材大なれば用を為し難し

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私は巴里滞在中 (コメント数:1)

1 Ryou 2014-01-18 19:11:01 [URL]

 私は巴里滞在中、二三の画家諸君と識り合ひになり、ちよいちよいアトリエを訪ねるやうなこともあつたが、いつでもその仕事振り、生活振りに多大の興味を惹かれた。
 第一に、いかにも楽しさうに仕事をしてゐる。母親が娘に晴着を著せてゐるやうだともいへるし、子供がお土産に貰つた寄木細工を弄んでゐるやうだともいへ、或はまた、酒飲みが晩酌の膳に向つたやうでもあり、善良な夫が細君の独唱を聴いてゐるやうでもある。
 第二に、訪問者の相手をしながら、平気でカン※スに向ひ、それでさほど煩はされもせず、訪問者も一向退屈しないといふことである。これは人によつても違ふのだらうが、さういふところは、われわれ原稿紙に向つて字を埋めて行く商売とは甚だ隔りがある。
 ――どうだい、この絵は……
 ――面白いね。
 話は甚だよくわかる。われわれの方では、さうは行かない。
 ――今、一寸したものを書きかけてるんだ。
 ――どこへ出すの?
 ――頼まれたもんだから、仕方なしに書いてるんだ。方面違ひの美術雑誌さ。
 ――へえ、脚本かい。
 ――ううん、なんでもいいつて云ふから、なんでもないことをだらだら書いてるんだ。
 ――随筆だね。随筆の筋なんてものはないかもしれないが、一体どういふことを書くつもりだい。
 ――書いて見なけれやわからんよ。
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