「しばらく、どうぞ明日の」 (コメント数:1) |
1 Ryou 2013-12-18 00:12:19 [URL]
「しばらく、どうぞ明日の」といって、右手で上野の袖をつかんで引いた。 「何をする!」上野は、腕を振って、大声を出した。腕が内匠頭の手に当った。 「何一つ、わしのいうことをきかずにおいて、今更のめのめと何をきく?」 上野が、大声を出したので、梶川が襖を開けて、顔を出した。内匠頭は蒼白になっていた。 「わしを、あるか無しかに扱いながら、自分が困ると、袖を引き止めて何をきくか?」 上野は、内匠頭がだまっているので、 「ばかばかしい!」と呟いて、行き過ぎようとした。 「教えて下さらんのか?」 「教えて下さらんというのか、内匠、貴殿、わしが教えてきいたことがあるか?」 「明日のことは、儀式のことにて、公事ではござらぬか」 「公事なればこそ、先刻通達したときに、なぜききもらした?」 「それは、拙者の不念ゆえ、お教えを願っているのに」 「貴公の不念の尻拭いをしてやることはない!」上野は、そういって歩き出した。 「教えんと、おっしゃるのか」内匠は、後から必死の声で呼んだ。 「くどい!」 「公私を混同して……」と、内匠がいうと、 「それは、貴公だろう。金の惜しさに、前例まで破って!」 「何!」 梶川が、 「あっ!」と、低く叫んで立ち上った。上野は、 「何をする!」と、叫んだ。内匠頭の手に、白刃が光っていた。 上野は、よろめいて躓くように、逃げ出した。内匠頭が及び腰に斬りつけたとき、梶川が、 「何をなさる!」と叫んで、組みついた。 |
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