される集団に対する憎悪表現に対処することは困難である。そして、仮にそのような憎悪表現を規制するための新しい法律を制定したとしても、今度はそのような規制が表現の自由の保障に対する脅威となる恐れが拭えない。このような難点を念頭におきつつ、以下、諸外国が憎悪表現の蔓延という事態に直面してどのような対応策を選んできたのかを見て行きたい。ここでは、規制違憲派のアメリカと規制合憲派のカナダの2カ国を見ていく。

2-23. 【アメリカの状況】
 日本でも近年耳にすることが増えた「ヘイト・スピーチ(hate speech)」という語は、アメリカから輸入された用語である。アメリカにおいて、「ヘイト・スピーチ」という用語が一般的に用いられるようになったのは1980年代後半以降である。この時期、人種や性別をめぐる差別や偏見の解消のための効果的な対策が模索され、とくに大学のキャンパスにおける人種的・性的な嫌がらせ(ハラスメント)行為に対処するため、多くの大学が憎悪表現を含むハラスメント行為全般を規制する学則を採用するようになったことから、憎悪表現規制の合憲性及び妥当性をめぐる議論が一気に活性化した。そのような議論のなかで、「ヘイト・スピーチ」という用語が定着していったのである。

2-24.
 ヘイト・スピーチの規制をめぐる対立は、従来の表現規制をめぐる典型的なリベラル派と保守派の対立とは異なる様相を見せた。すなわち、従来繰り広げられてきたわいせつ表現、不道徳な表現、反国家的な表現の規制の合憲性をめぐる議論では、保守派が規制を認める姿勢を見せる一方で、リベラル派は一貫して表現規制を否定してきたのであるが、ヘイト・スピーチ規制をめぐる議論では、保守派(の一部)が規制に反対し、リベラル派(の一部)が規制に賛成するという構図を見せたのである。とくに1980年以降のヘイト・スピーチ規制をめぐる議論は、有色人種や女性の積極登用を進めるアファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)やハラスメント防止対策を中心とした「政治的な正しさ(Political Correctness)」を追求する流れと相まって推進され、リベラル派と保守派のあいだでの社会的・政治的な論争を激化させた。

15 manolo 2013-10-29 22:32:48 [PC]

2-25.
 さらに、そのような対立にとどまらず、リベラル派の内部においても規制肯定派(マイノリティの自由と権利を重視)と規制否定派(個人の表現の自由を重視)とが対立する予想を見せ、「リベラル派の分断」(Owen Fiss. “Liberalism Divided”(1996))と呼ばれる状態を生み出した。そのような論争のつづくなか、1992年、アメリカ連邦最高裁は、RAV(R.A.V. v. City of St. Paul, 505 U.S. 377(1992))において、憎悪表現規制は違憲であると判断した。RAV事件の争点はとなったミネソタ州セントポール市の「偏見を動機とした犯罪に関する条例」は、ある者のなした表現行為が人種、肌の色、信条、宗教、性にもとづく怒り、不安、憤りをもたらし、それが「*喧嘩言葉」を構成する程度に至った場合に刑罰を科すというものであった。

*なお、「喧嘩言葉」とは「言葉自体が侵害を与え、あるいは平和の破壊を即座に引き起こす傾向にある」表現を指し、連邦最高裁の先例の中では、わいせつや名誉毀損と並んで表現規制が許されるとされた表現領域である。

2-26.
 連邦最高裁は、当該条例が人種等の不人気な題材(disfavored topics)に関する表現のみを喧嘩言葉のなかから選び出していることを指摘し、当該条例は表現の内容にもとづく規制であると述べた。そして、連邦最高裁は、市の主張する規制利益(=歴史的に差別の対象となってきた集団に属する人々の基本的人権を保障すること)の重要性を認めつつも、当該利益を達成するために表現内容にもとづく規制を課す必要性を否定し、同条例は違憲であると述べた。

16 manolo 2013-10-29 22:35:16 [PC]

2-27.
 RAV判決によって、全米において憎悪表現の規制は不可能となったと理解され(*)、それまで憎悪規制を設けていた自治体や大学は規制を廃止した。しかし、憎悪表現規制を違憲と判断した連邦最高裁のRAV判決に対しては、規制合憲説の論者からさまざまな反論が寄せられている。規制合憲派の主張は多岐にわたるが、まずは合憲派の主張するところの 「憎悪表現のもたらす害悪」を紹介したい。ここで紹介する害悪は、被害者個人に及ぶ害悪と、社会全体に及ぶ害悪とに大別できる。

*2003年の連邦最高裁のブラック判決では、脅迫に該当する「十字架を燃やす行為」を規制する州法を合憲としている。十字架を燃やす行為は、白人優越主義集団KKKが黒人を威嚇・迫害するために用いた表現行為であり、アメリカにおいては今日でもとくに強烈な威嚇的・迫害的なメッセージを発するものとされる。さらに、連邦最高裁は、人種・宗教的な憎悪を動機とする「犯罪」を罰する際に刑を加重すること(憎悪犯罪刑罰加重規定、hate crime法)は合憲であると判断している。

2-28.
 第一に、憎悪表現が伝達するメッセージは、差別意識の残る米国社会において、その被害者に劣等感を植えつけ、精神面に重大な影響を与えるのみならず、自己表現の権利を行使することを躊躇させるなど、被害者の自由な行動を抑制する効果を持つと言われる。つまり、憎悪表現は、被害者の尊厳を傷つけるとともに、被害者の自律的な自己決定を妨げるものであると言われる。

2-29.
 さらに、憎悪表現は、被害者側の表現活動の自由を抑制する効果を生み出すと言われる。そのため、憎悪表現の被害者に「言論には言論で対抗せよ」という原則(=「対抗言論」の原則)を強いるのは不適当であると言われる。つまり、憎悪表現に関しては、表現発信者に対して被害者がまともに反論をすることができる可能性は低いのであり、現実には多くの被害者は沈黙を強いられ、表現発信の機会を奪われていると言うのである。

17 manolo 2013-10-29 22:37:55 [PC]

2-30.
 第二に、憎悪表現の発信は、被害者個人に被害をもたらすにとどまらず、社会全体の憲法上の理念を損なう結果をもたらすと言われる。まず、憎悪表現の「発信」の自由を保障することは、社会全体における表現の自由そのものを後退、または縮小させることにつながると言われる。つまり、憎悪表現の発信の自由を保障することによって、将来的に憎悪表現の蔓延した社会が到来する可能性が指摘される。

2-31.
 先に述べたとおり、憎悪表現に関しては「対抗言論の原則」が想定している「(憎悪表現を受けた側からの)反論」が実際になされる可能性が低いため、その結果として、社会には憎悪表現(およびその思想)のみが流通することになり、憎悪表現に対する反論は流通しない。さらに、憎悪表現は、連鎖的に周囲の者を感化して憎悪表現の蔓延を促進させる可能性が高く、長期的には社会全体の人々の偏見や憎悪を増進することとなり、社会の理性のレベルを下げる傾向にある。

2-32.
 こうして憎悪や偏見の思想が社会に充満してしまうという段階に達してしまった場合、もはや憎悪表現に対する反論を発信しようにも、偏見や憎悪の思想を理性的に論破することは極めて困難であるし、そもそも偏見や憎悪の対象者出である被害者の意見は軽んじられる可能性も高い。そして、このように社会に憎悪表現が蔓延すということは、民主主義の過程に偏見や憎悪の思想が浸透するという事態をもたらすにみならず、公共の議論に被害者の観点が登場しないという事態をもたらす。このような影響を考慮すると、憎悪表現に関しては、積極的に(善良なる)政府が介入をして規制を試みる必要があると主張される。

2-33.
 憎悪表現の害悪はこのように説明されるのであるが、もちろん、憎悪表現の害悪の重大さの程度は、個々の憎悪表現の内容、性質、状況、あるいは、その受け手の立場、性質、状況などによって異なる。そこで、規制合憲説は、規制可能な憎悪表現の範囲を厳格に確定することで、表現の自由の侵害を避けようと試みる。そして、厳格に定義された憎悪表現については、喧嘩言葉や脅迫などの既存の原則のもとで、あるいは新規の規定を設けることで規制することが可能であると主張するのである。

18 manolo 2013-10-30 21:16:24 [PC]

2-34.
 もっとも、このような規制肯定派の見解に対して、規制否定派からは、それでも表現内容規制は避けるべきであるという主張がなされる。つまり、憎悪表現の害悪がいかにひどいものであろうとも、特定の内容の表現(つまり憎悪表現)を「悪い表現」であると政府が認定して、そのような表現の発信を禁止するということは、表現の自由の保障の中核にある表現内容規制の禁止という考え方に基本的に反するがゆえ、許されないというのである。

2-35.
 このような指摘に対し、規制合憲派は次のような反論を展開する。まず、憎悪表現のもたらす害悪は、わいせつ表現や脅迫の害悪とは異なり、法的に認識されるようになってから間もないため、それを規制すべきか否かをめぐる社会のコンセンサスが得られないために、その規制が許容されないのだという主張がある。

2-36.
 また、憎悪表現の害悪は深刻かつ重大であるにもかかわらず、社会の多数派にはその害悪が及ばないがゆえに、わいせつ表現などのように多数派にも害悪が及びうるものと比較して、害悪の重大さが理解されにくいという指摘もある。この点につき、1960年代以降の国際社会では人種や宗教を原因とした憎悪にもとづく思想の流布や人種差別の煽動などを法的に規制すべきとする見解が主流であって、人種差別撤廃条約などでも無差別表現の国内規制が義務化されているという主張もなされる。

2-37. 【カナダの状況】
 カナダでは、1960年代に反ユダヤ主義が反黒人主義の動きが広がり、白人優越主義集団の活動が活発化したことが社会問題となった。そのようななか、連邦議会は、1970年に刑法典に憎悪表現(hate propaganda)を禁止する条項を設けた。その後の改定を経た現行の連邦刑法は、肌の色、人種、宗教、性的志向などの指標によって識別される集団に対する憎悪を煽動する意見を公然と伝えることを禁止するとともに、プライベートな会話以外の場面で特定集団に対する憎悪を意図的に促進する意見を伝えることを禁止する。そして、免責条件として、(a)真実性の証明がある場合、(b)誠意をもって宗教上の題材に関する意見を述べた場合、(c)公共の利益のためになされた場合、(d)憎悪感情の除去を目的としていた場合という4つの場合を規定している。

19 manolo 2013-10-30 21:17:42 [PC]

2-38.
 カナダでは、刑事法に加えて人権法による憎悪表現規制も行っている。カナダの人権法は、人種、肌の色、宗教等の事由による様々な形態の差別「行為」を禁止する法律であるが、その第13条において、電話や通信システムを利用して憎悪表現を発信することを禁止している。カナダの連邦最高裁は、1990年の判決において、連邦刑法と連邦人権法の規制について、いずれも表現の自由に対する正当な制約であるがゆえに、合憲であると判断している。連邦最高裁は、憎悪表現が個人や社会に与える強い害悪を認定し、さらに、その害悪の防止を必要とすることの重要性も認めた上で、そのような害悪を防止するという立法目的を肯定し、そのような害悪を防止するために表現規制という手段をとることを肯定している。

2-39.
 もっとも、21世紀に入り、カナダにおける憎悪表現規制をめぐる状況に変化が生じている。2007年以降にイスラム教を批判する複数の表現物が憎悪表現であるとして人権員会に申し立てられたことを契機に、とくに人権法にもとづく憎悪表現規制の廃止論が強く唱えられるようになったのである。そして、2012年6月、連邦議会下院は廃止法案を可決し、現在(2013年5月)、同法案は上院で審議中である。カナダの上院は公選制でないがゆえに下院の法案を否決しない憲法習律が存在しており、今後、人権法13条の廃止案は上院でも可決される見込みである。

2-40. 【アメリカ、カナダの経験から学びうること】
 カナダの連邦最高裁が、現実社会における差別構造や差別意識の存在を直視し、歴史上の反省点を振り返り、憲法や国際条約上の表現の自由や平等の価値を考慮しつつ、憎悪表現規制を合憲であると判断したことは一定の意義が認められるように思われる。そして、カナダが、刑法にもとづく厳格な構成要件にもとづく憎悪表現規制に加えて、人権法による調停機能や救済機能を特色とする人権委員会や人権裁判所を通した憎悪表現規制を設けることについても、一定の意義があるように思われる。

20 manolo 2013-10-30 21:22:00 [PC]

2-41.
 しかし、規制を設けることには慎重さが必要である。慎重さが要求される理由についてはすでに述べてきたところであるが、ここではさらに三つの理由をあげておく。

2-42.
 第一に、表現の自由が持つ「社会の安全弁」としての機能(=何らかの事柄に不満を持つ者が、実力の破壊行為ではなくたんなる言論行為で鬱憤を晴らすという意味において、表現は社会の安全弁としての役割を果たしているという考え方)を強調する立場からは、憎悪表現を規制してしまうと、憎悪思想を抱く人々が鬱憤をはらすための手段が閉ざされることになり、その結果、憎悪感情にもとづく過激な犯罪行為の発生につながるおそれがあると指摘される。

2-43.
 第二に、社会的な弱者を守ることを目的として導入した憎悪表現規制であっても、弱者の言論を取り締まるために活用されてしまうおそれも指摘される。たとえば、憎悪表現にさらされた社会的弱者が発信する反論のなかに社会的強者を攻撃する憎悪表現が含まれていた場合に、当該弱者の言論を取り締まるために規制が用いられてしまうという構図である。第三に、合憲的な規制たりうるためにはごく限定的な一部の憎悪表現のみを対象とせざるをえないことを踏まえると、ほんのわずかな効果のために表現の自由の保障全体を揺るがすような規制を設けることを正当化できないという指摘もある。

2-44.
 さらに、アメリカやカナダで見られる規制反対論のなかには、伝統的に表現の自由の保障を重視してきた論者による反対論に加えて、政治的な対立を背景にした反対論があることにも留意しておく必要がある。たとえば、アメリカの連邦最高裁は憎悪表現規制を違憲と判断しているが、同最高裁が憎悪表現を生み出す害悪を認めつつもなお規制を許さないという考え方をとった背景には、「Political Correctness(政治的妥当性)」を追求する動きに対する保守派判事の反発感があったと言わることがある。

21 manolo 2013-10-30 21:22:51 [PC]

2-45.
 また、近年のカナダにおける人権法の憎悪表現規制廃止の動きは、保守派のなかで規制反対の声が強まった結果、保守党政権の主導で進められているのである。憎悪表現をめぐるこのような政治的な対立構造を目の当たりにすると、そもそも表現規制が許されないとされる理由、すなわち表現内容規制には政府による恣意的な表現規制の危険がつきまとうという指摘が現実味をもつようになり、憎悪表現への法的対策の困難さが浮き彫りになる。

2-46.
 憎悪表現の広まりに対して国家として何をすべきなのか、何ができるのか、本稿でみてきた憎悪表現規制をめぐるアメリカとカナダの対応の経緯は、われわれに様々な示唆を与えていると思われる。

22 manolo 2013-10-31 07:33:59 [PC]

出典: The Japan Times、10/9/2013(Editorials: "Penalizing hate speech")、 http://www.japantimes.co.jp/opinion/2013/10/09/editorials/penalizing-hate-speech/#.UnGE2lSCjmI

3-1.
  The Kyoto District Court on Oct.7 ordered an anti-Korean group, Zaitokukai, and activists to pay some ¥12 million in damages to a pro-Pyongyang school in Kyoto for disrupting classes by staging demonstrations in which they used hate speech against Koreans. The court also banned the street demonstrations within a 200 meter radius of the school.

3-2.
  This ruling, long overdue, is important because it has made it clear that speech that fans discrimination and hatred against a specific ethnic group is illegal. Zaitokukai has repeatedly conducted street demonstrations laced with hate speech in Tokyo's Shin Okubo district and Osaka's Tsuruhashi. It must take the ruling seriously and halt such activities.

3-3.
The lawsuits was filed by Kyoto Chosen Daiichi Elementary School in Minami Ward, Kyoto. It requested ¥30 million in damages from Zaitokukai and associated activities and a ban on their demonstrations. Discriminatory phrases were uttered through loudspeakers on three occasions when Zaitokukai activists demonstrated near the school from December 2009 to March 2010. The group claimed that its activities were a legitimate protest against the school's setting up a speech platform for morning assembly in a park without first getting permission from the Kyoto citiy government, adding that its protest should fall under the purview of freedom of speech guaranteed by the Constitution. (The school principal was fined ¥100,000 in a separate case.)

23 manolo 2013-10-31 07:50:55 [PC]

3-4.
  The Kyoto District Court based its ruling on the International Conventionon on the Elimination of All Forms of Racial Discrimination, which Japan has ratified. The ruling stated that Zaitokukai and activists' demonstrations near the pro-Pyongyang school and the group's streaming of the demonstrations over the Internet constituted racial discrimination as prohibited by the treaty and as such are illegal. Without using the phrase "hate speech," the court ruling said that the demonstrations terrorized students, made teaching in classes difficult, damaged the environment for quiet education activities, and harmed the honor of the school and its teachers and students.

3-5.
  Zaitokukai's claim that its activities are legitimate is unreasonable given the phrase it used near the Korean school - "Throw Korean schools out of Japan," "Children of spies," "Cockroaches, maggots, go back to the Korean Peninsula," "Any Korean who is discriminated against by Japan and feels mortified, go back to the Korean Peninsula," etc. There is a possibility that the online streaming of the demonstrations helped to nurture anti-Korean feelings among some Japanese citizens.

3-6.
  It is notworthy that the ruling said it was necessary to se the compensation amount at a level that serves to protect and provide relief to people who were targeted by the demonstrations. Thus it ordered psyment of some ¥12.26million in compensation.

3-7.
  The ruling will prompt public discussion on whether a law prohibiting hate speech should be enacted. While such a law might make it easier to crack down on hate speech, there is a chance that the authorities could abuse it by using as a license to silence activities with which they disagree. The best outcome would be for ordinry citizens to reject hate speech and build up a social movement against it.