そんなことから (コメント数:1) |
1 Ryou 2014-03-27 09:50:38 [URL]
そんなことから、保枝は、加部福代の半生をともにした加部錬之介なる男が、夫としてどんな人物であつたかを、ふと好奇心で知りたくなりました。それを知ることだけで、加部福代の短い生涯の意味がきまるやうに思へたのです。 保枝は、その翌日、近所のをばさんに病人のことを頼んで、ともかく、悔みに行くことにしました。葬式はすんでゐるのですから、羽織と帯だけ黒にして、半襟は目立たない白地をえらびました。かういふ時ででもなければ、よそ行きを着ることのない近頃の自分を、鏡の前でしばらく飽かず眺め入りました。ざつと解きつけた髪も、偶然にふつくらと思ふかたちになりました。さて、香奠は、と気がついて、どうしたものかと迷ひました。闇も公定もない代物ですから、気前をみせるか見せないかの違ひです。夫に相談しても、夫は相手にしてくれません。彼女は、百円札を二枚重ねてみ、それから五枚にし、また急いでそれを三枚にしてしまひました。 |
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