新子は、美沢からだったのだろうと (コメント数:1) |
1 Ryou 2014-01-03 21:33:09 [URL]
新子は、美沢からだったのだろうと、推察して、いよいよ目の前に、ぴたりと冷たい鉄扉を立て切られたような気持になった。後で、前川氏に、手紙で(「酒場」を、させて頂くことに決めました)と、書いてやろうと、咄嗟に思案しながら、自分の心の傷口をいたわった。 美和子は、洋服を着て、化粧して降りて来ると、すぐ、新子の肩につかまって、 「お小遣いが欲しいの、……」と、いった。 「一ト月に、二十円で足らなくて……この頃は三十円くらい使うって、お母さまがこぼしていらしたわよ。使い過ぎるわよ。」 「使い過ぎるも、過ぎないもないわ。実際けちくさいンだもの。お友達に気がひけて仕方がないわ。」 「交際を、お断りすればいいじゃないの。昨夜シネマに行ったばかりだし、……」新子は、意地の悪い皮肉な顔をした。 「お姉様のひどい人、……いいわ、文無しだって、どうにかなるわよ。」と、ぷーんとして、くるりと後を向いてスタスタ行きかけるのを、母親が、 「この日盛りを、病気になってしまうよ。お止しなさい。」 「氷じゃあるまいし、とけやしないわ。」母にまで、八ツ当りして、靴を穿いているのに、新子は立って行って、 「お姉さんだって、お金ないのよ。これだけ、持っていらっしゃい。」と、出してやるのを、 「不要ないわ。」と、後向きのまんま、格子戸を締めて、駈け出してしまった。 |
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