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大きな政府 vs 小さな政府 (コメント数:18)

1 manolo 2014-01-29 10:08:56 [PC]


210 x 240
出典:『よくわかる行政学』、村上弘&佐藤満編著、ミネルヴァ書房、(第1部 I-3 「自由主義と小さな政府」)、pp.6-7

1-1. 【1. 近代市民革命】
 近代市民革命とは、17~18世紀にヨーロッパで絶対王政を倒した革命で、その革命の主体となったのは、市民つまり商工業者(資本家、ブルジョア)だった。イギリスのピューリタン(清教徒)革命(1642~49年)、名誉革命(1688年)、そしてフランス革命(1789年)が典型である。また、*アメリカの独立(1776年)も、イギリスによる植民地支配に抵抗した一種の市民革命という側面を持つ。(イギリスから言語や文化を強制されたわけではないが、)経済的な統制や課税と政治的な発言権の欠如への不満が大きかった。(p.6)

*アメリカ側がイギリスとの戦争に勝った一因はフランスの支援だが、支援の経費でフランスの財政危機は深まり、革命の一因になった。(p.6)

2 manolo 2014-01-29 10:11:40 [PC]

1-2.
 革命の結果、例えば、フランスの「人権宣言」(1789年)は、従来の身分制度を否定し、*主権者である市民を代表する議会制度や、すべての市民に対する人権保障を定め、民主主義への道を開いた。もっとも、実際には、人権といっても国家からの自由の保障(自由権や所有権)が中心で、貧困層にとってはそれほどありがたくない場合もあった。参政権の面でも制限選挙制を採用し、政治参加の資格を富裕層だけに限っていた。(p.6)

*他にも、自由と平等の原理、罪刑法定主義、表現の自由、行政の説明責任など、今日に通じるような規定が見られる。(p.6)

1-3. 【2. 自由主義と小さな政府】
 市民革命は単なる暴動ではなく、新しい社会を築く諸思想に支えられていた。有名なものとして、政治面での社会契約論、経済面での自由放任主義がある。社会契約論は、人間は不安定な自然状態から脱するために、自由意思にもとづく契約によって国家を設立する、と述べた。市民が自らの利益のために合意によって政府を作るという民主主義の原理である。イギリスのホッブス、ロック、そして『社会契約論』の著者であるフランスのルソーなどが理論化した。一方、経済的な自由放任主義(レセフェレールlaissez-faire[仏語])は国家介入に対する自由な市場原理の優位を説いた。つまり、個人が自由競争的な*市場において私的利益を追求すれば、「見えざる手」に導かれて、結果的に社会に利益をもたらすという論理である。**アダム・スミスが、主著『国富論』(「諸国民の富」)の中で唱えた。(p.6)

*市場
商品の売買や資源の配分が、品質や価格等を参考にして自由に行われる場のこと。こうした経済活動の仕組みを市場原理(market mechanism)または市場経済と呼ぶ。反対概念は、政府が生産や配分を決定する「計画経済」または「統制経済」。(p.6)

**ただし、スミスは、私的利益の追求や競争は道徳的に是認されるようなものであるべきだとも考えていたようだ。(p.6)

3 manolo 2014-01-29 10:14:11 [PC]

1-4.
 社会契約論は、市民の社会参加を根拠づけるとともに、政府権力の抑制につながった。フランスの「人権宣言」の表現を借りれば、「あらゆる政治社会形成の目的は、人の(中略)自然権の保全である」。「各人の自然権の行使は、同じ権利の享受を他の社会構成員に保障すること以外の限界を持たない。その限界は、法律によってのみ定めることができる」といった論理である。また、市場での利益の追求が社会の公益につながるという自由放任主義の論理は、一見すると不思議だが、たしかに、*企業や個人は市場競争で勝つため、負けないために、安くて良い物を作ろうとする。もし、この論理が全面的に成り立つなら、社会には自己統制能力があり、政府の介入は最小限が望ましい。これは、国防、治安維持等だけの国家の任務を限定する「夜警国家」や、「小さな政府」、「安価な政府」の理念につながった。(pp.6-7)

*もちろん、この論理だけでは、現代社会では単純すぎる。例えば、今日の先進国で、多くの商品やサービスが、一定の品質かつ手頃な値段で私たちに提供されているのはなぜだろうか。(日本の)医療サービスのように政府が品質や価格を事実上統制している場合もあるが、基本的には、生産者・販売者が市場競争のなかで品質と価格を工夫している。しかし、政府が安全・衛生基準や情報の表示を義務づけていることも重要で、それがなければ、商品やサービスの問題は、実際は被害が生じるまで放置されるだろう。(p.7)

1-5.
 19世紀のイギリスは、世界一の工業国という自信をもとに、自由貿易を実現していった。その象徴が、穀物法の廃止(1846年)である。穀物法とは、地主保護のために安価な外国産穀物の輸入を制限する制度で、商工業者が反対運動を展開していたのだった。とはいえ、同じ時期に、政府は労働組合を合法化し、工場での労働条件の改善のために最低基準を規制する「工場法」を整備していった。つまり、経営者と労働者個人との「契約の自由」の原理が修正されつつあったことも、注目してよい。(p.7)

4 manolo 2014-01-29 10:14:43 [PC]

1-6.
 アメリカ合衆国も、君主制を採用せず、また中央政府の権限を限定し州の自立性を確保する連邦制をとったため、中央政府の活動とその行政機構は比較的小さかった。第3代大統領のジェファソンは、就任演説(1801年)のなかで、「人々が互いに傷つけあわないよう規制し、それ以外は人々と産業と進歩の追求を自主的に規律することを許す……ような、賢明で質素な(wise and frugal)政府」こそが「良い政府」だと述べた。(p.7)

1-7. 【3. 自由主義の社会的背景と限界】
 19世紀の英米の自由主義な「小さな政府」が実現したのには、それなりの背景があった。つまり、①政治的には、近代市民革命によって絶対王政と官僚支配を倒していた。②経済的には、先進的で自生的な近代化、工業化が進んでいた。つまり、当時の最先端の技術や工業を発達させ、かつ、それは国家の手を借りず、民間の経営者が生産と資本を拡大していくかたちで進められた。これに対して、*フランス、ドイツ、日本などは、後発的に近代化・産業化を進める立場にあり、先頭グループに追いつくために国家の積極的な関与が必要で、「小さな政府」というわけにはいかなかった。例えば大学と見ると、英米では民間が、独・仏・日本では政府が主導して整備した。日本では、明治時代、国が富岡製紙場や八幡製鉄所を「官営工場」として建設し、また国有鉄道を整備した。(p.7)

*フランス革命の過程で独創的な「恐怖政治」が生じたり、19世紀に入ってもナポレオンの帝政や王制復活があり、中央集権体制が続いた。(p.7)

1-8.
 さて、英米においても、19世紀後半になると、産業革命に伴って工場労働者が増え、都市問題や貧困問題が深刻になっていく。次の世紀には、「小さな政府」の理念は修正を迫られることになるだろう。(p.7)

5 manolo 2014-01-29 10:17:45 [PC]

出典:『よくわかる行政学』、村上弘&佐藤満編著、ミネルヴァ書房、(第1部 I-5 「20世紀の政府機能の拡大」)、pp.10-11

2-1. 【1. 20世紀の社会と経済】
 19世紀から20世紀にかけて、市場原理に立つ*資本主義経済は、発明・技術革新や企業拡大によって成長し、ロンドン、パリなどの大都市やその芸術・文化が繁栄した。しかし他方で、周期的に訪れる不況や失業増、都市に集中した労働者の貧困や劣悪な生活環境などの社会問題が深刻になり、労使の紛争が激化するなど、不安定な面を抱えていた。対外的にも、原料と商品販路を求めて、イギリス、フランス、ドイツ、アメリカなどが植民地獲得を競い、紛争や戦争を起こした。また、資本主義を根底から批判する**社会主義運動も本格化した。(p.10)

*資本主義
生産手段の私的所有、経済活動や契約の自由、市場での自由競争などを特徴とする経済体制。(p.10)

**社会主義
生産手段の国有・社会的所有によって平等な社会を作ろうとする社会思想。資本主義国の左派政党の一部や、ロシア革命で成立したソビエト連邦、第二次世界大戦後の中国、北朝鮮、東欧諸国などが社会主義を掲げた。社会主義政権は経済建設や教育・福祉を一定達成したが、人権・自由の抑圧や経済停滞への批判が高まり、ソ連や東欧では1990年前後に崩壊した。(p.10)

2-2.
 こうした状況に直面して、各国の政府は、社会や経済への介入を強めた。自由主義経済のもと1920年代に繁栄を謳歌していたアメリカでも、1929年の大恐慌と膨大な失業者は衝撃を与え、1933年に就任したローズベルト大統領(民主党)は、ニューディール(New Deal)政策を打ち出すに至った。この政策は、労働者保護法制、失業対策、社会保険制度、TVA(Tennessee Valley Authority、テネシー河谷開発公社)等による公共事業など、政策の関与を拡大することによって、社会経済の諸問題を解決しようとした。(p.10)

6 manolo 2014-01-29 10:19:27 [PC]

2-3. 【2. 政府機能の拡大―市場の失敗】
 20世紀に政府機能が拡大した理由は、社会的、政治的、行政的なものに区分できる。つまり、社会問題が増えたこと、民主主義(普通選挙制、利益団体の活発化など)のもとで政府に各種の要求が集まったこと、および行政組織自体が予算や権限を拡大しようとすること、の3つである。もちろん、第1にあげた*社会的必要性(政府需要、行政ニーズ)が基本なので、これをさらに分類し検討してみよう。(p.10)

*ここでは市場原理の欠点の是正という視点から説明する。参考にした財政学の通説によれば、政府の財政は市場の失敗に対処するために、①資源配分(公共財や価値財の供給)、②所得再配分(累進課税、社会保障)、③経済安定化(雇用、物価、国際収支、経済成長の適正化)という3つの機能を果たす。なお「社会経済の複雑化と社会問題の増大に伴って、それへの対処が政府の責務となった」と説明してもよいが、ややあいまいだ。(p.10)

2-4. ①社会的不平等の緩和
 市場原理のもとでは、「弱肉強食」によって貧富の格差が拡大し、社会問題や紛争を生む。これを緩和するため、政府は、労働時間・条件・最低賃金を規制し、累進課税を行い、*社会保険、公的扶助、公営住宅、公教育などを整備してきた。また政府は、勤労者に労働組合結成、団体交渉、争議(ストライキなど)等の労働基本法を保障し、経営者を交渉力の向上に配慮してきた。(p.10)

*社会保険
国等が運営し、労災・病気・失業・老齢時等に給付される強制加入保険。(pp.10-11)

**公的扶助
税金を原資とする生活保護・児童手当などの福祉サービス。(p.11)

7 manolo 2014-01-29 10:20:53 [PC]

2-5. ②経済の安定化
 市場経済は景気変動を伴い、好況下のインフレ、不況による失業病が深刻になりがちだ。不況は、民間企業の競争による生産や投資の過剰、低賃金や逆に欲求の充足による需要不足、産業構造変動などが原因で起こるとされる。景気変動を安定させるための政府の政策として、*公共投資・公的雇用・減税などの財政政策、公定歩合の操作などの金融政策、そして、衰退産業を一定保護し、今後有望な産業を振興する産業政策がある。ただし、政府財政の負担になる財政政策や、市場原理を歪める過度の衰退産業保護には、批判も強い。(pp.10-11)

*公共投資
政府の投資により、道路、鉄道、ダム、住宅などの公共施設を建設すること。需要・雇用の創出(特に建設業界の利益)と生産・生活基盤の整備という、「一石二鳥」の効果を持つ。しかし、産業の高度化による経済効果の低下、施設の充足、財政赤字などにより、批判も強まってきた。なおも大規模公共事業を進めたいときには、オリンピックや道州制の関連施設整備といった大義名分が掲げられる。(p.11)

2-6. ③公共財の供給、外部不経済の抑制
 市場原理や企業は、衣食住など人々が必要とするものを提供してくれるが、それが困難な場合もある。公共財(public goods)とは「消費の排除不可能性」(料金を支払わない利用者を排除しにくい)および「消費の非競合性」(共同利用できる)という性質を持つ財・サービスであり、特に前者の性質ゆえに民間企業が十分に供給できないので、政府が供給すべきだとされる。公共財のうち灯台や国防、警察、消防は古くからあるが、道路、公園、街灯などは、近代化・都市化とともに需要が高まってきた。(p.11)

2-7.
 このほか、料金は徴収できるがすべての市民に利用可能にするため政府による供給・支援が望ましい「準公共財」として、鉄道、教育、水道、有料道路などがある。これらは、一定の条件下ならば、民間企業でも供給できる。(p.11)

8 manolo 2014-01-29 10:22:14 [PC]

2-8.
 さらに外部不経済とは、市場の取引を介さず他人に不利益を与える行為をさし、環境汚染・公害が典型である。粗悪な製品を売る企業や、きちんと仕事をしない人には、取引において不利益が返ってくるだろう。しかし、企業や市民が、市場の外部にある空気や水を汚しても、費用請求は返ってこない。こうした外部不経済は、農村型社会では目立たないが、20世紀の技術発展や都市化とともに深刻になったもので、市場原理では解決できず*政府の介入が必要だ。(p.11)

*例えば政府による下水道建設、環境汚染・自動車排気ガス・路上喫煙への規制、環境税・ごみ有料化の課徴金。(p.11)

2-9.
 以上、①②③で調べた問題は「市場の失敗」(market failure)と呼ばれ、政府の関与を根拠づける。さらに、次のような政府機能が20世紀に拡大した。

④さまざまな社会問題への対処
 科学技術や医療の進歩、都市化、社会構造の変化など多様な要因によるものだが、食品・製品・建築等の安全性、犯罪の防止、高齢者介護、少子化対策など、公的な課題にもなっている。(p.11)

2-10. ⑤軍拡とイデオロギー統制
 20世紀は、戦争とイデオロギー(政治的信念)の時代でもあった。2度の世界大戦、ファシズム(全体主義)、資本主義国と社会主義国の「冷戦」などが相次いで起こった。各国は軍事力を強化し、愛国心と国家への忠誠を養う、「敵」のイデオロギーを抑圧するなどの教育・宣伝を強めた。こうした政府機能は自由主義の側から批判され、ファシズムの崩壊と冷戦の終結後は縮小に向かった。ただし、適度の防衛力の整備や、政府による文化の振興は有益だろう。(p.11)

*第二次世界大戦前・戦中の日本では、治安維持法や特別高等警察が思想や言論を厳しく取り締まった。今日では、学校での愛国心教育や国旗・国歌の強制をめぐって議論がある。(p.11)

9 manolo 2014-01-31 01:01:00 [PC]

出典:『よくわかる行政学』、村上弘&佐藤満編著、ミネルヴァ書房、(第1部 I-6 「福祉国家と行政国家」)、pp.12-13

3-1. 【1. 福祉国家と大きな政府】
 社会への関与と機能そして規模を拡大した20世紀の国家は、「積極国家」、「大きな国家」と呼ばれる。19世紀に見られた、「消極国家」、「小さな政府」の反対概念である。また、多くの場合、国民への社会福祉や教育等のサービス機能が拡大したので、「福祉国家(*welfare state)と呼ばれる。これは、必要最小限の活動でよいとされた19世紀の「夜警国家」からの転換である。(p.12)

*service state(「職能国家」と訳される)はほぼ同じ意味だが、今では英米でもあまり使われない。

3-2.
 福祉国家の構想として有名なのは、イギリスで第二次大戦の最中の1942年に出されたベバリッジ報告(Beveridge Report)である。これは、社会保険を基本とした包括的な福祉制度をつくり、人々に最低限の生活水準を保障することをめざしたもので、その包括性を示す「ゆりかごから墓場まで(from cradle to grave)という標語は、戦後の日本でも有名になった。報告書は世論の支持も高く、1945年に誕生した労働党政権のもとで、具体化されていった。(p.12)

3-3.
 それに先立ち、第一次大戦の敗北後、帝政から議会制に移行したドイツでは、ワイマール憲法(1919年)が、151条で社会的な理念を掲げた。

「経済活動の秩序は、すべての人に人間らしい生存を保障するための公正の原理に対応しなければならない。この限度内で、個人の経済的自由が保障される。(以下略)」

3-4.
 同憲法はさらに社会保険や失業対策を国の責務と定め、実際にも失業保険や公共住宅が整備されたが、世界恐慌とナチスの政権奪取によってワイマール共和国は終焉した。第二次世界大戦後のドイツの憲法(基本法)は、福祉国家とほぼ同じ理念を、社会国家(Sozialstaat[独語])という表現で掲げている(20条、28条)。(p.12)

10 manolo 2014-01-31 01:03:39 [PC]

3-5.
 *日本では第二次世界大戦の後、日本国憲法25条が「生存権」(社会権)を掲げ、次のように定める。

「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」(p.12)

3-6.
 以上のような流れは、基本的に人権の拡張として説明される。近代市民革命で登場した基本的人権は、個人の思想、言論、学問、信仰、職業選択、所有権などについて国家から侵害されないという「自由権」が中心だった。また同時に「参政権」も掲げられたが、選挙権が実際に多くの市民に拡大されていったのは19世紀後半以降である。そして、20世紀になると、すべての人々が一定の福祉や教育等を国家から保障されるという「社会権」が、メニューに付け加えられるようになったのだ。(pp.12-13)

*ワイマール憲法の社会権に関する規定は日本でも注目されており、戦後の新憲法の検討作業において学者、憲法研究会や社会党から社会権の追加が主張されたとされる。(p.12)


3-7.
 自由権の理念は一般に権力の抑制、つまり小さな政府につながるが、社会権の理念は政府の関与やサービスを要請する。このことは、前節で述べた各種の経済的、社会的な必要性とともに、積極国家や大きな政府を発展させていった。さらに、経済学からの支持もあり、ケインズが、政府は財政支出によって有効需要を創出し、景気循環をコントロールするべきであると説いた。財政学や公共経済学は、政府による「非市場的な資源配分」に注目する学問として発展した。(p.13)

3-8. 【2. 行政国家】
 さて、20世紀の国家は、「行政国家」(administrative state)であるともいわれる。この行政国家という概念は、上の積極的国家や大きな政府とどのような関係になるのだろうか。両者はしばしば重ね合わせて用いられるが、論理的には区別して考えられる。つまり、積極国家や大きな政府は、政府の機能や規模に注目した概念である。これに対して、行政国家は、政府内部での権力の所在を示す概念で、19世紀の「立法国家」とは反対に、行政やその官僚制が立法府に優越するような政治体制をさす。(p.13)

11 manolo 2014-01-31 01:09:45 [PC]

3-9.
 たしかに積極国家は、政治活動で複雑な大規模なものにするから、行政の規模や専門性、規制制限、裁量権が発生し、行政国家につながりやすい。しかし、これは必然ではなく、議会、社会集団、市民、マスコミ等の側も十分な権限と専門能力を持ては、行政の優位を抑えることができるだろう。したがって、行政国家論は、それが現実かどうかは実証的に研究する必要がある。ただし、警告としては有意義だろう。例えば、国や自治体の議員数を減らせば「改革」だという安易な提言は、それによって行政官僚の優位を強めてしまわないか(および多様な民意の反映機能を弱めないか)を、検討してみなければならない。(p.13)

12 manolo 2014-02-03 08:54:18 [PC]

出典:『よくわかる行政学』、村上弘&佐藤満編著、ミネルヴァ書房、(第1部 I-7 「新自由主義と小さな政府論」)pp.14-17

4-1. 【1. 経済的自由主義の復活―政府の失敗】
 大きな政府は、資本主義の社会と経済を改善し安定させたが、1980年代になると弊害も目立つようになる。その背景には、政府活動の膨張への批判や経済停滞、財政赤字などの新たな状況があった。イギリスでは、固有企業や手厚い福祉国家が労働意欲の低下や経済停滞(「英国病」)をもたらしているとして、保守党のサッチャー首相が、小さな政府を目指す民営化、福祉サービスの抑制、労働組合の抑制に取り組んだ。アメリカのレーガン大統領(共和党)も、政府歳出の削減と減税によって経済活性化をはかった。日本でも、経済の低成長で政府財政が悪化した80年代、自民党政権が「行革(行政改革)をスローガンに、政府歳出の抑制、*赤字の国有鉄道等の民営化、政府規制の緩和などを進め、その後も各種の行政改革が継続されている。(p.14)

*1987年、国鉄の民営化により複数のJR株式会社が誕生した。JRは、経営努力とサービス改善の面で成果をあげたが、他方で、赤字ローカル線を切り離して地元の運営に委ねた。また、乗客106人の死者を出した尼崎の脱線事故(2005年)の背景には、職員への厳しい教育と処分、競争による余裕のない列車ダイヤの設定、過度の効率化があった(JR西日本ウェブサイト「福知山線列車事故の反省と今後の取り組みについて」)と言われる。(p.14)

4-2.
 こうした政治方針を、「新自由主義(neo-liberalism)と呼ぶことがある。19世紀の*経済的な自由主義を、一定、復権させようとするためである(批判的な立場からは、この動きは「福祉国家の危機」とも呼ばれる)。新自由主義の根拠づけは、「政府の失敗(government failure)の理論である。政府活動が「市場の失敗」とは別の種類の失敗や欠点を伴う。欠点とは、①財源が保障され市場の競争を欠くことから生じる非効率や、②「レントシーキング」(rent seeking)つまり政治的圧力による資源配分の歪み(例:必要が薄れた政策の継続、政策の過剰供給)などだ。こうした視点からは、政府規模の縮小や市場原理の重視が提唱される。つまり、財政支出で需要増をはかるケインズ主義を批判し、むしろ規制緩和や減税によって企業等の供給側を活性化させ、結果として雇用・税収増につなげるような政策が説かれるのである。(p.14)

13 manolo 2014-02-03 08:56:22 [PC]

*これに対して、今日の「リベラリズム」(liberalism)は、人間の自由や成長を重視する立場で、多様な思想や文化への寛容、すべての人に成長の可能性(=自由)を保障するための平等な福祉・教育等を提唱する。リベラリズムへの批判としては、寛容による社会の混乱、政府支出の膨張などが指摘される。(p.14)

4-3.【2. 大きな政府か小さな政府か】
 前の2節とこの説で述べた「大きな政府」論と「小さな政府」論について、まとめてみよう。おもな論点は、政府と企業の活動はどちらが公平、正確、積極的、あるいは*効率的か、また市民にとって政治的な統制と消費者としての選択のどちらが利用しやすいかという比較、および政府の大小が経済や人々の生活にどう影響するかという検討などである。簡単な議論ではないが、両者の主張の説得力を考えてみてほしい。これは、今日の先進国政治において、中道左派(社会民主主義・リベラル)政党と中道右派(保守)政党との間の重要な争点軸である。(pp.14-15)

*政府よりも民間企業が効率的とされるが、これはムダを省いている面と、人員削減や非正規雇用などで人件費を抑えている面がある。また、政策の質について比べると、例えば、民間の出版が傑作から有害無益なものまで幅広いのに対して、政府出版物には両極端が少ないように思える。(p.15)

4-4.
 注意すべき点をあげると、第1に、経済的な強者と弱者では利害が異なる。自由競争システムは「弱肉強食」を放置し、政府による再配分を縮小するので、強者は利益を増やすが弱者は厳しい状況に追い込まれる。したがって、小さな政府は、特に企業や富裕層から好まれる。企業経営者は、小さな政府が減税や競争を通じて経済活力を高め社会全体を豊かにすると主張するが、同時にそれから得られる自らの利益にも関心があるのではないか。(p.15)

14 manolo 2014-02-03 08:58:59 [PC]

4-5.
 第2に、「極小の政府」や「極大の政府」(ファシズムや社会主義はその典型)は弊害が多いだろう。二者択一でなく中間的な選択肢――適正規模の政府、政府と市場のバランス――がありうる。もちろん、経費を押さえつつ公共サービス等を維持改善できる工夫が見つかれば、それに越したことはないが、「貧すれば鈍する」で限界があるだろう。現代政治では、収斂現象が見られる。自民党(保守)は、資本主義原理に立ちつつも福祉、農業保護、公共事業などの政策を拡大し、幅広い国民の支持を得ようとしてきた。ただし、自民党は近年、小さな政府への傾斜を強め2005年の衆院選郵政民営化の公約に掲げて大勝したが、2007年の参院選は逆に、小さな伊政府による経済的な「格差」拡大を批判した民主党が勝った。世論は振り子のように揺れる。イギリスでは、保守党のサッチャー政権下で当初失業者が上がったが、その後、経済が再生した。1997年に政権に就いた労働党は、医師や教育に対する予算を拡大しつつ、党の伝統的な国有化路線を捨て市場原理をも重視する*「第三の道」に移行してきた。(p.15)

*ただし、軽減税率が設けられることが多い。例えば、イギリスの付加価値税(VAT)は17.5%だが、5%という軽減税率があり、さらに食料品などの生活必需品は非課税である(2008)年現在、ジェトロのウェブサイト等を参照)。(p.15)

4-6.
 第3に、日本の特別な事情、つまり、西欧やカナダとの比較における政府支出の小ささと、税収入の低さをどう考えるか。消費税20%近い西欧諸国では、国民に対して小さな政府を目指すとは言いにくい面があろう。逆に日本では小さな政府(質素な政府サービス)を掲げる以上、消費税引き上げへの抵抗感は消えない。(p.15)

15 manolo 2014-02-03 09:02:19 [PC]

4-7.
 日本が上の条件のもとで取りうる財政の選択肢は、4種類くらいある。

①政府サービスを拡大して西ヨーロッパに近づけ、それを根拠に増税をする。どの政策のために支出を増やすか、税金のムダ使いにならないか、どの税目で増税すべきかが議論になるだろう。
②小さな政府規模を維持し、一定の増税によって、国際発行を減らす。しかし、国民へのサービス改善なしに増税することが、財政赤字の深刻さをアピールするだけで可能だろうか。(ただし、経済成長と一定のインフレを継続させ、税の自然増収を図る方法はありうる。)
③小さな政府の規模を維持し、増税もせず、国債発行または税の自然増収でまかなう。従来の路線で政治的抵抗も少ないが、政府債務の膨張による弊害が懸念される。
④政府規模をさらに縮減し、増税なしに国債発行を減らす、公共サービスはおそらく低下し、国民の不満や社会問題を引き起こすおおそれがある。(pp.15-16)

4-8.【政府の活動と企業の活動の比較】 〔政治的・法的コントロール〕
[政府]
・行政組織内の統制、各種の法律による統制が整備され、正確で公平な活動を図っている。
・長、議会、市民による政治的統制ができる。情報公開請求もできる。
・ただし、違法、不適切な活動の規制が中心で、積極性を促すとは限らない。
・選挙・請願等の政治的コントロールは、迅速・有効に働かないことがある。
[民間企業]
・法律や政府の規制を受ける。
・しかし、企業内部には介入しにくいこともあり、数多くの企業を相手に監督の限界があるので、違法・不適切な活動も起こりうる。(p.16)

16 manolo 2014-02-03 09:03:32 [PC]

4-9.〔市場によるコントロール〕
[政府]
・一般の行政は市場原理や競争から遮断され、費用対効果を軽視し、非効率になりやすい。
・ただし、公企業、独立行政法人等は一定のコントロールを受ける。
[民間企業]
・日常的にコントロールを受け、市場での競争、評価、売り上げ、収益、株価などが指標となる。それは効率と改善、積極性に向けての努力を促す。
・ただし、一部には悪質企業も利益をあげて存立しうる。
・全体としては計画的調整はなされず。過剰な生産・投資や投機が起こりうる。(p.16)

4-10.〔資源の投入〕
[政府]
・政治的判断で公共性の高い分野に税収等の資源を投入でき、サービスを安価、公平に提供できる。
・他方、政治的に注目されなければ需要が増えても政策は伸びない。
・政治的圧力による資源配分の歪みが起こることがある。
・累進課税等で所得再配分ができる。
[民間企業]
・売上が伸びれば資源を投入するので、需要増に対応しやすい。逆に支払い能力のない人へのサービスは軽視される。
・価格は競争により下がるが、利潤確保のために限界もある。ただし、政府の補助を受ければ価格をより下げられる。(p.16)

4-11.〔手続き〕
[政府]
・官僚制と法規・規則による手続きで非効率となりがちである。
・ただし、地方分権により、また公企業、独立行政法人などでは改善しうる。
・市民は権利としてサービスを受け、サービス提供者を一定選択できる。
・しかし、すべての市民向けのサービスなので、多様性には限りがある。
[民間企業]
・企業ごとに意思決定するので、手続きはかなり効率的になる。
・市民は企業(サービス供給者)を自由に選択できる。受益と負担の関係も明確。しかし、支払い能力がなければサービスを受けられない。(p.16)

17 manolo 2014-02-03 09:05:20 [PC]

4-12. 【大きな政府か小さな政府か】 〔理念・スローガン〕
[大きな政府]
・福祉国家
・格差是正、セーフティーネット
・国や自治の公共サービス
・中道左派、社会民主主義
[小さな政府(スリムな政府)]
・市場(競争)原理、「官から民へ」
・活力ある社会、自助、自立
・官僚制の縮小、公務員の削減
・新自由主義(p.17)

4-13. 〔論拠(社会状況)〕
[大きな政府]
・価格是正、所得再配分が必要(格差は競争原理から必ず生ずるので、公平を回復し弱者の人権を守ることは政府の責任である)
・福祉は人権を保障し、社会を安定させる。教育は機会の平等を保障する。
・経済的な格差が拡大し、新旧の社会問題も数多く存在する。
・日本は企業優位の社会になっている。
[小さな政府(スリムな政府)]
・一定の格差は当然かつ公正(格差は個人の努力と怠慢の結果なので、それを認めることこそ公正)。
・能力に応じた教育をすべきだ。
・経験的な豊かさが達成され、以前より政府に頼る必要は薄れている。
・企業こそが日本の活力を作る。
(p.17)

4-14. 〔経済〕
[大きな政府]
・公共事業や必要な雇用(教育、介護サービスなど)などへの政府支出によって需要を創出できる。
・減税は政府財政を悪化させ、また、貯蓄や投機に回るかもしれない。
・政府の規制によって安全性や公正を確保し、また場合によっては新製品やサービスへの需要を創出できる(景観、環境規制など)。
・教育は経済の人的基盤を作る。
[小さな政府(スリムな政府)]
・規制緩和による競争で、商品開発と価格低下が生じ、需要を創出できる。
・減税は、人々の消費や企業の投資につながる。
・民間企業にとって事業を拡大でき、ビジネスチャンスを生む。
・過度の福祉は自立心や勤勉への動機づけになり経済活力を生む
・一定の格差は勤労への動機づけになり経済活力を生む。(p.17)

18 manolo 2014-02-03 09:06:24 [PC]

4-15.〔財政〕
[大きな政府]
・必要な財源は、不要な経費の削減や累進課税等でまかなうべきだ。消費税引き上げもありうる。
・日本の公務員は国際的にみて少ない。議員減は民主主義にとってマイナス。
・日本はすでに歳出において小さな政府だ。
[小さな政府(スリムな政府)]
・累進課税や企業課税は、経済を衰退させる。現状でも国籍を減らすため消費税引き上げが課題になっている。
・公務員や議員が多すぎ、税金のムダ使いがみられる。
・巨大な政府債務を減らすため、さらに小さな政府を目指すべきだ。(p.17)

4-16.〔政府と企業〕
[大きな政府]
・政府と政治システムを一定信頼し、「市場の失敗」を問題にする。
[小さな政府(スリムな政府)]
・企業と市場原理を一定信頼し、「政府の失敗」を問題にする。(p.17)
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