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宗教と教育 (コメント数:6)

1 manolo 2013-02-05 20:11:39 [PC]

出典: 『宗教と現代がわかる本 2011』、渡邊直樹[責任編集]、平凡社、3/11/2011、pp.238-241(「テキサス州の教科書論争と宗教の関係、藤原聖子」)

1-1. オバマ政権誕生とともに、アメリカ人が宗教離れを起こしている、あるいはブッシュの支持基盤だった宗教保守に意識の変化が生じているといった報道が続いた。しかし、二〇一〇年に入って目立ってきたのは、追いつめられた宗教保守の中から過激な行動をとる人が出てきたことである。同時多発テロ事件から九年目にあたる九月一一日を前に、フロリダ州であるプロテスタントの牧師がクルアーンを焼くと挑発する事件が起きた。ニューヨーク市では、世界貿易センタービル跡地近くにモスクを建設する計画への反対が高まり、反イスラム感情が再燃した(フロリダ州の事件を受け、実際にクルアーンを焼いてみせる者も現れた)。(p.238)

1-2. これらに比べると日本ではあまり報道されていないが、アメリカで大論争を呼んだニュースの一つに、テキサス州教科書問題がある。一言でいえば、保守勢力が、歴史教科書をはじめとする社会科教科書を右寄りに書き換え、「キリスト教国家」としてのアメリカン・アイデンティティを鮮明化しようとしているのである。これが「一部の過激派の暴走」と見るだけで済まされないのは、人口が多いテキサス州で採用される教科書は、ほぼそのまま他州でも使用される傾向があるためである。「売れる教科書」はテキサス州に合ったものであり、製作コスト削減のためにそれが大量に作られるのだ。つまり、教育理念ともイデオロギーとも直接関係ないマーケティング事情により、アメリカの歴史教科書の内容が変えられてしまうのではという懸念があるのである。(p.238)

2 manolo 2013-02-05 20:26:47 [PC]

1-3. テキサス州では一〇年ごとにカリキュラム基準が見直され、それに従って教科書も改訂される。基準案はまず教員等の専門家グループが作り、それに対して州教育委員会が意見を出す。今年に入って明らかになったのは、小・中・高校の社会科のカリキュラム案に対して、教育委員会が前例のないほど多数の修正を求めたことである。教育委員会の構成は、保守的な共和党氏支持者一〇名、民主党支持者五名で、前者のリーダーは自分を「ガチな創造説を支持するキリスト教原理主義者」と呼んではばからない歯科医であった。その後、委員は改選されるものの、保守派の優位は変わらず、五月には一〇〇以上の修正箇所を含む新基準が採択された。それはもう、リベラル派の教員たちに言わせれば「歴史の書き換え」に等しい分量だった。(pp.238-239)

1-4. 社会科、とくに歴史の教科書がイデオロギー対決の場になるのは、国の彼此を問わない。テキサスの保守派の言い分は、「むしろこれまでの教科書が左寄りに偏っていたのであり、われわれはバランスをとろうとしているだけだ」というもので、そこは「新しい歴史教科書を作る会」と似ている。だが、日本の歴史教科書論争がもっぱら大戦の位置づけをめぐって展開してきたのに対し、こちらは宗教的に動機づけられた要求が目立つ。(p.239)

1-5. それは具体的には、建国におけるキリスト教の役割を強調し、アメリカは正教分離の国だというのを自明視しないでほしいというものである。(中略)すなわちアメリカ建国の理念は啓蒙主義だけでなく、キリスト教に根ざすこと。たしかに憲法には聖書の語句はちりばめられていないが、独立宣言には「創造主Creator」「自然の法や自然の神の法」「神の摂理」といった言葉が使われおり、これと憲法の理念は不可分であること。「政教分離([wall of] separation between church and state)」という語は、トマス・ジェファーソンが書簡で用いただけで、憲法にも建国文書にも見られないこと。ジェファーソンは建国の父の中では異分子であり、よって、アメリカの独立・憲法起草に影響を与えた人物のリストから外すべきこと。これらの修正により、アメリカが憲法上は政教分離でないことを正当化できれば、公立校でキリスト教の集団礼拝をしてもよいし、官公庁に十戒の刻まれた碑を設置してもよいことになると、彼らは教科書改訂の社会的影響に期待している。(pp.239-140)

3 manolo 2013-02-05 20:40:32 [PC]

1-6. そして、彼らの言うキリスト教国家は、内実としては白人国家である。アフリカ系(黒人)初の米最高裁判事サーグッド・マーシャルやメキシコ系(ヒスパニック)の労働運動指導者セサール・チャベス等を偉人のリストから排除せよ、非暴力のキング牧師だけでなく、暴力的なブラック・パンサー党にも言及せよと、いった指示を出している。(p.240)

1-7. 逆に保守派の著名人や団体の記述を増やしてほしいと、フィリス・シュラフリー(反フェミニズム運動家)やモラル・マジョリティ(キリスト教保守派の政治団体)、全米ライフル協会等を挙げている。マッカーシーの「赤狩り」に対する肯定的評価も焦点の一つである。(p.240)

1-8. 従来の歴史解釈は、建国の父と呼ばれる政治家たちの宗教観は*理神論に大きく影響されていたというものだった。だが、かりに保守派委員が言うように、彼らが敬虔なプロテスタントだったとしても、そこから彼らがアメリカを政教一致のキリスト教国家にしようとしていたと導き出すのは論理の飛躍である。彼らは自分の経験に照らしても、特定の信仰を持つ政治家がすべての宗教・宗派に平等に接することができるとは思えず、だから国家が宗教に介入することを極力排除しようとした、ともいえるからである。実際、信教の自由を謳う修正第一条を歴史的コンテキストに置くならば、そのような解釈が妥当だという説がある。(pp.240-241)

*理神論
啓蒙主義において登場した、合理的に神をとらえる思想。神の存在は認めるが、それを人格神とはせず、奇跡や啓示を信じない。(p.240)

4 manolo 2013-02-05 20:52:53 [PC]

1-9. 今後、教科書が電子化すれば、出版社が州ごとに教科書の内容を変えることも容易になるため、テキサス州の影響力は弱まるという意見もある。しかし、実のところ教科書に異議申し立てをしている宗教団体は、テキサスの保守派プロテスタントだけではない。他州でもイスラーム、ユダヤ教、ヒンドゥー教団体等が、教科書中の自分たちのイメージを好転さえようと運動している。そういった宗教勢力と、歴史学専門家の集団の中で軋轢が生じている。かつては歴史学者の見解はゆるぎなき権威だったが、今は、学校も企業の一つであり、そのステークホルダーである親や地域住民の要望に応じるべきという考えが広がっている。テキサス州教育委員会を支えるクリスチャンの親たちや各種宗教団体は、そのようなステークホルダーでもあるのだ。(p.241)

1-10. 「皆で教育を考えるのが民主主義だ」という掛け声が、「宗教を教育に介入させるな」という制止の動きを鈍らせるという、ねじれた現象が起きている。従来の右・左の図式に収まらない対立が、教科書をめぐって展開されているのである。(p.241)

5 manolo 2014-02-04 22:25:11 [PC]

出典:Reuters, “Evolution lessons in Texas biology textbook will stay, board says”, Lisa Maria Garza, December 18, 2013, http://www.reuters.com/article/2013/12/19/us-usa-texas-evolution-idUSBRE9BI02L20131219

2-1.
 A panel of experts has rejected concerns by religious conservatives in Texas that a high school biology textbook contained factual errors about evolution and a state board approved the book on Wednesday for use in public schools. The debate over the Pearson Biology textbook was the latest episode of a lengthy battle by evangelicals in Texas to insert Christian and Biblical teachings into public school textbooks.

2-2.
 Two years ago, conservatives pushed for changes in history textbooks, including one that would have downplayed Thomas Jefferson's role in American history for his support of the separation of church and state. That effort was unsuccessful. The second-most populous U.S. state, Texas influences textbook selections for schools nationwide. In the case of the biology book, an unidentified volunteer reviewer complained to the Texas State Board of Education that it presents evolution as scientific fact rather than a theory, which conflicts with the creation story written in the Book of Genesis in the Bible.

2-3.
 The reviewer concluded that the text, which includes lessons on natural selection and the Earth's cooling process, are errors that needed to be corrected by publisher Pearson Education, one of the nation's largest producers of school textbooks and a unit of Pearson Plc. The opinion caused the board to delay approval of the textbook and appoint a three-member panel of science experts to analyze the book's lessons and report any factual mistakes.

6 manolo 2014-02-04 22:27:40 [PC]

2-4.
 "The professors didn't recommend any changes so the book is now approved," Texas Education Agency spokeswoman Debbie Ratcliffe said in an email. "Schools can purchase it this spring for use in the fall." Until the expert panel ruled, Pearson was not able to market its book as approved by the board to school districts in Texas. The state's more than 1,000 public school districts are permitted to order their own books and materials, but most follow the state-approved list.
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