彼女のほうから (コメント数:1) |
1 Ryou 2013-10-16 21:17:44 [URL]
彼女のほうから自分ですぐ語り出したのだった。眼をじっとコーヒーのポットに向けたまま、話しているあいだも気をそらす必要があるとでもいうように、また自分の悩みにかかりきりになっていてもそれにすっかり没頭するわけにはいかないのだ、というのはそれは自分の力を超えるものなのだ、といわんばかりであった。まずKは、ほんとうは自分がペーピーの不幸に責任があるのだ、でも彼女のほうはそれをうらみには思っていない、ということを聞かされた。そして、Kに反対なんかさせまいとして、話のあいだにも熱心にうなずいて見せるのだった。まず彼がフリーダを酒場からつれ出し、それによってペーピーの出世を可能にした。それ以外に、フリーダの心を動かして彼女の地位を捨てるようにさせることができるものは何一つ考えられない。フリーダはあの酒場でまるで巣のなかのくものように坐りこみ、いたるところに彼女の知っている限りの糸を張っていた。彼女を彼女の意に反して引き抜くことはまったく不可能だったろう。ただ身分の低い者への愛だけが、つまり自分の地位にふさわしくはない何ものかだけが、彼女をその地位から追い立てることができたのだ。 |
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