材大なれば用を為し難し

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眼がさめたのは (コメント数:1)

1 Ryou 2014-03-27 09:46:00 [URL]

 眼がさめたのは何時ごろでせう、彼女は、頭にも、胸にも、腰にさへも、うつすらと汗をかいてゐました。夢をみたのです。伏見菊人と、夫の卯吉とが、何か言ひ争つて、その揚句、伏見が寝てゐる夫の上に馬乗りになつて、その首を締めようとしたのです。彼女は、なにか叫んで、伏見の肩に縋りつきました。伏見は彼女を片手に抱きながら、夫から離れました。夫の眼は怒りに燃えてゐるやうでもあり、絶生の悲しみをたゝえてゐるやうでもあります。彼女は、伏見を押しのけるため、必死の努力をします。しかし、なんの甲斐もありません。第一に、彼女の全身からは、まつたく力がぬけきつてゐるのです。押すことも引くことも、どうすることもできません。そのうへ、からだには、重みがちつともないのに気がつきます。浮きあがるやうな気持です。これではいけないと焦ります。夫は、もう、そこにはゐません。ゐるかも知れないけれども、自分には見えないのだといふ気がします。伏見の顔も、うしろになつてゐて見えません。たゞ、頸筋に激しい呼吸づかいが感じられるだけです。気が遠くなりました。そして、はつと、眼がさめたのです。
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