その婚約の方は (コメント数:1) |
1 Ryou 2014-05-17 12:09:11 [URL]
あたしは、その婚約の方は知らないけれど、むしろ、あなたこそ、北原先生にはうつてつけ男性だと思うの。あたしの眼がそうにらんだんだから、決して間違いつこなし。こゝに、お互がその気になりさえすれば、きつとすぐに激しい愛情で結ばれるはずの男と女とがいて、その二人が、何かの事情で手を差しのべ合うことができないなんて、そんな不都合な話つてないわ。もちろん、あたしは、その愛情にいろ/\な動機があつていゝと思うの。北原先生は、生きる力をあなたに求め、あなたは、あなたにふさわしい一人の女性の命を、破滅から救うという義きよう心で、ひとつ北原先生にぶつかつてみていたゞきたいの。おいや?」 こゝで、井出康子は、かすかに微笑は含んでいるものゝ、相手に有無を言わせぬという強い決意を、結んだくちびるに示していた。 「お話は、だいたいわかりました。では、わしも言うだけのことを言わしてもらいます」 と、市ノ瀬牧人は、両ひざをかわる/″\動かしながら言つた。 「奥さんのお気持を、わしはわし流に解釈してかまわんですな。非常にえん曲な方法で、わしが知らなければならんことを知らせてくださつたものと思います。その点、もうなにも言うことはありません。このまゝ、こゝを引きさがつてもいゝわけです。しかし、お話を聞いているうちに、わしはやつぱり奥さんを信じて、奥さんがこうしてくれと言われることなら、どんなことでもきくのがほんとだという気になつて来たんです……」 |
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