いえ、只今、ちやうど (コメント数:1) |
1 Ryou 2014-01-25 11:31:12 [URL]
「いえ、只今、ちやうど、あたくし伺はうと思つてをりましたの」 と、素子は弁解するやうに云つた。 「はあ、お差支なければ、ちよつと……」 幾島もこゝで伯爵の方へ向き直つた。 「まだ詳しいことは伺つてをりませんのですけれど、なんでも山の水源地の問題で、わざわざあちらへおいでくだすつたんださうでございます」 彼女がそれだけ云ふのを待つて、幾島は、あとを続けた―― 「差出がましいとは思ひましたが、この夏、あの会見に立会はせていただいた関係もありますし、問題の性質上、僕がひとつ第三者として、最も合理的に解決の道を探し出してみようといふ気を起したんです。もちろん、僕はまだ自分の経験にも技術にも頼ることはできませんが、この問題に限つて、えらく、自分の常識と熱情とが物を言ふだらうといふ風に、ひそかに信じてゐました。一方で、お前の出る幕ぢやないつていふ声は、しきりに耳のそばで聞えてゐるんです。しかし、今度といふ今度は、なにか知ら大きな力にぐんぐん押されて、そんな声は問題ぢやなく、ごく自然に、起ち上ることは起ち上りました。そして、結果は、だいたい、僕としては満足なんです」 |
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