材大なれば用を為し難し

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何ぬかしゃがるんじゃ (コメント数:2)

1 Ryou 2013-12-17 21:27:46 [URL]

甚吉 何ぬかしゃがるんじゃ。阿呆め、首の飛ぶ間際にそなな物が喉を通るけ!
おきん ほんまに、この阿呆め! どこまで、親をばかにしやがるんじゃ!
甚兵衛 はあ……そうけ、嫌か。じゃ、わし皆、食べてやろう。ああうまい、うまい、顎が落ちそうじゃ。村の衆ありがとう!
村人たち (口々に)何いうとるんじゃ。よう食べてくれた。こちとらこそ拝んどるぞ。
刑吏の長 申し置くことがなければ、母と弟どもを最期の座へ直せ。
おきん (慌てて)ちょっと待って下されませ。お願いでござりまする。
刑吏の長 何じゃ。
おきん 死際のお願いでござりまする。どうぞ、この親不孝者を、先へ突いて殺して下されませ。せめてもの腹癒せに、不孝者が、磔柱の上で、苦しむのを見せて下さりませ。
村人たち (口々におきんを罵る)……何をいう鬼婆め……お前の方から先に死んでしまえ……。
刑吏の長 折角の願いじゃが、聞き届けることはまかりならぬ。かような場合、重科の者を後にするのが定法じゃ。それその者たちを、あれへ引き据えい!
おきん ええ口惜しい。こいつが、突かれるのが見られないのか。
刑吏三 ええ。やかましい! 神妙にあれへ直れ!


(刑吏たち、母子四人を上手の方へ連れ去ってしまう。首斬役、刀を抜いてその後に従う)

2 Ryou 2013-12-17 21:28:47 [URL]

甚兵衛 (微笑を含んで、その後から見送る)おっ母も甚吉も先へゆくのか。長い間、わしを苛めてくれてありがとう。ありがとう。あはははは。
(首を斬る掛け声、太刀音、つづいてきこえる。見物どよめいて声を上げる)
甚兵衛 (顔色、やや蒼白になったが、笑いを絶たない)あはははは、わしゃ、胸がすっとしただ。わしをな二十何年も苛めぬいたおっ母も、甚吉も、もうあなになってしもうた。ああおっ母、甚吉、甚三、甚作、どなな気持じゃ、あはははは(甚兵衛哄笑しつづける)……今度はわしの番じゃ。早う磔にして下されや。
村人たち (急に動揺す)甚兵衛どん。ありがとう、拝みますぞ。御恩は忘れませんぞ……。南無阿弥陀仏!南無阿弥陀仏!


(刑吏たちは磔柱を起し、それに甚兵衛をくくりつけようとする)


甚兵衛 何が南無阿弥陀仏じゃ。皆喜んで、下っしゃれ。わしゃ、こなな気持のしたことはないのや。あははは。


(群衆たちの賛嘆、悲嘆のうちに、甚兵衛の笑い、いよいよ高くなっていく)

――幕――
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