2 manolo 2015-01-24 11:49:28 [PC]
1-2. 【2. 具体的内容と問題点】 刑訴法は、書類その他の物の「添付」及び「内容の引用」を禁止しているが、その趣旨は他の形式による場合にも及び、およそ予断を生ぜしめるおそれのある事項の記載は許されない。他方、256条3項は裁判所の審判対象と被告人の防禦の対象を手続上明らかにするために、「罪となるべき事実」を特定して起訴状に記載する(訴因の特定)ことを要求する。そのため、起訴状に記載された訴因が詳細であればあるほど予断のおそれが相対的に強まることから両者の調整が問題となる場合が生じる。この点、判例は、比較的早い時期から「訴因を明示するため犯罪構成要件にあたる事実若しくは、これと密接不可分な事実を記載することは適法である」として、訴因特定の要請を優先させている。しかし、学説の多くは、裁判官が予断を抱くことなく審理を開始することは手続きの基礎であり、一度抱いた予断は容易に消し難いことを理由として、訴因明示の要請も予談排除の要請に反しない限度に制約されるものとしている。(pp.136-137)
1-3. この点が証拠の引用との関係で現実に問題となったものとして、*文書を用いて犯された恐喝罪の犯罪事実の記載について、ほぼそのままの形で脅迫文の原文を引用した事実がある。判例は、原文を要約摘記すべきであるとしながらも「その趣旨が婉曲的暗示的であって、起訴状に脅迫文書の内容を具体的に要約摘示しても相当詳細にわたるのでなければその文書の趣旨が判明し難いような場合には脅迫文書の全文と殆ど同様な記載をしたとしても適法である」としている。さらに、**名誉棄損の原文引用が問題とされた事案について、要約摘示の方法によらないでも原文引用が許されるとした判例もある。いずれも訴因明示の要請を優先させるものである。しかし、学説の多くは、証拠内容を立証対象たる起訴状の記載に持ち込むことが禁止されていることを重視して、訴因の明示に必要な限度を超えて文書の内容を詳細に記載することは許されないとしている。(p.137)
*被告人は、Mらが金員を脅し取ることを企て、M宛に内容証明郵便により脅迫文を送付して閲読畏怖させて、Mらから金員を喝取したとして起訴されたが、その起訴状には、脅迫文がほぼそのままの形で原本の体裁通りに引用されていた事案である(最判昭和33年5月20日刑集12巻7号1398頁)。(p.137)
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