材大なれば用を為し難し

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あの人はきっと (コメント数:1)

1 Ryou 2013-10-16 21:17:23 [URL]

「あの人はきっとあなたのことをもう好きじゃないようね?」と、ペーピーはコーヒーと菓子とを運んできながら、たずねた。しかし、そのききかたは前のように悪意がこもったものではなく、悲しげな調子で、まるであれからこの世のなかの悪意を知ってしまい、それに比べては自分のどんな悪意もむだで、意味がないといわんばかりであった。彼女はまるで苦しみをともにする人に話しかけるような調子でKに話しかけてきた。そして、Kがコーヒーを味わってみて、どうも甘味がたりないと思っているらしいのを見て取ると、すぐ走っていって、彼のために砂糖のいっぱい入った砂糖入れをもってきた。彼女の悲しい気分は、今晩のほうがおそらくこの前のときよりももっと飾り立てているということにさまたげにはなっていなかった。髪の毛の編み目や髪に編み入れたリボンがたくさんあって、額にそった生えぎわとこめかみのあたりとでは髪に念入りにこてをあて、首には小さな鎖をかけていて、それがブラウスの深い襟ぐりに垂れ下がっていた。とうとう十分に眠ったし、よいコーヒーも飲めるのだ、という満足から、Kがそっと髪の編み目の一つに手をのばし、それをときほぐしてみようとすると、ペーピーは疲れたように「かまわないでちょうだい」といい、彼と並んで樽の上に腰を下ろした。Kは彼女の悩みについてたずねる必要はなかった。
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