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通信傍受 (コメント数:8)

1 manolo 2014-01-13 23:33:19 [PC]


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『よくわかる刑事訴訟法』、椎橋隆幸編著、4/20/2009、ミネルヴァ書房、(「III-28 通信傍受」)壇上弘文、pp. 84-85

1-1. 【1. 通信傍受の必要性】
 現代社会は、都市化され、匿名化された社会であり、犯罪が行われた場合に、必ずしも目撃者等の有力な証人がいるとは限らず。ましてや組織的に犯罪が行われた場合は、その活動が計画的・密行的に行われるため、その摘発・検挙が非常に困難である。したがって、組織犯罪対策としては、物理的侵入を伴う従来の操作方法とは異なる。組織の構成員たる個人の行動、ひいては組織それ自体の行動を監視することが必要となる。また、犯罪組織は、今日非常に便利になった情報通信技術を利用して自らの目標を達成しようとしており、こうした犯罪活動の実態から考えても、組織犯罪の操作には通常の操作方法がそれほど有効なものとならない場合も多く、組織の活動を把握するためには、その意思連絡を?むこと、すなわち組織の通信を傍受することが必要になる。そうした状況の下、組織犯罪の捜査における有効な手段として、*平成12年(2000)年8月15日に「犯罪のための通信傍受に関する法律」が施行された。(p.84)

*ただし、犯罪捜査のための通信傍受については本法成立にも刑事訴訟法の検証許可状により電話傍受が行われていた。最決平成11年12月16日刑集53券9号1327頁、甲府地判平成3年9月3日判時1401号127頁、東京高判平成4年10月15日判夕808号168頁、旭川地判平成7年6月12日判時1564合147頁、札幌高判平成9年5月15日判夕962号275頁等参照。(p.84)

2 manolo 2014-01-13 23:35:04 [PC]

1-2. 【2. 憲法との関係】
 憲法21条2項は、通信の秘密を保障する。わが国の憲法が保障する基本的人権には様々なものがあるが、それらは濫用が禁止され、公共の福祉の下に制約を受けるものであり、個人の内心にとどまらない限り絶対的に無制限なものではない。通信の保護の保障も例外ではない。今日の社会では通信技術が著しく発達し、一般の人々がごく当たり前にそれらを利用している。通信の秘密の保障は、非常に重要なものであるが、通信制度は公共財であり、これを害悪、すなわち犯罪に利用する場合にまで絶対的にまた無制限に保護すべきものとはいえないはずである。したがって、*一定の条件を満たす場合には、通信の秘密の保障を制約することが憲法上許されていると考えてよい。(p.84)


*捜査機関による濫用を防止すべく、厳格な要件を規定し、かつ犯罪摘発のための有効な手段として、必要最小限の範囲で通信の傍受を許容することができるといえよう。(p.84)

1-3.
 また、憲法35条は、捜索・差押えに関する令状主義を定めたものであるが、通信傍受法においては、厳格な要件を充たす場合に、裁判官の発する、傍受すべき通信及び傍受の実施対象とする通信手段を明示する令状によって通信の傍受を行いうるものであり、憲法の令状主義に合致するものであるといえよう。(p.84)

3 manolo 2014-01-13 23:37:30 [PC]

1-4. 【3. 刑務所との関係】
 刑訴法197条1項ただし書きは、「強制の処分」は刑訴法に定められていなければならないとする「強制処分法定主義」を規定している。通信の傍受はその処分を受けている者が知らぬ間に政府による監視下に置かれるものであるため強制処分と解され、現行法上具体的な実施方法等の要件が定められていないため「強制処分法定主義」違反であり許されないという見解もあった。捜査においては、通信傍受法制定前、その実施に当たり検証許可状を得て行われていたが、検証に関する規定にも、通信の傍受については明確な定めはなく、通信の傍受は検証には当たらないとの見解も主張されていた。判例上は、検証許可状による電話傍受を肯定しており、学説上も、検証とは法廷にそのまま顕出することができないものを事実認定に当たる裁判官が五感で認識することができるように証拠を保全する活動であり、音声というそのままの状態では法廷に顕出できない証拠を録音という作業によって法廷に顕出できる形態に直して保管するための処分であるので、検証または検証に類似した処分であると解しうるとの見解が示されていた。ただし、検証許可状による電話の傍受については、法律上具体的な要件が定められておらず、傍受実施方法や記録の作成・保管、不服申し立て手続き等に関する規定がないこと等、*適正な実施を担保する措置が不十分であるとの指摘もあった。(p.85)

*通信傍受法においては、濫用防止のための厳格な要件・実施方法及び関係者の権利保護のための救済策としての不服申し立て等の手続きが定められた。(p.85)

4 manolo 2014-01-13 23:38:24 [PC]

1-5. 【通信傍受の要件】
 通信傍受法は、①通信の傍受が許される対象犯罪が薬物関連犯罪、銃器関連犯罪、集団密航に関する罪、組織的な殺人の罪に限定しており、その4種対象犯罪が行われたと疑うに足りる「十分な理由」が必要であるとし(通信傍受法3条1項)、②それらの殺人が数人の共謀によるものであると疑うに足りる状況があるときなどにおいて、③当該犯罪の実行に関連する事項を内容とする通信(犯罪関連通信)が行われたと疑うに足りる状況があり、かつ、④他の方法によっては、犯人を特定し、犯行の状況もしくは内容を明らかにすることが著しく困難であること(補充性の原則)を要件として規定する(実体要件)。つぎに、これらの実体要件の充足を認めた「地方裁判所」の裁判官が事前に発布した傍受令状の入手が必要とされる(手続要件)。傍受令状の請求は、検事総長が指定する検事、国家公安委員会または都道府県公安委員会が指定する警察官、厚生労働大臣が指定する麻薬取締官及び海上保安庁長官が指定する海上保安官に限定されている(同法4条)、傍受ができる国は、10日以内であり(同法5条)、10日以内の期間を定めて、傍受ができる期間を延長することができるが、その期間は、通じて30日を超えることはできない(同法7条1項)*。

*その他、通信傍受実施の際の立ち合いを求め、立合人が傍受の実施に関し捜査機関に対して関して意見を述べることを許容し(同法12条)、医師等の業務に関する通信の傍受の禁止(同法15条)、立会人の意見とその意見に対する捜査機関の措置を記録に残し、裁判官による傍受記録の封印・保管(同法19条‐22条)、通信当事者に対する傍受実施の通知(同法23条)、通信の傍受に対する不服申立て(同法26条1項、2項)、通信傍受実施状況の国会への報告(同法29条)、通信の機密を侵す行為の処罰及び付審判請求手続き(同法30条)等、通信の傍受の適正な実施を担保するための数多くの事前・事後の手続きが定められた。(p.85)

5 manolo 2014-01-26 11:40:13 [PC]

出典:『よくわかる刑事訴訟法』、椎橋隆幸編著、ミネルヴァ書房、4/20/2009(「III-29 秘密録音」)、壇上弘文、pp. 86-87

2-1.【1. 秘密録音とは】
 秘密録音という用語は、多義的に用いられている言葉であるが、本節で検討するのは、会話当事者の一方または依頼か承諾により、他方の相手方に秘密裡に録音する場合についてである。このような様態の録音は、当事者録音、一方同意録音等と呼ばれることもある(p.86)

2-2.
 一方当事者の同意のある録音については、モラルの問題は別にして、違法とは言えないとする見解が多数である。他方、このような録音は人格権(表現の自由、自己の音声が他者からの管理を受けない自由)が侵害されるので違法であるとか、または令状主義の貫徹、プライヴァシーの保護、信頼的通信、道義性の要求から、違法性を疑問視する見解などの有力である。さらに、秘密録音を原則として違法としつつ、一定の事情の下で違法とする見解も主張されている。(p.86)

2-3.
 実際に、会話の相手側に伝達した内容は、その相手方から他人に洩らされる危険が常にあり、会話が秘匿されるとの期待は弱いともいえよう。会話の相手方が自らの目と耳で知り得た事柄を記憶にとどめ、その記憶を頼りに他人に漏らす危険は他方の会話者が通常甘受しなければならないものといえる。会話を録音機材に録音した場合も、会話の内容を他人に漏らすことが器械による記録・再生として正確に行われるにすぎないので、プライヴァシーの侵害の程度が異なるとはいえないとも考えられた。しかし、会話の相手方録音機材を身につけているとそうでない場合とでは、話しては同じ内容を話さないともいえよう。たいていの場合は、話し手は同じ内容を話さないともいえよう。たいていの場合は、話し手は慎重に言葉を選ぶようになり、また、会話の内容についても用心深くなり、結果として自由闊達な会話はできなくなってしまうであろう。したがって、自らの記録に基づいて会話内容を他人に漏らす場合と一方当事者の同意を得て秘密録音を行う場合とではプライヴァシー侵害への脅威という点では質を異にするというべきである。結論として、会話の一方当事者の同意がある録音は、全く同意のない場合よりも要件を緩和して令状制度の規律の下に認められるべきであろうと思われる。(p.86)

6 manolo 2014-01-26 11:42:14 [PC]

2-4. 【2. 私人である会話当事者による録音】
 私人である会話当事者による録音の場合は、捜査機関が行う録音に比較して、その公共的利益は高くないといえよう、すなわち捜査機関は犯罪解明という公共の利益の実現のための捜査活動を行うが、私人の場合には犯罪捜査を行うことは期待されていない。したがって、公共的必要性が高くはなく、他人のプライヴァシーを制約する私人による秘密録音は、一般的に、正当な理由のない限り許されないものとすべきであり、例外的に当該秘密録音によるプライヴァシー侵害の程度と秘密録音を正当とする理由の有無・内容・程度との比較度量衡により判断されるべきであろう。最高裁は、被告人から詐欺の被害を受けたと考えた者が、被告人の説明内容に不審を抱き、後日の証拠とするために、被告人との会話を録音したテープにつき、このような場合に、一方の当事者が相手方との会話を録音することは、たとえそれが相手方の同意を得ないで行われたものであっても、*違法ではないと判示している。このように、現在または近い将来の被害に対する「自己防衛」目的または過去の犯罪被害の証拠の確保もしくはその被害についての紛争解決のための証拠の確保のために、相手方の同意のない会話の録音することは許されるといえよう。(pp.86-87)

*最決平成12年7月12日刑集54巻6号513頁参照。その他、参考判例として最決昭和56年11月20日刑集35巻8号797頁、松江地判昭和57年2月2日判時1051号162頁(共犯者による録音と警察官による録音との両方の場合を含む事例)、東京地裁昭和57年8月25日判タ496号174頁など参照。(p.87)

7 manolo 2014-01-26 11:44:01 [PC]

2-5. 【3. 捜査官である会話当事者による録音】
 警察官が会話の一方当事者である場合に行われた秘密録音に関しては、下級審裁判例において、一般的には会話の一方当事者による秘密録音につき違法ではないとしながら、「しかし、それは相手方が、機械により正確に録音し、再生し、さらには話者(声質)の同一性の証拠として利用する可能性があることを知っていれば当然拒否することが予想されたところ、その拒否の機会を与えずに秘密録音することで相手方がプライヴァシーないし人格権を多かれ少なかれ侵害することは否定できず、いわんやこのような録音を刑事裁判の資料とすることは司法の廉潔性の観点からも慎重でなければならない。したがって、捜査機関が対話の相手方の知らないうちにその会話を録音することは、原則として違法であり、ただの録音の経緯、内容、目的、必要性、侵害される個人の法益と保護されるべき公共の利益と権衡等を考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度においてのみ、許容されるべきものと解すべきである。」と判示する*。捜査機関による録音の場合には、私人による場合と比べ、多くの人物・物質的資源を背景に組織的に行われるため、プライヴァシーの侵害も一般的に大きいといえる。そのため政府の権限行使が恣意的・不当なものとならないようにしなければならず、他方で、犯罪捜査という公共の利益を効果的に実現するために、過度の制限を避け、適切に規律されなければならないと言えよう。捜査官及びその指示に従って行われる秘密録音については、今後さらなる検討が必要であると思われる。(p.87)

8 manolo 2014-01-27 06:58:37 [PC]

*千葉地裁平成3年3月29日判時138号141頁(三里塚闘争会館事件)参照(この事案においては、例外的に秘密録音を相当と認めて許容している)。その他、東京地判平成2年7月26日判時1358号151頁において、「対話者の一方が相手側の同意を得ないでした会話の録音は、それにより録音に同意しなかった対話者の人格権がある程度侵害されおそれを生じさせることは否定できないが、いわゆる盗聴の場合とは異なり、対話者は相手方に対する関係では事故の会話を聞かれることを認めており、会話の秘密性を放棄しその会話内容を相手の支配下に委ねたものと見得るのであるから、右会話録音の適法性については、録音の目的、対象、手段方法、対象となる会話の内容、会話時の状況等の諸事情を総合し、その手続きに著しく不当な点があるか否かを考慮してこれを決めるのが相当である」と判示されている。(p.87)
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