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文化の商品化 (コメント数:4)

1 manolo 2016-12-21 23:15:11 [PC]


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出典: 『よくわかる都市社会学』、中筋直哉、五十嵐泰正編著、ミネルヴァ出版、「V-9. 観光における文化の商品化」、pp.68-69、2013/4/30、橋本和也

1-1. 【1.文化の商品化】
 文化観光においては、生活の中に埋め込まれている文化が、特別なものとして徴づけられ、注目され、外部に提示するために切り取られ、それが観光の場に提示される。年代を経たものはその年代ゆえに、特別な由来のあるものはそのものがたりゆえに注目される。自然景観でも人間の視点に珍しいと映る光景が注目され、切り取られる。そのように考えると、観光対象となるものはすべて「商品化」されていることになる。「ホスト・アンド・ゲスト」で、編集者のV.スミスが分類した民族観光、文化観光、歴史観光、環境観光、リクレーション観光の5つのタイプは、観光のまなざしによって本来の文脈から切り取られ、商品化される対象であることを示している。(p.68)

2 manolo 2016-12-21 23:18:04 [PC]

1-2.
 「文化の商品化」とは、地域の人々のための文化的製品の意味を損なうだけでなく、観光者にとっても意味も損なうという問題を引き起こす。まがいもののアトラクションを真正なものと信じ、偽りの観光経験が作り上げられることになる。このような文化の商品化に関する議論が観光研究の領域で取り沙汰されるようになったのは、マス・ツーリズムが本格化した1960年代後半からで、ブーアスティンの「疑似イベント」やマキャーネルの「演出された真正性」など「文化の真正性」に関する議論が活発になった。それは日常的な文化現象が、観光の場に引き出されたとき違和感をもって受け取られたことを示している。問題になったのは、地元住民に有償でパフォーマンスを提供する大衆文化の領域ではなく、日常生活や儀礼などの領域におよぼす観光の影響であった。文化の商品化には、近代産業社会、消費社会の特徴が顕著に現れている。(p.68)

1-3. 【2. 本来の文脈から切り離される問題】
 日本において太田好信が「文化の客体化」の問題へ先鞭を付けた。ある社会に埋め込まれていた文化的要素が、特別なまなざしを受け別の文脈に置き換えられたとき、すなわちそれまでの文脈から切り離され客体化されたときに、かつてとは異なる評価と新たな意味を持つことになる。これは日常的文脈から取り出した事物に特別な意味を付与する博物館提示が抱える問題でもある。観光においては、地元に埋もれている事物が特別なまなざしを受け、発掘され、本来の文脈から切り離されて観光の「売りもの」に仕立て上げられる。地元民が違和感をもつ売られ方であっても、観光の定番になっている例は多い。(pp.68-69)

3 manolo 2016-12-21 23:19:32 [PC]

1-4. 【3.売る権利はだれにあるか。】
 日本における観光人類学の初期の本である『観光人類学』に、サンタクロースの村における文化の著作権を問題として取り上げた葛野論文がある。従来トナカイの牧畜を生活の糧としてきたラップ人の領域を、フィンランドの多数派民族フィン人がサンタクロースの服装でみやげもので販売することで文化的に侵略している現状を紹介する。道義的には違反だが、民族の著作権が認められない限り法的解決はない。観光者に偽物性を訴える運動を展開したところで、観光客はまがいものでも「よく知られたもの」であればまなざしを向ける。南太平洋のヴァヌアツでも、バンジージャンプの祖先といわれるヤゴル儀礼を、本来の在処である地域を離れて観光客のアクセスがよい他の土地で執行しようと試みた例がある。そのたびに企画から外れる他の村から反対の声が上がり断念するという事態が繰り返された事情を、白川千尋が「儀礼の保有者、儀礼の在処」で報告している。同一集団・民族内での楽しみのための上演であれば借用・流用は問題にならず喜ばれるが、不特定多数の観光者を相手にした商品として売られるとなると、商業的道義に照らして正当かどうかが問題になる。(p.69)

1-5. 【4.地域文化資源の商品化:みやげもの】
 地域の文化資源を観光のまなざしで切り取り、売り物にしたのが現代の「みやげもの」である。従来は寺社参詣の際のお礼や境内図、厄払いの品物などがみやげものであったが、1920年代の民芸運動の流れの中で地域の特産品が注目されるようになった。1970年代の大衆観光時代以降、みやげもののための商品開発が盛んになると、「商品化」された地域文化が地域を正しく表象するかどうかが検証されることなく売買され、いまでは「京都へ旅行してきました。ほんの気持ちです」と箱に書かれたカスタードクリーム入りの菓子が出回るようになった。同じように、もはや「京都」などの地名以外には地域とは関係を持たない単なるロゴ入りTシャツや、地域の特徴をステレオタイプ化したコスチュームを着ているだけの全国的キャラクター(ハローキティ、キューピー、ドラえもんなど)のご当地版が売られている。それらがみやげものとして、それなりに人気を博す現実がある。(p.69)

4 manolo 2016-12-21 23:20:00 [PC]

1-6.
 もはや観光地の「換喩」にもならない商品が、みやげものとして売られ、購入されている。それらは地域性をどのように表象して商品に仕上げられるかという文化的な工夫をもはや放棄したみやげものである。しかしそのような現実に対抗して観光まちづくりの活動を地域で実践している人々は、地域で自らが育て上げた文化資源を、地域を代表する、地域の「売りもの」として誇りをもって提示しようとしている。「文化の商品化」は、ここにこそ注目するべきである。(p.69)
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