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健康と保健行政 (コメント数:5)

1 manolo 2013-09-07 03:00:22 [PC]


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『よくわかる健康心理学』、森和代他編、ミネルヴァ書房、8/20/2012、「I-6.健康と保健行政」、pp.18-21

1-1. 1. 保健行政(衛生行政)の目的
 わが国の保健行政(衛生行政)は、基本的人権である「生存権」を規定した憲法25条に基づいています。憲法25条は、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する、国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」と定めています。つまり保健行政の目的は「健康で文化的な生活」といえます。(p.18)

1-2.
【健康の定義】
 健康の定義としては、WHO(世界保健機構)憲章の前文が有名です。

「Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.(健康とは身体的にも精神的にも社会的にも良好な状態であり、単に疾病や虚弱が存在しないことではない。)」

 この定義は、目標とすべき理想の健康状態を示したものといえます。よって、住民の実際の健康感と隔たりがあったり、理想の健康の達成が困難だったりすることも事実です。一般住民の健康感を現実的に考慮すると、健康を「より健康な方向へ向かっていく状態」、つまり動的な状態(dynamic state)としてとらえることも大切です。(p.18)

2 manolo 2013-09-07 03:03:54 [PC]

1-3.
【文化的な生活】
 文化的な生活の明確な定義はありませんが、*QOL(生活の質)が維持された状態と言いかえることができるかもしれません。QOLとは、生存率や疾病治癒率などの単なる量的評価とは異なり、個人が感じる主観的な生活状態を質的に評価するものです。WHOは、QOLを構成する領域として以下の6つの側面を定義しました。①身体面(例:疲労・痛み・休養など)、②心理面(例:前向きな気持ち・思考・学習など)、③自立の程度(例:移動能力・仕事能力など)、④社会的なつながり(例:人間関係・利用可能な社会支援など)、⑤環境面(例:生活環境・安全・治安・経済状態・医療介護へのかかりやすさなど)、⑥個人の信条や心のもち方(例:宗教・生きる意志など)です。保健行政の実施にあたり、これらQOLの構成要素を意識し文化的生活の向上に努めることが大切です。(p.18)

*QOL(Quality of Life:生活の質)
各人の生活状態を主観的に判断したもの。住民や患者の視点に立脚した質的評価指標の一つである。(p.18)

1-4. 2. わが国の健康保健行政(衛生行政)の仕組み
 わが国の衛生行政は、憲法25条に基づいて国民の保持増進を図るため、国や地方公共団体によって行われる公の活動です。保健医療福祉と労働の所管は厚生労働省、学校の所管は文部科学省、環境保全の所管は環境省で、各省庁に分かれて管理されます。(pp.18-19)

1-5.
【一般衛生行政】(地域保健行政)
 地域社会の一般生活を対象とするのが一般衛生行政です。[国(厚生労働省)―都道府県(衛生主管部局)-保健所(都道府県、政令指定都市、中核市、その他指定された市または特別区が設置)-市町村(衛生主管課係・市町村保健センター)]の体系が確立されています。保健所は地域保健推進の広域的な拠点と位置づけられ、健康増進、感染症、疾病の予防、食品、環境衛生、母子、老人保健、歯科・精神保健、医療薬事、公共医療事業にかかわる事柄など保健活動の中心的機関としての役割を担っています。市町村保健センターは、地域住民に身近なサービスを総合的に行う拠点であり、市町村レベルでの健康づくりを進める役割を担っています。行政の規模により、保健所と市町村保健センターの機能・業務が異なる場合があります。(p.19)

3 manolo 2013-09-07 03:06:31 [PC]

1-6.
【労働衛生行政(産業保健行政)】
 労働者の職業性疾病の予防、健康の保持増進および快適な職場環境の形成を目的として行われます。厚生労働省労働基準局安全衛生部において所管されます。第一線の業務は、厚生労働省直轄の都道府県労働局と管内の労働基準監督署で行われています。
 現場労働者の健康確保のためには、①作業の管理、②作業環境の管理、③労働者の健康管理の3つが有機的に機能する必要があります。(p.19)

1-7.
【学校保健行政】
 学校保健は、「学校における保健教育及び保健管理」(文部科学省設置法4条12項)と定義されています。児童生徒に、心身ともに健康で充実した生活を営む能力を身につけさせるために、保健教育と保健管理、保健活動の推進が総合的に行われます。原則として、[国(文部科学省)-都道府県(教育委員会)-市町村(教育委員会)-学校]という体系で行われます。(p.19)

1-8.
【環境保健行政】
 環境要因が健康に及ぼす問題を扱う環境保健行政は、環境保全対策とあわせて環境省が総合的に推進しています。(p.19)

1-9.
【わが国の保健対策】
 わが国の保健対策として、健康推進、生活習慣疾病対策、母子保健、老人保健障害児・者対策、精神保健、歯科保健、感染症・HIV・結核などの対策・予防接種、がんや難病などの疾病対策、医療対策などが行われています。(pp.19-20)

1-10. 3. 政策としての健康づくり
【予防の概念】
 保健医療福祉領域での予防の概念には、①第1次予防、②第2次予防、③第3次予防があります。第1次予防は、おもに健常者を対象に食事・運動など生活習慣の見直しやストレスマネージメントを行ったり、筋力トレーニングを行ったりして、疾病や要介護状態にならないようにするものです。予防接種などや環境整備、外傷予防なども含まれます。第2次予防は健康診断などで疾病を早期発見し、早期治療につなげることです。第3次予防は疾病の悪化を予防するために適切な治療を行ったり、社会復帰のためのリハビリテーションを行ったりする活動です。わが国の以前の保健行政では、疾病の早期発見のための健康診断を中心とする第2次予防に力が注がれていましたが、2003年に健康増進法が施行され、第1次予防やヘルスプロモーションにも重点がおかれるようになりました。(p.20)

4 manolo 2013-09-07 03:09:33 [PC]

1-11.
【ヘルスプロモーション】
 1886年にカナダのオタワで開かれ第1回ヘルスプロモーション国際会議で採択された「オタワ憲章」で、「ヘルスプロモーションとは、人々が自らの健康をコントロールし、改善することができるようにするプロセスである。」と定義されました。ヘルスプロモーションが目指すものは「すべての人々があらゆる生活の場面で健康を享受できる公正な社会を作ること」。「健康は毎日の生活のための資源であって、それ自体が人生の目的ではない。」とも記されています。(p.20)

1-12.
 また同憲章では、健康のための基本的条件源として、平和、住居、教育、食物、経済的収入、安定した生態系、持続可能な生存のための資源、社会的公正と公平性を挙げています。健康のためには、保健医療サービス以前に、これら基礎的前提条件が大切であることを認識する必要があります。そして、目標実現のための活動方法として、健康な公共政策づくり、健康を支援する環境づくり、コミュニティー活動の強化、個人の能力の開発、疾病治療にとどまらずヘルスプロモーションの方向へ保健医療サービスを見直すことが必要とされます。(p.20)

1-13.
 オタワ憲章以来、ヘルスプロモーションを取り巻く背景は著しく変化し、不平等の増加、コミュニケーションや消費形態の変化、環境の悪化など、健康に影響を及ぼす重大な要因が生じました。そのため、2005年のバンコク憲章ではグローバル化する世界でのヘルスプロモーション展開のための戦略として、①人権と連帯に基づいた健康の提唱、②健康の決定要因に焦点を当てた持続的な政策・活動・社会基盤への投資、③政策展開、リーダーシップ、ヘルスプロモーション実践、知識移転・研究、健康リテラシーを身につけるための能力開発、④すべての人々の健康と福祉のため、有害事象から保護し平等な機会を保障するための規則と法の整備、⑤持続的活動のための組織をこえた連帯が求められました、(pp.20-21)

5 manolo 2013-09-07 03:11:14 [PC]

1-14.
 ヘルスプロモーションには、健康実現のための環境を整えることと、個人やコミュニティのパワーを高めること(*エンパワメント)が車の両輪のように大切です。ヘルスプロモーションにおけるエンパワメントとは、健康に影響を及ぼす行為や意思決定を、人々がよりよくコントロールできるようになるプロセスです。個人のエンパワメントとは、個人が意志決定したり、個人の生活をコントロールできるようになる能力を促進することを指します。コミュニティのエンパワメントとは、コミュニティにおける健康の決定因子や生活の質をコントロールし、個人的行動の集積で大きな影響を与えられるように促すことを指し、コミュニティの保健活動の大切なゴールでもあります。このエンパワメントの過程で健康心理学の果たす役割はとても大きいといえます。(p.21)

*エンパワメント
「自らの生活を決定する要因を自己統御する能力を高めること」である。また「他者と共同で何らかの目的を達成することができる自己能力を高めること」ともいえる。(p.21)

1-15. 4. 今後の課題
 昨今のわが国でも経済状態に格差が生まれ、国民が受けられる医療サービスにも格差が生じはじめています。また中央と地方の格差も生じ、政策立案者と現場の間の認識にも格差が生じる危険性をはらんでおり、住民や地域社会が主体となる健康施策を実施する必要がますます高まりました。住民や地域社会の抱える問題点をきちんと把握し、可能な限り科学的根拠を重視した保健施策を行うことが大切です。その効果をコストも含めてきちんと評価しフィードバックすることも必要です。(p.21)

*科学的根拠の重視
 Evidence-based Decision Making(科学的根拠に基づく意思決定)は、より科学的な根拠に基づいて意思決定する方法である。従来から行われていた。特定領域の権威者や先例に基づく意思決定の方法に対して用いられることが多い。(p.21)
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