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刑法と刑罰 (コメント数:15)

1 manolo 2013-10-15 09:55:03 [PC]


222 x 227
出典:『よくわかる刑法』、井田良、4/20/2006、ミネルヴァ書房(2.「刑法の目的と機能」、飯島暢)pp.4-5

1-1. 1. 刑法は何のためにあるのか?:刑法の目的
 刑法の目的は何か? この問いに答える前に、そもそも法の目的を考えてみたい。これは一言でいえば、個々人の行為を法という一定のルールによって規制することによって、社会秩序を維持することに他ならない。そして、法治国家においては、制定法が行為を規制するルールとなり、社会秩序が維持される。刑法も一つの法である限り、やはりその目的は社会秩序の維持である。しかし、民法のような他の法規範と大きく異なり、刑罰という厳しい制裁手段を通じて社会秩序の維持を図るところに刑法の特徴がある。つまり、極めて重大な事態である犯罪に対して、刑罰という厳しい制裁手段で臨み、社会秩序を維持することが刑法に固有の目的なのである。犯罪が発生すると社会は動揺し、人々は安全な社会生活を営めなくなってしまう。刑法は、刑罰を用いて、事前に犯罪を防止し、犯罪が発生してしまった後は、引き起こされた社会的動揺を鎮静化させる役割を果たさなければならない。刑法はこのような社会秩序の維持という目的を達成するために、いくつかの機能を発揮する。(まとめて刑法の社会的機能という)。ここでは、規制的機能、法益保護機能、人権保障機能の三つが刑法の社会的機能として重要である。(p.4)

2 manolo 2013-10-15 09:57:10 [PC]

1-2. 2. 刑法の規制的機能
 まず、刑法は、一定の行為を犯罪とし、これに一定の刑罰を結びつけて、その行為が法的に許されないことを規範的に明示し、国民の行動をコントロールする規制的機能を発揮する。そもそも法とは、一定の公のルールによって個人の行動を統制し、社会秩序の維持、調和を図るものである。刑法も法の一種として、まずはあるべき公の行動基準を、どういう行為が犯罪とされて、刑罰という制裁を受けるのかという形で示して、国民が犯罪を犯さないようにその行動を規制し、社会秩序の維持を図らなければならない。例えば、199条は「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する」と規定するが、これは、人を殺したら、死刑その他の刑罰に処されるという行動基準を示すことによって、殺人を犯さないように国民の行動を規制する機能を果たしている。(p.4)

1-3. 3. 刑法の法益保護機能
 次に重要なのが、法益保護機能である。刑法の目的が社会秩序の維持であるとしても、刑罰という重い制裁手段を用いて一定の倫理や道徳を守りながら社会秩序を維持することまでは要請されるべきではない。あくまで、刑法が目指すべきなのは、法によって守られるべき利益である*法益の保護を通じた社会秩序の維持でしかない(法益保護主義)。日本国憲法は、個人主義を基調とし、個々人が多様な価値観を持つことを許容している。これは、他人の法益を侵害しない限り、独自の道徳観や倫理観をもつことを認めることを意味する、つまり、国家が刑罰によって一定の道徳を国民に押しつけることは、不当なことであり、刑法はあくまで法益保護機能を通じて社会秩序の維持を図れなければならない。殺人罪が処罰されるのも、それが道徳的に正しくないからではない。あくまで「人の生命」という個人の法益を守るためである。そもそも、民法、商法、行政法といった他の法律も、刑法とともに法秩序を形成している。しかし、刑法は、他の法律とは異なり、刑罰といった強力な武器を用いて法益保護をより徹底する役割を担っている。刑法による法益保護は、他の法律ではそれが十分に達成できない場合に限定されて機能することになる(これを刑法の第二次的性質という)。(p.5)

3 manolo 2013-10-15 09:58:48 [PC]

*法益
法益とは、法の保護にあたいする、人間の共同生活にとって不可欠の利益のことである。法益には生命・身体・自由・名誉・財産などの個人的法益、公共の安全・信用などの社会的法益、国家の立法・司法・行政作用などの国家的法益の三種類がある。個人主義を基調とする日本国憲法の下での法秩序においては、個人的法益が優先的に保護されなければならない。(p.5)

1-4. 4. 刑法の人権保障機能
刑法による法益保護は、人権と常に抵触する危険性をはらんでいる厳しい制裁手段である刑罰を用いて図られるものである。そこで、刑法はおのずから、国家による恣意的な刑罰権の濫用を防ぎ、国民一般の権利・自由を保障する機能を発揮しなければならない。これを人権保障機能(自由保障機能・*マグナカルタ的機能)という。刑法は、一定の行為が犯罪となり、それに対して刑罰が科されることを明示することによってこの機能を果たす。刑罰という極めて過酷な制裁を予定する刑法は、いわば「最後の手段」なのであり、先ほど述べたように、他の法律では法益を十分保護することができない最後の段階になって初めて登場するべきである(これを刑法の補充性という)。そして同時に、刑法による法益の保護は網羅的でなく、特に必要な場合だけを選んで断片的になされるべきである(これを刑法の断片性という)。このように、刑法の運用が控えめなものでなければならないのも(まとめて**謙抑主義という)、人権保障機能を発揮するためである。(p.5)

*マグナカルタ(Magna Charta)
1215年、ジョン王が貴族たちの反乱に屈服して承認した文書であり、教会の自由や貴族の権利を保障するものであったが、イギリス憲政史上、議会主義の礎になったものとされている。別名、大憲章。現在では人権保障について語るときに象徴的な意味合いで用いられることが多い。(p.5)

**謙抑主義という
ローマ法の法格言である「裁判官は些事を取り上げず」に由来するとされているが、現在では一般に広く認められる刑法の原則となっている。この原則の内容として重要なのが、刑法の補充性と断片性である。(p.5)

1-5.
 刑法の二つの機能、法益保護機能と人権保護機能は、二律背反的な矛盾する要請を果たすものである。刑法の目的である社会秩序の維持もあくまで二つの機能の調和・バランスの下で達成されなければならない。(p.5)

4 manolo 2013-10-16 12:03:44 [PC]

出典:『よくわかる刑法』、井田良、4/20/2006、ミネルヴァ書房(序-3.「刑罰の理論」、飯島暢)pp.6-7

2-1. 1. 刑罰を正当化するための根拠
 刑罰は犯罪者に苦痛を与えるものである。わが国の刑法は9条で刑罰の種類を規定している。それによれば、死刑(11条)、懲役(12条)、禁錮(13条)、罰金(15条)、*拘留及び**科料が主刑、没収(19条)が***付加刑とされている。それぞれの刑罰の内容を考えてみれば明らかなように、死刑は生命を奪い(生命刑),
懲役・禁錮・拘留は自由を制限し(自由刑)、罰金・科料・没収は財産を剥奪(財産刑)する。つまり、刑罰とは、一定の犯罪に対して条文で予定された、犯罪者から一定の法益を剥奪する制裁である。そこには犯罪に対する非難の意味も込められているが、死刑の場合には犯罪者の生命すら奪ってしまうわけであり、刑罰は、それ自体が一種の害悪とも評価できる非常に厳しい法的制裁である。しかし、犯罪者にも基本的人権は尊重されるべきであり、このような過酷な制裁を国家権力が恣意的に行使することは許されることではない。つまり、刑罰権の行使については、一般国民が納得するような正当化根拠がなければならないのである。この正当化根拠については、大きく分けて二つの考え方―応報刑論と目的刑論―が対立してきた。(p.6)

*拘留
ごく軽い罪に対して用いられる自由刑の一種であり、1日以上30日未満の間、刑事施設に身柄が拘留されることを内容とする。刑法16条参照。(p.6)

**科料
現行刑法上、罰金・没収と並ぶ財産刑の一種であるが、特に罰金刑とは金額の面で区別される。刑法17条参照。法令違反に対する金銭的制約である(つまり、刑罰ではない)過料との区別に注意しなければならない。両者の区別のため、科料を「トガリョウ」、過料を「アヤマチリョウ」と呼ぶことが多い。(p.6)

***付加刑
主刑を言い渡す際に、これに付加する形でのみ科すことができる刑罰であり、単独で言い渡すことはできない。現行刑法上は、没収のみが付加刑である。(p.6)

5 manolo 2013-10-16 12:06:35 [PC]

2-2. 2. 応報刑論
 応報刑論によれば、刑罰は犯罪という悪い行いに対する当然の報いとしてとらえられる(「目には目を、歯には歯を」という同害報復の原理)。つまり、非難すべき犯罪に対して、それに見合った害悪(苦痛)としての刑罰を犯罪者に科すことは正義の要請であり、それだけで正当化されるというのである。このように、応報刑論は、すでに犯罪が行われたことだけを刑罰の正当化根拠とする見解である。一般的に「絶対的応報刑論」と呼ばれることもある。応報刑論には犯罪が行われた限り、処罰しなければならないという必罰主義に陥る危険性がある。しかし、その反面、犯罪に見合った刑罰の量を要求することにより、罪刑均衡性の原則を保つことができ、また、刑罰は犯罪という悪い行いに対する非難であることから、あくまで犯罪者に対して責任非難が可能であることを前提とすることによって、*責任主義を取り込むことができる。つまり、応報刑論は刑罰限定的な側面も持っている。(p.6)

*責任主義
責任主義とは「責任なければ刑罰なし」という原則であり、罪刑法定主義と並んで重要な国家刑罰権を制約する原理とされている。つまり、行為者に対して責任非難が可能な場合にのみ処罰は許されることになる。(p.6)

2-3. 3. 目的刑論
 目的刑論は、刑罰の正当化根拠を、刑罰が有する犯罪予防効果に見出す見解である。目的論刑は、一般予防論と特別予防論という二つの考えに分けられる。(p.7)

2-4.
 一般予防論は、刑罰を予告し、実際に犯罪者を処罰することによって、社会の中にいる潜在的犯罪を威嚇して、犯罪から遠ざけるところに刑罰の有用な効果を認める(消極的一般予防論)。ただ最近では、犯罪者をきちんと処罰することによって、法秩序が信頼するに足りるものであることを一般市民に確認させ、遵法意識を高めて犯罪を予防するという考え方も有力である(積極的一般予防論)。(p.7)

2-5.
*特別予防論は、犯罪者自身が再び将来において犯罪に走ることを予防して、社会を防衛する点に刑罰を正当化する効果を見出す。この効果は、犯罪者を刑務所に隔離するだけである程度は達成されるが、むしろ重点は、刑務所の中で職業訓練等を受刑者に施し、社会復帰を手助けするところにある(再社会化の理念)。(p.7)

6 manolo 2013-10-16 12:07:48 [PC]

*特別予防論
特別予防を重視する目的刑論の思想を貫けば、刑罰と保安処分の差異が解消され、一元主義に至ることになる。「保安処分」とは、将来犯罪行為を行う危険性のある者に対して、社会から隔離して保安の目的をはかり、または治療・改善を施すために科される強制措置である。たとえ対象者が責任無能力であっても、その危険性に着目して科し得る点に刑罰との大きな違いがある。(p.7)

2-6. 4. 相対的応報刑論
 刑法の目的とは、法益を保護して社会秩序を維持することである。となると、刑罰の正当化根拠も、応報刑論を主張するように抽象的な正義の要請ではなく、現実の社会における犯罪を防止して、市民の共同生活を守るという法益保護の観点に依拠しなければならない。つまり、目的刑論の立場が合理的であるように思われる。しかし、目的刑論は、犯罪予防効果を重視するあまり、犯罪者に*過度な刑罰を科してしまう危険性を常にはらんでいる。そこで、現在では、刑罰の本質は応報であるが、同時にその目的は犯罪の防止であるとして、応報刑論と目的刑論を組み合わせた**「相対的応報刑論」(統合説)と呼ばれる立場が支配的見解となっている。これによれば、刑罰はあくまで非難可能な犯罪行為とバランスの取れたものでなければならないとして、罪刑均衡性の原則がまず維持され、その範囲内で、一般予防と特別予防の観点が最大限考慮されることになる。(p.7)

*過度な刑罰を科してしまう危険性
たとえば窃盗を繰り返す者に対しては、たった1万円のものを盗んだに過ぎなくても、特別予防の観点を重視して、改善されるまで長期にわたって刑務所に入れておくことが可能となってしまう。また、一般予防の観点を重視すれば、窃盗に対して死刑を科し得ることにすらなってしまうだろう。(p.7)

**相対的応報刑論
相対的応報刑論は、その内部で、「正義としての応報」を基本とする応報刑論と、刑罰はあくまで犯罪予防手段の一つであることに重点をおく抑止型相対的応報刑論の二つに分かれる。応報刑論と目的論のどちらに重点をおいて、両者を結びつけるかの違いである。(p.7)

7 manolo 2014-01-17 12:20:42 [PC]

出典:『よくわかる刑法』、井田良他著、4/20/2006、ミネルヴァ書房、(「第1部 序-4 「罪刑法定主義」)、野村和彦、pp.7-8

3-1. 【1. 市民にとっての意義】
 罪刑法定主義とは、犯罪と刑罰は法律によって定めるべきである、という考え方のことをいう(*憲法31条)。刑法は**行為規範(日常生活のルール)であることが、改めて確認されなければならない。刑法は、刑法に違反する行為をしないよう市民に求め、それによって法益の保護を図るのである。そうであるからこそ、刑法によって処罰される範囲と、刑法による規則から自由な範囲とが明確に区別されるよう立法しなければならない。これにとどまらず、刑法の条文を解釈する際にも、行為する時点において、処罰・不処罰の境界が明確になるよう解釈する必要がある。特に、結果論で決めてしまうと、行為時点において処罰不処罰を予測することが不可能になってしまう。(p.8)

*都道府県及び市町村議会も、一定限度で、犯罪と刑罰を条例により定めることができる。地方自治法14条3項参照。(p.8)

**これに対し、刑法に行為規範性を認めることは刑法の倫理化につながるとの見解があり、刑法の裁判規範性のみを認める。学者の間ではこれが主流である。(p.8)

3-2. 【2. 立法機関にとっての意義】
 刑法は、社会の平和を目指し、他方で、国民の行為に対して一定の制約を課す。このため、国民の代表者によって、何を犯罪とし、どの程度の刑罰を科すのかが、合理的に決められる必要がある。それでは、法律という形式で犯罪と刑罰を定めさえすればよいのか。そうではない。(p.8)

8 manolo 2014-01-17 12:23:21 [PC]

3-3.
 第一に、*犯罪と刑罰の内容が、国民にとって明確で、支持しうるものでなければならない。犯罪の中身については、犯罪が、道徳や倫理の強制となっていないかが重要である。確かに犯罪と倫理違反とは重なる部分もあるが、犯罪といえるためには、刑法という強力な手段を行使する必要のある生活利益の侵害がなければならない。刑罰については、①犯罪と刑罰の均衡が取れているか、②**刑罰の種類や程度が明確どうか、に留意しなければならない。この二点をいい加減にすると、刑事司法機関に大幅な裁量を与え、行為者に対して過酷な刑罰を強いることになる。

*明確性の原則、及び刑罰法規適正の原則という。(p.8)

**例えば、ある犯罪について、法定刑を、その上限下限を定めずに、ただ「懲役に処する」としてはならない。絶対的不定期刑は禁止されている。(p.8)

3-4.
 第二に、*過去の事柄を事後の法律により犯罪とし、これに対する刑事責任を追及することは禁止されている(憲法39条前段、刑法6条)。こういう方法を許容すると、国民は不意打ちを食らうことになり、行動の自由が脅かされる。犯罪と刑罰に関する法律は、制定した時点から将来に向けて有効であるとすることにより、犯罪と刑罰が予測でき、行動の自由が保障される。(p.8)

*これを遡及処罰の禁止という。なお、確立した判例が被告人に不利益な方向で変更された場合も問題となる。(p.8)

3-5. 【3. 裁判官にとっての意義】
 裁判官は、刑法に基づいて、刑法を解釈適用して、刑事裁判を行わなければならない。これを刑法の裁判規範性という。わが国の刑法は条文がシンプルなため、結果的に、刑法を解釈する裁量が裁判官に大幅に与えられている。このため、罪刑法定主義の精神から、刑法をどのように解釈するべきかが問題となる。一般に、「*拡張解釈は許され、行為者に不利な**類推解釈は禁ぜられる」という。しかし、実際には様々な問題が生じている。背景には、刑法をかなり柔軟に適用し問題解決を図りたいという思惑があるのかもしれない。しかしそうであっても、裁判官の採った刑法の解釈が、事実上、新しい犯罪を創設するに等しい解釈であるとしたら、もはや司法の役割を越えた解釈というべきであろう。(p.9)

9 manolo 2014-01-17 12:25:05 [PC]

*言葉を、日常使われている意味よりも広げて解釈すること。私たちが理解可能な範囲内においてのみ拡張解釈は許される。このような拡張解釈には枠がある。(p.9)

**ある法規が想定していない事態に対し、「類似性」を根拠に、その法規の準用を許すこと。「類似性」にはあらゆる内容を盛り込むことが可能なため。類推解釈は罪刑法定主義を崩壊させる解釈手法である。(p.9)

3-6. 【4. いわゆる合憲限定解釈の問題】
 合憲限定解釈とは、そのままでは違憲のおそれがある条文の文言を、合憲の範囲まで縮小・限定して解釈することをいう。例えば、*条例で、淫行を禁じ、淫行をした者を罰するとした場合、何が「淫行」なのかは明らかではない。そこで相手を欺いたり、脅したりしてする淫行、相手を自分の性欲の対象としてしかみていないかのような淫行、というように、淫行の概念を限定解釈して、事件に適用することが許されるのかどうかが問題となる。これも、裁判官が、事実上、解釈により新しい犯罪行為を創設したと評価しうる場合は、いかに合憲限定解釈であるとしても、裁判官としての役割を超えた解釈をしたことになろう。(p.9)

*最大判昭和60年10月23日刑集39巻6号413頁。
福岡県青少年保護育成条例10条1項は、「何人も、青少年に対し、淫行またはわいせつの行為をしてはならない」と規定し、違反者に対して、2年以下の罰金を科すとしていた。(p.9)

**(上の)最高裁判決の多数意見によれば、「淫行」とは①青少年を誘惑し、威迫し、欺罔(ぎもう)または困惑させるなどその心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交または性交類似行為、②青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交または性交類似行為、とした。素人であるわれわれは、「淫行」から①②を果たして読み取ることができるであろうか。(p.9)

10 manolo 2014-01-21 06:49:44 [PC]

(修正)

3-5.

誤:一般に、「*拡張解釈は許され、行為者に不利な**類推解釈は禁ぜられる」という。
正:一般に、「*拡張解釈は許され、行為者に不利な**類推解釈は禁ぜられる」といわれている。


誤:しかし、実際には様々問題が生じている。背景には、刑法をかなり柔軟に適用しし・・・
正:しかし、実際には、様々な問題が生じている。背景には、社会生活の変化によってもたらされた事態に対して、裁判官が、刑法をかなり柔軟に適用し・・・

11 manolo 2014-01-21 06:51:09 [PC]

出典:『よくわかる刑法』、井田良他著、4/20/2006、ミネルヴァ書房、(「第1部 VI-2 「軽量理論と刑罰目的」)、照沼亮介、pp.106-107

4-1. 【1. 刑の量定】
 犯罪の成立が認められると、裁判所は被告人に対して法律上認められた範囲において言い渡すべき刑を確定する作業を行う。これを広い意味での刑の量定(量刑)というが、そこではまず、①個々の刑罰法規に定められた一定の範囲を持つ刑(法定刑)について加重・減刑を行って量刑の基礎となる刑(諸断刑)を形成し、次に、②その範囲内で被告人に言い渡す刑(宣告刑)を決定する、という手順が踏まれることになる。①の過程においては、例えば*再犯加重(56条、57条)のような加重事由や、**自首(42条)などの任意減刑自由、心神耗弱(39条2項)などの必要的減軽自由、その他裁判官の裁量に委ねられている***酌量減軽(66条)が考慮され、また、複数の刑罰法規の適用の有無が問題となるような場合には罪数/犯罪競合の判断を行った上で、例えば「半月以上5年以下の懲役のような形で処断刑が形成される。その後、②において、処断刑の範囲内で具体的に被告人に言い渡される刑が決定されることになるが、この②つの過程を狭い意味での「量刑」と称する。②の狭義の量刑判断に際しては、いかなる事実がいかなる観点から考慮されるべきかという問題、すなわち量刑基準の問題が生ずる。ここでは、一方において、個々の被告人の罪責に見合った刑を科すためには可能な限り多様な状況について検討を加えるべきであるが、しかし他方において、同等の重さをもった犯罪を行った者の間で可能な限り不平等を生じさせないようにすべきである、という相反する要請を満たすというきわめて困難な課題が待ち受けているのである。(p.106)

*再犯加重
58条1項は、懲役に処せられた者が、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内にさらに罪を犯した場合において、そのものを有期懲役に処するときはときは再犯とすることを規定しており、57条は、再犯の刑はその罪について定めた懲役の長期の2倍以下とすることを規定している。(p.106)

12 manolo 2014-01-21 06:53:26 [PC]

**自首
犯罪事実又は犯人が誰であるかが捜査機関に発覚する前に、犯人自ら捜査機関に対して犯罪事実を申告し、その処分に服する意思を表示すること(42条)。なお、特別の規定について刑の免除事由となることもある(例えば、内乱罪に関して80条参照)。(p.106)

**酌量減軽
裁判所は刑を言い渡すに際して犯罪の上場に酌量すべきものがあるときは、一定の基準(71条、72条)に従って、法定刑より軽い刑の範囲で処断することができる(66条)。(p.106)

4-2. 【2. 量刑基準と刑罰目的の関係】
 行為者にどの程度の刑罰を科すべきか、という問題を考えるのであれば、そのは必然的に「刑罰は何のために課されるのか」という問題に至ることになる。現在では、刑罰はあくまで犯した罪の限度において、責任非難に見合う範囲内で科されるものではあるが、その枠内において、可能な限り一般予防や特別予防の効果についても考慮しようとする考え方(*相対的応報刑論)が主流である。この考え方によれば、純粋な応報の観点からは刑の重さは同等であると思われる場合であっても、個別具体的な予防効果の程度に応じて刑の重さは変わり得ることになる。このような考え方を一応の前提として量刑基準の問題に目を向けるとき、処断刑という一定の範囲を持った「責任刑」の枠内で考慮され得る事情には、おおまかに分けて以下のようなものがあると考えられる。まず第一に、その犯罪結果がどれだけ重大なものであったか、行為の態様がどれだけ悪質なものであったか、いかなる動機から犯罪行為に出たのか、というようなその犯罪の違法性・責任の程度に直接関係してくる事情を挙げることができる。(pp.106-107)

*相対的応報刑論
刑罰の目的を応法の観点から説明する見解(応報刑論)と、逆に予防の観点から説明する見解(目的刑論)を折衷した考え方。(p.106)

13 manolo 2014-01-22 14:46:22 [PC]

出典:『よくわかる刑法』、井田良他著、4/20/2006、ミネルヴァ書房、(「第1部 VI-2 「軽量理論と刑罰目的」)、照沼亮介、pp.106-107(修正版)

4-1. 【1. 刑の量定】
 犯罪の成立が認められると、裁判所は被告人に対して法律上認められた範囲において言い渡すべき刑を確定する作業を行う。これを広い意味での刑の量定(量刑)というが、そこではまず、①個々の刑罰法規に定められた一定の範囲を持つ刑(法定刑)について加重・減刑を行って量定の基礎となる刑(処断刑)を形成し、次に、②その範囲内で被告人に言い渡す刑(宣告刑)を決定する、という手順が踏まれることになる。①の過程においては、例えば*再犯加重(56条、57条)のような加重事由や、**自首(42条)などの任意減軽事由、心神耗弱(39条2項)などの必要的減軽事由、その他裁判官の裁量に委ねられている***酌量減軽(66条)が考慮され、また、複数の刑罰法規の適用の有無が問題となるような場合には罪数/犯罪競合の判断を行った上で、例えば「半月以上5年以下の懲役」のような形で処断刑が形成される。その後、②において、処断刑の範囲内で具体的に被告人に言い渡される刑が決定されることになるが、この②の過程を狭い意味での「量刑」と称する。②の狭義の量刑判断に際しては、いかなる事実がいかなる観点から考慮されるべきかという問題、すなわち量刑基準の問題が生ずる。ここでは、一方において、個々の被告人の罪責に見合った刑を科すためには可能な限り多様な状況について検討を加えるべきであるが、しかし他方において、同等の重さをもった犯罪を行った者の間で可能な限り不平等を生じさせないようにすべきである、という相反する要請を満たすというきわめて困難な課題が待ち受けているのである。(p.106)

*再犯加重
56条1項は、懲役に処せられた者が、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に更に罪を犯した場合において、その者を有期懲役に処するときはときは再犯とすることを規定しており、57条は、再犯の刑はその罪について定めた懲役の長期の2倍以下とすることを規定している。(p.106)

14 manolo 2014-01-22 14:50:32 [PC]

**自首
犯罪事実又は犯人が誰であるかが捜査機関に発覚する前に、犯人自ら捜査機関に対して犯罪事実を申告し、その処分に服する意思を表示すること(42条)。なお、特別の規定について刑の免除事由となることもある(例えば、内乱罪に関して80条参照)。(p.106)

**酌量減軽
裁判所は刑を言い渡すに際して犯罪の情状に酌量すべきものがあるときは、一定の基準(71条、72条)に従って、法定刑より軽い刑の範囲で処断することができる(66条)。(p.106)

4-2. 【2. 量刑基準と刑罰目的の関係】
 行為者にどの程度の刑罰を科すべきか、という問題を考えるのであれば、それは必然的に「刑罰は何のために科されるのか」という問題に至ることになる。現在では、刑罰はあくまで犯した罪の限度において、責任非難に見合う範囲内で科されるものではあるが、その枠内において、可能な限り一般予防や特別予防の効果についても考慮しようとする考え方(*相対的応報刑論)が主流である。この考え方によれば、純粋な応報の観点からは刑の重さは同等であると思われる場合であっても、個別具体的な予防効果の程度に応じて刑の重さは変わり得ることになる。このような考え方を一応の前提として量刑基準の問題に目を向けるとき、処断刑という一定の範囲を持った「責任刑」の枠内で考慮され得る事情には、おおまかに分けて以下のようなものがあると考えられる。まず第一に、その犯罪結果がどれだけ重大なものであったか、行為の態様がどれだけ悪質なものであったか、いかなる動機から犯罪行為に出たのか、というようなその犯罪の違法性・責任の程度に直接関係してくる事情を挙げることができる。(pp.106-107)

*相対的応報刑論
刑罰の目的を応報の観点から説明する見解(応報刑論)と、逆に予防の観点から説明する見解(目的刑論)を折衷した考え方。(p.106)

4-3.
 第二に、例えば犯罪がきっかけとなって被害者が自殺したり被害者の家族に様々な悪影響が及んだりした場合には、それらの事実は違法性や責任の程度には直接関係してくるのではないとしても、行為者に対する非難の度合いが具体的にどの程度であるのかを調べるための手掛かりとして位置づけることができるであろう。

15 manolo 2014-01-22 15:23:10 [PC]

4-4.
 第三に、行為者の性格や、前科の有無の経歴、行為者周囲の環境、さらには犯行後に示していた態度、例えば被害者やその家族に対する損害賠償の有無などの諸事情は、本人が再び犯罪行為に出る危険性がどの程度存在するのか(特別予防の必要性の程度)の判断に関わって来るであろうし、社会全体に与えた衝撃や不安の程度という事情については、同種の事案の再発の危険性がどの程度存在するのか(一般予防の必要性の程度)の判断に関わってくるであろう。第四に、行為者本人も大きな怪我を負ったりすでに難しい社会的制裁を受けているというような事情については、責任非難や予防効果とは一応区別された形で、最終的に刑を科すこと自体の必要性をチェックするための事情として位置づけることができる。(p.107)

4-4. 【3.量刑判断における今後の課題】
 従来は、量刑判断はもっぱら裁判官の裁量に委ねられるものと考えられてきた部分があり、その基準を理論的に明確化しようとすれる試みは必ずしも成功してきたとは言い難い。しかし、裁判員制度の導入等に伴い。実務家の直感や経験だけに頼って解決を図ることはもはや不可能となりつつある。例えば被害者の処罰感情が著しく厳しい場合に、それと量刑との関係をいかに考えればよいのかといった問題は、量刑基準の早急な理論化が要請されていることをわれわれに示しているように思われる。(p.107)

【量刑基準の内容】
①量刑判断の基礎となる事情(違法性・責任の程度に直接関係する事情): 例えば、結果の重大性、行為態様の悪質性、動機の悪質性など

②行為責任のおおまかな範囲を判断するための事情: 例えば、被害者やその家族に及ぼした悪影響の度合いなど

③特別予防・一般予防の程度を判断するための事情: 例えば、行為者の性格・経歴・周囲の環境・犯行後の態度、社会に与えた衝撃の程度など

④刑罰を科すこと自体の必要性を判断するための事情: 例えば、行為者自身も負傷している場合や、既に厳しい社会的制裁を受けている場合など(p.107)
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