材大なれば用を為し難し

返信投稿フォーム
ニックネーム:
30文字以内
URL:
* コメント: [絵文字入力]

1000文字以内
文字色:
* 印の付いた項目は必須です。

どら、あたしに貸して御覧なさい (コメント数:1)

1 Ryou 2014-02-02 12:51:50 [URL]

女   どら、あたしに貸して御覧なさい。この電話、よく聞えないのよ。(受話器を男甲より受取り)もし、もし、こちら、楠見でございますが……。もし、もし……。


この時、男乙、再び受話器を耳に当てる。男甲、元の席に帰り、また新聞を読む。



女   どうしたんだらう、ちつとも聞えないわ。間違ひか知ら……もし、もし、もし、もし……。
男乙  あゝ、やつと通じた。僕だよ……。大丈夫かい。もう一度だけね、これでおしまひだ。大将、なんにも気がついてやしまいね。
女   あ、さやうでいらつしやいますか。さあ、如何でございますか……。
男乙  話してもいゝね。もう、寝てたの?
女   どういたしまして……。
男乙  迷惑だつたら、かまはないよ。そつちから切つてくれ給へ。
女   まあ、迷惑だなんて、そんな御心配は、決して……でも……。
男乙  うん、それや無論、わかつてるよ。だから、こんなに急いでるんぢやないか。出来ることなら、一口で、なにもかも云つてしまひたいくらゐだ。僕は、君にとつて、邪魔な人間でありたくないんだ。どういふ意味でゝも、なるだけ遠くに離れてゐようと思ふんだ。しかし、僕たちの別れ方は、あんまり理想的すぎた。あんまり、美しい余韻がありすぎたんだ。眠つてゐる僕の腕から、そうつと抜け出して行つた君を、僕はまだ、夢の中で抱いてゐるんだ。可笑しい、こんな云ひ方をするのは……だが、ほんとに、さうなんだ。
Ads by Google
(c)Copyright mottoki.com 2007- All rights reserved.